木曜日, 11月 29, 2018

松岡圭祐著「探偵の探偵 Ⅱ」、妹咲良の死を探索し続ける対探偵課の玲奈に降りかかる様々な困難に果敢に立ち向かう。そんな彼女に容赦ない攻撃が繰り返される。状況は確実に深刻さを増し翻弄されながら突破する紗埼玲奈は全身全霊を投げ出して立ち向かう。エンターテインメント・ミステリーの神髄だ。
乾禄郎著「完全なる首長竜の日」、人間の意識下に潜む不思議な何かとインターフェイスを取りセンシングして植物人間と化した人物を意思疎通を行うといったSF的ミステリーとでもいった小説だ。漫画家の主人公淳美の日常と幼くして海で溺れ死んだ弟浩市の亡霊が意識を持ち彼女を未知の領域へと誘う。死んだ弟への限りなき愛情が全編を通して発露する。日常から非日常へと繰り返す意識の錯乱全てが無で有だ。
大山淳子著「猫弁と魔女裁判」、猫好き弁護士の百瀬太郎は、自らの法律事務所に猫を21匹とボロアパートに1匹と無類の猫好きである。そんな彼が米国のスパイ諜報員の裁判を担当することなった。6歳で別れ施設で育ち東大法学部を出て弁護士から現在の百瀬が忘れる筈のないその女性被告は彼の母だった。プロットは終末で小さなどんでん返しとなる。随所に恋愛も含ませ読んで楽しい読後の爽快感を味わえるストーリーだ。
藤原一裕著「遺産ゲーム」、会社の会長の死後遺書が弁護士の手により明らかにされる。なんとゲームをやり遺産分割をするといった突拍子もない遺書だった。結果、ゲームに負けた法定相続人は諦めきれない思いでいる。立ち会った弁護士とその一味により遺産2億円の現金は強奪される状況を作り出す。しかも全て偽札だ。プロットは破天荒ながら終盤の緊迫感は読者に頁を繰らす迫力がある。
トマス・フラナガン著「アデスタを吹く冷たい風」、著者の作品は初めてだが、名著と知られ復刻したミステリー短編集だ。共和国といった曖昧な地中海沿岸国と考えられる国でテナント少佐の冷酷非情な推理とこれとは全く違う殺人ミステリーや15世紀初頭フランスとイタリアの争いの中での密室ミステリーとこの短編集は実にバラエティーに富み十分楽しめる。
リンダ・ハワード著「心閉ざされて」、アメリカは南部アラバマ州の片田舎の豪邸その名もダベン・コートその家系を継ぐルシンダ叔母の元親族の骨肉の争いが始まる。そんな家でドジなロワンナが成長をし機知に富み美しい女性へと変身し遂に愛を掴み取る過程を作者はミステリアスなタッチで描き読者を引き付けて止まない。女流作家としての細やかな愛情表現もさることながらミステリー小説としても非常に面白い。
法坂一広著「弁護士探偵物語」、ある精神病院を回る殺人事件を捜査・探偵することになった弁護士の物語だ。法曹界・検察・警察と弁護士の様々な蘊蓄が語られ、刑事・警察との接点を展開しながら事件は連続殺人へと。物語は冗長性は否めないにしてもミステリー小説大賞としては結構面白く読んだ。プロットとしては通常のミステリー小説レベルでローラコースター的どんでん返しも無い。
梶永正史著「特命指揮官 警視庁捜査二課 郷間彩香」、ある日渋谷交差点近くの新世界銀行に強盗犯数人が銀行を占拠し人質をとって立てこもっている情報元に警察庁からの指示で警視庁捜査二課(普段は経済犯担当)にはねっ帰りの三十路の警部補郷間彩香が抜擢された。生き生きとした前半の描写は軽快に読ませる。しかし後半の落ち所がしっくりこない。エンターテインメント警察小説だ。
森博嗣著「探偵伯爵と僕」、物語の主人公の僕は小学生だ。夏休みに起こった同級生誘拐事件に遭遇した僕、新太はひょんなことから探偵伯爵と出会う。伯爵は警察に協力して犯人を追う、僕は伯爵と知り合い同じく伯爵の助手つまり小林少年みたいに協力して犯人を追う。プロットは平凡で最終的に犯人は友人のお父さんだったとしているが物語の冗長性とミスマッチだ。命の大切さをテーマにしているミステリー小説だ。
ネビル・シュート著「パイド・パイパー」、イギリス人の老弁護士のハワードが気持ちの整理も兼ねてフランスの田舎町を訪れた。時は第二次世界大戦、フランスへ侵攻したゲシュタポドイツ軍のヒトラー率いる部隊が入場したそんな折だった。知人の家で依頼を受け二人の子供をイギリスへ届けるという70歳にもなる老人にとって決して安楽な旅路ではない。イギリスへの行程は困難を極め、行く先々でぶち当たり遭遇する悲運を老弁護士の優しい心根は突破する。息子の戦士を機に訪れたフランス人家庭の息女は実は息子の恋人だった。単調な物語にも拘わらずサスペンス的なニュアンスと人間本来の心を描く傑作だ。
京極夏彦著「百器徒然袋 雨」、物語に出てくる登場人物が実にキャラクターが濃くて異色だ。榎木田礼次郎という名の探偵もまたしかり彼は元子爵の息子の設定、他に下僕と呼ばれる人物達、中禅寺という名の古書塒と私との丁々発止が面白く、そんな中で事件の依頼が持ち上がる。プロットも良く練られていて一気読みの態だが、中編を3篇も含む700頁にものぼる超大作である。エンターテインメント小説的ミステリーとでも形容する面白い作品だ。
内田幹樹著「査察機長」、著者は逝去されたが、過去はANAのボーイング777の機長の経験を豊富に持った人であるという。本書の隅々に経験が無ければ書けない事柄が随所に出てくる。サスペンというよりドキュメントとし、またサスペンと異なる心理描写、査察官と機長及び大先輩機長さらにCAらとの駆け引きにはある種違う緊張感がある。機長は乗客の安全第一であるべきで、自分の技量を過信してはならない、いつも後ろキャビンを見て操縦すべきだとの結論だ。
松岡圭祐著「探偵の探偵」、紗埼玲奈は、不遇にも妹咲良を殺害された。そんな彼女が求めた職場はスマ・リサーチつまり調査会社つまり探偵業だ。彼女の黒髪、大きな瞳、透き通る肌いずれも探偵には似つかわしくない容貌だ。彼女が配属になったのは対探偵課つまり同業他社を徹底的に潰し叩きのめすそんな課だ。探偵という業界の知識、それは警察との関連や顧客との接触、広範な知識は著者ならではのもので読者を引き付ける。冒険活劇そしてミステリーと十分に盛り込んだ小説だ。
一色さゆり著「神の値段」、都内ギャラリーに勤務する佐和子と上司であり経営者永井唯子は現代アート専門のプライマリーギャラリーで就中、川田無名の作品を主に事業を展開している。無名に至っては何処で生きているのかも不明で謎の画家として広く認知されている。そんなある日唯子が殺害される。犯人は無名とされたが状況証拠ばかりで真相に近づけない。著者は芸大出身でギャラリーに勤務した豊富な経験から現代アート及びギャラリーについて造詣が深い。
真山仁著「ハゲタカ Ⅱ 下」、エコノミックミステリーとも呼ぶべき小説だ。展開は早く読者を圧倒する。日本に現状将来に警鐘を鳴らす著者の力量は圧巻だ。上巻での鈴紡の買収劇は国家権力による横槍で幕が下りた。そして再び浮上した歴史と伝統で培われた曙電気の買収劇が勃発、米国軍産ファンドとの壮絶な死闘を繰り返す鷲津正彦に日本人としてのオリジナリティつまりサムライの正義を感ずる。
真山仁著「ハゲタカⅡ 上」、老舗の鈴紡という会社のMBOを回り外資系ファンドと国内の銀行さらに国内の企業が覇権を争うビジネス界を席巻する事態にファンド会社会長の鷲津は鈴紡の社長と接し化粧品事業部を子会社化し買収するといった提案をし了承を得た。しかしその後政府系の救済機関が乗り出すといった不測の事態が発生した。経済小説を得意とする著者のダイナミックな展開に引き込まれてしまう。
朝倉卓弥著「四日間の奇蹟」、指をケガしピアニストとしての将来に絶望している青年如月と脳に障害を持ちながらピアノを弾く少女楠本千織、二人は全国要望ある所へ慰問といった形でピアノ演奏に出かける。そんな彼らが脳科学研究所病院を名がつく場所でも慰問、物語は此処から大きく展開し正に奇蹟と呼ぶ事態に遭遇する。生と死、人間、そして心、脳様々な疑問と遭遇してゆくことになる。ミステリーとしてはプロットはありきたりだが、中身の濃い読後の爽快感を伴う傑作だ。
黒川博行著「泥濘」、待望の新刊だ。暴力団二蝶会の組員桑原と通称建設コンサルの二宮との絶妙な掛け合いはいつもホットして吹き出してしまうユーモラスさが堪らない。オレオレ詐欺と白よう会暴力団に果敢にシノギを仕掛ける桑原その脇でいつも居る二宮のまさに死闘ともいうべき状況は読者を飽きさせない魅力がある。このシリーズともいうべき書はいつ読んでも読後は何故か爽快感が伴う。作者の技量を思う。
畠山健二著「本所おけら長屋 11」、江戸は本所はおけら長屋に住む住人らが、騒動を起こす人情味豊かな物語で早くも11巻目の最新刊だ。万造、松吉、八五郎、鉄斎と役者が揃い今回も様々な騒動を通して江戸庶民の人情を日本人の心を描き思わず吹き出したり、涙ぐませる。作者の心の優しさを感ずる名作だ。
ハメット著「血の収穫」、米国の西部田舎町は拳銃の玉が飛び交う無法地帯だ。依頼を受けた私立探偵は縺れた糸を探るべく様々な人物と接触し真相に近づく。十数人の殺害が敢行され警察署長までもが餌食となった。ヤクザの親分連中は互いに抗争し犠牲となって町は静かさを取り戻す。ミステリーというより私立探偵・私の非情だが正義を貫く熱い情熱をもった人間の姿を克明に描いた文学的作品だ。