金曜日, 12月 27, 2019

ジェフリー・ディーヴァー著「ブラック・スクリーム」、著者のヒット作、リンカーン・ライムニューヨーク市警顧問と現役捜査官アメリア・サックス刑事シリーズだ。今回は米国で発生した殺人事件を追ってイタリア、ナポリまで遠征し現地警察との合同捜査となる。犯人と目されるコンポーザーと異名をとる男は統合失調症などの精神病患者で音に恐ろしく敏感な男である。犯行は多岐に渡り複雑なプロットを持ち前の微細証拠物件を丁寧に解析しながら捜査の核心に迫るライムの手法はライム独特なもので今回も威力を遺憾なく発揮し捜査を進める。プロットの曖昧さはあるものの十分楽しめた作品だ。
高田郁著「あきない世傳金と銀 七」、江戸田原町に出店した大阪天満の五十鈴屋の七代目女店主「幸」の呉服商いの奮闘を描く物語だ。常に新しきを追及し考えかつ縁を大事に人と人とを繋ぎ下って姑の信条だった言葉「買うての幸せ売っての幸せ」を実践する商いは徐々に江戸の町に受け入れられつつあった。過去の苦難を諸戸もせず人情に厚く商才に長けた女性を描く作者の作品は読者に一服の日本人として憩いを与えてくれる。
横関大著「再会」、小学生4人で沢へ蟹を取りに鬱蒼とした森に向かった。そこで遭遇したのは警官が殺害されつつある現場だった。友人の父親の警官が強盗犯によって殺害された。その後数十年たったある日友人の兄が銃弾を受け殺害され友人の一人の女性が捜査線上に浮かんだ。友達の一人は刑事になった捜査を担当することに神奈川県警から派遣された刑事とともに20数年前の警官殺しの真実が暴かれる。
若竹七海著「悪いうさぎ」、探偵、葉村晶シリーズ失踪した少女の捜索を依頼された葉村が様々な事件に遭遇しながらも事件解決と邁進する。プロットは複雑で多岐に渡り終末を想像できないで、読者を翻弄するところに作者の意図を感じ楽しめるミステリーとなっている。
松本清張著「黒い福音」、昭和三十年代に実際に起こった事件を素材に書き上げた作品だという。東京郊外の教会の神父と国際的な闇取引業者が絡み、若い神父トルベックと生田世津子の許されない恋愛を介在し事件が発生、世津子が殺される。警視庁一丸となって事件捜査に当たり遂にトルベック神父に嫌疑が濃紺になった段階で母国に逃亡されるといった結末だ。闇取引と許容できない恋愛を絡め殺人ミステリーといったプロットは見事だ。
堂場瞬一著「高速の罠」、高速バスで里帰りをしていた大友刑事の息子優斗がパーキングで拉致された。事件はその後佐久インター付近のフェンスにバスが突っ込み乗客一人が死亡するといった結末だった。しこもバスはネットを介して無理やり操作させられ事故を引き起こした。バスの運行会社信越バスの捜査と共に遂に大友刑事も捜査に参画する羽目になる。信越バスは8年前にも事故を起こし当時の運転者は出所後に自殺している。プロットは従前どおりの結末で被害者家族の復讐で結論づけるが、最終章は読ませる迫力がある。
松本清張著「時間の習俗」、相模湖畔で夜殺害された交通関係の会社の社長そして同伴した女性の失踪から事件が始まる。警視庁捜査一課警部補の三原が捜査に臨む。さらに九州で発見された男の死体、果たして事件は関連しているのか?作者の綿密なプロットは捜査の壁を乗り越えて行く三原警部補の読者と一体となって捜査が進展していく面白さを余すところなく描き出す。
若竹七海著「静かな炎天」、葉村晶、女探偵シリーズの短編集だ。著者の作品は初めて手に取るが何故かミステリーとして読ませてくれない。古書店の二階に事務所、探偵調査所の探偵葉村、暇な時は本屋を手伝い近所からの依頼に調査するといった一風変わった探偵物語だ。プロットが何故か貧弱でミステリーとしての面白さは無い。
横関大著「ホームズの娘」、ユーモラスであり得ない設定プロットだ。警察一家の息子の警察官の妻は泥棒一家の娘、さらに警視庁に勤務する捜査一課の同僚の新人女性は実家が探偵事務所を経営しているという異色の設定だ。そこで巻き起こす事件もまた奇想天外であり読者を翻弄する。しかし根底にあるのは作者の登場人物たちへの限りない愛情であり人間愛だ。
原寮著「そして夜は甦る」、著者の本は他に読んでいると思うが、設定というかプロットが複雑に入り組んでいて読者を惑わせるに十分な探偵推理小説だ。沢崎探偵の捜索人捜査は意外な展開を見せ、終いには都知事選に絡み知事の兄弟から元警察官の副知事まで登場させ射撃による偽装殺人と片や依頼人奈緒子の結婚前の状況と目まぐるしく展開するプロットはこじ付けをも思わせる。作者の力量を感じさせる作品だ。

松本清張著「徳川家康」、少年少女用に清張が書いた伝記物として、徳川家康の生涯と彼を取り巻く時代の趨勢と種々な人間を描いた作品で、丁寧に解り安く解説した書だ。幼少の頃から母と死別しさらに十数年に渡り今川家に人質として暮らし、織田信長さらに豊臣秀吉に仕え、秀吉の死後も随分と待ってからの天下とりでした。勤勉、実直で忍耐強い家康の生涯を人物像を描き挙げている伝記。
松本清張著「夜行の階段 下」、美容師佐山道夫の暗い闇の殺意とでも言おうか、社長夫人波多野雅子を御岳のドライブに誘い山中で自殺に見せかけ絞殺する。その殺人を見透かしている元女性雑誌編集員枝村幸子は道夫に対して結婚を強要しマネージャーとして美容院の経営全般を取り仕切ることになり、又もや道夫の黒い殺意の上で殺害される。アリバイに利用した福地フジ子もでも殺害しようとしたが、自らも湖の底に沈んだ。道夫を取り巻く女性の生態を作者はこれでもかと描く力量には圧倒される。
アンソニー・ホロヴィッツ著「カササギ殺人事件 上」、英国の片田舎で起きた二つの殺人事件の捜査を協力することとなった余命幾ばくもない名探偵カティス・ビュエントと助手のフレイザー。前は修道院だったという豪邸に住む家政婦メアリーとその主人マグナスが殺害された。マグナスを回る因縁とメアリーと夫を回る確執さらにメアリー子供たちとの絡み合い複雑なプロットに挑むビュエントは家政婦の殺人事件の犯人を特定した。
松本清張著「夜行の階段 上」、美容師佐山道夫はジャーナリズムを最大限活用し徐々に評判を伸ばし務めている美容室も繁盛を極めていた。道夫には二人の愛人がいた。一人は証券会社の社長夫人と雑誌社の編集員である。九州の貧困家庭から出た道夫にとって過去と決別し新たな道を探し今現在の自分を客観的に冷静に見つめる眼が彼にはあった。彼は独立を希望し自由が丘に店を持つため証券会社夫人に多額の金を出資させ目的を果たした。執拗に追いかける夫人は道夫の店の繁盛を知って返済を迫り始めたその時殺意が浮かんだ。
滝田務雄著「田舎の刑事の趣味とお仕事」、ある田舎の小さな警察署そこには署長と課長以下刑事が3人いる、一人は主人公の黒田鈴木刑事、黒田に言わせればバカな白石刑事、もう一人は新人の赤木刑事だ。暇を弄ぶ田舎でも事件が起これば一番に3人は駆けつける、黒田の機転と推理で事件は解決へ、その間3人の会話が軽妙で笑える。脱ミステリーで緩くて少し面白い推理小説だ。

木曜日, 11月 28, 2019

須賀しのぶ著「革命前夜」、19世紀後半1989年ベルリンの壁崩壊前の東ドイツドレスデンに留学した日本人学生眞山は、学生仲間らと共に一心に音楽就中ピアノのレッスンに明け暮れる毎日だ。この時期の東独はシュターゼという国家保安院さらに一般民衆による告げ口による徹底した西側の思想取り締まりに躍起となっていた。眞山は気づく過酷な社会でも民衆の生きる力は即音楽そのものの力であると。音楽と人生と社会をテーマに少しミステリーも含む傑作だ。
堂場瞬一著「壊れる心」、警視庁総務部犯罪被害者支援課に在籍する村野警部補、同僚で動機の優里、支援課に初動支援として来ている新人の梓を中心に交通事故に端を発した事件に関わる。被害者は5人大人や子供も2人犠牲となった事件、被害者支援に当たっていた村野らはさらに困難な状況に陥る。被害者の一人がビルに立て籠もり一人の女性を監禁してビルを爆破すると予告してくる。支援として最後まで自分の信念を押し通す男を描く作者の視点に限りなく人間の生と優しさを感じる小説だ。
松本清張著「かげろう絵図 下」、昭和33年から34年に新聞に連載された著者の大作は社会と人間、男と女、権力闘争、派閥抗争等など世の中のありとあらゆる事象を描き尽くし尚且つミステリーで味付けして読者を最後まで引っ張る名著である。江戸中期第11代将軍家斉を中心に大奥での暗躍と堕落それを追及する脇坂淡路守と水野越前守忠邦在野の又佐衛門と新太郎、裏で糸を引くドン石翁とその一派多彩な顔触れを揃えて織りなす江戸絵巻は正に圧巻である。
松本清張著「かげろう絵図 上」、江戸幕府徳川11代将軍家斉を取り巻く、大奥と重臣達さらに旗本らによる権力闘争を軸に物語は展開する。大奥での覇権争い家斉の寵愛を受ける派閥抗争、世継ぎを画策する重臣、旗本と百花繚乱の態で厚みを持たせ歴史ミステリーとも言うべき作者渾身の作だ。上下巻合わせて文庫本1100頁に及ぶ大作である。
堂場瞬一著「破弾」、刑事鳴沢了シリーズだ。30年前の学生闘争の生き残りが発端で殺人事件が発生した。鳴沢と小野寺冴が任務にあたる。二人とも脛に傷を持ち一課の片隅で生きている同僚だ。そんな二人が捜査にあたる。クライマックスは予想外で鳴沢の大学時代の先輩が絡み革青同という闘争組織の内ゲバから殺人を犯したメンバーが浮かび上がる。プロットに少し無理はあるものの中々の迫力ある展開で一気に読ませてくれる。
堂場瞬一著「複合捜査」、埼玉県警に夜間緊急警備班通常NESUが設置され県警一課から指名された若林以下28名が任務にあたる。この中には検証捜査で特命班として活躍した桜内刑事も入っている。埼玉市の中心街で、放火騒ぎが発生しNESUが始動開始、さらに殺人事件が発生若林は捜査に乗り出す。見えてきたのは過去若い警察官を説得して辞めさせた青山という警察官だった。犯人青山は執拗に若林を陥れる策を弄し警備班就中若林に挑戦してきた。終盤の犯人逮捕までの緊迫感は読みごたえ十分だ。
松本清張著「影の車」、者昭和36年頃の雑誌への投稿作品、短編7編である。今まで短編に数多く接しているが、どの作品もモチーフといいプロットといい秀逸である。各短編物語の裏に日常性の中の小さな欠片が人間の根底にある悪を助長させ殺人という結果を齎す。それ故不条理な恐怖を見事に描き出す作者の力量を評価せざるを得ないのである。
堂場瞬一著「潜る女」、刑事総務課に勤務する大友鉄は詐欺事件担当部署の二課の要請で捜査に駆り出された。捜査線上に浮かんだ美人ジムのインストラクター荒川美知留に接触し状況を探ることになった。そんな折に主犯格の男の遺体が発見された。二例目だ。捜査は俄かに緊迫の様相を呈してきた。荒川の動向は一向に犯人と接触を見せない、被害者女性が犯行を自白した。複数の詐欺被害女性らで殺害したと。刑事仲間と詐欺と殺人事件を絡ませたプロットは気が利いていて一気に読める書だ。
堂場瞬一著「時限捜査」、東京板橋で殺害された人物を捜査する警視庁の神谷、その頃大阪では万博公園内の太陽の塔のほか4、5か所で爆発騒ぎがあり警察官が駆り出された。しかし事態は深刻で大阪駅に籠城した犯人が人質を取り立て籠もるという事件が発生、神谷と同じ特命班で活躍した島村が梅田署で署長をしている地域でだ。籠城は数十時間に及び焦りが警察側にも見られた。その頃捜査していた神谷の情報により籠城犯の氏名が明らかになった。いよいよ最終段階になり府警の宣伝頭、射撃の選手下倉の出番となった。東京と大阪を結ぶ犯罪と籠城の緊迫感の描写は圧倒的だ。
堂場瞬一著「凍結捜査」、警察庁の指示の元特命班で活躍した刑事の一人北海道警の安井凜刑事が今回の主役だ。雪の下で頭部を二発銃弾を浴びて絶命した被害者が発見された
その後女性がやはり頭部に二発の銃弾を受け殺害される。事件の捜査は遅々として展開を見せることもない。被害女性の家族の意外な事実、それはロシアとの繋がりだった。ロシアンマフィアのブリアによる犯行と断定できたがその黒幕は依然として不明、北海道らしいロシアとの繋がりを軸に展開していく今回は最終的に結論がでない結果だった。

水曜日, 10月 30, 2019

松本清張著「危険な斜面」、6編の短編集である。清張作品の短編は実に見事なまでに人間を描き、社会を描き、その中に潜む人生の寂寥感を漂わせていて、かつミステリー的な面白さを秘めている。短編を綴る技術というか能力は正に天下一品だ。
堂場瞬一著「検証捜査」、伊豆大島に左遷された神谷警部補に非常招集がかかり警察庁特命班という組織に入ることになる。女性暴行・殺害事件の被告として神奈川県警が挙げた犯人が逆転無罪となり県警への捜査を特命班が担うことになった。組織対組織のぶつかり合いと隠ぺい画策と進展が見えないまま別の犯人を捜そうとする神谷警部補、謎が徐々に明かされてゆく過程は冗長さが付き纏うが道警の紅一点安井凜ほあん部長との淡い恋など散りばめて物語にバラエティーを与えている。最終的に警視庁内部の刑事の犯行だと判明する過程が少し短絡的ではないか?
堂場瞬一著「熱欲」、金取引を肴に投資を募るねずみ講まがいの組織K社に関連した人間が殺害される。元刑事で今生活安全課にいる鳴沢了が組織の追及に乗り出した。K社の組織は営業社員を恫喝し利益を上げなければ系列の闇金業者による借入を強要され遂には自殺と逃亡という結果になる。さらに組織を外れた人間を処罰するのに中国マフィアを使うといった手口、これこそが警察小説のセオリー通りのプロットかと思う。
松本清張著「眼の気流」、昭和38年に発表された短編4作品が収められている。いずれも現代で読んでも古臭さは微塵も感じられず推理小説として確たるものを持っている。作品の底流にある男の悲哀と怨嗟そして漠として不安は、高度経済成長期中の孤独感に覆われ四苦八苦する男の姿を見事に描き出している。プロットも多彩であり十分楽しめる作品だ。
畠山健二著「本所おけら長屋 十三」、おけら長屋を中心に寄り添って生きる貧乏でも気持ちがいい仲間、万造、松吉、八五郎、鉄斎、お咲に大屋、魚辰、金三と彼らが巻き起こす様々な事件を人情で解決する物語。作者が描く物語は日本人の心の内に自然と溶け込むように入る。次の物語が待ち遠しいほどだ。
松本清張著「男たちの晩節」、昭和30年前後高度経済成長に向かう社会で働く男たちの悲哀を描いた作品で、今読んで見ても深い感慨と共感を呼ぶことは間違いない。物語の状況設定が巧みでサラリーマンの定年間際、または定年後の悲哀がそれとそこはかとなく絶望が死への憧憬が感じられる短編集である。

上毛新聞社著「ぐんまの自転車さんぽ」、群馬県内を10地区に分けて、それぞれの自転車による散歩道を紹介した本である。名所・旧跡を初め見どころ、味所が紹介されている。またレンタサイクルを主眼としているため、レンタル場所も提示され秋の清々しい青空の下で自転車による群馬県内を巡る自転車による散歩は絶好のプチ旅行だと思う。
松本清張著「霧の旗」、兄の金貸し老婆殺害事件の犯人として逮捕された事件を回り妹桐子は、ナケナシノ金をはたいて状況し刑事事件の弁護で著名な弁護士大塚欽三に弁護を懇請するも大塚弁護士は忙しい、高額な費用として弁護を退けた。桐子はその後状況してバーに勤める。バーの仲間から頼まれ男を監視している最中に奇しくも殺人事件に遭遇しかつ事件の目撃者は大塚弁護士の愛人であった。このことを知った桐子の執拗なまでの復讐が始まった。刑事事件としての裁判また弁護士、人間としての深い真実にも疑問を持って深く洞察する著者の渾身の作である。
松本清張著「黒の様式」、本書には3短編が収納されている。中短編というか、その主題が極めて特色のある設定で著者の頭脳の奥深さを感じる。雑誌への連載というが誠に持って奇抜な主題とその解決方法のプロットには目を見張るものがある。昭和40年代の作品というが今読んで見ても新鮮なミステリーだ。
松本清張著「Dの複合」、著者昭和40年代の作品だと。物書き伊瀬忠隆に飛び込んだ紀行文は雑誌、創刊されたばかりの草枕に掲載され反響を呼んだが、取材は民族学的、あるいは民族伝承を取り込んだ。取材過程で起こる謎の死体遺棄事件は既に殺人の連鎖の渦中に投げ込まれた伊瀬と編集者浜中を取り囲んだ。経度35°緯度135°の線上を只管取材する彼らの前に殺人事件が勃発し真相は闇の世界へ。歴史の隠された謎を追いながら事件の発生は人間の情欲の結論に達する。
松本清張著「黒い画集」、昭和32年から35年までの連載だという。今から50年も前の作品なのに、古臭さは一向に無く現代でも十分通用するミステリーだ。本書には7編の短編が綴られている、男女の愛、就中現代でいう不倫と殺人をテーマにした短編である。そこには男女の心理・嫉妬そして金と物理的な欲が絡み合い殺人事件を生む。日常性の破綻はふとした出来心から取り返しのつかない殺人事件として発展し人間を脆くも破滅させる。
松本清張著「ゼロの焦点」、戦後の混乱の中にいた昭和32年のこと、鵜原憲一は広告会社の営業主任として金沢に赴任していた。彼の生活は20に間は地元で営業し10日間は東京本社へと二重の生活を余儀なくされていた。そんな彼憲一が見合いの末禎子なる女性と結婚することになる。結婚後1か月余りで夫は失踪して要として行方が解らず、禎子は金沢に滞在憲一の後任の本田と共に行方を必死になって捜索する毎日だ。そして金沢から50分かかる断崖絶壁で投身自殺が発覚さらに憲一の兄宗太郎が旅館で殺害され本田も東京で殺害されるといった事件が重なる。プロットは抜群で戦後の混乱に乗じた社会派推理作家の何たるかを知らしめるミステリーだ。
ジョシュ・ラニヨン著「天使の影」、著者の作品を読むのは2冊目だ。LAで本屋を営むアドリアン、実は彼はゲイだ。ある日友人が彼の元を去って殺害された、シリアルキラーは次の殺人へと向かう。死人は手にチェスの駒を握りしめていた。彼は高校時代にチェスクラブにいた事を思い出し、仲間を思い浮かべる。殺害された知人は全て当時チェスクラブにいた者だった。犯人を特定したアドリアンはブルースと名乗る犯人の元へブルースは高校時代の友人だった。絶対絶命の危機をリオーダン刑事に救出された。プロットは単純で冗長だが気軽に読める作品だ。
松本清張著「点と線」、九州は博多近くの海岸で男女の情死による死体が発見される。男性は某役所の課長補佐であり女性は小料理屋の下女であった。折しも役所の斡旋収賄疑惑が持ち上がった最中情死した補佐を回り警視庁の三原刑事が奔走する。浮かび上がったのは安田という人物で小料理屋を良く利用し情死した女性とも昵懇の仲だった。役所にも納品する工具器具備品商であり課長補佐とも見知りの仲だった。このあたりの動機付けが社会派推理作家と言われる所以である。東京駅の13番線から15番線の見通す間隙をといい、安田の妻の肺結核症で臥せっている設定といい推理小説のミステリー小説の面白さを存分に味あえる一品で、これが昭和32年の作だというから驚かされる。
松本清張著「眼の壁」、昭和電業製作所の社員萩崎竜雄の会社では資金繰りに窮した課長が高利貸しから闇金業者のパクリ詐欺に遭い3千万円を喪失した。課長はそれが元で自らの命を絶った。上司の不条理な死を眼にし正義感に燃える萩崎は犯人を特定すべく会社を辞職する覚悟で一人捜査に乗り出した。途中から友人の新聞記者田村と一緒に捜査することになった。そん中会社の顧問弁護士の調査員が拳銃で殺害さらに弁護士も拉致誘拐され行方不明となった。裏で糸を引く右翼の船坂に辿り着いた。必死な捜査で最終的に見えたものは血縁関係からの絆であった。プロットは予想外で面白かった。犯人の動機に見る貧困、社会性を意識したプロットの組み立て、一人捜査に燃える萩崎の正義感、人生をも描くミステリーだった。

日曜日, 9月 29, 2019

松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ」、万能鑑定士Qシリーズの第七版である。シリーズものを書く著者もネタを探すのも大変な作業だ。今回はなんと万博公園の岡本太郎設計の太陽の塔が中心となる物語だ。蓬莱浩史なる青年が事務所に駆け込み妻を探してくれと?ここから始まる捜索劇は思わぬ結果を伴うことになる。太陽の塔の回収とそれに絡む利権、さらに警備会社の不正と米国大学教授の隠蔽工作とプロットは今一だが凛田莉子の頭脳が炸裂する楽しい読み物だ。
ジョシュ・ラニヨン著「死者の囁き」、ロサンゼルス在住の本屋を営みながら小説を書く主人公アドリアン・イングリッシュは執筆を目途に彼の相続する高原の別荘に向かう。管理人を置いて管理している別荘だ。ある日殺人の被害者を目撃した直後から身の回りが騒がしくなる。やはり休暇を取ってLAの刑事ジェイクが彼の別荘に来て出会う。彼の所有する広大な敷地に昔の鉱山がありかっては金鉱であった、その周囲で考古学教授を交えた発掘作業が行われていた。アドリアンとジェイクは襲撃に会い命拾いを、また二人目の殺害された死体を別荘の厩舎で発見する。殺人事件を追う二人、過去の歴史が解き明かされ発見された金鉱から金が採掘され金鉱に隠された事実を掴み謎は解決されてゆく。
篠田真由美著「綺羅の柩」、例の建築探偵櫻井京介シリーズの事件簿だ。今回は目まぐるしく日本の軽井沢からバンコクからマレーシアのキャメロンハイランドといったアジアを股にかけた殺人事件だ。富豪の戸狩総一郎が桜井京介や深春そして蒼、神代教授とも招待された軽井沢の別荘で殺害された。招待された理由はジェフリー・トーマスという米国人の失踪に関わる事件の推理だ。登場人物といい、複雑なプロットといいアジアを舞台にした殺人事件の真相に挑む京介の怜悧な頭脳が閃く。
山崎豊子著「女系家族 下」、遺産相続の争いは姉妹3人の物欲のぶつかり合いが続き一行に決着を見せず、女の怨念ともいえる凄まじいまでの争いが続く。そんな中三人姉妹はそれぞれ遺産相続分を検分し少しでも有利になるよう画策していた。最終の親族会議の前日故嘉蔵の妾文乃が子供の出産を報告がてら本宅を訪れ、なんと嘉蔵が残したもう一通の遺言状を提出した。どんでん返しのように様々な事が暴露され決着が着く。浪速の繊維街船場の木綿問屋を舞台に物欲を情欲そして怨念を見事に描き出した作品だ。
松本清張著「隠花の飾り」、11編からなる短編集である。女性の愛をテーマに綴った本書の中で、女性の様々な愛の姿を描き、そこには愛憎、嫉妬、目論見、計算高さ、傲慢等など様々な愛の形を少しサスペンス風なタッチで描いている。
山崎豊子著「女系家族 上」、大阪船場の繊維卸問屋、船場の矢島商店の3人の姉妹藤代、千寿、雛子取り巻く千寿の夫の婿養子の良吉、店の大番頭の宇市、そして店主の吉蔵の死後俄かに遺産相続の争いが始まった。分家の芳子ら親戚筋が集まる中大番頭の宇市が遺書を読み上げた。騒動は留まることを知らず、姉妹のそれぞれの思惑が交錯した中亡父吉蔵の妾が発覚しさらに複雑で醜い争いとなった。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの短編集」、例により沖縄離島の出身の美人鑑定士凜田莉子の活躍するライトミステリーというジャンルの作品である。作者のあらゆる事象に対しての蘊蓄には敬服に値するものがある。殊に科学及び物理の面についての豊富な知識には驚かされる。時間が有る時に気軽に読めるミステリーだ。
由良弥生著「空海の生涯」、1200年も前の平安時代の巨人空海の生涯を平易な文章によって書かれた人物記である。先に読んだ司馬遼太郎の「空海の風景」は作者の心象を文にした印象だが、今回の本書は史実に基づいた著作である。巨人、天才空海の生涯が遺憾なく描写され生涯を通じて求めたものそれが真理だった即ち密教・真言密教だ。真言密教こそが宇宙と人間を一体化し即身成仏へ至る理論だと。
松本清張著「疑惑」、中短編2編の構成である。疑惑は鬼塚球磨子という女性が起こしたという殺人事件を記者が取材し裁判前に球磨子が犯人だと報道してしまう。その後裁判となり若手弁護士の論理的な組み立てにより徐々に記者自身の犯行に対する球磨子の存在が陽炎の如く自身に付きまとい弁護士殺害を決意するといった物語だ。一方藤田組贋札事件は明治期に起こった贋札事件を取り上げ熊坂長庵なる人物が犯人とされた事件を再考証する物語だ。
山崎豊子著「女の勲章 下」、
矢代銀四郎の経営手腕は卓越し、学院経営は発展の一途を辿り大阪、京都に分校を設営するまでになった。作者のこの銀四郎という人物描写、創造が式子を初め他3人の女性の本質を引き出している。綺羅美やかな世界に憧れ自分を高みにし人生を謳歌するといった女性の本能を余すところなく描き切っている。式子はフランスの有名なデザイナーの型紙を購入するべく渡仏する。兆度パリに来ていた白石教授との逢瀬が彼女の魂を揺さぶり銀四郎との精算を決意し教授と結婚しようとするが、自らの命を絶つこととなった。

金曜日, 8月 30, 2019

京極夏彦著「鬼談」、怪談の短編集である。人間の根源的な生、その中に潜む恐怖と何でもない日常との交錯する人間の心これらの対比が鮮明に描かれている印象だ。鬼をテーマにしているが、その鬼なる物こそ人間の内に秘めた欲ではないのか?日常のふとした風景、生活、人との交わりの中に潜むある種の不可思議な恐怖これが鬼である。
司馬遼太郎著「空海の風景 下」、遣唐使として波風に翻弄されながら唐に漸く辿り着いた空海一行はさらに長安の都へと、そこで果たして空海が見た光景は想像を絶するものだったに違いない。異域から長安の都に、しかし空海は信念を持って密教の世界を金剛界と胎蔵界という密教の深奥を極めるべく天才ぶりを発揮し恵果という僧の元で教えを受け密教の全体像を把握し論理を体系化し即身成仏の思想に僅か二年の間に会得する。空海の天才ぶりは破天荒だった。帰国後の空海は嵯峨天皇の庇護の元で一方先に帰国し同じく庇護を受けた最澄との確執を経て高野山に一大伽藍を建立する。空海の想念の先に何時も長安の都があり、密教を日本人として初めて思想体系を構築した偉大な生涯に思い馳せる著者の渾身の作だ。
山崎豊子著「女の勲章 上」、大阪船場の嬢はんとして苦労もなく育てられた式子は父母の死後、大阪で服飾学院を開業した。東京の名門大学での銀四郎をマネージャーとして迎え経営に乗り出した。大庭式子はデザイナーとしての有名になる野望を胸に秘め、また銀四郎は式子を利用しながら経営を拡大し金儲けを企む野望を裡に持つ男だった。この両輪を上手く動作させ次々と学院経営を発展させまた式子は益々デザイナーとしての地位を確実に築いていくのだった。式子を初め主だった女性スタッフとの情交を武器にしたたかに生きる銀四郎の行動も読者の眼を射るような著者の生き生きとした文体が効果的だ。
ローレンス・ブロック著「殺し屋」、ニューヨーカーであるケラーという名のヒットマンつまり殺し屋の生き様を描いた作品だ。殺人仲介屋から依頼を受け一週間ほど掛け米国全土を縦横無尽に移動しケラーの最も得意な自然死に近い形で殺しを実行して報酬を受ける生活がケラーのものだ。人間の死はこんなにも簡単で殺人者ケラーはその殺人を虱ほどにも感ぜず生きているその様が対照的で面白い。
田牧大和著「鯖猫長屋 二」、猫が一番偉い大将と呼ばれている貧乏長屋を鯖猫長屋と呼ぶ。猫の絵描の拾楽とサバ公、となりおてる長屋を差配しているしっかり者だ。他におはまこれは拾楽に思い入れている。蓑吉、勘八ら貧乏長屋の連中が引き起こす様々な事件を拾楽とサバが解決する人情長屋物語は絶好調だ。
司馬遼太郎著「空海の風景 上」、四国香川で佐伯氏族の系列から生を受けた空海が、遣唐使として長安の都に着いたところまでがこの巻の上である。若くして才能を発揮した空海の僧ととしてより宇宙を束ねる思想に思いを馳せる哲学者の様相である。私度僧として各地を放浪し山を崖を下り瞑想し鍛錬を重ね思想を進化させてゆく空海の生き様を著者は巧みにに著している。
山崎豊子著「白い巨塔 五」、控訴審、第二審が開かれ婦長の証言や近畿癌センターに飛ばされた里見助教の証言さらに適格な鑑定人の選択と証言を得て、控訴側つまり原告勝利となり財前側の敗訴が決定した。あらゆる政治的手腕を駆使し絶頂期の財前五郎だったが、疲労の為倒れさらに診断の結果深刻な胃癌と判明余命幾ばくも無い財前の脳裏に去来するものは果たして何だったのか?つくづくと人生を考えさせられ一抹の寂寥を感ずる名著だった。
森博嗣著「すべてがFになる」、孤島妃真加島のIT研究所で殺人事件が発生、大学生のキャンプに参加していた西之園萌絵と大学教授の犀川は共同して事件解決に向け探索を続ける。そこにはレッド・マジックと呼称されるブラウザをUNIX上で動作するソフトを開発する天才博士真賀田四季女子の存在があった。彼女は既に15年も外出していないという。真賀田博士の人間関係からくる殺人を遂に捉えた。SF的ミステリーだがプロットに少し無理があると思うしすこし冗長性が否めない。
山崎豊子著「白い巨塔 四」、第一審の裁判を勝利した財前だったが、学術会員選挙の候補者として財前の名前があがり鵜飼医学部長から正式に候補者として擁立する旨の判断が下った。選挙戦は過熱し、医師から医局、系列大学及び病院、同窓会などから抜粋した名簿を虱潰しに当たるというどぶ板選挙選となりつつあった。多忙を極める財前であったが、控訴審が開かれ証人尋問まで裁判が進行する中で佐々木康平の教授回診時病棟婦長である亀山君子は財前の不適切な発言を証言しようと承認台に起つことを決めた。
山崎豊子著「白い巨塔 三」、国際外科学会への招聘を受け発表論文など資料作成に忙殺されている時、佐々木康平という患者の診断を助教授から依頼され診断した結果胃噴門部に癌を発見し出発前に手術を行った。その後の経緯については若き担当医に指示し患者との対面も無いまま飛び立った。学会を終え帰国してみると患者は癌性肋膜炎を発症し死亡していた。遺族は財前五郎を提訴し裁判が開始された。幾多の承認及び鑑定人が証言台に起ち原告、被告の尋問も過ぎて判決は患者側には無常にも財前の勝利に終わった。
山崎豊子著「白い巨塔 二」、浪速大学医学部教授選を勝ち抜き晴れて正式に教授となった財前五郎は、持ち前の教授らしからぬ尊大さで業務を熟しながら過ごす日々だった。教授就任後の歓迎会やらで多忙を極め、さらに国際外科学会での招聘を受けドイツに1か月半もの長きに渡り行くという、就任後1か月半での異例の許可であった。新任教授を取り巻く教授選を一緒に戦った他の教授、さらに同窓会の会長やら製薬会社、医療器具の会社らとの交流は財前の前途に一抹の不安を抱かせるに十分であった。
田牧大和著「鯖猫長屋ふしぎ草紙」、サバと呼ばれる長屋に住む一匹の三毛猫の雄、霊感のある大将と店子たちに呼ばれ絵描の浪人拾楽と暮らしている。差配の磯平衛はじめ長屋のまとめ役のおてる、貫八おたま兄弟らが登場し様々な難題を起こしながら住人が結束し事にあたる。錠回り同心掛井十四郎と拾楽との繋がりかあ後半で拾楽の素性が明らかになる。彼は一人働きの盗人で義賊だった。店子たちの人情ものと思いきやミステリー性含んだ一連の繋がりのある物語だった。
山崎豊子著「白い巨塔 一」、浪速大学医学部助教授である財前五郎は、嫁の親父が営んでいる産科病院の婿となり後ろ盾を得て助教授を務めている。学内しかも財前に居る第一外科の教授東の半年後の定年退官を控えて教授選の攻防が盛んになって来ていた。医学部長から地元区内に医学部出身の開業医はたまた同窓会の会員とあらゆる伝手を駆使して是が非でも教授になる決意を固める財前であったが、上司の教授東は自分の戦略として学部外から教授を招聘しあわよくば娘を嫁がせようと目論んでいた。
マヤ・バンクス著「あなたへ帰る道」、思いを寄せていたジュールズ彼女が失踪して行方が解らない。しかし3年ぶりにマヌエルの前に姿を現した彼女は前と違っていた。彼女はNFRというテロ組織のスナイパーだった。彼女を匿って組織から身を守ろうとするが、彼女は姿を消した。組織から支持されたターゲットはマヌエルの直属の上司とNFRに感心を寄せる上院議員だった。結末はどんでん返しのサスペンス・ミステリー作品だ。文章の歯切れが良く、あっという間に読了した。
山崎豊子著「二つの祖国 下」、梛子が原爆による白血病と診断され広島の日赤病院に入院した。天羽賢治の東京裁判のモニターは依然として続き多忙極め梛子を見舞うこともできない状態だ。そんな中遂に彼女が死んだ。賢治の中のものが崩壊した。著者の東京裁判の詳細な調査が書かせた内容は読者に感銘を与える程だ。この太平洋戦争の意味は何だったのか?祖国とは?人間の生とは?次々と問いかけを読者に強いる文庫本1800頁にも及ぶ超大作だ。

日曜日, 7月 28, 2019

山崎豊子著「二つの祖国 中」、戦況は一刻を争うほど危急を高め遂に太平洋戦争に突入した。賢治は二か国語を理解していることから戦線に参加しフィリピンでの戦闘に巻き込まれ日本軍に参加している正と図らずも正対し誤って弟を撃ってしまう。死を覚悟した日本軍の戦闘は飢えと弾薬不足で次々と命を落として行く日々だ。そんな中米軍はユダヤ人が開発した原子爆弾を広島に投下し一瞬で市を滅亡させ甚大な被害を被らせた、間もなく戦争は終結し天皇陛下の勅撰により国民にしらされた。以後ロサンゼルス在住の天羽乙七は強制収容所を出所し知人の勧めでランドリーを再開した。賢治は戦争裁判、東京裁判の通訳兼モニターとして潰させに東京裁判を目の当たりにすることになった。
真山仁著「シンドローム 下」、サムライキャピタル社長鷲津政彦は、買収の為「首都電」株を着々と買い進め礎石を打った。政府内の総理及び側近と大臣関連する役所経産省、エネルギー庁らの高級官僚は右往左往している事態で全く方針が定まっていない。実際に起きた事態を垣間見るようで面白い。鷲津は日本が存亡危急の折に日本を救い再生するという理念の元に首都電にTOBを掛け買収・奪取した。膨大な利益を背に責任を果たした。
山崎豊子著「二つの祖国 上」、アメリカロサンゼルスのリトルトーキョーでランドリーを営む日系一世天羽家は、太平洋戦争の終盤日本による真珠湾攻撃により非国民扱いとなり一家して北部の収容所に収監される。収容所での過酷な生活の中で日系二世は米国籍を持ちながら誹謗中傷に会い右往左往し精神的にも大きな痛手を受けざるを得ない。祖国とは何か?一万数千人にも及ぶ収容所の中で暮らす人々の疲労感が募る、そんな中天羽賢治は大学を卒業し日本語と英語を習得したため収容所の管理部に登用される。
真山仁著「シンドローム 上」、サムライキャピタル社長鷲津政彦は再び日本に上陸し首都電を買収しようとした矢先に東北大地震に見舞われた。SBO(ステーション・ブラック・アウト)になった第一原発は冷温停止すべく必死に作業を進めていいるが遅々として進まず発生から10日経っても事故調さえ立ち上がる気配は無い。彼鷲津政彦は慰問に続いて救済基金を立上げさらに政府要人とも折衝して事故調を立上げ買収案を練る算段だ。
サラ・ウォーターズ著「半身」、19世紀後半ロンドンのテムズ河畔に建つ獄舎ミルバンクを舞台にした一人の女性で貴婦人のマーガレットと監獄に収容された女囚シライナとの出会いの物語である。獄舎の慰問を繰り返しながらミルバンクの陰湿な全貌を描写し、女囚との出会いもまた静寂と孤独中で出会う設定だ。全編に渡り孤独と寂寥と闇を描写し、そんな中でも希望に取りすがろうとする絶望の淵から這い出そうとする二人の人生そして最終的なミステリー的トリックが解る。

金曜日, 6月 28, 2019

山崎豊子著「約束の海」、著者の最後の作品であり当時三部作を考慮していた由。潜水艦くにしおの船務士として乗艦していた花巻朔太郎は訓練後横須賀港に寄港途中で遊漁船と衝突海難事故を起こしてしまう。艦橋に居ながら何一つ救助できなく30名もの一般市民を犠牲にした後悔の念は脳裏を埋め尽くし潜水艦乗りを辞める決心をするが、海軍中尉だった父の戦争体験に触れ思い直し再び自衛隊に留まる決意をする。国民と自衛隊さらに軍隊、装備の必要性云々さらに自衛官の生き様まで描きたかったのだろうか?
松本清張著「砂の器 下」、依然として捜査は膠着状態が続き今西刑事らは任意捜査としてコツコツと続けていた。そんな折、ひょんなことからヌーボーグループの中の一人和賀英良前衛音楽家の自宅での不審な情報元に捜査は新たな段階へ和賀の出生を徹底的に洗う。農水大臣の愛娘との結婚を前に苦悩する犯人の姿が浮上する。著者のプロットは流石としか言いようがない。傑作ミステリーとして太鼓判だ。
松本清張著「砂の器 上」、東京蒲田駅操作場で起きた扼殺事件の被害者は50歳位の男性だが、一向に身元が判明せず警視庁の刑事達の捜査は膠着状態であった。最初はトリスバーで飲んでいた被害者が東北訛りで喋っていたとう情報を元に秋田を今西刑事は訪れたが判明しない。ところが被害者の養子という男が義理の父ではないかという情報を元に判明する。被害者は岡山県在住の男性だった。今西刑事の捜査上に浮かんできたのは前衛グループだった、関連する人間が二人死を遂げ自殺と認定されているが。。
真山仁著「スパイラル」、大手の会社から決意しての再就職先はマジテック株式会社という東大阪市の零細企業だった。その会社の故社長は博士と言われた数々の特許を持つオーナーだった。細々とした受注をこなし乍ら会社を続けていくマジテックは芝野を迎え次男望とともに営業部隊を新設し受注を少しずつ確保しつつあった。そんな折最重要得意先である栄興技研がハゲタカファンドに買収されるという事態になった。風前の灯火となったマジテックは最後のあがきを続けていたそん中朗報が齎された正体はサムライキャピタルファンドの社長鷲津政彦だった。
ガストン・ルルー著「オペラ座の怪人」、19世紀フランスはパリの有名な劇場オペラ座を舞台に跳梁跋扈する怪奇な異人そう怪人が絡む殺人事件と物語のもう一つの要点としての純愛を絡ませたプロットは当時の推理小説ミステリーで評判をとる。巨大なオペラ座の内部は複雑でまだ入ったこともない部屋が幾つもありミステリーを否が応でも盛り立てる。
百田尚樹著「影法師」、江戸時代茅島藩内の幼馴染の二人寛一と彦太郎の生涯に渡る男の友情を悲哀を持って書かれた小説だ。著者の書を久しぶりに手にしたが、相も変わらずプロットといい内容といい絶妙だ。男の友情とはこういうものだと言わんばかりの今や無い友情とうテーマを実に見事に描きつくす絶品だ。
チャールズ・ウィルフォード著「拾った女」、1950年代の米国はサンフランシスコでの物語だ。戦役から帰還しアルバイトをしながら生活するハリーは、ある日ブロンドの美人に遭遇し共に彼の安アパートで生活するこになる。彼女ヘレンの持ち金が無くなり悲惨な生活しかもヘレンは強度おアル中だった、同意の上手首を剃刀の刃で切り自殺しようとするが見事に失敗する。その後再び自殺を試みハリーはヘレンの喉を手で絞め死に至らしめた、ハリーはガス栓を解放し眠ったが朝生きていた。警察に連行され獄舎での生活が始まり遂に裁判の日、ヘレンの死は病気だったと判明する。途轍もなく寂しく侘しい恋愛と簡単にあっけなく死を向かえる女と青年の物語だ。
真山仁著「ハゲタカⅣ グリード 下」、遂にその時はやって来た。リーマンブラザーズの破綻とGCの破綻、陰で糸を引く大物投資家サミュエルとクラリス、ハゲタカファンド鷲津も動く米国に灸をすえるために。国家と米国民を冷めた目で捉える鷲津のスピリッツは何処にあるのか?サムライたる正義感か自己の人生の標榜なのかもしれない。強欲は善だと言い切る男の人生を見た思いだ。
ミネット・ウォルターズ著「悪魔の羽根」、シオラネオネ出身のジャーナリスト、コニーはバグダッドで拉致され暴行を受けるが、3日間で解放された。犯人は特定でき傷心、不安を纏い英国の寒村へと向かった。PTSDに罹り日夜不安と孤独に脅えて暮らす毎日だ。そんな折に、コニーを拉致した犯人が彼女の館に侵入し乱闘の末に犯人は逃亡する。プロットとしてはミステリーとしては貧弱でここまで長編にする必要があったのか?疑問に思う。
麻耶雄嵩著「メルカトルかく語りき」、超探偵とでも呼ぼうか、タキシードにシルクハットという出で立ちの銘探偵ものの短編集である。何故か最終章で読者の期待を見事に裏切るミステリーは今までのミステリーとは全く違う味付けだ。プロットもそれなりだが、感心するほどのものでもない。しかし何故か読んで見たくなるそんな類のミステリーだ。
真山仁著「ハゲタカⅣ グリード 上」、リーマンショック前の米国での金融業界の混乱、大手投資家さらに鷲津率いるハゲタカファンドさらにADとGCを軸に展開する様は激震を予感させるに十分な状況である。果たしてリーマンブラザーズは破綻するのか?現実に破綻となれば鷲津とてその激震の余波がどの範囲否どの位の規模なのか判断できないでいた。サブプライムローンに端を発した米国の金融業界は混乱の極致にいた。果たして政府の援助は?
高田郁著「あきない世傳 六」、6代目店主であり幸の夫でもある智蔵が倒れそのまま逝ってしまった。幸や奉公人の悲しみは想像を絶するものだった。そんな折、浮上したのが世継ぎつまり跡目だ。天満の組合に図り了承を得たのは期限付きの七代目として幸を認めてもらうことだった。頃合いも江戸への出店を決意してから時が経ち幸は鉄助とお竹を連れて江戸へ乗り込んだ。皆で知恵を出し合い漸く開店へと漕ぎつけたそんな六編だ。
スティーヴ・キャヴァナー著「弁護士の血」、正にあり得ないニューヨークの裁判所爆破という想定外のプロットだが本物に思えてくる著者の力量に感嘆。ロシアンマフィアのドンの殺人罪の裁判の弁護を引き受けることになったエディー・フリン、しかも人質として愛子エイミーが拉致された。愛する娘の為にマフィアのドンの裁判に勝利すべく全知全能を傾注し危機から脱出するといったストーリーだ。
アーナルデュル・インドリダソン著「声」、北欧はアイスランドの作家の作品であると。首都レイキャビク警察の警部を中心とした物語の展開だ。レイキャビクで二番目に大きなホテルのドアマンが地下の倉庫の一室で殺害された。事件の真相はなかなか掴めない。殺害された男の過去が徐々に明らかにされ、少年期著名な合唱団のスターだったと。そして彼に纏わる家族との変遷、さらに捜査に携わる警部の過去と家族との絆さらに別の事件の伏線を配しながら展開してゆく。ミステリー小説だが、この本では家族と人生について改めて考えさせられる。
折原一著「異人たちの館」、文庫本で600頁を超える超大作ミステリー小説だ。しかも何処までも読者を翻弄してやまない複雑なプロットは読者の心理をとことん弄ぶ技巧を凝らした作りだ。ゴーストライターとう主人公というのも独特なものだ。真相は悪までも闇の中を彷徨い伏線が互いに絡み合い犯人は何処までも読者に判別できない不可解さと最後のどんでん返しはジェフリー・ディーヴァーをも彷彿とさせる。絶品だ。

火曜日, 5月 28, 2019

デニス・ルヘイン著「過ぎ去りし世界」、20世紀初頭から第二次大戦までのフロリダはタンパを舞台にギャングが暗躍し殺人と違法賭博、売春そして麻薬と密造といったあらゆる悪を実行する組織から現在は抜けだした。ジョー・コグリンはギャングの連帯組織から狙われている。周辺ギャングと自分の命を懸け生きる人生を描いた作品で不条理な生への希求そして絶望的な孤独との戦いは見事だ。
リサ・マリー・ライス著「真夜中の天使」、宝石の展示会で暴漢が銃を手に発砲しながら宝石を強奪しようとする会場で一人ハーブを奏でる盲目の美女アレグラは元海兵隊員のダグラスに抱き上げられステージの下に潜り込み難を逃れることができた。その時厳つい顔をしたダグラスはすっかりアレグラの虜となってしまう。二人の愛は日ましに強くなっていく。女性作家らしい感情の機微を描く筆法はリンダ・ハワードを彷彿とさせる。ラブロマンスに少しミステリーを絡ませた小説だ。
北方謙三著「血涙 下」、遼軍の武将であり精鋭である石幻果は楊家つまり宗の武将であったという記憶を取り戻し苦悩するが、彼は石幻果として生きる決意をする。戦争を繰り返し疲弊していく人民の悲哀と国を束ねる帝や文人、武人達さらに兄弟、母と子といった戦争の愚を記述しながらも読ませるポイントを幾つも用意された傑作だと思う。
今村昌弘著「屍人荘の殺人」、大学生たちが夏休みの合宿と称して選択したのは山中のペンションだった、名を紫湛荘という。折しも近くでロックフェスが開催されていた。そして事件は早々に発生した。しかもゾンビという人間が感染してゾンビになり紫湛荘にも押し寄せ次々と大学生たちに纏わり噛み殺してゆく。仲間が一人二人と生贄にされ死んでゆく。この状況下で冷静に殺人計画を実行した犯人は少し小實家だ。プロットはシンプルだが、発想は奇抜で斬新だ。ホラーミステリといったところだ。
北方謙三著「血涙 上」、10世紀末の中国北部燕雲16州内での遼軍と宗軍の派遣争いつまり戦を中心に各々の帝を中心に戦争する人々を描いた物語である。遼軍の武将、石幻果は元は宗軍に属していた楊家の武将であったという記憶を無くし今や遼軍の精鋭である。しかし彼は戦闘が続く中で記憶を取り戻し苦悩する。宗軍の精鋭である兄弟、六郎、七郎、妹と戦を交え死闘を繰り返すことに気づき懊悩する。
京極夏彦著「百器徒然袋―風」、榎木津礼次郎探偵シリーズである。ハチャメチャで容姿端麗、頭脳明晰喧嘩は強く元子爵家の出である。今回の物語は全編猫、招き猫を中心に事件が発生し例によって僕こと凡庸な図面引きである本島と燐家の熊男後藤と京極堂の主人中禅寺さらに刑事そして薔薇十字探偵社の下僕益田と和寅らを巻き込む。800頁を超える大作であるが、何故か最後まで読んでしまう面白さがある。
高田郁著「あきない世傳金と銀 五」、大阪天満で呉服屋を営む五十鈴屋そこの店主智蔵の妻幸の采配により順調に売り上げを伸ばしてきている。そんな折呉服商仲間の桔梗屋の主人が倒れた。店を買って欲しいという申し出を受け、五十鈴屋高島店として支店扱いとして経営をすることになった。そんな折幸は流産をしてしまうという波乱の人生だ。常に現実を認識し将来・夢を見て努力する経営の本質は古今東西変わらない。江戸への出店を画策する幸は2年を掛けて調査に乗り出す。
畠山健二著「本所おけら長屋 十二」、最新刊のおけら長屋を早速手に取る。本所亀沢町おけら長屋の住人、大屋の徳兵衛、万造、松吉、八五郎、鉄斎といつもの顔触れが織りなす様々な困難を人情とお節介で解決するこのシリーズは、何とも言えない日本人の心への訴求が散りばめられいている。
篠田真由美著「桜闇」、10編の短編集だ。今まで読んだ中では唯一の短編集である。例によって登場人物は桜井京介、蒼、栗原深春、神代教授という面々である。イスタンブールやらベトナムハノイやらと海外での短編も趣向がある。また福島県の栄螺堂の二重螺旋階段にも興味が沸く、ルーツはなんとレオナルドダヴィンチかもといった面白さは建築の面白さを確実に伝えてくれる。
ジュリー・ガーウッド著「太陽に魅せられた花嫁」、12世紀初頭のイングランドとスコットランドを舞台にしたヒストリカルラブロマンス小説だ。族長として君臨するアレックの元へ嫁いだヘンリー家の末娘ジェイミーはスコットランドの風習に馴染まず様々な困難を繰り返し経験しながら無理やりな結婚から立ち直り次第に夫を愛して行くと同時に生来の機転を発揮して氏族の信頼を勝ち得ていく。女性作家ならでわの微妙な女ごごろの変化を描き盛り上げていくその手法は、リンダ・ハワードを彷彿とさせる。
デイヴィッド・ベニオフ著「卵をめぐる祖父の戦争」、1940年代大戦中のロシア・レニングラードでのヒトラー率いるドイツ軍とロシア軍の包囲戦中の物語だ。レニングラードの惨状は目に余り窮状は到底想像を絶する事態、そんな中でレフとコーリャは軍の秘密警察に拿捕されたが、大佐は娘の結婚式に必要な卵一ダース5日後に持ってくるよう指示を与え放免する。二人の過酷な旅が始まる。様々な危難を突破して卵を略取したが、友人を凶弾に倒れレフ一人が大佐に卵を渡すという非現実的な物語だ。既に本書タイトルからして戦争の愚かさを想起させるファンタジー小説である。
トーマス・カポーティ著「夜の樹」、著者の短編9編が綴られている短編集だ。陰と陽が入り混じった不思議な作品群だ。陰鬱で孤独な状況を描いたかと思うと、故郷の小さな町の心温まる出来事を描いてホットさせてくれる。それはつまり人間の表と裏、二面性は作者の人生の経験に根差しているらしい。どうしようもない暗闇、それを見つめる人間とその心をそこはかとなく描く著者20台の作品だという。
黒木亮著「国家とハイエナ」、貧国の債権を格安で買い漁り国家に対して債務弁済の訴訟を起こして莫大な利益を上げる米国のハイエナファンドと債務国との闘争戦争を著者ならではの調査と手法で描きあげる物語はドキュメンタリーやミステリーにも匹敵する。ハイエナファンドは莫大な資金を投じてロビー活動を支援し自分たちの利益をまた高額な弁護士費用を支払い勝訴するこのような図式は金融市場を崩壊させかねない危機を招く恐れがある。世界に貧困が存在する限り解決できない問題だ。
山崎豊子著「大地の子 四」、妹あつ子と巡り合った陸一心は余りにも悲惨な運命の中で生きた妹に滂沱の涙を流すのみだった。妹が死亡し葬式の最中、一心は初めて父松本耕司・日本側東洋製鉄の上海所長と巡り合った。宝華製鉄所が中国政治指導部の内紛の具にされ2年後の完成の筈が7年の歳月を経て漸く完成した。著者は3年の歳月を中国での現地取材に費やしたという。戦争が様々な悲劇を生み国民に過酷な運命を強いるその戦争を激しく非難する。名著長編傑作小説だ。
浦賀和宏著「彼女は存在しない」、解離性同一性障害といった精神疾患をネタにサイコ的ミステリーとした本書はやや冗長性はあるものの頁を繰る手が止まらない。兄妹とその友人さらにフリーの小説家という限定された人間関係の中で殺人事件を起こし犯人は特定されたかに見えて定かではないという錯綜する病理下で展開する物語は稀有な存在だ。

月曜日, 4月 29, 2019

A.J.クィネル著「燃える男」、イタリアでの物語、果って幾度となく戦闘経験を積んだ元傭兵クリーシィは既に50歳近くだった。友人グィドーを訪ねた折に紹介された仕事それはボディーガードだった。繊維取引会社を経営する夫妻の一人娘ピンタの警護だった。少女との出会いは彼を変えていった。愛という純粋なもの、愛おしさが浸透しそれに包まれた。だが少女はマフィアに凌辱され死亡、ついに彼は復讐を決意し決戦の地に、二大巨頭マフィアを相手に戦うクリーシィは正に傭兵として蘇る。スパイ小説的だ。
山崎豊子著「大地の子 三」、建設中の宝華製鉄所は、中国内部の権力闘争の具となり建設は一時中断された。夏国鋒と鄧平化との権力闘争は鄧の勝利となり宝華製鉄所は再び建設が開始された。陸一心は妻の月梅の協力もあり、遂に片田舎の病床に伏している妹あつ子を発見し病院に入れることができた。5歳の時に別れた妹は牛馬の如く扱き使われ無残な姿であった。一心は妹に父を探し日本へ連れて行く約束をしたのだった。いつの時代も戦争は最下層の国民を虐げ過酷な運命を背負わせるものだ。
山崎豊子著「大地の子 二」、陸一心は、日本語ができる力量を発揮し党中央へと歩みを進めた。折しも文革後の中国の近代化の礎となるべく最新鋭の大型製鉄所の建設が持ち上がり日本の東洋製鉄の木更津工場を範に計画を推進する機運が持ち上がり、現地での選定作業が開始された。選定されたのは上海にほど近く長江の端であった。日本の東洋製鉄側の上海現地事務所長には松本耕二が付き陸一心、日本名松本勝男との因縁と遭遇を暗に想起させる展開だ。宝華製鉄所と命名された製鉄所の起工式も終了し工事がいよいよ本格的に再開される運びとなった。
竹内明著「スリーパー警視庁公安部外事二課」、外務省員筒美慶太朗と彼を取り巻く公安警察、陰謀渦巻く北朝鮮工作員らの展開が目まぐるしいまでに交錯する。現実のものかと思わせる対日工作を公安が阻止すべく立ち回る。北の若い工作員倉本龍哉、出生の秘密と北に住む日本人の母親との繋がりを伏線として物語は展開してゆく。最後は緊迫した状況を作り出す念の入れようだ。
山崎豊子著「大地の子 一」、中国の田舎で孤児として生きる陸一心は、小学校教師の陸徳志に拾われ中国人として育てられていた。折しも文化大革命時代毛沢東全盛の時代の中国は容赦ない思想統制弾圧が続き中でも日本人孤児は蔑視され続けた。それでも一心は高級中学から大連の工業大学へ進み鉄鋼公司へと就職したが文化大革命の折冤罪を受け内蒙古の労改所へと送られ、およそ人間のできる最低限の心難労苦を受けつつ恩ある両親と会える日を心に暮らす毎日だった。
京極夏彦著「巷説百物語」、主人公山岡百介なる人物が処々を巡りながら奇談珍談を蒐集し読み本を作り上げようとするいわば怪談集である。七編の短編集はどれをとっても面白く作者の死に対する明確な認識を感ずる。現実と冥府の堺、身体は現実であり死ははモノであるという線引きは諸編を通して語り掛ける。人間の剛・果てしない欲望が様々な怪談話の根底にある。
綾辻行人著「Another 下」、転校生の榊原恒一と見崎鳴とのコンビがこのホラーミステリー小説の主人公だ。依然として災厄に見舞われ続ける三年三組、死者が亡き者が忽然と姿を現し闊歩する。そんな人物・現象を鳴の義眼が死の色を見極める。物語の終盤、夏休みの合宿として参加した二人は館の火事に遭遇し危うく命を取り留める。しかし鳴はハッキリと亡き人・死者を見極める、それは恒一の母の妹玲子だった。冗長さはあるが傑作の部類に。
綾辻行人著「Another 上」、著者のホラー・ミステリー作品を読むのは初めてだ。夜見山に父の海外出張の為母の実家に引っ越し、夜見北中3年3組に編入された榊原恒一は此処での学級生活を送るにつれ様々な不思議体験をしてゆく。呪われた3年3組降りかかる災厄そしてクラスの関係者が死亡する。クラスの災厄に対する対策はクラスメイトを亡き者として無視するというこだった。
松岡圭祐著「グアムの探偵 2」、著者のグアムの探偵シリーズ第二弾である。今回も5編の短編が記されている。観光リゾート地の懐深く地道な調査に基づく場所の設定とちょっとした出来事を犯罪に仕立て伏線を巧みに組み合わせ展開していく著者の力量に驚くほかない。グアムに三四度行っているが、通常の観光では出会うことのない地名に感動すら覚える。
篠田真由美著「仮面の島」、著者建築家探偵櫻井京介シリーズの事件簿だ。今回の舞台はイタリアはヴェネツィアだ。例によって京介、神代教授そして後から追っかけヴェネツィア入りする深春と蒼、一人ヴェネツィアの孤島に住まう美人玲子を回り過去を振り返りつつ殺人事件が発生する。有名画家が描いた名画を回り人間の醜悪さと欲望は果てしなく事件の結末は意外な事だった。

金曜日, 3月 29, 2019

篠田真由美著「仮面の島」、著者建築家探偵櫻井京介シリーズの事件簿だ。今回の舞台はイタリアはヴェネツィアだ。例によって京介、神代教授そして後から追っかけヴェネツィア入りする深春と蒼、一人ヴェネツィアの孤島に住まう美人玲子を回り過去を振り返りつつ殺人事件が発生する。有名画家が描いた名画を回り人間の醜悪さと欲望は果てしなく事件の結末は意外な事だった。
松岡圭祐著「グアムの探偵」、著者の新シリーズ、今回の現場はグアム島だ。イーストマウンテン・リサーチ社これが探偵事務所でゲンゾー爺さん息子のデニスそして孫のレイと3人の日系アメリカ人で経営する事務所だ。グアムは米国準州ながら探偵の地位は驚くほど高い刑事事件にも調査ができるし拳銃も携帯可能だという。そんな探偵事務所に持ち込まれる事件を扱う5編が本書の第一巻だ。グアムの地名やら生活やらが描かれ面白い。
黒木亮著「鉄のあけぼの 下」、正に日本の鉄鋼業の幕開けを担った西山弥太郎の奮闘を描いた物語だ。壮大な夢を持ち幅広い知見を武器に大胆と不屈の精神で実現して行く西山の生涯は、戦前戦後を通じて日本の重工業化の原動力となり焼け野原からの復興の原資となった。74歳の生涯を鉄一筋に生きた西山の人生の奇跡を著者は詳細に調査を敢行し見事に結実させた名著で感慨深いものが残る。