水曜日, 2月 27, 2019

ELジェイムズ「フィフティ・シェイズ・ダーカー 上」、イギリスの女性作家である彼女の作品は勿論初めてだ。会社の経営者でもあるグレイとその恋人スティール・アナスタシア二人の出会いから恋人同士となってゆく過程、グレイの少年期の謎をちらつかせながら今後の展開が非常に気になる。二人の過去ははっきりしない。ただ愛し合う二人の関係、どこにミステリーが潜んでいるのか楽しみだ。
ダヴィド・ラーゲルクランツ著「ミレニアム5 下」、リスベット・サランデルの過去の謎が解き明かされるかと思いきや、様々なプロットの伏線が織りなす混沌とした物語の展開に翻弄され、最終章まで一気に繰らせる迫力がある。まだこの「ミレニアム」は続きがありそうな予感がする。著者のジャーナリスティックな視点は人間社会また人間の根源的な生きるを問う姿勢が表現されいる。
門井慶喜著「家康江戸を建てる」、豊臣秀吉により関八州へ入封を命じられた徳川家康、当時江戸は湿地帯で河川は氾濫し作物も碌に作れぬ土地だった。家康の命でいよいよ江戸大改革、大都市計画が始まった。先ずは大川である河川の迂回やら金座銀座の設立と貨幣鋳造、江戸城の新築石垣済みと白壁の漆喰塗と等々各々の現場で働く者達の材料の入手やら運搬といった諸事に光を当て江戸の開府に伴うダイナミックな躍動が生生しく語れてている。
松岡圭祐著「特等添乗員αの難事件 2」、著者のシリーズ物鑑定士Qを数冊読んだ。今回は添乗員αというライトミステリーだ。中卒の問題児朝倉絢奈が添乗員を目指す中で出会った厚生省キャリア官僚の青年壱条那沖、彼との遭遇は彼女絢奈の人生を変える契機となった。国会議員の息子である那沖の執事の指導受け晴れて添乗員となった絢奈の思考はラテラルシンキングという類まれな能力を持ち困難な状況を瞬時に解決する能力を次々と発揮してゆく。小気味よい痛快さは健在だ。そして特等添乗員αが誕生する。
ダヴィド・ラーゲルクランツ著「ミレニアム5 上」、刑務所に収容されたリスベットは、後見人である老人の訪問を受けた。しばらくして老人は殺害された。息も絶え絶えの最中、ミカエル・ヴイルムクヴィストが老人の部屋にやってきた。必死な看護を続けたが絶命した。ストックホルム警察やら怪しげな研究所さらに関連する様々な人物が浮上し交錯する。前作に続きリスベット・サランデルの謎はさらに深まってきた。下巻が楽しみだ。
佐々木護著「ストックホルムの密使 下」、ストックホルムの公使である大和田は原爆投下とソ連の対日戦始動との極秘情報を森とコワルスキーに託した。二人は2万キロの困難な旅を続け遂に秘密情報を届けたが、戦局は一進一退の状況だとし今だ戦争終結を認めず経線を主張する軍部。既に沖縄戦の敗北、原爆投下の状況でなお戦争護持を主張する人々、情報は錯綜し天皇の終結宣言までの道のりを克明に描く作者の調査は史実と小説の中の人物の配置そしてプロットは戦争とは何か?人間とは?を改めて提起させる名著だと思う。
アガサ・クリスティー著「ゼロ時間へ」、海岸べりの断崖絶壁の上に建つ館、その主人である彼女は富豪であり病になっている。そこに夏を少しばかり過ぎた季節に友人達がやってくる。それぞれの人間模様が展開される。そして館の主が殺害される。通常はポアロが出てくると期待したが、この物語はスコットランドヤードの警視と警部である。殺人の手口は今となっては平凡で見劣りがする。小説全体を通して冗長であり、目新しさはない。
佐々木護著「ストックホルムの密使 上」、第二次世界大戦を背景に日本帝国陸海軍司令部、さらにドイツ、パリそしてスウェーデンのストックホルムの公使らの情報が様々な形で入り乱れる中、日本軍部は情報統制を欠き戦争終結を模索し右往左往する事態となっていた。戦争終結を模索する良識ある軍内部の人々と戦争護持する推進派との間での葛藤が続いている。ストックホルムの公使大和田はポーランド人のスパイを使い情報収集の中で新たに米大統領に就任したトルーマンは先ごろ開発された原子爆弾を日本に投下すること決定した。大和田公使は原爆投下前に戦争終結宣言をすべきと緊急の暗号文を打電するが果たして?
篠田真由美著「胡蝶の鏡」、京都四条家の令嬢彰子(あきらこ)とベトナムはハノイのレ家に纏わる過去の凄惨な殺人事件を回り建築家探偵櫻井京介と栗山三春が果敢に謎を解明すべくハノイへ。そこにはベトナムの歴史に隠されたレ家の秘密が、今回は海外ということで期待したが今一である。
伊園旬著「ブレイクスルー・トライアル」、北海道は美瑛にあるIT企業の研究所で実施されることになったトライアル競技、様々な情報及びセキュリティを突破してマーカを制限時間内に持ち帰るというテーマだ。参加したチームは様々で銃撃やら倒壊、爆破までシリアスな状況を巧みに描きつつ、人間関係のドラマを同時に描く、そしてユーモアも散りばめたサスペン・ミステリーだ。
山崎豊子著「華麗なる一族 下」、銀行合併を着実に目論む万表大介は、実子である長男が専務を務める阪神特殊鋼を画策を持って倒産に追い込み、大同銀行三雲頭取を失脚させた。閨閥結婚を主に取り仕切る相子の手は銀行合併へと繋がる手練手管であった。しかし破綻した自社・阪神特殊鋼の痛手から一人果って猪狩りをした山中で猟銃により自らの命を絶った。この事件以来華麗なる一族の前途が微妙になってゆく。合併ははしたが、家族は離散して行く羽目に。著者の周到な取材調査の上に繰り広げる人間ドラマはまさに圧巻である。
松岡圭祐著「探偵の探偵 Ⅲ」、執拗に妹咲良を死に葬った犯人を捜し続けて奮闘する玲奈、探偵社スマ・リサーチの対探偵課の社員として悪徳探偵を容赦のない鉄拳を下す。そんな渦中で事件発生、過去DVの被害にあった市村凜、彼女こそが玲奈が探していた井本を葬った犯人と判明、死闘を繰り返し遂に仕留めた。玲奈を処々の状況から会社を辞めざるを得なくなり退社、残った琴葉は対探偵課で引き続き仕事をするという。今後の展開は如何に。
リンダ・ハワード著「炎のコスタリカ」、南米はコスタリカ、ジャングルに囲まれ囚われの身となったジェーンは彼女の父親から依頼を受け救出するべく現地に赴いたのは元諜報工作員グラントだ。脱出劇が開始された。執拗にして残虐なトレイゴ一味との格闘の末遂に脱出を果たした。逃走中様々な困難に直面し危険を潜り抜けながらいつしか二人は愛に目覚めてゆく。ラブロマンスと適度なライトミステリーとでも形容する物語だ。この雰囲気は著者の独壇場だ。
山崎豊子著「華麗なる一族 上」、神戸の資産家であり阪神銀行の頭取である万俵家を中心に子供たちあるいは親戚や会社の部下連を含めた関係を著者の豊富な知識と銀行、から大蔵省を含めた綿密な取材は物語の確実性と現実性をも想起させる。また万俵の家庭生活の妻妾同禽という特殊な状況も見事に描き出し物語に花を添える形になっている。官庁主導の金融再編の流れに合併を目論む万俵の様々な工作を精神状況をもまさにミステリーとも思える展開だ。下巻が楽しみだ。
ダヴィド・ラーゲルクランツ著「ミレニアム4 下」、読了後感じたのはスティーグ・ラーソンのミレニアム3部作を超える素晴らしい出来だという印象である。スウェーデンのミステリーの傑作として残る名作だ。ミカエル・ブルムクヴィストとリスベット・サランデルとの距離感といい名コンビだ。さらに自閉症だが天才的数学的能力を発揮するアウグストを配置した物語の展開は見事だ。