金曜日, 6月 28, 2019

山崎豊子著「約束の海」、著者の最後の作品であり当時三部作を考慮していた由。潜水艦くにしおの船務士として乗艦していた花巻朔太郎は訓練後横須賀港に寄港途中で遊漁船と衝突海難事故を起こしてしまう。艦橋に居ながら何一つ救助できなく30名もの一般市民を犠牲にした後悔の念は脳裏を埋め尽くし潜水艦乗りを辞める決心をするが、海軍中尉だった父の戦争体験に触れ思い直し再び自衛隊に留まる決意をする。国民と自衛隊さらに軍隊、装備の必要性云々さらに自衛官の生き様まで描きたかったのだろうか?
松本清張著「砂の器 下」、依然として捜査は膠着状態が続き今西刑事らは任意捜査としてコツコツと続けていた。そんな折、ひょんなことからヌーボーグループの中の一人和賀英良前衛音楽家の自宅での不審な情報元に捜査は新たな段階へ和賀の出生を徹底的に洗う。農水大臣の愛娘との結婚を前に苦悩する犯人の姿が浮上する。著者のプロットは流石としか言いようがない。傑作ミステリーとして太鼓判だ。
松本清張著「砂の器 上」、東京蒲田駅操作場で起きた扼殺事件の被害者は50歳位の男性だが、一向に身元が判明せず警視庁の刑事達の捜査は膠着状態であった。最初はトリスバーで飲んでいた被害者が東北訛りで喋っていたとう情報を元に秋田を今西刑事は訪れたが判明しない。ところが被害者の養子という男が義理の父ではないかという情報を元に判明する。被害者は岡山県在住の男性だった。今西刑事の捜査上に浮かんできたのは前衛グループだった、関連する人間が二人死を遂げ自殺と認定されているが。。
真山仁著「スパイラル」、大手の会社から決意しての再就職先はマジテック株式会社という東大阪市の零細企業だった。その会社の故社長は博士と言われた数々の特許を持つオーナーだった。細々とした受注をこなし乍ら会社を続けていくマジテックは芝野を迎え次男望とともに営業部隊を新設し受注を少しずつ確保しつつあった。そんな折最重要得意先である栄興技研がハゲタカファンドに買収されるという事態になった。風前の灯火となったマジテックは最後のあがきを続けていたそん中朗報が齎された正体はサムライキャピタルファンドの社長鷲津政彦だった。
ガストン・ルルー著「オペラ座の怪人」、19世紀フランスはパリの有名な劇場オペラ座を舞台に跳梁跋扈する怪奇な異人そう怪人が絡む殺人事件と物語のもう一つの要点としての純愛を絡ませたプロットは当時の推理小説ミステリーで評判をとる。巨大なオペラ座の内部は複雑でまだ入ったこともない部屋が幾つもありミステリーを否が応でも盛り立てる。
百田尚樹著「影法師」、江戸時代茅島藩内の幼馴染の二人寛一と彦太郎の生涯に渡る男の友情を悲哀を持って書かれた小説だ。著者の書を久しぶりに手にしたが、相も変わらずプロットといい内容といい絶妙だ。男の友情とはこういうものだと言わんばかりの今や無い友情とうテーマを実に見事に描きつくす絶品だ。
チャールズ・ウィルフォード著「拾った女」、1950年代の米国はサンフランシスコでの物語だ。戦役から帰還しアルバイトをしながら生活するハリーは、ある日ブロンドの美人に遭遇し共に彼の安アパートで生活するこになる。彼女ヘレンの持ち金が無くなり悲惨な生活しかもヘレンは強度おアル中だった、同意の上手首を剃刀の刃で切り自殺しようとするが見事に失敗する。その後再び自殺を試みハリーはヘレンの喉を手で絞め死に至らしめた、ハリーはガス栓を解放し眠ったが朝生きていた。警察に連行され獄舎での生活が始まり遂に裁判の日、ヘレンの死は病気だったと判明する。途轍もなく寂しく侘しい恋愛と簡単にあっけなく死を向かえる女と青年の物語だ。
真山仁著「ハゲタカⅣ グリード 下」、遂にその時はやって来た。リーマンブラザーズの破綻とGCの破綻、陰で糸を引く大物投資家サミュエルとクラリス、ハゲタカファンド鷲津も動く米国に灸をすえるために。国家と米国民を冷めた目で捉える鷲津のスピリッツは何処にあるのか?サムライたる正義感か自己の人生の標榜なのかもしれない。強欲は善だと言い切る男の人生を見た思いだ。
ミネット・ウォルターズ著「悪魔の羽根」、シオラネオネ出身のジャーナリスト、コニーはバグダッドで拉致され暴行を受けるが、3日間で解放された。犯人は特定でき傷心、不安を纏い英国の寒村へと向かった。PTSDに罹り日夜不安と孤独に脅えて暮らす毎日だ。そんな折に、コニーを拉致した犯人が彼女の館に侵入し乱闘の末に犯人は逃亡する。プロットとしてはミステリーとしては貧弱でここまで長編にする必要があったのか?疑問に思う。
麻耶雄嵩著「メルカトルかく語りき」、超探偵とでも呼ぼうか、タキシードにシルクハットという出で立ちの銘探偵ものの短編集である。何故か最終章で読者の期待を見事に裏切るミステリーは今までのミステリーとは全く違う味付けだ。プロットもそれなりだが、感心するほどのものでもない。しかし何故か読んで見たくなるそんな類のミステリーだ。
真山仁著「ハゲタカⅣ グリード 上」、リーマンショック前の米国での金融業界の混乱、大手投資家さらに鷲津率いるハゲタカファンドさらにADとGCを軸に展開する様は激震を予感させるに十分な状況である。果たしてリーマンブラザーズは破綻するのか?現実に破綻となれば鷲津とてその激震の余波がどの範囲否どの位の規模なのか判断できないでいた。サブプライムローンに端を発した米国の金融業界は混乱の極致にいた。果たして政府の援助は?
高田郁著「あきない世傳 六」、6代目店主であり幸の夫でもある智蔵が倒れそのまま逝ってしまった。幸や奉公人の悲しみは想像を絶するものだった。そんな折、浮上したのが世継ぎつまり跡目だ。天満の組合に図り了承を得たのは期限付きの七代目として幸を認めてもらうことだった。頃合いも江戸への出店を決意してから時が経ち幸は鉄助とお竹を連れて江戸へ乗り込んだ。皆で知恵を出し合い漸く開店へと漕ぎつけたそんな六編だ。
スティーヴ・キャヴァナー著「弁護士の血」、正にあり得ないニューヨークの裁判所爆破という想定外のプロットだが本物に思えてくる著者の力量に感嘆。ロシアンマフィアのドンの殺人罪の裁判の弁護を引き受けることになったエディー・フリン、しかも人質として愛子エイミーが拉致された。愛する娘の為にマフィアのドンの裁判に勝利すべく全知全能を傾注し危機から脱出するといったストーリーだ。
アーナルデュル・インドリダソン著「声」、北欧はアイスランドの作家の作品であると。首都レイキャビク警察の警部を中心とした物語の展開だ。レイキャビクで二番目に大きなホテルのドアマンが地下の倉庫の一室で殺害された。事件の真相はなかなか掴めない。殺害された男の過去が徐々に明らかにされ、少年期著名な合唱団のスターだったと。そして彼に纏わる家族との変遷、さらに捜査に携わる警部の過去と家族との絆さらに別の事件の伏線を配しながら展開してゆく。ミステリー小説だが、この本では家族と人生について改めて考えさせられる。
折原一著「異人たちの館」、文庫本で600頁を超える超大作ミステリー小説だ。しかも何処までも読者を翻弄してやまない複雑なプロットは読者の心理をとことん弄ぶ技巧を凝らした作りだ。ゴーストライターとう主人公というのも独特なものだ。真相は悪までも闇の中を彷徨い伏線が互いに絡み合い犯人は何処までも読者に判別できない不可解さと最後のどんでん返しはジェフリー・ディーヴァーをも彷彿とさせる。絶品だ。