水曜日, 10月 30, 2019

松本清張著「危険な斜面」、6編の短編集である。清張作品の短編は実に見事なまでに人間を描き、社会を描き、その中に潜む人生の寂寥感を漂わせていて、かつミステリー的な面白さを秘めている。短編を綴る技術というか能力は正に天下一品だ。
堂場瞬一著「検証捜査」、伊豆大島に左遷された神谷警部補に非常招集がかかり警察庁特命班という組織に入ることになる。女性暴行・殺害事件の被告として神奈川県警が挙げた犯人が逆転無罪となり県警への捜査を特命班が担うことになった。組織対組織のぶつかり合いと隠ぺい画策と進展が見えないまま別の犯人を捜そうとする神谷警部補、謎が徐々に明かされてゆく過程は冗長さが付き纏うが道警の紅一点安井凜ほあん部長との淡い恋など散りばめて物語にバラエティーを与えている。最終的に警視庁内部の刑事の犯行だと判明する過程が少し短絡的ではないか?
堂場瞬一著「熱欲」、金取引を肴に投資を募るねずみ講まがいの組織K社に関連した人間が殺害される。元刑事で今生活安全課にいる鳴沢了が組織の追及に乗り出した。K社の組織は営業社員を恫喝し利益を上げなければ系列の闇金業者による借入を強要され遂には自殺と逃亡という結果になる。さらに組織を外れた人間を処罰するのに中国マフィアを使うといった手口、これこそが警察小説のセオリー通りのプロットかと思う。
松本清張著「眼の気流」、昭和38年に発表された短編4作品が収められている。いずれも現代で読んでも古臭さは微塵も感じられず推理小説として確たるものを持っている。作品の底流にある男の悲哀と怨嗟そして漠として不安は、高度経済成長期中の孤独感に覆われ四苦八苦する男の姿を見事に描き出している。プロットも多彩であり十分楽しめる作品だ。
畠山健二著「本所おけら長屋 十三」、おけら長屋を中心に寄り添って生きる貧乏でも気持ちがいい仲間、万造、松吉、八五郎、鉄斎、お咲に大屋、魚辰、金三と彼らが巻き起こす様々な事件を人情で解決する物語。作者が描く物語は日本人の心の内に自然と溶け込むように入る。次の物語が待ち遠しいほどだ。
松本清張著「男たちの晩節」、昭和30年前後高度経済成長に向かう社会で働く男たちの悲哀を描いた作品で、今読んで見ても深い感慨と共感を呼ぶことは間違いない。物語の状況設定が巧みでサラリーマンの定年間際、または定年後の悲哀がそれとそこはかとなく絶望が死への憧憬が感じられる短編集である。

上毛新聞社著「ぐんまの自転車さんぽ」、群馬県内を10地区に分けて、それぞれの自転車による散歩道を紹介した本である。名所・旧跡を初め見どころ、味所が紹介されている。またレンタサイクルを主眼としているため、レンタル場所も提示され秋の清々しい青空の下で自転車による群馬県内を巡る自転車による散歩は絶好のプチ旅行だと思う。
松本清張著「霧の旗」、兄の金貸し老婆殺害事件の犯人として逮捕された事件を回り妹桐子は、ナケナシノ金をはたいて状況し刑事事件の弁護で著名な弁護士大塚欽三に弁護を懇請するも大塚弁護士は忙しい、高額な費用として弁護を退けた。桐子はその後状況してバーに勤める。バーの仲間から頼まれ男を監視している最中に奇しくも殺人事件に遭遇しかつ事件の目撃者は大塚弁護士の愛人であった。このことを知った桐子の執拗なまでの復讐が始まった。刑事事件としての裁判また弁護士、人間としての深い真実にも疑問を持って深く洞察する著者の渾身の作である。
松本清張著「黒の様式」、本書には3短編が収納されている。中短編というか、その主題が極めて特色のある設定で著者の頭脳の奥深さを感じる。雑誌への連載というが誠に持って奇抜な主題とその解決方法のプロットには目を見張るものがある。昭和40年代の作品というが今読んで見ても新鮮なミステリーだ。
松本清張著「Dの複合」、著者昭和40年代の作品だと。物書き伊瀬忠隆に飛び込んだ紀行文は雑誌、創刊されたばかりの草枕に掲載され反響を呼んだが、取材は民族学的、あるいは民族伝承を取り込んだ。取材過程で起こる謎の死体遺棄事件は既に殺人の連鎖の渦中に投げ込まれた伊瀬と編集者浜中を取り囲んだ。経度35°緯度135°の線上を只管取材する彼らの前に殺人事件が勃発し真相は闇の世界へ。歴史の隠された謎を追いながら事件の発生は人間の情欲の結論に達する。
松本清張著「黒い画集」、昭和32年から35年までの連載だという。今から50年も前の作品なのに、古臭さは一向に無く現代でも十分通用するミステリーだ。本書には7編の短編が綴られている、男女の愛、就中現代でいう不倫と殺人をテーマにした短編である。そこには男女の心理・嫉妬そして金と物理的な欲が絡み合い殺人事件を生む。日常性の破綻はふとした出来心から取り返しのつかない殺人事件として発展し人間を脆くも破滅させる。
松本清張著「ゼロの焦点」、戦後の混乱の中にいた昭和32年のこと、鵜原憲一は広告会社の営業主任として金沢に赴任していた。彼の生活は20に間は地元で営業し10日間は東京本社へと二重の生活を余儀なくされていた。そんな彼憲一が見合いの末禎子なる女性と結婚することになる。結婚後1か月余りで夫は失踪して要として行方が解らず、禎子は金沢に滞在憲一の後任の本田と共に行方を必死になって捜索する毎日だ。そして金沢から50分かかる断崖絶壁で投身自殺が発覚さらに憲一の兄宗太郎が旅館で殺害され本田も東京で殺害されるといった事件が重なる。プロットは抜群で戦後の混乱に乗じた社会派推理作家の何たるかを知らしめるミステリーだ。
ジョシュ・ラニヨン著「天使の影」、著者の作品を読むのは2冊目だ。LAで本屋を営むアドリアン、実は彼はゲイだ。ある日友人が彼の元を去って殺害された、シリアルキラーは次の殺人へと向かう。死人は手にチェスの駒を握りしめていた。彼は高校時代にチェスクラブにいた事を思い出し、仲間を思い浮かべる。殺害された知人は全て当時チェスクラブにいた者だった。犯人を特定したアドリアンはブルースと名乗る犯人の元へブルースは高校時代の友人だった。絶対絶命の危機をリオーダン刑事に救出された。プロットは単純で冗長だが気軽に読める作品だ。
松本清張著「点と線」、九州は博多近くの海岸で男女の情死による死体が発見される。男性は某役所の課長補佐であり女性は小料理屋の下女であった。折しも役所の斡旋収賄疑惑が持ち上がった最中情死した補佐を回り警視庁の三原刑事が奔走する。浮かび上がったのは安田という人物で小料理屋を良く利用し情死した女性とも昵懇の仲だった。役所にも納品する工具器具備品商であり課長補佐とも見知りの仲だった。このあたりの動機付けが社会派推理作家と言われる所以である。東京駅の13番線から15番線の見通す間隙をといい、安田の妻の肺結核症で臥せっている設定といい推理小説のミステリー小説の面白さを存分に味あえる一品で、これが昭和32年の作だというから驚かされる。
松本清張著「眼の壁」、昭和電業製作所の社員萩崎竜雄の会社では資金繰りに窮した課長が高利貸しから闇金業者のパクリ詐欺に遭い3千万円を喪失した。課長はそれが元で自らの命を絶った。上司の不条理な死を眼にし正義感に燃える萩崎は犯人を特定すべく会社を辞職する覚悟で一人捜査に乗り出した。途中から友人の新聞記者田村と一緒に捜査することになった。そん中会社の顧問弁護士の調査員が拳銃で殺害さらに弁護士も拉致誘拐され行方不明となった。裏で糸を引く右翼の船坂に辿り着いた。必死な捜査で最終的に見えたものは血縁関係からの絆であった。プロットは予想外で面白かった。犯人の動機に見る貧困、社会性を意識したプロットの組み立て、一人捜査に燃える萩崎の正義感、人生をも描くミステリーだった。