木曜日, 11月 28, 2019

須賀しのぶ著「革命前夜」、19世紀後半1989年ベルリンの壁崩壊前の東ドイツドレスデンに留学した日本人学生眞山は、学生仲間らと共に一心に音楽就中ピアノのレッスンに明け暮れる毎日だ。この時期の東独はシュターゼという国家保安院さらに一般民衆による告げ口による徹底した西側の思想取り締まりに躍起となっていた。眞山は気づく過酷な社会でも民衆の生きる力は即音楽そのものの力であると。音楽と人生と社会をテーマに少しミステリーも含む傑作だ。
堂場瞬一著「壊れる心」、警視庁総務部犯罪被害者支援課に在籍する村野警部補、同僚で動機の優里、支援課に初動支援として来ている新人の梓を中心に交通事故に端を発した事件に関わる。被害者は5人大人や子供も2人犠牲となった事件、被害者支援に当たっていた村野らはさらに困難な状況に陥る。被害者の一人がビルに立て籠もり一人の女性を監禁してビルを爆破すると予告してくる。支援として最後まで自分の信念を押し通す男を描く作者の視点に限りなく人間の生と優しさを感じる小説だ。
松本清張著「かげろう絵図 下」、昭和33年から34年に新聞に連載された著者の大作は社会と人間、男と女、権力闘争、派閥抗争等など世の中のありとあらゆる事象を描き尽くし尚且つミステリーで味付けして読者を最後まで引っ張る名著である。江戸中期第11代将軍家斉を中心に大奥での暗躍と堕落それを追及する脇坂淡路守と水野越前守忠邦在野の又佐衛門と新太郎、裏で糸を引くドン石翁とその一派多彩な顔触れを揃えて織りなす江戸絵巻は正に圧巻である。
松本清張著「かげろう絵図 上」、江戸幕府徳川11代将軍家斉を取り巻く、大奥と重臣達さらに旗本らによる権力闘争を軸に物語は展開する。大奥での覇権争い家斉の寵愛を受ける派閥抗争、世継ぎを画策する重臣、旗本と百花繚乱の態で厚みを持たせ歴史ミステリーとも言うべき作者渾身の作だ。上下巻合わせて文庫本1100頁に及ぶ大作である。
堂場瞬一著「破弾」、刑事鳴沢了シリーズだ。30年前の学生闘争の生き残りが発端で殺人事件が発生した。鳴沢と小野寺冴が任務にあたる。二人とも脛に傷を持ち一課の片隅で生きている同僚だ。そんな二人が捜査にあたる。クライマックスは予想外で鳴沢の大学時代の先輩が絡み革青同という闘争組織の内ゲバから殺人を犯したメンバーが浮かび上がる。プロットに少し無理はあるものの中々の迫力ある展開で一気に読ませてくれる。
堂場瞬一著「複合捜査」、埼玉県警に夜間緊急警備班通常NESUが設置され県警一課から指名された若林以下28名が任務にあたる。この中には検証捜査で特命班として活躍した桜内刑事も入っている。埼玉市の中心街で、放火騒ぎが発生しNESUが始動開始、さらに殺人事件が発生若林は捜査に乗り出す。見えてきたのは過去若い警察官を説得して辞めさせた青山という警察官だった。犯人青山は執拗に若林を陥れる策を弄し警備班就中若林に挑戦してきた。終盤の犯人逮捕までの緊迫感は読みごたえ十分だ。
松本清張著「影の車」、者昭和36年頃の雑誌への投稿作品、短編7編である。今まで短編に数多く接しているが、どの作品もモチーフといいプロットといい秀逸である。各短編物語の裏に日常性の中の小さな欠片が人間の根底にある悪を助長させ殺人という結果を齎す。それ故不条理な恐怖を見事に描き出す作者の力量を評価せざるを得ないのである。
堂場瞬一著「潜る女」、刑事総務課に勤務する大友鉄は詐欺事件担当部署の二課の要請で捜査に駆り出された。捜査線上に浮かんだ美人ジムのインストラクター荒川美知留に接触し状況を探ることになった。そんな折に主犯格の男の遺体が発見された。二例目だ。捜査は俄かに緊迫の様相を呈してきた。荒川の動向は一向に犯人と接触を見せない、被害者女性が犯行を自白した。複数の詐欺被害女性らで殺害したと。刑事仲間と詐欺と殺人事件を絡ませたプロットは気が利いていて一気に読める書だ。
堂場瞬一著「時限捜査」、東京板橋で殺害された人物を捜査する警視庁の神谷、その頃大阪では万博公園内の太陽の塔のほか4、5か所で爆発騒ぎがあり警察官が駆り出された。しかし事態は深刻で大阪駅に籠城した犯人が人質を取り立て籠もるという事件が発生、神谷と同じ特命班で活躍した島村が梅田署で署長をしている地域でだ。籠城は数十時間に及び焦りが警察側にも見られた。その頃捜査していた神谷の情報により籠城犯の氏名が明らかになった。いよいよ最終段階になり府警の宣伝頭、射撃の選手下倉の出番となった。東京と大阪を結ぶ犯罪と籠城の緊迫感の描写は圧倒的だ。
堂場瞬一著「凍結捜査」、警察庁の指示の元特命班で活躍した刑事の一人北海道警の安井凜刑事が今回の主役だ。雪の下で頭部を二発銃弾を浴びて絶命した被害者が発見された
その後女性がやはり頭部に二発の銃弾を受け殺害される。事件の捜査は遅々として展開を見せることもない。被害女性の家族の意外な事実、それはロシアとの繋がりだった。ロシアンマフィアのブリアによる犯行と断定できたがその黒幕は依然として不明、北海道らしいロシアとの繋がりを軸に展開していく今回は最終的に結論がでない結果だった。