木曜日, 5月 30, 2024

岡本さとる著「名残の袖 仕立屋お竜」、普段はつましい仕立屋として働くお竜であるが、裏の顔は悪を容赦しない殺人者にかわる、つまり痛快時代劇で全編にお竜の優しさと魅力が溢れていて充分楽しめる時代物である。金持ちの文左衛門を筆頭に剣術使いの勝之進そして一膳飯屋の御老体とチームお竜の快進撃が止まらない。
高田郁著「幾世の鈴」、あきない世傳金と銀の特別編というところだろうか。五十鈴屋江戸本店並びに大阪天満、高島店の近況を伝える内容とともに係わる人間の現状と幸と賢輔が願う今後五十鈴屋の100年を思う気持ちが強くでていた。中でも幸の妹結の現状は中々大変な状況で50歳になりながらも過去に拘り一向に安寧を見せてない生活は苦しい。
笹沢佐保著「海賊船幽霊丸」、 徳川家光の時代に瀬戸内を仕切っていた来島海賊の物語である、頭を務めるのは新九郎と新八郎の兄弟でありこの二人は双子であった。小島の洞穴にあった和船に乗りまさに出航しようとしていた船の名前は幽霊丸といい大海原に漕ぎ出し南方を目指して出航した。途中現在のフィリピンにあたるミンダナオ島あるいはツソン島を見てそこで捉えられている日本人を救出する作戦であるその後補給をするためダバオに立ち寄る予定だったが、思わず鉢合わせたのはイスパニアの軍艦だった、新八郎の号令下二隻の軍艦と補給艦を奪取した。この物語は著者の晩年の作で最終章を盟友の森誠一氏が輔弼したそうである、笹沢氏の著作は380作にも及ぶ膨大な物である。
今西マサテル著「名探偵のままでいて」、六章からなる連作短編集である、教師を務める楓と碑文谷に一人で住む祖父との掛け合いそして楓の同僚二人が絡み事件解決えと導く、ちょっとしたミステリーだ。しかし読後感じるのはやさしいという言葉が浮かび何故か自然と心が温かくなるそんな感じがする物語でした。
まさきとしか著「あなたが殺したのは誰」、小樽に近い小さな島鐘尻島での過去の話として描き、現在進行する捜査なんら脈絡も無く物語は進んで行く、バブルが弾けた後の島内は様々な人が悩みそして次々と起こる殺人事件、その過去が現状に見事に繋がり収束して行く。プロットは練りに練ったという印象で伏線もまた読者を唸らせる設定だ。刑事三ツ矢と田所との造形も興味深くシリーズとしては三作目に当たるようだ。
笹沢佐保著「空白の起点」、著者の空想的トリックと用意周到な伏線に只只管感激するしかない、大手保険会社の調査員である新田が調査にあたったのは戦後の時代で600マンという保険金を契約していた契約者小梶が自殺した、この件を調査した新田の前に次々とと疑問が浮かんでくるのであった。読者の予測できない最後のどんでん返しが待っていた。私としては真夜中の詩人が著者の中でベストだと思う。
笹沢佐保著「真夜中の詩人」、今回のミステリーは誘拐物だ、しかしそのプロットは秀逸で予測できない面白さを存分に味あえるまさに傑作長編ミステリーである。ひねりに捻りを加えたプロットは絶品で楽しめる、昭和の時代の誘拐事件は記憶の中に存在し今回の物語にしても状況設定としては違和感は無い。作者は人間のゴウという物と人生の悲哀そして女性の我が子に対する愛と強さを感じさせてくれる。
笹沢佐保著「突然の明日」、小山田家は平和な家庭を営んでいたある日の夕食時長男の勝手知ったる久米桧佐絵を銀座四丁目の交差点で見かけ声を掛け追いつこうとしたが突然消えたという話をした、ここから事件が始まる。長男晴光がアパートの屋上から転落死した、料理屋を経営する男もまた殺害された、警察は事故としてかたずけたが、小山田義久を父に持つ涼子つまり父娘は疑念を持ち独自に調査を始めた、著者らしいプロットと伏線の素晴らしさは相変わらずである。
柚木裕子著「暴虎の牙 下」、様々な犯罪に手を染め20年という刑期を終えて出所した沖は再び呉虎会のメンバーを集め賭場を襲い現金を巻き上げさらにシャブの隠し場所を抑えて搔っ攫うという暴挙を達成した、しかし彼沖は収監された刑務所のなかでチクった元を赦すことはできなかった幼馴染の元を殺害した、さらに三島も殺害し広島を乗っ取る計画に向かい突進する。暴力に洗脳される沖の人生のなかで幼い時の貧乏と親父の無謀なふるまいの下で暮らした影響が如実に成人した沖の意識を変えた、非常に面白く読んだ。
柚木裕子著「暴虎の牙 上」、広島北署捜査二課刑事つまり暴力団対策課の大上はベテランであり独自に行動をする座にいる、署内の暴力団の趨勢はおろか愚連隊や暴走族にも情報を得て動き回る、敏腕刑事だ。数年前に妻子を交通事故で無くし今は独身だ。そんな彼が目に付けたのは暴力団の組ではなく呉原から広島に来た沖虎彦を中心にした呉虎会という準暴力団組織だ。大型の薬物取引に絡む窃盗及び障害事件が起きており大上は呉虎会が絡んでいると診て情報収集に当たっている。