火曜日, 5月 02, 2017

P・G・ウッドハウス著「ジーヴスと朝のよろこび」、ウッドハウスの長編である。このユーモアたっぷりの作品を戦時下、ドイツによる捕虜として収容所を転々とした時期に脱稿したというのが信じがたい。ウースター青年と彼を取り巻く親戚、友人、知人を交え様々な事件、困難の渦中でジーヴスの才気溢れる状況判断により窮地を脱する長編物語だ。ジーヴスの登場は控えめだがウースターの窮地を前に登場する彼と青年ウースターのコンビは読者をほのぼのと幸せにしてくれる。
P・G・ウッドハウス著「ジーヴスの事件簿 大胆不敵の巻」、ウッドハウスのジーヴスもの、短編集である。お馴染みのウースターとジーヴスとのやり取りは正に絶品だ。主人と執事という関係において求められる最高の人間関係と言えよう。何故か英国的なユーモアなるものが、根底にあり何とも言えぬ面白さとともに清涼感を与えてくれる。
松永大司著「トイレのピエタ」余命3か月と医師から宣告された園田宏は癌だった。人間の死、死を迎える人間、彼はまだ28歳だった。名前も知らない女子高校生との最後の出会いと交流。死ぬ直前、故郷へ帰郷する両親との団欒にも耐えられない、東京の自分のぼろアパートで最後まで過ごした宏。人間死を意識したその時、心の内は全て浄化され純粋になってゆく全てを受け入れそして死に向かう
アンドレアス・グルーバー著「月の世は暗く」オーストリアはウィーンを舞台に展開する刑事物語だ。次々と女性が誘拐され拷問され殺害される。起動捜査課の刑事ザビーネの母が拷問殺害された。ドイツから来た偏屈で奇人の事件分析官マールテン・スナイデルという人物と捜査を担当することになる。犯人カール・ボーニは幼児虐待を受け精神疾患を患う青年だ。麻薬や強姦で捕まるが裁判所からの通達でセラピーを受けることになる。幼児期に読んだと思われる絵本を題材にそこに書かれた殺人を次々に実行する。セラピストを襲い誘拐し彼女らの指をハサミで次々と切り落としてゆく。二人の執拗な捜査が続き犯人を遂に追い詰めた。
山本文雄著「なぎさ」神奈川県は久里浜を舞台に長野須坂から移住した夫婦とその周りの人々の人間関係を描写し人間の根源的な問いを題材にした物語だ。人間の奥底に潜む感情を表現し、分かり合うことがどんなに困難か?という素朴な疑問を呈しているこの物語は読後心に隙間風的な空虚感が去来する。それぞれの人がそれぞれ生きるこれが人生であり社会だろうか。
畠山健二著「本所おけら長屋」六おけら長屋に住む住人、松吉そして万造いつものドタバタ劇が繰り広げられる。長屋の住人のほか聖庵堂の先生そこに努めるお満を始め数々の人物を配置し物語を盛り上げる。いつもながら作者の大江戸人情話は爽快かつ痛快だ。底には日本人ならではの心意気が込められ今の世の中に足りないものを感じぜずにはいられない。
P・G・ウッドハウス著「ジーヴスの事件簿 才智縦横の巻」久しぶりに著者のジーヴスとウースターものを読んでみた。機転が利き頭脳明晰にして執事たるジーヴスとバーティーの織りなす日常生活の中での事件は読んで楽しいしまた何とも言えぬ面白さがある。主な登場人物は2人の他にはウースターの友人と伯母これらの人々が巻き起こす事件をジーヴスが様々な手段で解決してゆく心地良さとも言うべき物語だ。
青山文平著「つまをめとらば」江戸の時代物短編集である。男と女の物語や友との友情を綴ったものなどが混ざっている。情やなさけそして人情と友情さらに無常とが折り重なった人間の生をそこはかとなく記す。何故かほっとる物語であった。
真山仁著「そして、星の輝く夜がくる」阪神淡路大震災を経験した神戸の小学校教師が、東日本大震災後の東北は東間市の小学校に派遣赴任する。そこで見た現実、地元住民、小学校の生徒達そして大災害が引き起こす虚脱感、家族や友人知人を失い、当てのない袋小路に迷い込んだような生活。こんなにも困難な状況下で子供たちが見せる、何にも負けな強さを赴任教師は教えられる。くしくも、今日3月11日は東日本大震災から丁度6年目にあたる。
道尾秀介著「透明カメレオン」都内某所、うらぶれたバーに集う5人ある日一人の女性がバーに顔を出す三梶恵という。女性の一言コースター(殺した)という言葉が破門を広げ、ラジオのマーソナリティを務める桐畑恭太郎の身にあるいはバーの常連を巻き込んで起こる様々な出来事が、プチミステリー的様相を添えて発生する。青春ミステリー小説だ。人間の持つ何故か根源的な心象をを教えてくれる面白さだ。

ポール・ドハティ著「教会の悪魔」中世13世紀末のイギリスはロンドンを舞台に王座裁判所書記のヒュー・コーベットなる廷吏が、サタン悪魔を崇拝する五芒星形党を組む悪党を追い詰め断罪する物語だ。ある日の殺人事件に端を発し捜査を命じられたコーベットは市内の教会に出向く。そこで自殺したとされる男の死体及び現場を具に見て疑問を呈し捜査を続行する。悲しいかな好意を寄せた居酒屋の女主人アリス、黒魔術の頭目だった。

畠山健二著「本所おけら長屋」五、例によって、おけら長屋に住む住人松造と万吉の二人が引き起こす人情沙汰、長屋の住人の人情で切り抜ける江戸庶民の浮世話とでも言うか読んでいて何故かホッとする。江戸庶民の暮らしぶりと風俗が手に取るように解る。おけら長屋物語の登場人物は絶妙の配置で作者のプロットの確かさと次々と事件を繰り出す才能は見事だ。

ジェフリー・アーチャー著「百万ドルをとり返せ」アメリカはボストンの富豪の北海油田採掘会社に投資し全財産を騙し取られた4人、オックスフォード大学の数学教授、ロンドンの町医者、イギリスの伯爵の御曹司、フランス人の画商と多彩な顔触れを配置し詐欺にあった百万ドルを奪取すべく詳細かつ緻密なプランの下に作戦を実行するといった物語だ。金を奪い返す作戦と背景がまた面白い。百戦錬磨の富豪相手にとことん騙すテクニックもまた爽快だ。
伊坂幸太郎著「陽気なギャングが地球を回す」, 何故か憎めない4人組が、銀行強盗を働く。少し世間とズレてはいるがこれ庶民の願望というかロマンを含んだ物語で軽快な文体とともに面白く読んだ。強盗の手口も鮮やかでスマートだ。現実味はないものの応援したくなる。4人の人間関係も嘘と希望と落胆と生活苦まで入り混じりそれをまたスマートに解決ししかも再び銀行の前に立つ。
トレビニアン著「夢果つる街」, カナダはモントリオールのダウンタウンで起きる殺人事件、所轄の警部補クロード・ラポワントはこの街区を何よりも愛している刑事だ。他民族国家の中でも東地区は様々な移民と言語が入り交じっている。強盗、強姦、買収、売春、麻薬、恐喝といった様々な犯罪が日常茶飯事だ。ある日三人の男性が殺害された。事件を追うラポワント警部補は必死になって犯人を追うが杳として犯人の軌跡が掴めない。様々な聞き込み調査の中で、語学学校との関連が浮上する。そこの女性経営者は警部補がかって知ったる売春婦の娘であった。事件は意外な展開へと発展してゆくが、冗長とも言える描写だが適度に期待を持たせてくれる作品だ。

日曜日, 4月 02, 2017

ジョン・ディクスン・カー著「三つの棺」カーの1930年代の作品で代表作だという本書は密室殺人の古典的価値を持つと言われている。読後に感ずる印象は、現代と違い少し時代差がつまり古いトリックだ。トリック自体もややこしいし現代の読者が諸手を挙げて賛成しかねる。主人公グリモーの過去、弟の因果を動機と位置づけて事件が起き自らも死を招く究極のトリックをフェル博士が看破する。


ドン・ウィンズロー著「失踪」アメリカ中西部の小さな町で幼い女の子ヘイリーが、失踪した。リンカーン署の刑事フランク・デッカーが捜査に中る。捜査陣の必死の追跡にも関わらず少女の行方は杳として知れなかった。少女の母親は離婚して独り身であり、デッカー刑事は必ず探して連れ戻すと約束する。このあたりが作者ドンらしいと思う。失踪から1年がたとうとする遂にデッカーは刑事の職を辞め捜査に専念する。青いコンチネンタルとともに追跡の旅が始まる。大都会ニューヨークにも足を向けた。

岡島二人著「クラインの壺」ミステリーとしては珍しい二人の作家の共著だという本書は違和感を感じさせないテンポの良さと平易な文体とモ相まって最後までページを繰らせる力がある。大学生の主人公はゲームの元ネタに応募したが落選しかしひょんなことからクラインというゲーム機器を開発するイプシロン・プロジェクトという会社に拾われ開発の動作確認に参加する。主人公上杉と梨沙という女性が参加している、ある日突然梨沙が会社に来なくなった。ここから謎を追及する探偵が始まる。

アガサ・クリスティー著「メソポタミアの殺人」イラクはバグダッド近郊、ヤリミヤ遺跡発掘現場で起こる連続殺人事件に登場する人物は考古学者のライドリー博士を始め、謎のラビイニ神父、直接物語の語り手つまり記述者としての看護婦と丁度良い加減とも言うべき人物配置と現代のミステリーにも十分通用する謎解きの核心は色あせていない。クリスティー作品の魅力が現代の通じる訳がある。
ヘイク・タルボット著「魔の淵」カナダは雪深い別荘での密室殺人事件、そこに集う1組の夫婦が殺害された。謎を事件の真相を解明すべく奮闘するが依然として謎は深まるばかりだ。遂に謎は解明された。しかも魔術師の如く巧妙なトリックを使って引き起こされた。あまりにも翻訳がぎこちなく読みずらい。世評とは一致しないミステリー小説だった。