日曜日, 7月 02, 2017

黒川博行著「蒼煌」、日本画家の京都画壇の絵師、室生が芸術会員選挙に立候補する。老画商殿村の参謀を得て金をばらまきながら選挙選を戦う。東京画談の画家や画商さらに政治家まで登場させ黒々とした腐敗の構図を大胆に描く。本物かと思うほどの迫力だ。室生の人間性や彼を取り巻く画家、画商と様々な状況をプロットしていて面白い。
ジェフリー・ディーヴァー著「扇動者」、クラブでそう大勢の人の集合する場所を狙い群集心理にかこつけてパニックを起こさせる未詳殺人犯はキネシスク専門家キャサリン・ダンスに挑戦的に次々と事件を起こす。例によってマイケル・オニールとの共同捜査により犯人を追い詰めてゆく。ダンスの家庭内子供との関係やジョン・ポーリングとの恋愛関係と伏線を用意し長編ミステリーに仕上がっている。だが、これまでのディーヴァーを読んできた者にとって少し不満だ。最終盤のローラコースター的どんでん返しが見られない。未詳殺人犯の拘束も何故か感動がない。
黒川博行著「海の稜線」、船舶事故を主題に殺人事件を捜査する大阪府警の深町班、3人の刑事中に東京から東大出のキャリア荻原警部補片や生粋の大阪人の総田こと総長と文田ことブンさんが執拗に犯人を追う。高速道路での車両の炎上で2人の男女が丸焦げになる事件が発生した。さらにアパートでの男女死体と事件は重なり迷宮の中へ。だがひょんなことから高速道路で炎上した死体の女性から端緒を得て事件は大きく展開する。大阪人と東京人との文化の対比やら軽快なやりとりと読者を楽しませくれる著者の作品はプロットとともに素晴らしい。
黒川博行著「ドアの向こうに」、河川に埋もれた男性の死体が発見された。直後アパートでの青酸カリによる服毒死と女性の自殺、大阪府警の刑事3人総長と文田そして五十嵐犯人追及捜査は難航するが突破口を発見し殺人犯との知恵比べそして逮捕へと。府警3人の刑事のやりとち、それぞれの家族も絡ませた大阪人特有の何気ない会話がまた人間味があってほっこりと面白い。警察捜査ミステリーとしては出色の出来栄えだ。

中村裕木子著「英語は3語で伝わります」、小中学校の英語教育からこんな先生がいたら?と思わずにはいられない。それほど明快で衝撃的だ。SVO、SV、SCという文法構文による英会話、英語文章作成という単純明快な理論は非常に解りやすく衝撃的だ。複雑なイディオムは使用しない、受動態も使用しなくても表現できるなど画期的な教育法、現況法を説いている。頭で考える日本語を如何に平易な英語表現に変換できるかのヒントがこの本には満載だ。

月村了衛著「機龍警察」、武器闇市場、密輸をするグループはベトナム人、ロシア人そして中国人と、この武器商人を追跡し戦闘を開始する機能警察。龍機兵を擁する警察庁機動捜査隊特装部、沖津部長中心に優秀な人材を寄せ集めたエリート集団だ。戦闘を描く迫力は絶品だ。
月村了衛著「機能警察 暗黒市場」、ユーリ・オズノフ元警部のロシア時代の回想から始まる武器の密輸に関するマヒアと世界の武器商人の暗躍、著者の渾身の物語だ。人型ロボットの兵器と金、政治が絡む暗黒市場を見事に描いている。ロシア捜査員時代の友人、人間関係、父と息子さらに上司とそれら人間関係を描きつつ物語は迫真の状況を見事に描き出す戦場を見事に執拗に描く。傑作だ。
月村了衛著「機忍兵 零牙」、鷹千代と真名姫を託された光牙の忍者達、山岳を超え部族の元へ送り届ける任務。道中、骸魔悪徳忍者との壮絶なバトル死闘を繰り広げ双方ともに死者を出しながら戦い続ける。この忍者戦闘記なる小説の作者の発想といいプロットといい類まれなる才能を感じぜずにいられない。ファンタジックミステリーとでも称すべき時を過ごせる小説だ。
サンドローネ・ダツィエーリ著「パードレはそこにいる」下、遂に紆余曲折ながら、犯人パードレに迫りつつダンテとコロンバの執拗な捜査が続く。警察にも追走され状況を的確に判断しながら逃走する二人だが遂に魔の手パードレを追い詰めた。病理学者でありイタリアの権威をかさに着た博士がパードレの正体だった。読者を引き付け一気に最終頁を繰らせるサイコ的ミステリーサスペンとして一級品だ。
梅原猛著「親鸞四つの謎を解く」、著者といえば、若かりし頃「知的生産の技術」岩波新書であったろうか印象に残っている。親鸞については浄土真宗の開祖といわれ、比叡山延暦寺にも訪ねたが、五木寛之の小説物を読んだだけであった。今回、書店でその題名と著者名を見て購入した、内容は正に学術的で詳細に親鸞その人に迫る文学的あるいはミステリーと言っても過言ではない迫力がある。

サンドローネ・ダツィエーリ著「パードレはそこにいる」上、幼くして誘拐拉致されサイロでの数十年間の後に失踪捜索コンサルタントとなったダンテと警察機動隊副隊長の女性コロンバとの合同捜査をメインに女性殺害及び男の子誘拐事件を追跡する物語だ。二人の過去を抉り出しお互いに関係を深め理解しあう過程を描きつつ事件に核心に近づいていく。
月村了衛著「機能警察 未亡旅団」、チェチェン共和国から日本へ侵入した女性(子供含む)国際テロ集団、黒い未亡人このテロ集団と日本警察の各部署が総力を挙げて戦う。作者の著作物は初めてだ。物語に緊張感があり生温い警察小説は異なりプロット、警察内部の人間関係、議員さえも引っ張り出す、さらにテロ集団の少女カティアとの魂の交信どれをとっても一級品だ。
シャンナ・スウエンドソン著「ニューヨークの魔法使い」、テキサスの田舎町の農業用肥料販売店で育った純粋無垢な女性、ケイティ・チャンドラー友人達に探して貰った仕事は退屈で嫌な上司の下で働かざるを得ない、そんなある日求人メールを見て応募し転職に成功しかしそこは魔法製品を開発販売する会社MSI社だった。ケイティーの日常は大都会ニューヨークで大きく変貌する。魔法、魔術の世界に身を浸しひたすら戦う彼女26才の女性の葛藤と彼女を取り巻く友人たちの温かくもあり面白可笑しい日常を上手く描いている。
松岡圭祐著「水鏡推理Ⅱ」、FOV人口血管の発明による文科省のタスクフォース内に勤務する水鏡瑞希、彼女の小学校時代の親友如月智美がイギリスの有名科学雑誌にその人口血管が紹介され一躍脚光を浴びるが、不信に思った水鏡瑞希が全力で解明へと突き進む。研究捏造をテーマにまたその調査に臨む文科省のタスクフォース内の人間関係や研究者如月らの補助金欲しさの物欲に根底がある研究捏造とさらにインド人の学者を登場させ最終決着を迎える。人間ドラマを主体にミステリーとしてのプロットは想像を絶する面白さがある。
松岡圭祐著「水鏡推理」、文科省の管轄のタスクフォース、研究費を頂戴すべく捏造や不正を暴く特別な部署である、その課に二人の職員が配置された一人は水鏡瑞希と沢田翔馬だ。二人とも一般事務官だ。理系ミステリーと痛快さと面白さ瑞希が完全と不正に対して臨む痛快さが読みどころである。東野圭吾作品にも見られるが、こちらはもっと科学的で現代的課題を提供している。