日曜日, 9月 29, 2019

松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ」、万能鑑定士Qシリーズの第七版である。シリーズものを書く著者もネタを探すのも大変な作業だ。今回はなんと万博公園の岡本太郎設計の太陽の塔が中心となる物語だ。蓬莱浩史なる青年が事務所に駆け込み妻を探してくれと?ここから始まる捜索劇は思わぬ結果を伴うことになる。太陽の塔の回収とそれに絡む利権、さらに警備会社の不正と米国大学教授の隠蔽工作とプロットは今一だが凛田莉子の頭脳が炸裂する楽しい読み物だ。
ジョシュ・ラニヨン著「死者の囁き」、ロサンゼルス在住の本屋を営みながら小説を書く主人公アドリアン・イングリッシュは執筆を目途に彼の相続する高原の別荘に向かう。管理人を置いて管理している別荘だ。ある日殺人の被害者を目撃した直後から身の回りが騒がしくなる。やはり休暇を取ってLAの刑事ジェイクが彼の別荘に来て出会う。彼の所有する広大な敷地に昔の鉱山がありかっては金鉱であった、その周囲で考古学教授を交えた発掘作業が行われていた。アドリアンとジェイクは襲撃に会い命拾いを、また二人目の殺害された死体を別荘の厩舎で発見する。殺人事件を追う二人、過去の歴史が解き明かされ発見された金鉱から金が採掘され金鉱に隠された事実を掴み謎は解決されてゆく。
篠田真由美著「綺羅の柩」、例の建築探偵櫻井京介シリーズの事件簿だ。今回は目まぐるしく日本の軽井沢からバンコクからマレーシアのキャメロンハイランドといったアジアを股にかけた殺人事件だ。富豪の戸狩総一郎が桜井京介や深春そして蒼、神代教授とも招待された軽井沢の別荘で殺害された。招待された理由はジェフリー・トーマスという米国人の失踪に関わる事件の推理だ。登場人物といい、複雑なプロットといいアジアを舞台にした殺人事件の真相に挑む京介の怜悧な頭脳が閃く。
山崎豊子著「女系家族 下」、遺産相続の争いは姉妹3人の物欲のぶつかり合いが続き一行に決着を見せず、女の怨念ともいえる凄まじいまでの争いが続く。そんな中三人姉妹はそれぞれ遺産相続分を検分し少しでも有利になるよう画策していた。最終の親族会議の前日故嘉蔵の妾文乃が子供の出産を報告がてら本宅を訪れ、なんと嘉蔵が残したもう一通の遺言状を提出した。どんでん返しのように様々な事が暴露され決着が着く。浪速の繊維街船場の木綿問屋を舞台に物欲を情欲そして怨念を見事に描き出した作品だ。
松本清張著「隠花の飾り」、11編からなる短編集である。女性の愛をテーマに綴った本書の中で、女性の様々な愛の姿を描き、そこには愛憎、嫉妬、目論見、計算高さ、傲慢等など様々な愛の形を少しサスペンス風なタッチで描いている。
山崎豊子著「女系家族 上」、大阪船場の繊維卸問屋、船場の矢島商店の3人の姉妹藤代、千寿、雛子取り巻く千寿の夫の婿養子の良吉、店の大番頭の宇市、そして店主の吉蔵の死後俄かに遺産相続の争いが始まった。分家の芳子ら親戚筋が集まる中大番頭の宇市が遺書を読み上げた。騒動は留まることを知らず、姉妹のそれぞれの思惑が交錯した中亡父吉蔵の妾が発覚しさらに複雑で醜い争いとなった。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの短編集」、例により沖縄離島の出身の美人鑑定士凜田莉子の活躍するライトミステリーというジャンルの作品である。作者のあらゆる事象に対しての蘊蓄には敬服に値するものがある。殊に科学及び物理の面についての豊富な知識には驚かされる。時間が有る時に気軽に読めるミステリーだ。
由良弥生著「空海の生涯」、1200年も前の平安時代の巨人空海の生涯を平易な文章によって書かれた人物記である。先に読んだ司馬遼太郎の「空海の風景」は作者の心象を文にした印象だが、今回の本書は史実に基づいた著作である。巨人、天才空海の生涯が遺憾なく描写され生涯を通じて求めたものそれが真理だった即ち密教・真言密教だ。真言密教こそが宇宙と人間を一体化し即身成仏へ至る理論だと。
松本清張著「疑惑」、中短編2編の構成である。疑惑は鬼塚球磨子という女性が起こしたという殺人事件を記者が取材し裁判前に球磨子が犯人だと報道してしまう。その後裁判となり若手弁護士の論理的な組み立てにより徐々に記者自身の犯行に対する球磨子の存在が陽炎の如く自身に付きまとい弁護士殺害を決意するといった物語だ。一方藤田組贋札事件は明治期に起こった贋札事件を取り上げ熊坂長庵なる人物が犯人とされた事件を再考証する物語だ。
山崎豊子著「女の勲章 下」、
矢代銀四郎の経営手腕は卓越し、学院経営は発展の一途を辿り大阪、京都に分校を設営するまでになった。作者のこの銀四郎という人物描写、創造が式子を初め他3人の女性の本質を引き出している。綺羅美やかな世界に憧れ自分を高みにし人生を謳歌するといった女性の本能を余すところなく描き切っている。式子はフランスの有名なデザイナーの型紙を購入するべく渡仏する。兆度パリに来ていた白石教授との逢瀬が彼女の魂を揺さぶり銀四郎との精算を決意し教授と結婚しようとするが、自らの命を絶つこととなった。