水曜日, 2月 28, 2024

笹沢佐保著「新・一茶捕物帳ー青い春の雨ー」、時代物でしかも有名人が出てくる探偵ものとなると読む前から期待が高まる。その有名人とは若き日の小林一茶であって、彼は深川伊勢崎町の源右衛門店通称お月見長屋の一間に弥次郎兵衛として住んでいた。弥次郎兵衛つまり一茶は錠回童心片山九十郎の知恵袋として事件解決に寄与する重要な存在である。長屋の隣に住む後家さんのおりんに思いを寄せる描写も面白い。
笹沢佐保著「絶望という道連れ」、共に殺人者として逃亡を続ける田宮史郎と金沢真由美、沖縄から鹿児島さらに東京と愛の逃避行を繰り返していた、すっかり開拓された真由美の肉体は田宮の想像を遥かに超えていた。暴力団を絡んだ恐喝事件の余波を喰らい巻き込まれた二人はそこで目にしたのは5人もの殺害であった、二人は逃避行を続けながら犯人を次々と特定していった。しかしそれは何処まで行っても絶望との道ずれ逃避行だった。絶対絶命の状態で追い詰められた男女の心の揺れを見事に結集させる著者の迫力ある描写に感激。
笹沢佐保著「断崖の愛人」、 大手の部類に入る中外軽金属の会社の係長を務める井ノ口一也は家庭での嫁姑間の対立に日々悩まされていた、彼の妻純子は策略を施し夫に愛人を持たせるべく画策した、何故か姑の春江が愛人という状況に毛嫌いしているのを知っているのが原因だった。彼の勤務する部署で部下の安城由布子との不倫間関係に遂に井ノ口は陥った。ある日春江は息子の一也に愛人がいることにきずき愛人由布子の住まうマンションに出かけ由布子と春江は対決した、結果春江はマンションの屋上から転落し死亡した。さらに沖縄へ出張した一也を追って来た由布子との逃避行の近くの岬の断崖から探偵が身を投げ死亡と家庭の不和から始まる件が殺人までに発展したミステリーのプロットとしては単純で結果もそれほど驚くべき結末とはいえないが、ここに至る道程、男女の心理の描写はさすがである。
笹沢佐保著「闇狩り人犯科帳」、 領国元町で営業する「春駒」そこの主人である小夜のもとに起居する源太剛毛の黒い髭を蓄え体が大きいわりに猫背で歩く近所の子供たちがウスノロの源太と囃し立てるほどの目立たない人柄であった。その源太が果敢に事件の下手人を取られる姿はまるで必殺仕事人のようである、次々の事件を解決してゆく痛快江戸活劇で読んでいてすっきりするようだ。
笹沢佐保著「少しだけの寄り道」、小山内千絵は、銀行員の夫を持つ平凡な主婦である、ある日新宿のデパートであった精悍なマスクの三十代の男性と接点を持ちその後深みに嵌り込んでいくことになる、つまり不倫であった。凡庸な性生活しか知らない主婦千絵が男性藤城三樹夫との逢瀬は激しく千絵は幾度もエクスタシを感じ眠っていた性感を掘り起こしてくれたのであった。まさに官能小説と言ってもいい小説である。
笹沢佐保著「愛人岬」、大手ハウス建材メーカーに勤務する水沼雄介は次長としていた、一方同じ社に勤務する古手川香織とは愛人関係にあった、二人で水沼の新車に乗り京都丹後半島に向かった先で殺人事件が起きた。濃密な官能表現と揺れる香織の心の描写は流石である。プロットは平凡で最終的な結末も今一ながら読者を飽きさせない工夫が至る所に潜んでいる。
笹沢佐保著「北町奉行定回り同心控」、 北町奉行同心暁蘭之介の活躍を描く五編の短編集である、それぞれ工夫を凝らした設定で脛に傷を持つ蘭之介の気性を描き素の顔は悪を絶対に許さないという心情とまた多面では優しさを持つ蘭之介の活躍を描く優れた短編集である。江戸の仕来りや風情を盛り込んだ傑作である。
笹沢佐保著「遅すぎた雨の火曜日」、 東京都下の四階建ての小田切病院の長男哲也を誘拐しようとした女、名前は花村理恵彼女の暗い過去は小田切病院の院長夫妻と強く結びついていた。病院を見渡せるマンションに越して来た理恵は哲也の誘拐に成功する。電話での脅迫を繰り返したが一向に効果はなくしまも誘拐した哲也に縛っていたテープを解かれ逆に理恵が囚われそうな状況になった、理恵とのセックスを通して仲良くなり二人で北軽井沢の別荘に居を移して二人の愛情を確かめ合った。そして二人の復讐への決意が徐々に固まっていった、運命とでもいえる邂逅を通して赤裸々に綴る愛情表現は著者の描写力を遺憾なく発揮する、ミステリーとしてのプロットはやや弱いもののこれはこれで満足である。
笹沢佐保著「殺意の雨宿り」、東北の遠野に旅行に出かけた奈良井律子は突然の豪雨に遭い、近くのプレハブ小屋に避難した、そこに次々と非難してきた三人の女性、ホテルで一緒になり話は交換殺人へと発展した。プロットの展開もいいし、伏線もミステリー伴うまた著者の持ち前のアイデアも盛り込み本格的と言われるミステリーに仕上がっている、但し結末はあっけなく終了した。
笹沢佐保著「狂恋 二人の小町」、江戸時代初期の悲恋、官能小説という著者の時代物の実力が遺憾なく発揮され、非常に面白い。江戸で八百屋のお七と財問問屋柏谷の小駒この二人何れも十七歳にして絶世の美人で小町と噂された。この二人が夫々姓に目覚め奔放なセックスに溺れていき、それを焚きつける極悪人でありお駒の相手の吉三郎に誑かせられ殺人に加担して極刑をうける、またお駒の母お葉が淫婦と呼ばれるほどの者であり材木問屋を切り盛りし殺人のまさに首謀者として吉三郎とともに刑場の露と消えた。
笹沢佐保著「人喰い」、花城由紀子は本多火薬銃砲店の社員である日銃砲店の社長の息子と失踪した、妹の佐紀子は銀行に勤めている。昇仙峡で見つかった死体は息子の昭一だけであった、この事実は佐紀子にとって非常に不味い状況になった。銀行の上司から退職を迫られた、三日間お休暇をとり彼女は自分で調査する旨を誓い乗り出した。紆余曲折があり、たどり着いた結論は正にミステリーのこれが王道だと言わんばかり結末だった。プロットといい巧で複雑な伏線を用意ししかも恋愛も絡ませる絶妙さには驚嘆すべきものがあlる。
笹沢佐保著「金曜日の女」、終日働きもしないで怠惰な生活を送っている青年波多野卓也は実業家であり世間でいう大物の長男である。次々と起こる殺人事件に親父が関与していると思われ調査に乗り出した、そこには想像を絶する深くて暗い闇が横たわっていた。大物実業家波多野理の会社の重役鬼頭の娘と知り合い遂に、二人で闇を探りながらの逃避行になった。幾つもの伏線と結果を予測できないミステリーまさに著者真骨頂の傑作であった。
笹沢佐保著「どんでん返し」、短編集である、6編を含む短編集でこれらの短編一つ一つが殺人に関与したウイットに富んでいて登場人物のつまり人間の思考というか状況次第で殺人も犯しかねない危険な心情をもっていると証明するような物語であった。
笹沢佐保著「愛人は優しく殺せ」、山林王といわれた小木曾善三、その一人息子高広と六本木のクラブでそこのママであるナミとも知り合いとなった春日は警察署捜査一課の刑事である。そして善三の秘書兼愛人である三人の秘書が次々と殺害された、高広に相談を受けた春日が捜査に乗り出した。著者の本作は今も古さ感じさせず、一流のプロットと読者を楽しませる伏線と相まって傑作となっている。
笹沢佐保著「花落ちる」、戦国時代信長に仕えた明智光秀の物語で、一つの視点は信長に対する反逆は光秀の何処から派生したのか、また光秀の人間像は?という視点である。著者の小説家としの伏線として名倉助四郎という架空の武士部下を置き、光秀の人物像を掘り下げえさらに麻衣という女性を配して助四郎との恋愛悲運を描くといった心憎い設定により物語をより一層深みを与え読者を喜ばしてくれている。