火曜日, 1月 03, 2017

エマニエル・トッド著「問題は英国ではない・・EUなのだ」フランスの有名な歴史学者でもあり人類学者でもあるトッド氏の来日に際しての論説集である。英国のEU離脱から、自国フランスは下より中国・日本・EU・英国と幅広い見識と歴史観は今日の各国の社会情勢を検討する際極めて重要な意見だ。日本については、地政学的にもロシアとの友好を最優先課題としアメリカに対しては世界の警察の立場を返上した今日本も相応に軍備を拡張すべきと。また中国は大学への進学率の問題、さらに国内のGDP40~50%がインフラ投資によるものであったり、13億を超える人口の超高齢化社会へ到来、様々な国内の歪を他国に押してけるナショナリズムの発揚といった意見は至極もっともだ。


池井戸潤著「ようこそ、わが家へ」青葉銀行から執行となりナカノ電子部品の経理部長として倉田太一は赴任する。ある日、混雑した電車に人を跳ね除け乗車して来た若い男に憤り捕まえ文句を言った。その名も知らぬ若い男からの執拗なストーカ行為と嫌がらせを次々と受ける倉田の家族であった。会社では、営業部長間瀬との確執そして不渡り手形を受け取るといった会社の存亡危機と小心者倉田の苦悩と日常で起こる小さなサスペン・サラリーマンの悲哀と相まって読み手を飽きさせないいつもの作者だった。


ジェフリー・ディーヴァーほか著「ショパンの手稿譜」ハロルド・ミドルトンなる米軍の勤務を終え調律師としてポーランドワルシャワを訪れて、ここから事件が始まる物語だ。十数人のミステリー作家によるリレー作品であるにも関わらず、マダンのない物語の軽快な展開には感動すら覚える。ショパンの手稿に秘められたVXガスの生成法を巡りテロリストとの激しい攻防が始まる。最後の最後まで息もつかせぬ展開に翻弄されミステリーエンタテインメントとして絶品だ。


宮下奈緒著「羊と鋼の森」主人公外村(とむら)は、山間の村に生まれピアノの調律専門学校に通い、調律師を目指し就職し様々な試練を通して成長して姿を描く、何故か清々しい物語だ。人生や仕事でも一生涯探求し情熱を持って生ける物を見つける大切さ、それは運でもあり宿命でもあるのだと思う。日々一生懸命考えそして悩み成長するそしてその人の心にある純真さが結局奏功する。


ダニエル・キイス著「アルジャーノンに花束を」主人公チャーリーは白痴として誕生しもちろん脳発達障害児でIQも60位として生活を続けた。ある時2人の心理学の博士が彼を実験台として実施した結果チャーリーは天才として再生した。数カ国語に通じ独自の研究成果として論文を発表するなど世界的に著名な学者となった。彼が32歳の時であった。そうこうするうちに、彼の頭脳は再び元のチャーリーへと逆戻りしてゆく。人間の人生とはIQでは語れない、幸福とは何かを改めて考えさせてくれる稀有な作品だ。


ジェフリー・ディーヴァー著「限界点」アメリカ政府機関の警護専門のプロ・コルティと殺し屋ラビングとのこれでもかという追跡・激闘をやはりこれでもかと描く本書はディヴアーの最新作だ。リンカーン・ライムやキャサリン・ダンスシリーズとは一味違った趣向がある。殺し屋との対峙での執拗な頭脳戦を余すところなく描く今回の「限界点」は、作者の新たな挑戦とも思える生への激しい執着が見える。今後の展開が楽しみだ。またディーヴァーと言えばローラコースター的落ちだが今回もちゃんと用意されたいる。


門田泰明著「奥傳 夢千鳥」浮世絵師宗次の住む八軒長屋の前に倒れた美貌の女・冬、ここから宗次の身に様々な苦難が降りかかる。尾張紀州の女賊くノ一集団との壮絶な戦いを陽進流奥傳夢千鳥の刃が乱舞する。纏えた文体とともに作者の時代サスペンスが読者を魅了してやまない。


ジェフリー・ディーヴァー著「ブラディ・リバー・ブルース」著者が脚光を浴びる前の作品ミステリーだ。ジョン・ペラムシリーズの第2作目の作品だと。映画のロケーション現場を担当するという役柄のペラムが殺人事件に遭遇し次第に犯人を追い詰めて行くといった。まさにかっこいい役柄だ。派手などんでん返しは無いものの、何故か気持ちをのほほんとさせる要素を絡め次第に現在の作者に近づき彷彿とさせるものを持っている作品だ。


山本周五郎著「五辦の椿」薬種問屋に暮らすおしの父親喜兵衛は労咳である。余命いくばくもない身ながら仕事に打ち込む姿をしのは目に焼き付ける。そんな日常の中、妻のおそのは遊び呆け淫らな生活を送っている。いよいよ喜兵衛の病状が悪化しその喜兵衛に懇願されおそのの暮らす長屋へとしかし喜兵衛の命は途中で尽きた。ここからしのの復讐の情念が燃え上がり、おその情交のあった男どもを次々と簪で胸を刺し貫いて殺害してゆく。この物語はしのの悪に対する復讐が焦点なのか?そこに潜む女の悲しい運命、そして一般世間の人々の普通の暮らしや感情がテーマなのか?作者の著作を読むのは始めてだが相当面白い。



東野圭吾著「手紙」東野圭吾著「手紙」、貧困家庭に育った二人の兄弟、兄剛志は弟の為に弟を大学に入学させる為に何としても金が欲しかった。そんな兄が強盗殺人事件を起こして刑務所に送られた。貧困と殺人者を兄に持つ弟直貴の人生その周りで起こる様々な苦難嫌がらせに耐えながら生きて行く。刑務所で暮らす兄からの手紙が最終的に兄弟を繋ぎとめた。何故か読者の気持ちを複雑にさせる読後感だ。