黒川博行著「果鋭」、
大阪府警の元刑事が監察により退職させられた刑事、伊達と堀内のコンビがヒマラヤ総業とかいう会社の競売屋になってパチンコ業界と暴力団相手に死闘するといった物語だ。語りは軽妙にしてユーモアもあり、かつパチンコ業界やら裏社会を徹底して調査した極めの細かな読者が感心する情報が次々と語られる。面白い。
東野圭吾著「ブルータスの心臓」、
大手MM重工に勤務する末永、彼は少年時代貧困と不遇の時を過ごし成長し自分で大学を卒業し現在の職についた。彼は職場の女性と付き合い深い関係にあった、だが彼女は大学時代に二度も堕胎するなど末永一人でなく複数と関係していた。彼女の妊娠を契機に関係持った三人が共謀して殺人計画を立案した。しかし結果は思わぬ方向に展開し仲間の室長が殺害された。さらに仲間の一人も青酸カリによって殺害される。警視庁の必死の捜査にも拘わらず進展は皆無で生きずまる。著者のプロットは素晴らしく読者を最後まで一気に頁を繰らせる力がある。しかし最後の犯人のどんでん返しには性急さが見られ残念だ。
黒川博行著「喧嘩」、
例によって建設コンサルの二宮と極道二蝶会の桑原とのコンビが繰り広げる脅し、強請り、恐喝と枚挙に暇がないそんな物語を著者は軽妙にしてどこか憎めない二人の絶妙な間合いを存分に楽しませてくれる。今回は、大阪府議、国会議員、暴力団との争いの真っただ中で巧みに生きる二人の知恵が何とも言えぬ味を出している。
アガサ・クリスティー著「青列車の秘密」、
青列車とは、イギリスからフランスへ向けて走るブルートレインの事である。ある列車で若い人妻が殺害される。その列車には名探偵ポアロも乗車していた。警察は夫を犯人として検挙する。事件の真相解明はある富豪からポアロに託された。ロンドン、パリ、リヨンを舞台にロマンスを散り嵌め物語は展開し意外とも思える犯人像をポアロが特定する。小さなどんでん返しとも言うべきクリスティーの初期の傑作だ。
ウイリアム・アイリッシュ著「幻の女」、
60年以上も前に上梓されたミステリーの古典的名著と称される作品だ。妻を殺害したとして刑執行を間地かに控えた殺人者・主人公ヘンダースンは友人のロンバードに唯一自分のアリバイを証明できる女を探してくれと頼む。依頼を承諾したロンバードは様々な手段でもって探すが手掛かりは何一つなく迷走する。主人公を除いては友人ロンバードと判事の動静を記述し読者すっかり騙されてしまう。最後に待ち受けるのはどんでん返しとなるプロットがこの時代に既に名著として存在していたとは感慨深く驚きだ。
黒川博行著「落英 下」、
和歌山県警で専従捜査班に組み入れられた桐尾と上坂刑事は県警の満井と一緒に捜査に当たる。銀行関係二人の射殺事件を執拗に捜査する彼らは徐々に核心へと迫る。建設ゼネコン、マリコンとヤクザの狭間で暗躍する談合屋巨額の金が闇を舞う。遂に裏で糸を引く人物を特定し背後にいるヤクザとの闘いとなる。ヤクザを脅し談合屋から金を毟り取る。綿密なプロットと裏社会の詳細な取材がリアリティーを伴って読者を離さない。
黒川博行著「落英 上」、
大阪府警薬物対策課の刑事二人桐尾と上坂コンビによる薬物・麻薬捜査を捜査ガサ入れ中にチャカ拳銃を発見する。しかもその拳銃は和歌山で銀行福頭取が射殺された時に使用されたトカレフM54と断定された。桐尾と上坂は遂に和歌山県警の定年前の刑事と専従班として職務にあたることになった。例によって裏社会のそのスジを描く筆者の描写は本物で府警コンビも相変わらず面白い、多少の冗長性を感ずるが下巻が楽しみだ。
ジャック・ヒギンズ著「鷲は舞い降りた」、
第二次世界大戦中にヒットラー配下のドイツ落下傘部隊が、イギリスのチャーチル首相を拉致するといった壮大な計画の下に海辺の霧深い田舎の村に降下し作戦を実行するといった物語である。作戦を実行する側の軍内部の抗争と冷徹な軍内部の階級闘争、さらに地元の村に先んじて乗り込む男が地元民との軋轢、そして地元娘との恋愛と様々な事象が発生し混沌とした状況に陥る。作戦実行を暴露されたドイツ軍はほぼ全滅の憂き目に会う。後半はその緊迫した状況が読者を最終頁まで繰らせる迫力十分だ。
山本一力著「だいこん」、
大工安治の元に生を受けたつばきは、幼い頃から酒好きで博打好きな父親の借金だらけの赤貧の家庭で育った。ヤクザの伸介の取り立てさらに食うものにも困窮するどん底の生活を家族5人で耐え忍んだ。そんな中母親みのぶが蕎麦屋に奉公することになり、母親の立ち振る舞いを実際に見たつばきは将来の自分の姿を科さねる。細腕繁盛記でもある本書は江戸庶民の人情ふれあいの中に人間の生とは何か?生きるとは?読者に問いかける。忘れかけた日本人の心をもう一度原点に立ち換えさせてくれるそんな物語である。
黒川博行著「八号古墳に消えて」、
考古学会を舞台に暗部を詳細なデータ収集を元に物語のプロットを設定する。殺人事件の連鎖の中で追う大阪府警に黒マメコンビ二人の刑事の活躍が本書でも如何なく発揮され面白い。大阪弁の何とも言えない二人の刑事の会話に思わず苦笑する。常に物語の背景の綿密な調査データの正確さを著者の書から感銘を受け面白さを実感する。