日曜日, 2月 26, 2023

東野圭吾著「悪意」、著名な売れっ子作家が殺害された、その犯人を見破ったのは加賀恭一郎刑事だった、彼は数年前まで犯人と同じ中学校で教鞭をとっていた。犯人が既に分かっていてその動機を探すというのが本書の主眼である。話は中学校時代まで遡り犯人の行動性格情動まで明らかにしようとする加賀の捜査は人間の持っている何でもな悪意の正体を見つけ出す為だった。癌に犯され長くない人生を前に犯人野々口がとった行動は過去の柵を断ち切り嫉妬に狂いその全てを被害者一人に向ける直向きな殺意だった。
アーナルデュル・インドリダソン著「緑衣の女」、アイスランドはレイキャビク近郊で発生した土中に埋もれた白骨死体2体を巡り捜査が開始された。白骨死体は60から70年前のものと判明した、物語はその時代のある家族を描いていく。夫婦2人と3人の子供の家族の悲惨な、極貧でしかも夫はdvつまりドメスティックバイオレンスという最悪の家族の歴史を詳細に描写する、そんな家庭環境の中で育つ子供達の行先は?悲惨な家族から起こる殺人事件、殺人の背景を丁寧に描写していく。
デニス・ルヘイン著「夜に生きる 下」、遂にジョーはフロリダのタンパ地区を牛耳るギャングのボスとなった。ラム酒密造は莫大な利益を齎しグラシエラとの生活も順風満帆に過ぎていた。刑務所で知り合ったジョーのボスであるマソと遂に一戦を交えることになりマソとその仲間を死の闇へと葬った。ジョーと妻グラシエラはその後キューバ片田舎に住居を持ち地元民とともに煙草を栽培し地域に貢献して生活していて、トマスジョーの幼い息子も元気にしていた、そんな折に妻グラシエラに賞が貰えるということで家族三人でタンパに向かったが途中で妻グラシエラ銃弾を浴びて絶命した。破天荒な主人公のジョー・コグリンの生き様を通して人生の意味御探るミステリーだった。
デニス・ルヘイン著「夜に生きる 上」、米国はボストンのギャングの部下のジョーはボスの愛人エマに魅了され深い中になったが、銀行強盗に及んで捕縛されたが父が軽視正であることから5年の刑期でシャバに出てこられた。刑務所で服役中知り合ったマソという老人はやはり闇のボスだった、服役したジョーをマソは命令を与えられ禁酒法時代にラムを醸造し販路を広げ地域の頂点を目指すべく地元のギャングと手を組み、アメリカ海軍の船から爆薬を掠め取る作戦を実行しようとした。
高田郁著「あきない世傳 金と銀 十三」、江戸は田原町三丁目にある五十鈴屋江戸本店の店主幸は屋敷売り專門の新店を出すべく菊英と一緒に場所探しをしていた、そんな折り知り合いの菊次郎から朗報が漏らされ間口十間と広いが菊英と店を半分づつ分けることにして売買を成立させた。しかし新店舗を開店してから二ヶ月後その家屋敷は二重売買だと判明しまたもや幸の前に苦難が発生した。さらにその後近隣に火災があり浅草太物仲間の店や寄合所が焼けるなど甚大な被害を被り店が並ぶ界隈は暗く客もなく息詰まって何から手をつけたら良いのか途方に暮れる毎日だった。幸は店の蓄え百両を寄合所再建に為に差し出し再建を果たし知恵を出し会話を活気ある通りにすべく幕や昇りさらに店の配置図を一目で確認できる双六として客に提供して喜ばれた。時を同じく音羽屋が大番屋に引きたてられ闕所となり幸の妹、結とともに江戸を去った。著者の考えだす様々な事件、その渦中でも決して自分を見失わず凛とした体で皆に接するその姿こそ人間として生きかたを教えてくれる。
ロジャー・ホッブス著「時限紙幣」、ラスベガスで麻薬常習者の母から世に出た子供は里親に引き取られその後銀行強盗を繰り返す犯罪者となった。名前も明かさず犯罪後は一人静かにギリシャの古典の翻訳に時間を費やす孤独な犯罪者で世間ではゴーストとして犯罪者仲間に知られるようになった。過去と現在を描写して銀行強盗の手口から成就するまでの詳細な描写はまさに度肝を抜く、一人称つまりゴーストによって語れる本書は犯罪小説の原点だ。
ダニエル・フリードマン著「もう年はとれない」、米国はメンフィスでも数十年も前に引退した矍鑠とした元刑事バック・シャツに絡む殺人事件の物語である。第二次世界大戦の折りユダヤ人であるバック・シャツが強制収容所で虐待を受けた、その名はハインリヒ・ジーグラーが生存していて米国にいるという情報を得た彼はナチの金塊を奪って去ったその人だった。孫のビリー通商テキーラはITの知識があり老人とのコンビは最強だ。漸くジーグラーの老人ホームを見つけまんまと金塊を奪ったが、そこにジェニングズ刑事の犯罪計画の二人は餌食となった。そして最終的に怪我をしたバックが療養している病院で殺害されそうになったバックが最後の抵抗はマグナム357でジェニングズを殺害するというオチで愛でたくおわりとなった。
ケイト・モートン著「秘密 下」、ローレルは大学で研究を続けているジェリー末弟と連絡を取り、二人で共同で真相を突き止める決心をした。様々な人間模様を独自の視点で深く掘り下げるその眼には圧倒される。また戦時下のロンドン、郊外の牧歌的情景と眼に見えるような描写に慨嘆する。そしてローレルが母の死後認識した事実それは母ドロシーは実はヴィヴィアンだったという衝撃的事実だった。どんでん返しも見事に決まり結末を見た。プロットといい伏線はたまた描写力そして人間に対する深い意洞察まさにミステリーの基本だ。
ケイト・モートン著「秘密 上」、1940,1960そして2011年の現在を交互に描写していく語り手法で展開してゆく物語はミステリアスであり、興味はに憑かれてページを繰る手がとまらない。母と父そして4人の兄弟姉妹の長女ローレンスは今では女優となり2011年現在老齢な母を病院に見舞いに来ていた、そしてローレンスが胸のうちにある疑問と秘密それは16歳だった頃見た母が訪ねてきた男性をナイフで刺して死亡させたことだった。そして年を重ねても当時の情景が浮かびローレンスはその理由と原因を突き止める決断をしたと同時に母の結婚前の情報も取得すべく決意を新たにするのだった。
竹吉優輔著「襲名犯」、漸く安堵を取り戻した市民が第二のブージャムに遭遇、警察署律子、図書館の兄を殺害された仁そして二人の幼馴染霜野三人は第二の犯人について検討調査する。図書館を取り巻く環境やら警察やらと冗長性は否めないが最後のどんでん返し的結末は見事なまでに収斂し結末を見た。本作品は江戸川乱歩賞受賞作品である、改めて乱歩賞受賞作品は楽しめると思う。栄馬市で発生した連続殺傷事件、首謀者をブージャムと呼ばれ恐怖とともに恐れられた。そして無事犯人が逮捕され死刑台の露となって消えた。
高野史緒著「カラマーゾフの妹」、ドストエフスキーの原著「カラマーゾフの兄弟」の続編を書くという極めて大胆な発想で、しかも江戸川乱歩賞受賞した作品である。13年前父フョードルの殺害事件の見直し再検証をするというイワンは墓を掘り起こし検証を行った頭蓋骨の陥没痕から狂喜は杵だと判明した。腹違いの弟スメルジャコワの証言により殺害されたのはドミートリとして確定して長兄はシベリアへ流刑となり事故でその後に死亡した。イワン特別捜査官として再検証する中であらゆる関連を調査したにも拘わらず真犯人を特定するには至らなかった。その後図らずも父親が一番愛していたアレクセイ・アリョーシャの独白で自分がやったと証言した。18世紀のロシアでのロケットというSFじみた発想といい楽しく読ませてもらった。
川瀬七緒著「よろずのことに気をつけよ」、佐倉真由の祖父が殺害されたその殺害は肉を刻み舌を切断し内蔵はめちゃくちゃという酷さだった、殺害現場つまり祖父宅に残された呪術府・札に記されていた呪文を基に真由は文化人類学者の中澤に辿り着き二人して真由の祖父の殺害の捜査をすることになった。呪術つまり呪いは古くからあり地方では様々な古代の神を祭っている、滔々辿り着いたのは福島の田舎だった、そこに殺害された祖父の過失の過去があった、少し冗長性は否めないが、最後まで頁を繰る力はさすが、江戸川乱歩賞受賞作品だけある。
斎藤詠一著「到達不能極」、江戸川乱歩賞受賞作品は、非常に面白い様々なシチエーションやプロットが目白押しでどれも秀逸である。今回の物語は南極を舞台に科学的見地から情報戦さらに戦後の混乱の中で繰り広げられる人間模様と多彩だ。
川澄浩平著「探偵は友人ではない」、札幌にある中学校の生徒達が繰り広げる物語で、ミステリーとは言えなくもない、ソフトミステリーだ。謎を解決すべく語りかけ役が海砂真史で難問を解決するのが鳥飼歩だ。歩は無類の甘党でケーキを簡単に4個も食べるくらいだ。二人の微妙な関係その感じでていて描写力に感心させられる。
遠藤武文著「プリズン・トリック」、 選評でも指摘している通り中盤の展開は、無理があり視点が様々に移り変わり読者を困惑させるプロット的には考え抜かれていて最後のどんでん返し的結末も非常に面白い、江戸川乱歩賞受賞作品だ。交通刑務所という異常な場所での殺人事件から出発する本作品は卓越したミステリーとしている。そして社会的問題にも踏み込み、さらに憲法三十九条にもふれる気合のこもった作品である。