金曜日, 7月 30, 2021

米澤穂信著「ボトルネック」,ある日、死んだ彼女に花を手向けに東尋坊に出掛けたリョウは、崖から転落したが無事に金沢に戻っていた。ここから記憶喪失となり今現在いる自分の世界と過去の世界の境界が曖昧になり自己喪失となった。二つの異世界をスライドしながら、一つ一つを確認しながら生きていこうとする。不思議なミステリー小説だ。
アガサ・クリスティー著「死との約束」,アメリカ人家族、裕福なボイトン家の主は女性で絶対君主的な立ち位置で家族を思い通りに支配してきていた。そんな家族が家長の意見で中東はエルサレムに旅行に行くことになった。その旅行中女主人は殺害された。そこに居合わせたのは名探偵ポアロだった。彼の灰色の脳細胞が縦横無尽に活躍して事件を解決へ導く。前半はボイトン家の詳述だが、ちゃんと伏線を張り事件の動機作りをしていて読後読者がそうだったかと思うような、見事な記述だ。
松本清張著「聖獣配列 下」,夜明け前の米国大統領と日本の磯部総理との秘密会談、迎賓館で偶然撮った写真をシュルツとの交渉の最後の切り札として大事に保管、それは骨壺の中であったり銀行の貸金の中であった。しかし徐々に嵌められたと気づき始めた可南子は急遽150万ドルの資金を回収にスイスに飛んだ。V・クンケル銀行の応接室で割り当てられたナンバーが口から出なかった。女性を主人公に据え、心理描写といい伏線プロットといい清張の真骨頂がここにある。
アガサ・クリスティー著「ゼロ時間へ」,海岸沿いの崖の上に建つ館、そこの富豪の女主人トレリシアンその館に三々後後集まった人々、そこで殺人事件が発生する。スコットランドヤードの警視バトルとリーチ警部が乗り込む、捜査は何度も裏切られ中々真犯人に到達できない。最後にどんでん返しが待っている。多数の伏線を用意しプロットは単純だが良く練られたトリック、名探偵ポアロが登場しないが面白い。
松本清張著「聖獣配列 上」,銀座のバーのマダム中上可南子は、数年前米国銀員と二夜を共にした経験がある、今回その議員バートンは米国大統領となっていた。日本の議員の仲介で再度バートンを一夜の閨を共にした可南子は迎賓館で偶々廊下を数人で歩く人たちを写真に収めた。これが日米首脳の秘密会談だと後から知ったが、フィルムの空き函をホテルの部屋の屑入れに捨てたのを気付かなかったことが、可南子の身に次々と起こる災厄、彼女は決心してこの秘密のネガを建てに大統領の側近を強請りに掛けた。そしてロンドンで150万ドルで合意し側近夫妻と共にスイスベルンに向かい無事前渡し金50万ドルをスイスの個人銀行に預金した。
アガサ・クリスティー著「スタイルズ荘の怪事件」,富豪な老婦人が毒殺された。旧友を訪ねたヘイスティングスが偶々居合わせ、近くに旅行で宿泊している顔見知りのポアロに事件を依頼する。登場人物の人間関係の歪みと遺産相続に纏わる根拠をこれでもかと伏線を張り物語は終局へと向かう。ポアロの灰色の頭脳が炸裂し事件は解決へ。1935年の作品でクリスティー執筆の最初の長編ミステリーだという記念すべき作品だという。しかし私はクイーンの作品と比べてしまう。一貫した論理性と面白さはやはりエラリー・クイーンの方が数段上だ。
エラリー・クイーン著「エジプト十字架の秘密」,20世紀初期のこの作品を読んで感動することしきりだ。プロットといい、トリックさらには細かにして多数の伏線と本格と言われる推理小説の全てを網羅している。殺人の被害者が磔にされ首を落とされる衝撃、兄弟愛と破綻、生国での犯罪による米国への逃亡そして事業が当たり裕福になった長兄と次兄但し末弟だけは相変わらずの貧乏である。殺人トリックそしてエラリーの頭脳との勝負はまさに衝撃だ。
倉知淳著「星降り山荘の殺人」,長編ミステリーの部類に入るこの書は、読みやすく結末は今一の感があるが傑作だ。エンタメ会社で課長補佐を殴った杉下は部署替えを指示されある日星に関する蘊蓄でエンタテイナーの星園詩郎のお供で秩父山中のコテージに行くことになった。そこには売れっ子の女流作家と秘書さらにUFO研究家そして企画した岩岸社長とその部下という面々であった。そしてある朝発見されたのは岩岸社長の遺体である。次の日その部下も殺害された。伏線プロットといいまあまあだがいい感じだ。
東野圭吾著「マスカレード・ホテル」,東京での連続殺人事件が3件発生した。夫々の現場に残された2つの数字が書き込まれた紙片、その意味は次回の殺害現場の緯度と経度だった。そして第四の事件の想定場所がホテルコルテシア東京だった。山岸尚美の勤めるホテルに捜査員が一斉に潜伏し見張っていた。警視庁の新田刑事がフロントクラとして尚美と一緒にフロント業務を担当することになった。終盤捜査は連続殺人事件と思えた殺人事件は個々別々の事件と解ったそして尚美は犯人に部屋で監禁された。長編ミステリーだが、少し冗長性が気になる。
島田荘司著「写楽 閉じた国の幻 下」,その後の佐藤貞三の写楽研究は一向に捗らず遅々として方向を見失いつつあった。写楽は誰だったのか?あの筆使いと臨場感蔦屋重三郎が必死い隠ぺいしている絵師とは?破格の待遇で出版黒雲英刷りの豪華本、蔦屋は既に死期を悟っていて最後の賭けに出たのではないか。そこで思いついたのが長崎出島で東インド会社の商館長一行の江戸参府であった。一行3人の内の一人ラスという若者オランダとインドネシアの混血児に行き当たる。非常に面白く読んだ。