金曜日, 4月 29, 2022

アン・クリーヴス著「大鴉の啼く冬」、英国の北海に佇むシェトランド島、そこで発生した女子高校生殺人事件、そして8年前にも少女が殺害されていた。地元警察署の警部ぺレスとインヴァネスから出向した警部と共に捜査に当たる。辺鄙な島の住民や気候風土が混ざ合わさり雪と氷が張り詰めた荒涼とした世界を巧み描きミステリーに赴きを与えている。幾つもの伏線を用意してプロット或いはロジックはクールに展開され一気読みの感がある。
D・M・ディヴァイン著「悪魔はすぐそこに」、本書は、大学ミステリーとも呼ぶべき英国は地方都市のハードゲート大学での様々な人間模様とそれらの人々の業と欲を根底に人間を描きミステリーとして様々な伏線を用意して殺人事件ミステリーとして纏められている。古典的な本格ミステリーと呼称すべき名著である。
綾辻行人著「どんどん橋、落ちた」、本書は、短編集である中編に近い作品もあり、なかでも「伊園家の崩壊」という中編は密室殺人を扱ったテーマで少々込み入った内容である。著者が作中出てくる物語である、事は知り合いの恋愛小説の先輩から連絡された燐家の殺人について本格ミステリー作家を標榜する綾辻に一考願うという依頼だった。ある日伊園家の妻女が二階の和室で殺害されその時点では他殺と見なされたが、捜査の結果は密使状態だったことが判明した。さて問題提起した先輩から解決を望まれた綾辻の解答は実に見事なものだった。
アンソニー・ホロヴィッツ著「ヨルガオ殺人事件 下」、本書は二度楽しめる稀有な作品で、傑作といっていいい。つまり遠大な伏線を絡めて殺人事件解決のヒントを与えてくれるという近年の作家ではジェフリー・ディーヴァーと同様感動したといってしまうほど素晴らしい。アンソニー・ホロヴィッツ恐るべし作家だ。まだ正月だが、既に今年読んだあるいは読むことになるミステリーベスト3になることは必死だ。
アンソニー・ホロヴィッツ著「ヨルガオ殺人事件 上」、ギリシャのクレタ島に住むスーザンは、英国の知り合いでホテルを経営している主人から力を貸してほしいと依頼されクレタ島から英国のそのホテルに到着、依頼内容は依頼人の二人の姉妹で妹のセシリーが突然姿を消した、さらにその出来事は依然出版社の編集者だった彼女の手がけたミステリー小説の内容にヒントがあるとのことだった。 スーザンは関係する多数の人物と合い話を聞き、ある程度犯人を特定できる段階まで来ていたが?
坂本光一著「白色の残像」、ある意味で、本書は乱歩賞受賞作品ではあるが青春小説ともいえる。高校野球を舞台とした高校生の必死な青春と孤独を中心に甲子園大会に絡み群がる野球賭博とヤクザ、野球から奇しくも挫折し去っていった人々の思いが入交る。甲子園大会出場を果たし今はスポーツ紙に記者となっている中山の眼を通して大会の裏側と球友の殺人事件について調査解明していく姿に感銘を覚える。
西澤保彦著「神のロジック」、御子神衛11歳はアメリカ南部と思われる荒野に佇むY字型の校舎それも全寮制の建物の中で勉強していた。その校舎の周りには沼がありワニが無数に住んでいた、従って逃げ出す事は不可能だった。博士と寮長それに料理賄のミズ・コットンこの3人が管理する特殊な学校で特殊な授業を受ける。そして生徒達が次々と殺害される連続殺人事件が発生する、原因を特定できない不可思議な殺人、共同体での幻想を抱いた彼らに一体何が起こったのか?結末は傑作と言えるほどどんでん返しだった。
ホーカン・ネッセル著「悪意」、短編集である。 第一話トム 二十二年前に逃走した息子からある日電話があった。ユーディットは老いた夫と二人暮らしだ夫は深刻な病を患い余命幾許も無い状態だった。二十二年前養子の息子に彼女はレイプされそうになり手近の包丁で息子を刺し夫に森の中に埋めて貰うよう依頼した。その息子トムが生きていた。そして彼女の夫は連絡した自分の息子と谷底に車ごと転落して撃破して二人とも死亡した。しかし息子と言った男は偽物だった。そして本当の息子から電話があった。 第二話 レイン ある作家の死 翻訳家のダーヴィッドは、著名な作家レインの遺書の原稿を翻訳すべくAという町に滞在し仕事を続けていた。彼の妻エヴァは3年前に失踪したまま不明で妻が立ち寄りそうな町Aを選択して懸命に妻を捜し続けていた。そして遂に妻を発見したが、そっけないものだった。人生とは角もあっけなく孤独を誘うものなのか。 第三話 親愛なるアグネスへ 幼馴染の二人の女性一人はヘニーで一人はアグネス、仲良し二人は文通をしていた。ある文書の中にヘニーからアグネスに夫が不倫をしていて死ぬほど悔しいと呟き、そして殺人計画を持ち出した勿論アグネスへの殺人依頼、対価は10マンユーロそして何度も手紙を交換しヘニーの夫ダーヴィッドの出張に合わせた殺人計画を思いつき実行する段になった。しかしダーヴィッドの不倫相手は実は殺人を依頼されたアグネスだった。彼女は窮地に、女性の執念を捉えた傑作だ。 第四話 サマリアのタンポポ 高校卒業時開かれたパーティーでヘンリーはヴェラと一夜を共にした、朝起きてみるとヴェラは既に去っていた。しかしその後ヴェラが失踪したことを知った。30年後友人の別荘で起きた事はヴェラの連絡だった、そして最終的に解った事とはある教団の牧師であるヴェラの父親は、パーティーから帰った娘の行動を非難してヴェラを殺害して地方に埋設したという事実だった。
染井為人著「悪い夏」、郊外の町のケースワーカーが、生活困窮者つまり生活保護を受けている人たちを見回り状況を確認しながら、支援を打ち切り就労させるべく説得をする。生活保護を受けているのをヤクザが取り囲み上前を撥ねかつMDMAエクスタシーを売り捌き売人として生活保護者を扱き使う。ヤクザにまんまと騙され落ちていくケースワーカー人生の悲劇であり俯瞰すれば喜劇ともなると作者は言う。人間の性、腐臭と退廃、欲望と憧憬小さな希望そして天国と地獄正に喜劇だ。郊外の町のケースワーカーが、生活困窮者つまり生活保護を受けている人たちを見回り状況を確認しながら、支援を打ち切り就労させるべく説得をする。生活保護を受けているのをヤクザが取り囲み上前を撥ねかつMDMAエクスタシーを売り捌き売人として生活保護者を扱き使う。ヤクザにまんまと騙され落ちていくケースワーカー人生の悲劇であり俯瞰すれば喜劇ともなると作者は言う。人間の性、腐臭と退廃、欲望と憧憬小さな希望そして天国と地獄正に喜劇だ。
ロバート・ベイリー著「ラスト・トライアル」、リーガルサスペンで物ある。川岸に浮かんだ男の死体を回り、遂に老弁護士でありロースクールの教授でもあるトム・マクマートリーが乗り出す。シリーズ四部作の内の三作目だそうである。シリーズで最初に読破したのが三作目であった。裁判での丁々発止の臨場感あるやりとり、老いた弁護人トムは既に肺がんに犯され余命も宣告されていた。人生の喜雨そして絶望と希望が本書の根底にありまた最後のどんでん返しは見事だ。
宮部みゆき著「火車」、生まれ育った環境、貧乏という経済的な負荷それは人生を狂わせ生きる道を誤らせる。東遠から依頼された休職中の本間刑事は人探しをすることになった関根彰子という婚約までして失踪したとされる女性だった。捜査を開始してから彼女の破産経験母娘でそだった環境を見つめそしてクレカという重宝な手段を利用して破産していく過程を具に感じ、人間の欲求は際限なくそして墓穴を掘ってゆく。
宮部みゆき著「荒神」何とも楽しい小説なのかSFミステリーの時代版といったところか、時は元禄東北は福島あたりを想定して物語は進む。この地に小藩二藩があり、互いにいがみ合い境界を設け越境者を厳罰に処すというものだ。この藩に弾正という御側衆を束ねる男とその妹朱音この二人を中心に、その二人の生い立ちそこから生み出す怨念を具現化したつちがみさまという怪物、翻弄される領民、人間が持つ強欲と性を見事に描いてさらに物語は楽しい限りだ。
東野圭吾著「真夏の方程式」、玻璃が浦という風光明媚な海に面した田舎町に海底鉱床探査で依頼を受けた物理学者の湯川が緑岩荘という旅館に泊まっていた。もう一人塚原という刑事を退職した男性も宿泊していたが、ある日海岸の岩場で死体なって発見された。湯川の機転により宿の夫婦が怪しいと判断を付けて警視庁の親友草薙に調査を依頼した。様々伏線を設けて最後のどんでん返しはは見事しか言いようのない傑作に仕上がっている。
ジェフリー・ディーヴァー著「ネヴァー・ゲーム」、リンカーン・ライムシリーズさらにキャサリン・ダンスに次ぐ第三弾はコルター・ショウ主人公は懸賞金ハンターと呼称される米国中を走り回り事件を解決そんな男が、引き受けた案件は少女の失踪あるいは拉致で少女を救い出すことだった。ショウが捜査を開始し辿り着いた先にはゲームが絡んでいた。ゲーム業界、それにゲーマーその闇に切り込むゲーム業界の深奥はやはり人間の剛欲だった。連続した事件を設定し複雑に絡み合う伏線を辿るミステリーの王道を行く正にディーヴァーの真骨頂ともいいうべき傑作だ。だが、今回のどんでん返しは少し物足りない。
エラリー・クイーン著「十日間の不思議」、今年読んだミステリーの中で間違いなくベストワンだと思う。ミステリー小説を超越してミステリー文学つまり融合だ。クイーンの作品全て愛すべき著作で古典的ミステリーの範疇だが今読んでもその魅力は果てしなく面白いと実感させてくれる。友人から引き受けクイーンは単身ライツビルへと赴きそこで不倫の片棒担ぎを否応なく負わされそれが引き金となり殺人事件が発生する。巧妙に仕組まれた殺人だった。最後のどんでん返しはジェフリー・ディーヴァーもびっくりの代物だ。