金曜日, 8月 30, 2019

京極夏彦著「鬼談」、怪談の短編集である。人間の根源的な生、その中に潜む恐怖と何でもない日常との交錯する人間の心これらの対比が鮮明に描かれている印象だ。鬼をテーマにしているが、その鬼なる物こそ人間の内に秘めた欲ではないのか?日常のふとした風景、生活、人との交わりの中に潜むある種の不可思議な恐怖これが鬼である。
司馬遼太郎著「空海の風景 下」、遣唐使として波風に翻弄されながら唐に漸く辿り着いた空海一行はさらに長安の都へと、そこで果たして空海が見た光景は想像を絶するものだったに違いない。異域から長安の都に、しかし空海は信念を持って密教の世界を金剛界と胎蔵界という密教の深奥を極めるべく天才ぶりを発揮し恵果という僧の元で教えを受け密教の全体像を把握し論理を体系化し即身成仏の思想に僅か二年の間に会得する。空海の天才ぶりは破天荒だった。帰国後の空海は嵯峨天皇の庇護の元で一方先に帰国し同じく庇護を受けた最澄との確執を経て高野山に一大伽藍を建立する。空海の想念の先に何時も長安の都があり、密教を日本人として初めて思想体系を構築した偉大な生涯に思い馳せる著者の渾身の作だ。
山崎豊子著「女の勲章 上」、大阪船場の嬢はんとして苦労もなく育てられた式子は父母の死後、大阪で服飾学院を開業した。東京の名門大学での銀四郎をマネージャーとして迎え経営に乗り出した。大庭式子はデザイナーとしての有名になる野望を胸に秘め、また銀四郎は式子を利用しながら経営を拡大し金儲けを企む野望を裡に持つ男だった。この両輪を上手く動作させ次々と学院経営を発展させまた式子は益々デザイナーとしての地位を確実に築いていくのだった。式子を初め主だった女性スタッフとの情交を武器にしたたかに生きる銀四郎の行動も読者の眼を射るような著者の生き生きとした文体が効果的だ。
ローレンス・ブロック著「殺し屋」、ニューヨーカーであるケラーという名のヒットマンつまり殺し屋の生き様を描いた作品だ。殺人仲介屋から依頼を受け一週間ほど掛け米国全土を縦横無尽に移動しケラーの最も得意な自然死に近い形で殺しを実行して報酬を受ける生活がケラーのものだ。人間の死はこんなにも簡単で殺人者ケラーはその殺人を虱ほどにも感ぜず生きているその様が対照的で面白い。
田牧大和著「鯖猫長屋 二」、猫が一番偉い大将と呼ばれている貧乏長屋を鯖猫長屋と呼ぶ。猫の絵描の拾楽とサバ公、となりおてる長屋を差配しているしっかり者だ。他におはまこれは拾楽に思い入れている。蓑吉、勘八ら貧乏長屋の連中が引き起こす様々な事件を拾楽とサバが解決する人情長屋物語は絶好調だ。
司馬遼太郎著「空海の風景 上」、四国香川で佐伯氏族の系列から生を受けた空海が、遣唐使として長安の都に着いたところまでがこの巻の上である。若くして才能を発揮した空海の僧ととしてより宇宙を束ねる思想に思いを馳せる哲学者の様相である。私度僧として各地を放浪し山を崖を下り瞑想し鍛錬を重ね思想を進化させてゆく空海の生き様を著者は巧みにに著している。
山崎豊子著「白い巨塔 五」、控訴審、第二審が開かれ婦長の証言や近畿癌センターに飛ばされた里見助教の証言さらに適格な鑑定人の選択と証言を得て、控訴側つまり原告勝利となり財前側の敗訴が決定した。あらゆる政治的手腕を駆使し絶頂期の財前五郎だったが、疲労の為倒れさらに診断の結果深刻な胃癌と判明余命幾ばくも無い財前の脳裏に去来するものは果たして何だったのか?つくづくと人生を考えさせられ一抹の寂寥を感ずる名著だった。
森博嗣著「すべてがFになる」、孤島妃真加島のIT研究所で殺人事件が発生、大学生のキャンプに参加していた西之園萌絵と大学教授の犀川は共同して事件解決に向け探索を続ける。そこにはレッド・マジックと呼称されるブラウザをUNIX上で動作するソフトを開発する天才博士真賀田四季女子の存在があった。彼女は既に15年も外出していないという。真賀田博士の人間関係からくる殺人を遂に捉えた。SF的ミステリーだがプロットに少し無理があると思うしすこし冗長性が否めない。
山崎豊子著「白い巨塔 四」、第一審の裁判を勝利した財前だったが、学術会員選挙の候補者として財前の名前があがり鵜飼医学部長から正式に候補者として擁立する旨の判断が下った。選挙戦は過熱し、医師から医局、系列大学及び病院、同窓会などから抜粋した名簿を虱潰しに当たるというどぶ板選挙選となりつつあった。多忙を極める財前であったが、控訴審が開かれ証人尋問まで裁判が進行する中で佐々木康平の教授回診時病棟婦長である亀山君子は財前の不適切な発言を証言しようと承認台に起つことを決めた。
山崎豊子著「白い巨塔 三」、国際外科学会への招聘を受け発表論文など資料作成に忙殺されている時、佐々木康平という患者の診断を助教授から依頼され診断した結果胃噴門部に癌を発見し出発前に手術を行った。その後の経緯については若き担当医に指示し患者との対面も無いまま飛び立った。学会を終え帰国してみると患者は癌性肋膜炎を発症し死亡していた。遺族は財前五郎を提訴し裁判が開始された。幾多の承認及び鑑定人が証言台に起ち原告、被告の尋問も過ぎて判決は患者側には無常にも財前の勝利に終わった。
山崎豊子著「白い巨塔 二」、浪速大学医学部教授選を勝ち抜き晴れて正式に教授となった財前五郎は、持ち前の教授らしからぬ尊大さで業務を熟しながら過ごす日々だった。教授就任後の歓迎会やらで多忙を極め、さらに国際外科学会での招聘を受けドイツに1か月半もの長きに渡り行くという、就任後1か月半での異例の許可であった。新任教授を取り巻く教授選を一緒に戦った他の教授、さらに同窓会の会長やら製薬会社、医療器具の会社らとの交流は財前の前途に一抹の不安を抱かせるに十分であった。
田牧大和著「鯖猫長屋ふしぎ草紙」、サバと呼ばれる長屋に住む一匹の三毛猫の雄、霊感のある大将と店子たちに呼ばれ絵描の浪人拾楽と暮らしている。差配の磯平衛はじめ長屋のまとめ役のおてる、貫八おたま兄弟らが登場し様々な難題を起こしながら住人が結束し事にあたる。錠回り同心掛井十四郎と拾楽との繋がりかあ後半で拾楽の素性が明らかになる。彼は一人働きの盗人で義賊だった。店子たちの人情ものと思いきやミステリー性含んだ一連の繋がりのある物語だった。
山崎豊子著「白い巨塔 一」、浪速大学医学部助教授である財前五郎は、嫁の親父が営んでいる産科病院の婿となり後ろ盾を得て助教授を務めている。学内しかも財前に居る第一外科の教授東の半年後の定年退官を控えて教授選の攻防が盛んになって来ていた。医学部長から地元区内に医学部出身の開業医はたまた同窓会の会員とあらゆる伝手を駆使して是が非でも教授になる決意を固める財前であったが、上司の教授東は自分の戦略として学部外から教授を招聘しあわよくば娘を嫁がせようと目論んでいた。
マヤ・バンクス著「あなたへ帰る道」、思いを寄せていたジュールズ彼女が失踪して行方が解らない。しかし3年ぶりにマヌエルの前に姿を現した彼女は前と違っていた。彼女はNFRというテロ組織のスナイパーだった。彼女を匿って組織から身を守ろうとするが、彼女は姿を消した。組織から支持されたターゲットはマヌエルの直属の上司とNFRに感心を寄せる上院議員だった。結末はどんでん返しのサスペンス・ミステリー作品だ。文章の歯切れが良く、あっという間に読了した。
山崎豊子著「二つの祖国 下」、梛子が原爆による白血病と診断され広島の日赤病院に入院した。天羽賢治の東京裁判のモニターは依然として続き多忙極め梛子を見舞うこともできない状態だ。そんな中遂に彼女が死んだ。賢治の中のものが崩壊した。著者の東京裁判の詳細な調査が書かせた内容は読者に感銘を与える程だ。この太平洋戦争の意味は何だったのか?祖国とは?人間の生とは?次々と問いかけを読者に強いる文庫本1800頁にも及ぶ超大作だ。

日曜日, 7月 28, 2019

山崎豊子著「二つの祖国 中」、戦況は一刻を争うほど危急を高め遂に太平洋戦争に突入した。賢治は二か国語を理解していることから戦線に参加しフィリピンでの戦闘に巻き込まれ日本軍に参加している正と図らずも正対し誤って弟を撃ってしまう。死を覚悟した日本軍の戦闘は飢えと弾薬不足で次々と命を落として行く日々だ。そんな中米軍はユダヤ人が開発した原子爆弾を広島に投下し一瞬で市を滅亡させ甚大な被害を被らせた、間もなく戦争は終結し天皇陛下の勅撰により国民にしらされた。以後ロサンゼルス在住の天羽乙七は強制収容所を出所し知人の勧めでランドリーを再開した。賢治は戦争裁判、東京裁判の通訳兼モニターとして潰させに東京裁判を目の当たりにすることになった。
真山仁著「シンドローム 下」、サムライキャピタル社長鷲津政彦は、買収の為「首都電」株を着々と買い進め礎石を打った。政府内の総理及び側近と大臣関連する役所経産省、エネルギー庁らの高級官僚は右往左往している事態で全く方針が定まっていない。実際に起きた事態を垣間見るようで面白い。鷲津は日本が存亡危急の折に日本を救い再生するという理念の元に首都電にTOBを掛け買収・奪取した。膨大な利益を背に責任を果たした。
山崎豊子著「二つの祖国 上」、アメリカロサンゼルスのリトルトーキョーでランドリーを営む日系一世天羽家は、太平洋戦争の終盤日本による真珠湾攻撃により非国民扱いとなり一家して北部の収容所に収監される。収容所での過酷な生活の中で日系二世は米国籍を持ちながら誹謗中傷に会い右往左往し精神的にも大きな痛手を受けざるを得ない。祖国とは何か?一万数千人にも及ぶ収容所の中で暮らす人々の疲労感が募る、そんな中天羽賢治は大学を卒業し日本語と英語を習得したため収容所の管理部に登用される。
真山仁著「シンドローム 上」、サムライキャピタル社長鷲津政彦は再び日本に上陸し首都電を買収しようとした矢先に東北大地震に見舞われた。SBO(ステーション・ブラック・アウト)になった第一原発は冷温停止すべく必死に作業を進めていいるが遅々として進まず発生から10日経っても事故調さえ立ち上がる気配は無い。彼鷲津政彦は慰問に続いて救済基金を立上げさらに政府要人とも折衝して事故調を立上げ買収案を練る算段だ。
サラ・ウォーターズ著「半身」、19世紀後半ロンドンのテムズ河畔に建つ獄舎ミルバンクを舞台にした一人の女性で貴婦人のマーガレットと監獄に収容された女囚シライナとの出会いの物語である。獄舎の慰問を繰り返しながらミルバンクの陰湿な全貌を描写し、女囚との出会いもまた静寂と孤独中で出会う設定だ。全編に渡り孤独と寂寥と闇を描写し、そんな中でも希望に取りすがろうとする絶望の淵から這い出そうとする二人の人生そして最終的なミステリー的トリックが解る。