松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ」、
万能鑑定士Qシリーズの第七版である。シリーズものを書く著者もネタを探すのも大変な作業だ。今回はなんと万博公園の岡本太郎設計の太陽の塔が中心となる物語だ。蓬莱浩史なる青年が事務所に駆け込み妻を探してくれと?ここから始まる捜索劇は思わぬ結果を伴うことになる。太陽の塔の回収とそれに絡む利権、さらに警備会社の不正と米国大学教授の隠蔽工作とプロットは今一だが凛田莉子の頭脳が炸裂する楽しい読み物だ。
ジョシュ・ラニヨン著「死者の囁き」、
ロサンゼルス在住の本屋を営みながら小説を書く主人公アドリアン・イングリッシュは執筆を目途に彼の相続する高原の別荘に向かう。管理人を置いて管理している別荘だ。ある日殺人の被害者を目撃した直後から身の回りが騒がしくなる。やはり休暇を取ってLAの刑事ジェイクが彼の別荘に来て出会う。彼の所有する広大な敷地に昔の鉱山がありかっては金鉱であった、その周囲で考古学教授を交えた発掘作業が行われていた。アドリアンとジェイクは襲撃に会い命拾いを、また二人目の殺害された死体を別荘の厩舎で発見する。殺人事件を追う二人、過去の歴史が解き明かされ発見された金鉱から金が採掘され金鉱に隠された事実を掴み謎は解決されてゆく。
篠田真由美著「綺羅の柩」、
例の建築探偵櫻井京介シリーズの事件簿だ。今回は目まぐるしく日本の軽井沢からバンコクからマレーシアのキャメロンハイランドといったアジアを股にかけた殺人事件だ。富豪の戸狩総一郎が桜井京介や深春そして蒼、神代教授とも招待された軽井沢の別荘で殺害された。招待された理由はジェフリー・トーマスという米国人の失踪に関わる事件の推理だ。登場人物といい、複雑なプロットといいアジアを舞台にした殺人事件の真相に挑む京介の怜悧な頭脳が閃く。
山崎豊子著「女系家族 下」、
遺産相続の争いは姉妹3人の物欲のぶつかり合いが続き一行に決着を見せず、女の怨念ともいえる凄まじいまでの争いが続く。そんな中三人姉妹はそれぞれ遺産相続分を検分し少しでも有利になるよう画策していた。最終の親族会議の前日故嘉蔵の妾文乃が子供の出産を報告がてら本宅を訪れ、なんと嘉蔵が残したもう一通の遺言状を提出した。どんでん返しのように様々な事が暴露され決着が着く。浪速の繊維街船場の木綿問屋を舞台に物欲を情欲そして怨念を見事に描き出した作品だ。
松本清張著「隠花の飾り」、
11編からなる短編集である。女性の愛をテーマに綴った本書の中で、女性の様々な愛の姿を描き、そこには愛憎、嫉妬、目論見、計算高さ、傲慢等など様々な愛の形を少しサスペンス風なタッチで描いている。
山崎豊子著「女系家族 上」、
大阪船場の繊維卸問屋、船場の矢島商店の3人の姉妹藤代、千寿、雛子取り巻く千寿の夫の婿養子の良吉、店の大番頭の宇市、そして店主の吉蔵の死後俄かに遺産相続の争いが始まった。分家の芳子ら親戚筋が集まる中大番頭の宇市が遺書を読み上げた。騒動は留まることを知らず、姉妹のそれぞれの思惑が交錯した中亡父吉蔵の妾が発覚しさらに複雑で醜い争いとなった。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの短編集」、
例により沖縄離島の出身の美人鑑定士凜田莉子の活躍するライトミステリーというジャンルの作品である。作者のあらゆる事象に対しての蘊蓄には敬服に値するものがある。殊に科学及び物理の面についての豊富な知識には驚かされる。時間が有る時に気軽に読めるミステリーだ。
由良弥生著「空海の生涯」、
1200年も前の平安時代の巨人空海の生涯を平易な文章によって書かれた人物記である。先に読んだ司馬遼太郎の「空海の風景」は作者の心象を文にした印象だが、今回の本書は史実に基づいた著作である。巨人、天才空海の生涯が遺憾なく描写され生涯を通じて求めたものそれが真理だった即ち密教・真言密教だ。真言密教こそが宇宙と人間を一体化し即身成仏へ至る理論だと。
松本清張著「疑惑」、
中短編2編の構成である。疑惑は鬼塚球磨子という女性が起こしたという殺人事件を記者が取材し裁判前に球磨子が犯人だと報道してしまう。その後裁判となり若手弁護士の論理的な組み立てにより徐々に記者自身の犯行に対する球磨子の存在が陽炎の如く自身に付きまとい弁護士殺害を決意するといった物語だ。一方藤田組贋札事件は明治期に起こった贋札事件を取り上げ熊坂長庵なる人物が犯人とされた事件を再考証する物語だ。
山崎豊子著「女の勲章 下」、
矢代銀四郎の経営手腕は卓越し、学院経営は発展の一途を辿り大阪、京都に分校を設営するまでになった。作者のこの銀四郎という人物描写、創造が式子を初め他3人の女性の本質を引き出している。綺羅美やかな世界に憧れ自分を高みにし人生を謳歌するといった女性の本能を余すところなく描き切っている。式子はフランスの有名なデザイナーの型紙を購入するべく渡仏する。兆度パリに来ていた白石教授との逢瀬が彼女の魂を揺さぶり銀四郎との精算を決意し教授と結婚しようとするが、自らの命を絶つこととなった。
京極夏彦著「鬼談」、
怪談の短編集である。人間の根源的な生、その中に潜む恐怖と何でもない日常との交錯する人間の心これらの対比が鮮明に描かれている印象だ。鬼をテーマにしているが、その鬼なる物こそ人間の内に秘めた欲ではないのか?日常のふとした風景、生活、人との交わりの中に潜むある種の不可思議な恐怖これが鬼である。
司馬遼太郎著「空海の風景 下」、
遣唐使として波風に翻弄されながら唐に漸く辿り着いた空海一行はさらに長安の都へと、そこで果たして空海が見た光景は想像を絶するものだったに違いない。異域から長安の都に、しかし空海は信念を持って密教の世界を金剛界と胎蔵界という密教の深奥を極めるべく天才ぶりを発揮し恵果という僧の元で教えを受け密教の全体像を把握し論理を体系化し即身成仏の思想に僅か二年の間に会得する。空海の天才ぶりは破天荒だった。帰国後の空海は嵯峨天皇の庇護の元で一方先に帰国し同じく庇護を受けた最澄との確執を経て高野山に一大伽藍を建立する。空海の想念の先に何時も長安の都があり、密教を日本人として初めて思想体系を構築した偉大な生涯に思い馳せる著者の渾身の作だ。
山崎豊子著「女の勲章 上」、
大阪船場の嬢はんとして苦労もなく育てられた式子は父母の死後、大阪で服飾学院を開業した。東京の名門大学での銀四郎をマネージャーとして迎え経営に乗り出した。大庭式子はデザイナーとしての有名になる野望を胸に秘め、また銀四郎は式子を利用しながら経営を拡大し金儲けを企む野望を裡に持つ男だった。この両輪を上手く動作させ次々と学院経営を発展させまた式子は益々デザイナーとしての地位を確実に築いていくのだった。式子を初め主だった女性スタッフとの情交を武器にしたたかに生きる銀四郎の行動も読者の眼を射るような著者の生き生きとした文体が効果的だ。
ローレンス・ブロック著「殺し屋」、
ニューヨーカーであるケラーという名のヒットマンつまり殺し屋の生き様を描いた作品だ。殺人仲介屋から依頼を受け一週間ほど掛け米国全土を縦横無尽に移動しケラーの最も得意な自然死に近い形で殺しを実行して報酬を受ける生活がケラーのものだ。人間の死はこんなにも簡単で殺人者ケラーはその殺人を虱ほどにも感ぜず生きているその様が対照的で面白い。
田牧大和著「鯖猫長屋 二」、
猫が一番偉い大将と呼ばれている貧乏長屋を鯖猫長屋と呼ぶ。猫の絵描の拾楽とサバ公、となりおてる長屋を差配しているしっかり者だ。他におはまこれは拾楽に思い入れている。蓑吉、勘八ら貧乏長屋の連中が引き起こす様々な事件を拾楽とサバが解決する人情長屋物語は絶好調だ。
司馬遼太郎著「空海の風景 上」、
四国香川で佐伯氏族の系列から生を受けた空海が、遣唐使として長安の都に着いたところまでがこの巻の上である。若くして才能を発揮した空海の僧ととしてより宇宙を束ねる思想に思いを馳せる哲学者の様相である。私度僧として各地を放浪し山を崖を下り瞑想し鍛錬を重ね思想を進化させてゆく空海の生き様を著者は巧みにに著している。
山崎豊子著「白い巨塔 五」、
控訴審、第二審が開かれ婦長の証言や近畿癌センターに飛ばされた里見助教の証言さらに適格な鑑定人の選択と証言を得て、控訴側つまり原告勝利となり財前側の敗訴が決定した。あらゆる政治的手腕を駆使し絶頂期の財前五郎だったが、疲労の為倒れさらに診断の結果深刻な胃癌と判明余命幾ばくも無い財前の脳裏に去来するものは果たして何だったのか?つくづくと人生を考えさせられ一抹の寂寥を感ずる名著だった。
森博嗣著「すべてがFになる」、
孤島妃真加島のIT研究所で殺人事件が発生、大学生のキャンプに参加していた西之園萌絵と大学教授の犀川は共同して事件解決に向け探索を続ける。そこにはレッド・マジックと呼称されるブラウザをUNIX上で動作するソフトを開発する天才博士真賀田四季女子の存在があった。彼女は既に15年も外出していないという。真賀田博士の人間関係からくる殺人を遂に捉えた。SF的ミステリーだがプロットに少し無理があると思うしすこし冗長性が否めない。
山崎豊子著「白い巨塔 四」、
第一審の裁判を勝利した財前だったが、学術会員選挙の候補者として財前の名前があがり鵜飼医学部長から正式に候補者として擁立する旨の判断が下った。選挙戦は過熱し、医師から医局、系列大学及び病院、同窓会などから抜粋した名簿を虱潰しに当たるというどぶ板選挙選となりつつあった。多忙を極める財前であったが、控訴審が開かれ証人尋問まで裁判が進行する中で佐々木康平の教授回診時病棟婦長である亀山君子は財前の不適切な発言を証言しようと承認台に起つことを決めた。
山崎豊子著「白い巨塔 三」、
国際外科学会への招聘を受け発表論文など資料作成に忙殺されている時、佐々木康平という患者の診断を助教授から依頼され診断した結果胃噴門部に癌を発見し出発前に手術を行った。その後の経緯については若き担当医に指示し患者との対面も無いまま飛び立った。学会を終え帰国してみると患者は癌性肋膜炎を発症し死亡していた。遺族は財前五郎を提訴し裁判が開始された。幾多の承認及び鑑定人が証言台に起ち原告、被告の尋問も過ぎて判決は患者側には無常にも財前の勝利に終わった。