木曜日, 5月 30, 2024

岡本さとる著「名残の袖 仕立屋お竜」、普段はつましい仕立屋として働くお竜であるが、裏の顔は悪を容赦しない殺人者にかわる、つまり痛快時代劇で全編にお竜の優しさと魅力が溢れていて充分楽しめる時代物である。金持ちの文左衛門を筆頭に剣術使いの勝之進そして一膳飯屋の御老体とチームお竜の快進撃が止まらない。
高田郁著「幾世の鈴」、あきない世傳金と銀の特別編というところだろうか。五十鈴屋江戸本店並びに大阪天満、高島店の近況を伝える内容とともに係わる人間の現状と幸と賢輔が願う今後五十鈴屋の100年を思う気持ちが強くでていた。中でも幸の妹結の現状は中々大変な状況で50歳になりながらも過去に拘り一向に安寧を見せてない生活は苦しい。
笹沢佐保著「海賊船幽霊丸」、 徳川家光の時代に瀬戸内を仕切っていた来島海賊の物語である、頭を務めるのは新九郎と新八郎の兄弟でありこの二人は双子であった。小島の洞穴にあった和船に乗りまさに出航しようとしていた船の名前は幽霊丸といい大海原に漕ぎ出し南方を目指して出航した。途中現在のフィリピンにあたるミンダナオ島あるいはツソン島を見てそこで捉えられている日本人を救出する作戦であるその後補給をするためダバオに立ち寄る予定だったが、思わず鉢合わせたのはイスパニアの軍艦だった、新八郎の号令下二隻の軍艦と補給艦を奪取した。この物語は著者の晩年の作で最終章を盟友の森誠一氏が輔弼したそうである、笹沢氏の著作は380作にも及ぶ膨大な物である。
今西マサテル著「名探偵のままでいて」、六章からなる連作短編集である、教師を務める楓と碑文谷に一人で住む祖父との掛け合いそして楓の同僚二人が絡み事件解決えと導く、ちょっとしたミステリーだ。しかし読後感じるのはやさしいという言葉が浮かび何故か自然と心が温かくなるそんな感じがする物語でした。
まさきとしか著「あなたが殺したのは誰」、小樽に近い小さな島鐘尻島での過去の話として描き、現在進行する捜査なんら脈絡も無く物語は進んで行く、バブルが弾けた後の島内は様々な人が悩みそして次々と起こる殺人事件、その過去が現状に見事に繋がり収束して行く。プロットは練りに練ったという印象で伏線もまた読者を唸らせる設定だ。刑事三ツ矢と田所との造形も興味深くシリーズとしては三作目に当たるようだ。
笹沢佐保著「空白の起点」、著者の空想的トリックと用意周到な伏線に只只管感激するしかない、大手保険会社の調査員である新田が調査にあたったのは戦後の時代で600マンという保険金を契約していた契約者小梶が自殺した、この件を調査した新田の前に次々とと疑問が浮かんでくるのであった。読者の予測できない最後のどんでん返しが待っていた。私としては真夜中の詩人が著者の中でベストだと思う。
笹沢佐保著「真夜中の詩人」、今回のミステリーは誘拐物だ、しかしそのプロットは秀逸で予測できない面白さを存分に味あえるまさに傑作長編ミステリーである。ひねりに捻りを加えたプロットは絶品で楽しめる、昭和の時代の誘拐事件は記憶の中に存在し今回の物語にしても状況設定としては違和感は無い。作者は人間のゴウという物と人生の悲哀そして女性の我が子に対する愛と強さを感じさせてくれる。
笹沢佐保著「突然の明日」、小山田家は平和な家庭を営んでいたある日の夕食時長男の勝手知ったる久米桧佐絵を銀座四丁目の交差点で見かけ声を掛け追いつこうとしたが突然消えたという話をした、ここから事件が始まる。長男晴光がアパートの屋上から転落死した、料理屋を経営する男もまた殺害された、警察は事故としてかたずけたが、小山田義久を父に持つ涼子つまり父娘は疑念を持ち独自に調査を始めた、著者らしいプロットと伏線の素晴らしさは相変わらずである。
柚木裕子著「暴虎の牙 下」、様々な犯罪に手を染め20年という刑期を終えて出所した沖は再び呉虎会のメンバーを集め賭場を襲い現金を巻き上げさらにシャブの隠し場所を抑えて搔っ攫うという暴挙を達成した、しかし彼沖は収監された刑務所のなかでチクった元を赦すことはできなかった幼馴染の元を殺害した、さらに三島も殺害し広島を乗っ取る計画に向かい突進する。暴力に洗脳される沖の人生のなかで幼い時の貧乏と親父の無謀なふるまいの下で暮らした影響が如実に成人した沖の意識を変えた、非常に面白く読んだ。
柚木裕子著「暴虎の牙 上」、広島北署捜査二課刑事つまり暴力団対策課の大上はベテランであり独自に行動をする座にいる、署内の暴力団の趨勢はおろか愚連隊や暴走族にも情報を得て動き回る、敏腕刑事だ。数年前に妻子を交通事故で無くし今は独身だ。そんな彼が目に付けたのは暴力団の組ではなく呉原から広島に来た沖虎彦を中心にした呉虎会という準暴力団組織だ。大型の薬物取引に絡む窃盗及び障害事件が起きており大上は呉虎会が絡んでいると診て情報収集に当たっている。

月曜日, 4月 29, 2024

夢枕獏著「陰陽師」、 平安時代に十四以下で仕えていた陰陽師こと安倍晴明と源の博雅との掛け合いによる魔物妖物を退治する痛快な物語である。様々な状況設定が中々楽しい場面を描いてくれ鬼が出たり牛車が出て消え後に女人が現れ最後には青炎を吐き出しながら消えて行くといった幻想的な描写が楽しい。
辻村深月著「傲慢と善良」、 東京育ちの西村架(かける)は父親の死亡に伴い小さなビール輸入販売の会社の社長に収まっていた、30代後半になってようやく結婚を意識して婚活する中で知り合った坂庭真実(まみ)と付き合いながらも架は当面結婚はと先延ばしにしていた、真実は群馬県庁で臨時職員としてl働いていた30代の後半の女性で両親からも結婚について日頃からうるさく言われ両親の意見に従い結婚相談所で婚活をしてきた自分で決められない性格の女性だった。その彼女が東京に出て架と知り合い結婚に動き出していながら、ストーカ被害を理由に蒸発してしまう。彼女を追う彼の心理を深く捉えまた真実の心理そして内省を冗長ながら見事に描いた大恋愛小説である
道尾秀介著「鏡の花」、人はそぞれを生き悩みそして与えられた運命や宿命に沿って生き死んで行くそんな人生の機微と情感感じさせてくれる本書の物語である連結短編の構成で別々の様相を呈しているが繋がっている不思議な構成は正に道尾ワールドなのか。それぞれの章で人が死ぬ、事故あるいは病に斃れて取り巻く家族人間の悲しみと何故か背景に自然曼殊沙華や森そして蝶や昆虫を配し効果を生んでいる。
笹沢佐保著「求婚の密室」、トリックと言いプロットといい完璧である。伏線も考え抜かれた密室トリックに繋がり読者を翻弄すること間違いないまでに完璧な密室ミステリーだ。夏の軽井沢で開かれたパーティーある大学教授の引退あるいは誕生会を兼ねたパーティーに招待された13人の客それぞれが過去を持つ身の人々であった、あくる朝パーティーの主催者である教授夫妻が古い倉庫で死体となって発見される。招待客のひとりジャーナリストの天知昌二朗の命推理によって見事解決されるが、読み処満載のミステリーで完璧だ。
中山七里著「ラスプーチンの庭」、犬養隼人及び高千穂明日香刑事シリーズで今回はカリスマを擁するる偽医療団体に絡む物語である。大手の著名な大学附属病院で絶望的な病気で入院している患者が退院し民間の医療団体に転院するという話から事態は暗転していく。患者二名が死亡しさらに高額な医療人も献金ともつかない金を毟り取られ闇に葬られた。この医療団体を主宰する織田豊水という導師を抱えている、そしてある日導師織田が撲殺され犬養刑事の捜査が開始され最終的には大学病院で身内を殺害されたとして積年の恨みを持つ看護師兄弟が浮上する。
笹沢佐保著「招かれざる客」、 初期の作品だと言うが著者の特徴を遺憾なく発揮した作品である。細川マミ子は長崎の片田舎で極貧な生活からはいずり出て来て同郷の鶴飼を頼りに上京してきた、そんな彼女と鶴飼は衝突して彼を殊更に憎むようになり遂に鶴飼を殺害そして事実を隠すために次々と犯罪に手を染め深みに嵌っていくその心理をうまく描写する筆力を著者は持っている
町田そのこ著「52ヘルツのクジラたち」、都会で一人暮らしの若き女性に降りかかる様々な苦難と絶望、出自は妾の子だという貴瑚の絶望感は際限なく己を痛めつけられ死おも希望する状態であった。ふと決断したのはかって祖母が住んでいた大分県の海辺の小さな町へ移住した、そこで言葉を出せない愛(いとし)という13歳の少年と出会う。52ヘルツのクジラとは声を発するが周波数が52ヘルツで他のクジラへ信号が送れない孤独なクジラを意味する、それは少年であり且つまた主人公の態様だった。そんな二人に連帯感が生まれ生への希望が芽生えるといった物語である。
マイクル・コナリー著「素晴らしき世界 下」、 ロス市警を抜けフェルナンデス市警の予備警察官そしてロス市警の夜勤勤務の女性警察犬バラードとのタッグは9年前の街娼クレイトン少女の拉致殺害の事件について執拗な捜査を続け、遂に犯人にたどり着いた。犯人は清掃業者で拉致後に漂白剤に付け焼却炉に放り込むといった惨忍な手口で彼女を殺害していた。
マイクル・コナリー著「素晴らしき世界 上」、ロス市警を引退し現在フェルナンデス市警の臨時雇刑事として働いているハリー・ボッシュはロス市警時代に起きた未解決事件について一人単独で捜査すべく当時9年前の聞き取り調査カードを捲る作業に没頭していた、その様子を見たレネイ・バラードロス市警の夜勤勤務の女性警官はボッシュと知り合い一緒に捜査するこちに同意し二人で分担しカード情報を調べ始めた。
中山七里著「切り裂きジャックの告白」、私の中で社会派ミステリーとしての著者は確実に評価を上げてきている。そして今回は移植手術つまり臓器移植という難題に対して正面から挑戦し生と死つまりドナーとレシピエント提供する側と受ける側双方の苦悩を描き出してこれを殺人事件に絡ませ病床で臓器提供を待つ自身の娘をもつ警視庁刑事部捜査一課刑事犬養隼人が解決するというプロットが物語に奥行きを与え最後のどんでん返しに繋がる設定だ読み応えのある内容になっている。
中山七里著「カインの傲慢」、日本社会での永遠の課題、今回は臓器移植をテーマに貧困という要素も加え生と死という主題に犬養隼人刑事と明日香助手を交え犯人を追走する物語はプロットといい伏線も鮮やかに嵌りこんでの傑作だ。貧困家庭での臓器売買は売るものは自分の体しかないという状況での結果に読者を釘ずけにする。現代社会での格差にも言及し一段と社会性を帯びた描写は清張なみに素晴らしい。
中山七里著「ハーメルンの誘拐魔」、警視庁の刑事犬養隼人彼がこの誘拐事件の捜査の中心となり犯人を追う、子宮頸がんワクチンの副反応に悩む家族を主題に産婦人科協会および製薬会社そして厚労省が絡む利害と癒着が副反応が確認しているにも関わらずワクチン接種の義務化を推奨するとう状況でハーメルンの笛吹という犯人が次々と誘拐をする。ストリー自体は面白いが、どんでん返しは想像上で判断できるレベルでイマイチではないだろうか。
細谷正充編「江戸の漫遊力」、時代物股旅物で著名な9名の作家の短編を収録した短編集である。テーマは江戸時代の旅である、お伊勢参りあり富士講ありと多彩である、人々は気楽に或いは決死の形相でというように旅人は様々であり、それは人の人生に通ずるのである。
松嶋智左著「出署拒否」、 警務課教養係の巡査部長である野路が任されたのは、成績優秀で警察官になって二年の友枝が出署を拒否しているという彼を見舞い説得工作だ。そんな折に事件が起きる一人暮らしの老女が土鍋で頭を殴られ死亡した、彼女の息子も階段から落ち頭を石にぶっつけて死んだ。野路と友枝は相談して警察署に知れず捜査を開始した。プロットにも新鮮味はなく平凡な伏線と相俟って興味を失わせてしまうようだ。
ジェレミー・ドロンフィールド著「飛蝗の農場」、 サイコロジカルスリラーと呼称される分野に当てはまるそうである、まず関連の無い描写が次々と展開され読者を翻弄する。プロットはどうなっているかと疑問のまま読み進めて行くと展開が収束して一つの筋に向かって突き進むそこにはおどろおどろしい内容になって最後に向かう。元刑事と双子の兄弟の確執に収束してゆく。

金曜日, 3月 29, 2024

杉井光著「世界でいちばん透きとおった物語」、著名なミステリー作家が死んで、彼の遺稿があると言うので藤崎燈真かれは作家と自分の母親との不倫で生まれた息子だったそして実の息子と二人で遺稿捜しを始めることになった。生前付き合いのあった人たちへ会いに生き様々な意見を聞いたが遺稿の原稿は無く遂に突き止めた時には作家の元妻によって償却されてしまっていた。遺稿捜しに協力してくれた女性編集担当の霧子さんから自分の秘密を知ることになる。プロットこそ単純だが最後の衝撃的どんでん返しに魅了された。
阿津川辰海著「蒼海館の殺人」、600ページを超える大作であり、冗長性は否めないできだ。山中のY村の葛木家の法事に立ち寄った二人の高校生、そして大雨が台風となり曲川が氾濫寸前となり地区住民とも協力して葛木家を守り避難していた、そんな中で殺人事件が発生し葛木家の面々は疑心暗鬼となり互いを疑うという事態に。彼ら高校生の友人であり頭の回転も早く推理に長けた葛木輝義が事件を解決へと導く。プロットと殺人トリックは平凡でワクワク感がない。
沢村浩輔著「夜の床屋」、 読む前に目次を確認すると5作の短編集であると思ったが、読了してみて正に不思議な感覚に衒われて思わず物語自体を再考するようになる。平凡な短編だと思いながら行き着く所は正にファンタジーの世界であった。唖然とすると同時に、作者の発想の斬新さを称賛することになる。
笹沢佐保著「異常者」、都内を中心にして連続暴漢魔殺人事件が発生、弁護士の波多野は自分の妹が暴漢魔に襲われ死亡した、幼馴染の山城警部補と連携して犯人を追跡することに、そして遂に被害者の共通点を見出し逮捕になった。しかし以前の7人の被害者の共通点は見いだせなかった、ふと接点がひょんなことから旅行者を通じてギリシャ旅行で同じホテルヒルトンに宿泊した仲間であることが判明とこの小説のプロットは良く考えられていてさすがだと思うと同時に面白く読ませていただいた。
松岡圭祐著「瑕疵借り 奇妙な戸建て」、瑕疵借りを生業にしている賃借人藤崎は依頼により千葉県は八街市郊外の戸建てに向かう、その家主は依然知り合った松崎だった。奇妙にも松崎つまり所有者と一緒に住むことになる。築35年になる戸建ては郊外の分譲住宅地にあり住人は全て高齢者であり戸建てに住もうとする藤崎や松崎の言動にいちいち批判の声を上げる、なかでも交通事故で死亡した元妻とその娘の死を超え高に叫び二人を震撼とさせる。そして元調査会社での勤務経験がある藤崎は遂に犯人を特定した。
笹沢佐保著「軍師 竹中半兵衛」、 戦国時代に合って織田信長配下の秀吉の軍師として生きた竹中半兵衛の生涯を描いた作品である。著者の小説に見る絶妙な展開が素晴らしい。生涯裏方に徹し欲を持ち出さず軍師として生きた半兵衛こそ男道つまり武士道を全うした稀有な人物であり、そこに一凛の花として信長の妹お市とのプラトニックラブを絡ませ色を添える展開に小説に厚みを加え一層面白くさせている。
笹沢佐保著「死人狩り」、伊豆下田から沼図へ向かう定期運航の海南交通のバス、乗務員含め27人乗りのバスが猟銃で射撃され崖下へ転落し全員の命を奪った、浦上と伊集院の両刑事は捜査を担当し死んだ遺族の下を訪れ聞き込み調査を行ったが、果たして成果も無く暗中模索となり捜査は暗礁に乗り上げた。伊集院刑事がある日何者かに襲撃され鈍器で頭を殴られ昏倒したそして刑事の背中に置いて行かれた靴ベラ、その靴ベラを端緒に遂に犯人に行きついた。
笹沢佐保著「死にたがる女」、5編の短編集である、いずれも珠玉な作品でテーマは勿論人間の生であり生きることの不思議というか意味を問う作品である。著者の卓抜な視点が随所に鏤められ読者を楽しませてくれる、何時読んでも面白い。
笹沢佐保著「白い悲鳴」、4編を含む短編集である。いずれも短編としてはミステリー感タップリと楽しませてくれる設定で著者の女性の心理描写といい官能表現といい見事でそれでいて人生を考えさせてくれる、本物のミステリー短編集だとおもいました。
笹沢佐保著「天鬼秘剣」、若狭湾の近くの山に住んでいた青年は近くの村では鬼と呼ばれていた図体はでかく顔は赤黒くまるで確かに見た目まさしく鬼のような相貌であった、青年は伊藤一刀斎という剣の達人と一緒に住み日々剣の研鑽に精進していた。青年は17歳の時に日本海の砂浜で一刀斎に拾われ育てられたという過去を知っていたがその出自は自分では一切記憶が無かった。29歳になり鬼は一刀斎に海渡天鬼と命名され一人武者修行に出かけ各地で事件に向き合う、そして熊本に渡った時に遂に自分の出自が判明する、彼は日本海の荒波台風の時沈没したイスパニア船に乗船していたイスパニア人の青年だっという落ちである。

水曜日, 2月 28, 2024

笹沢佐保著「新・一茶捕物帳ー青い春の雨ー」、時代物でしかも有名人が出てくる探偵ものとなると読む前から期待が高まる。その有名人とは若き日の小林一茶であって、彼は深川伊勢崎町の源右衛門店通称お月見長屋の一間に弥次郎兵衛として住んでいた。弥次郎兵衛つまり一茶は錠回童心片山九十郎の知恵袋として事件解決に寄与する重要な存在である。長屋の隣に住む後家さんのおりんに思いを寄せる描写も面白い。
笹沢佐保著「絶望という道連れ」、共に殺人者として逃亡を続ける田宮史郎と金沢真由美、沖縄から鹿児島さらに東京と愛の逃避行を繰り返していた、すっかり開拓された真由美の肉体は田宮の想像を遥かに超えていた。暴力団を絡んだ恐喝事件の余波を喰らい巻き込まれた二人はそこで目にしたのは5人もの殺害であった、二人は逃避行を続けながら犯人を次々と特定していった。しかしそれは何処まで行っても絶望との道ずれ逃避行だった。絶対絶命の状態で追い詰められた男女の心の揺れを見事に結集させる著者の迫力ある描写に感激。
笹沢佐保著「断崖の愛人」、 大手の部類に入る中外軽金属の会社の係長を務める井ノ口一也は家庭での嫁姑間の対立に日々悩まされていた、彼の妻純子は策略を施し夫に愛人を持たせるべく画策した、何故か姑の春江が愛人という状況に毛嫌いしているのを知っているのが原因だった。彼の勤務する部署で部下の安城由布子との不倫間関係に遂に井ノ口は陥った。ある日春江は息子の一也に愛人がいることにきずき愛人由布子の住まうマンションに出かけ由布子と春江は対決した、結果春江はマンションの屋上から転落し死亡した。さらに沖縄へ出張した一也を追って来た由布子との逃避行の近くの岬の断崖から探偵が身を投げ死亡と家庭の不和から始まる件が殺人までに発展したミステリーのプロットとしては単純で結果もそれほど驚くべき結末とはいえないが、ここに至る道程、男女の心理の描写はさすがである。
笹沢佐保著「闇狩り人犯科帳」、 領国元町で営業する「春駒」そこの主人である小夜のもとに起居する源太剛毛の黒い髭を蓄え体が大きいわりに猫背で歩く近所の子供たちがウスノロの源太と囃し立てるほどの目立たない人柄であった。その源太が果敢に事件の下手人を取られる姿はまるで必殺仕事人のようである、次々の事件を解決してゆく痛快江戸活劇で読んでいてすっきりするようだ。
笹沢佐保著「少しだけの寄り道」、小山内千絵は、銀行員の夫を持つ平凡な主婦である、ある日新宿のデパートであった精悍なマスクの三十代の男性と接点を持ちその後深みに嵌り込んでいくことになる、つまり不倫であった。凡庸な性生活しか知らない主婦千絵が男性藤城三樹夫との逢瀬は激しく千絵は幾度もエクスタシを感じ眠っていた性感を掘り起こしてくれたのであった。まさに官能小説と言ってもいい小説である。
笹沢佐保著「愛人岬」、大手ハウス建材メーカーに勤務する水沼雄介は次長としていた、一方同じ社に勤務する古手川香織とは愛人関係にあった、二人で水沼の新車に乗り京都丹後半島に向かった先で殺人事件が起きた。濃密な官能表現と揺れる香織の心の描写は流石である。プロットは平凡で最終的な結末も今一ながら読者を飽きさせない工夫が至る所に潜んでいる。
笹沢佐保著「北町奉行定回り同心控」、 北町奉行同心暁蘭之介の活躍を描く五編の短編集である、それぞれ工夫を凝らした設定で脛に傷を持つ蘭之介の気性を描き素の顔は悪を絶対に許さないという心情とまた多面では優しさを持つ蘭之介の活躍を描く優れた短編集である。江戸の仕来りや風情を盛り込んだ傑作である。
笹沢佐保著「遅すぎた雨の火曜日」、 東京都下の四階建ての小田切病院の長男哲也を誘拐しようとした女、名前は花村理恵彼女の暗い過去は小田切病院の院長夫妻と強く結びついていた。病院を見渡せるマンションに越して来た理恵は哲也の誘拐に成功する。電話での脅迫を繰り返したが一向に効果はなくしまも誘拐した哲也に縛っていたテープを解かれ逆に理恵が囚われそうな状況になった、理恵とのセックスを通して仲良くなり二人で北軽井沢の別荘に居を移して二人の愛情を確かめ合った。そして二人の復讐への決意が徐々に固まっていった、運命とでもいえる邂逅を通して赤裸々に綴る愛情表現は著者の描写力を遺憾なく発揮する、ミステリーとしてのプロットはやや弱いもののこれはこれで満足である。
笹沢佐保著「殺意の雨宿り」、東北の遠野に旅行に出かけた奈良井律子は突然の豪雨に遭い、近くのプレハブ小屋に避難した、そこに次々と非難してきた三人の女性、ホテルで一緒になり話は交換殺人へと発展した。プロットの展開もいいし、伏線もミステリー伴うまた著者の持ち前のアイデアも盛り込み本格的と言われるミステリーに仕上がっている、但し結末はあっけなく終了した。
笹沢佐保著「狂恋 二人の小町」、江戸時代初期の悲恋、官能小説という著者の時代物の実力が遺憾なく発揮され、非常に面白い。江戸で八百屋のお七と財問問屋柏谷の小駒この二人何れも十七歳にして絶世の美人で小町と噂された。この二人が夫々姓に目覚め奔放なセックスに溺れていき、それを焚きつける極悪人でありお駒の相手の吉三郎に誑かせられ殺人に加担して極刑をうける、またお駒の母お葉が淫婦と呼ばれるほどの者であり材木問屋を切り盛りし殺人のまさに首謀者として吉三郎とともに刑場の露と消えた。
笹沢佐保著「人喰い」、花城由紀子は本多火薬銃砲店の社員である日銃砲店の社長の息子と失踪した、妹の佐紀子は銀行に勤めている。昇仙峡で見つかった死体は息子の昭一だけであった、この事実は佐紀子にとって非常に不味い状況になった。銀行の上司から退職を迫られた、三日間お休暇をとり彼女は自分で調査する旨を誓い乗り出した。紆余曲折があり、たどり着いた結論は正にミステリーのこれが王道だと言わんばかり結末だった。プロットといい巧で複雑な伏線を用意ししかも恋愛も絡ませる絶妙さには驚嘆すべきものがあlる。
笹沢佐保著「金曜日の女」、終日働きもしないで怠惰な生活を送っている青年波多野卓也は実業家であり世間でいう大物の長男である。次々と起こる殺人事件に親父が関与していると思われ調査に乗り出した、そこには想像を絶する深くて暗い闇が横たわっていた。大物実業家波多野理の会社の重役鬼頭の娘と知り合い遂に、二人で闇を探りながらの逃避行になった。幾つもの伏線と結果を予測できないミステリーまさに著者真骨頂の傑作であった。
笹沢佐保著「どんでん返し」、短編集である、6編を含む短編集でこれらの短編一つ一つが殺人に関与したウイットに富んでいて登場人物のつまり人間の思考というか状況次第で殺人も犯しかねない危険な心情をもっていると証明するような物語であった。
笹沢佐保著「愛人は優しく殺せ」、山林王といわれた小木曾善三、その一人息子高広と六本木のクラブでそこのママであるナミとも知り合いとなった春日は警察署捜査一課の刑事である。そして善三の秘書兼愛人である三人の秘書が次々と殺害された、高広に相談を受けた春日が捜査に乗り出した。著者の本作は今も古さ感じさせず、一流のプロットと読者を楽しませる伏線と相まって傑作となっている。
笹沢佐保著「花落ちる」、戦国時代信長に仕えた明智光秀の物語で、一つの視点は信長に対する反逆は光秀の何処から派生したのか、また光秀の人間像は?という視点である。著者の小説家としの伏線として名倉助四郎という架空の武士部下を置き、光秀の人物像を掘り下げえさらに麻衣という女性を配して助四郎との恋愛悲運を描くといった心憎い設定により物語をより一層深みを与え読者を喜ばしてくれている。