土曜日, 12月 29, 2018

篠田真由美著「原罪の庭」、建築家探偵櫻井京介シリーズ、この書で蒼の正体が明かされる。姉妹等親族関係の血みどろ愛憎がやがて殺人事件として表出し神代教授とともに櫻井京介が登壇する。血の繋がりが、血でもって制裁する横溝正史ばりではないが淀んだ殺人事件の真相は常套句のようだ。著者の作品は冗長性を否めないが、それでも読んで楽しい。
真山仁著「グリード 下」、遂に米国大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻デフォルトとなった。そんな渦中でGC、AD名門企業買収に全神経を集中させ買い叩く、その戦略に絡む巨大投資家サミュエルそして当の各企業の社長以下役員は右往左往し、筋違いの最後の戦略を立てるが既に遅かった。ハゲタカファンド・サムライキャピタルの当主鷲津とそのチームの攻防は経済小説でありながら、まさにミステリー小説だ。
山崎豊子著「不毛地帯 4」、米国自動車大手と日本の自動車の提携を目論んだ壱岐だったが、副社長の怒りを買い交渉の全権が副社長に移行したが結果は惨憺たるものだった。壱岐は、米国支社長から日本へ帰国し外資統括部を率いるナンバー3の専務として業務を遂行する中で浮上したイラン石油鉱区の探鉱と製油所建設の入札を前に競合他社との熾烈な競争、官財界役人を巻き込んだ淀み切った渦の中へと身を挺す。
太朗想史郎著「トギオ」、首都東暁で暮らす主人公は殺人者として生き、様々な人物たちとの拘わり暴力、殺人、ドラッグ、貧困、悪臭など凡そ現実世界の究極を描いた空想とも思えるあり得なく難解で理解できない世界に生きている。背景もプロットも朧で一本筋の通ったところがない。これがミステリー大賞受賞作とは理解できない。
真山仁著「グリード 上」、米国金融危機つまりリーマンショック時の物語だ。ハゲタカファンド鷲津はニューヨークでサムライキャピタルを運営している。危機に際してのファンドや投資銀行の確執が鮮明になって、情報戦が繰り広げられる。巨大な投資の神様と呼称されるストラスバーグとのやり取り、アメリカン・ドリーム社の危機を必死で救済しようとするジャッキー、情報戦を取材しようとする北村となかなか面白い展開だ。
榎本の憲男著「エアー2.0」、ふと工事現場それもオリンピック開催のメイン会場となる国立競技場建設の現場で中谷はおっさんと出会う。建設中にコンクリートの柱に時限爆弾を仕掛けたと言って八百長競馬を要求しまんまと5千万円をせしめる。事は急展開に福島県の原発事故のあった帰宅困難地区に事務所を設け事業を行うというおっさんは地域通貨カンロを造り積極的な投資を行うという。おっさんが開発したエアー2.0は巨大なコンピューターは人間の感情を理解すると言った優れものだ。日本政府とのまた官僚との確執に始まり警視庁をも動かし対峙しながら事業運営を行う中谷は原発事故地の復旧を願う作者の強烈な意図と人間との拘わりを描いた物語だ。
山崎豊子著「不毛地帯 3」、壱岐はアメリカ支社長としてニューヨークで業務を行うようになっていた。妻を交通事故で失い、娘を商売敵の東京商事の鮫島の息子と結婚と有為転変とする壱岐の人生は過酷だ。そんな中でも陶芸家千里との愛は確実に壱岐の領域内に入り遂にニューヨーク出張の折壱岐は彼女を抱くことになる。折しも米国ビッグ3の一社と日本の千代田自動車の提携交渉は熾烈を極め里井副社長を面々とする近畿商事が交渉を開始した。著者の過酷なビジネス環境で生きる壱岐と恋愛を絡めての物語は面白い。
篠田真由美著「玄い女神」、建築探偵櫻井京介シリーズの第二弾だと。今回の作品は建築とは深い拘わりのないミステリーだ。群馬県の霧積温泉近くの小さなホテルを営む経営者、狩野都からの依頼で引き受けた犯人捜しは十年前インドで起きた仲間の死についてであった。容疑者と思われる数人の友人を招待したホテルでの殺人事件がまた発生した。インドでの生活と一人の人間の愛が貫く執拗さトリックとどんでん返しいう盛沢山なミステリーだ。
山本貴光著「屋上ミサイル」、何か?SF的な小説だ。アメリカの大統領がテロリストに拉致されミサイル発射される危機が全世界に広まっている設定の中での学園ドラマってこれってプロットの設定ありかよと言った印象だ。都内は静寂に包まれ地方への移住を呼びかける政府機関、そんな中で高校生の仲間4人の中の友人が誘拐拉致された。冗長性は否めないが、プロットの奇抜さが目立つ作品だ。
山崎豊子著「不毛地帯 2」、商社マンとして忙殺されている壱岐は社長嘱託付き社員から8年余りで常務に昇格した。商社間の熾烈な競争、政界及び官界の人脈を使ったこれまた熾烈な競争にも元大本営参謀としての壱岐の静かな洞察力は勤め先の近畿商事に莫大な利益を齎した。防衛庁がらみの次期戦闘機も近畿商事の手に落ちた。
リンダ・ハワード著「夜を抱きしめて」、アイダホ州の片田舎トレイル・ストップ周囲を高い山で囲まれた行き止まりの場所、そんな場所でB&Bを営むケイト・ナイチンゲールは夫と死別して今は一人で四歳になる双子の面倒みながら生活している。ある日、宿泊客の男が断りもなく宿を抜け出して戻らない。そんな中で二人の男が銃を持ってB&Bにやってくることから、トレイル・ストップ村を巻き込んで大騒動が始まる。便利屋カルとの恋愛を絡めてミステリータッチで楽しませてくれる作品だ。
篠田真由美著「未明の家」、建築探偵櫻井京介シリーズの第一作だ。1994の作だ。東伊豆町の海に向かう傾斜地に建てられたスペイン風の別荘が今回の舞台だ。そこの主人が死んで孫の理緒から別荘の調査を依頼された京介、事件はそこから始まる。冗長性は否めないが、犯人特定のプロットが性急で少しがっかりもする。日本に存在する洋風建築とミステリーという設定を作者は関連を見事に具現している。
篠田真由美著「翡翠の城」、建築探偵櫻井京介が活躍シリーズで著者のこのシリーズは2冊目だ。日光と群馬県丸沼を舞台とする洋風建築に和風の瓦屋根を持つ碧水郭に纏わるミステリーだ。日光オグラ・ホテルに関連する同族系人物達の確襲を建物の歴史を絡めてのプロットは秀逸で十分楽しめる。少し冗長性は否めないが。
山崎豊子著「不毛地帯 1」、太平洋戦争当時大本営参謀だった壱岐正は、戦後ソ連に抑留され過酷な11年間を過ごし帰還した。ラーゲリと呼称される収容所でのシベリア抑留は精神力と日本帰還の希望を胸に過酷な日々を過ごす毎日だった。帰還後47歳の壱岐が第二の人生を選択したのは、近畿商事という商社であった。繊維取引を初め防衛機器までも貿易する大阪では名だたる商社だ。陸軍大卒の壱岐にとって場違いとも思われる会社であったが、社長の大門の口説きもあって就職する。そして社長大門の随行という立場でアメリカへの出張が決まる。
リンダ・ハワード著「くちづけは眠りの中で」、リリーはCIAの殺人エージェント、ヨーロッパを中心に国家の治安を維持すべく行動する秘密課員だ。イタリアのマフィアのボスサルバトーレをリリーの親友そして子供を殺害した犯人として彼女は毒薬で殺害した。その後彼女は殺害されたマフィアから追われる。そんな中、マフィアのウイルスばら撒きの計画とワクチン製造という飛んでもない利益儲けを企む実態を掴む。彼女と組んで同じ目的を持つ男は実はCIAの課員スウェインだ。二人はワクチン研究所を爆破するといった計画を見事に実行する。プロットといい情感の高い文体といいリーダビリティに優れた作品だ。
深町秋生著「果てしなき渇き」、暴力事件から刑事・警察を退職した藤島が抱えた問題は娘・加奈子の失踪であった。既に妻桐子とは離婚して一人暮らしだ。彼の警察官刑事としての本能なのか必死で捜索する姿は生きる姿を真摯に捉えている。チンピラヤクザとの拘わり薬物・買春組織へと娘の行動が次々と明らかになってゆく。それでも娘を信じ執拗に捜索する父親の姿、最終章は暴力によって娘の仇を討つというスリリングなミステリーだ。
ブラッドレー・ボンド著「ニンジャスレイヤー」、当にコミックの仮想の世界を垣間見た印象だ。作者は外国人らしい。暗躍するニンジャの凄絶な闘争が主題だ。人気漫画の世界は凄い。圧倒される。こんなのを読みたいと思う人間がいるといった感想だ。
リンダ・ハワード著「天使は涙を流さない」、著者の作品2作目だ。ニューヨークを舞台に麻薬王サリナスの愛人ドレアは、30歳を迎え現状から脱却しよと画策する。そんなある日サリナスが雇った殺し屋に体を弄ばれてしまう。彼女は遂にサリナスの元から逃走を企て必死に逃げる。がしかし殺し屋が彼女を追う。遂に逃走中に事故で意識不明の重体へ。再び生還する彼女を迎えたのは殺し屋サイモンだった。愛と生をテーマに一人の女性の不屈の精神をスリリングに表現して読者を飽きさせない。
降田天著「女王はかえらない」、北関東の片田舎町の針山小学校を舞台に起きった殺人事件、小学四年生の児童の純真性と残虐性を見事に描いた作品だ。学級の中での権力闘争そしてカースト的ヒエラルキーが確立しその中で生徒は右往左往する。夏祭りの夜の上った針山が殺害の現場になった。30数人の同級生が二人の対立する少女女王を殺害し沼に沈めた。20年後30歳になった同窓会で明らかとなる殺人の詳細、彼ら全員が漏らさず日常生活を続けるといった稀有なプロットはリーダビリティに富んだミステリーだ。
リンダ・ハワード著「吐息に灼かれて」、ジーナ・モデル彼女が主人公の物語だ。ひょんなことから、GOチーム・民間のテロ対策チームに配属になった彼女の生活と運命まで変化する事態となる。5か月にも及ぶ厳しい訓練に耐え実践に飛行機から飛び降りる落下傘の訓練を終えテロと殺戮の現場シリアに向かう。シリアでの彼女が体験した悲劇がその後の彼女の運命を変えることになる。チームのエースとの恋愛を絡めたラブロマンス・ミステリーとでもいった小説だ。