木曜日, 4月 29, 2021

山崎豊子著「沈まぬ太陽 二」,テヘラン赴任を受諾し現地に赴き、総務主任として業務に当たる恩地は絶望の中でも精一杯の努力を続ける毎日だった。家族を呼び寄せ生活が始まった。そんな中でさらに恩地を襲ったのはアフリカ大地のケニアへの赴任要請だった。どこまでも痛め付けられ僻地から僻地へと転々と振り回される生活に孤独と絶望を禁じえなかった。そに間に二度も海外で航空機事故を起こした国民航空への批判は強く、国会の場で社長および現組合委員長同席の元で尋問聞き取りが行われ、その席で沢泉委員長は恩地に対する会社の不当人事を指摘した。遂にアフリカを離れ帰国することが叶った。
山崎豊子著「沈まぬ太陽 一」,ナショナルフラグシップである国民航空で勤務している恩地元は、突然労働組合の委員長を引き受けざるを得なくなり、粉骨砕身組合活動に万進する日々だった。漸く二年の委員長の任期開けを待って会社側から提示された人事異動でパキスタンのカラチへの赴任が決まった総務主任として劣悪な環境下で妻子を呼び寄せ働く毎日だった。二年の赴任期間を後数か月残すのみとなったある日突然イランのテヘランへの移動が決まった。恩地の希望はズタズタに引き裂かれた。
麻耶雄高著「蛍」,京都の山間部にある黒づくめの館、その館は以前6人もの惨殺死体が出た場所であった。大学のサークル6名が館主の了解を得て合宿することになった。そして間もなく館主が探検を胸に刺され殺害された。以降館の奇妙な密室とも思われる構造中で次々と殺人が起き読者の犯人捜しの旅が強要され、結末はあっけに囚われる仕組みだ。伏線といいプロットといいこれぞミステリーといった傑作だ。
恩田陸著「夜のピクニック」,殺人もなければミステリー性も無い、北高という高校での夜の歩行祭、参加している高校生の遣り取りが不思議と心に響き人間の優しさを実感し青春を思い起こさせるそんな物語である。とに角歩く夜通し歩く中で高校生の仲間内での感情やら直に表現して心地よい読後感の爽やかさを実感できる名作ではないか。
松本清張著「花氷」、不動産業を営む粕谷為三は、ある寿司屋で二年前まで同棲していた女性霜井豊代子と偶然顔を合わせた。儲け話を常々希求していた粕谷が得たのは岩槻にある4万坪の国有地の払い下げだった。ブローカーの粕谷自身の手がけた女三人を使い銀行の支店長を抱き込み、代議士に工作を開始した。国有林の払い下げの許可が林野庁長官から降り後は大蔵官僚だけとなって有頂天となって粕谷と黒川支店長の前に来た知らせは却下されたというものだった。

火曜日, 3月 30, 2021

京極夏彦著「神社姫の森」、過去の事件の亡霊とも取れる人物が次々と登場して混乱を来たし、それに心理分析学者であったユングの理論まで持ち出され聊か閉口ぎみになる本書である。妄想に取りつかれ自己を見失い冥府との境界を右往左往するその本人は実は小説家の関口巽だったとは、京極堂の中禅寺秋彦は勿論榎木田礼次郎探偵までが登場するといった態である。
松本清張著「分離の時間」、2編の中短編が載っている中の第一編が、「分離の時間」である。九州出身の代議士八木沢が横浜のホテルで殺害されたこの事件に感心を寄せた土井と週刊誌記者の山岸ともに真相に迫るべく自分たちで捜査に臨んだ。石油会社の社長上杉とその愛人でホモの関係にある洋品店経営の高橋による愛憎が絡んだ殺人事件だった。2編目の作品は「速力の告発」である。1960年代のモータリゼーションが齎す交通事故での大量の死者の排出を電気店経営の木谷彼は妻子を事故で喪失している、自動車ディーラーから通産省を始め官庁にも訴えるのだが当然取り合って貰えず、故意に中古車に細工をしてエンコさせ渋滞を発生させ巻き込まれた運転者にメーカー告発のビラ配りをするといった作戦だ。
服部まゆみ著「この闇と光」、著者の作品を読むのは初めてである。この作品はミステリーとかファンタジーとかSFとか不思議なイメージだ。4歳の時病院から攫われた子供鬱蒼とした森の奥の屋敷それはある小説家の別荘だった。少年は少女として育てられ13歳になり、青山墓地で置き去りにされ発見された。当時盲目だった少年の成長過程で嗅ぎ取る様々な事象は敏感であった。異国のイメージを持って暮らしていた少年にとって発見され日本を知り戸惑いながらさらに成長し、そして少年を攫った犯人に対峙する最後の場面が印象的だ。
辻村深月著「スロウハイツの神様 下」、青春をスロウハイツで過ごしたクリエイター達が、大人になって行く葛藤、ジレンマさらに孤独、疎外感全てを体験しながらも、人間それぞれが持つ優しさ、そして気づかいがこの物語の根底にあり、読後感は清涼そのものである。チヨダ・コーキと赤羽環の心温まる愛情はまさにこの物語の根底にある。
辻村深月著「スロウハイツの神様 上」、脚本家赤羽環が手に入れた古びたアパート名前を「スロウハイツ」といい、そこには有名な漫画家のチヨダ・コーキを始め小説家志望やら画家やらが住んでいる。そしてスロウハイツに入ってくる人、そこから出て行く人ある日環に紹介されて入って来た美女は加々美莉利亜という女性だ。この加々美という女性とチヨダ・コーキとの関係が展開がどうなるのか?下巻へ。
蘇部健一著「六枚のとんかつ」、保険調査員の小野と部下の120kgも体重のある早乙女、この二人が出会う様々な事件をある時は推理作家の古藤の知恵を借りながら解決へと導いていく何とも発想豊かなパロディックなミステリーだ。著者のユーモアを感じさせる面白い作品である。
松本清張著「高台の家」、短編と中短編の2作品が収録されている。「高台の家」と「獄衣の女囚」である。高台の家では、瀟洒な洋館に住まう未亡人と夫を亡くした息子の嫁が織りなす汚れた欲望からの殺人事件、一方獄衣の女囚では男性が住むアパートと隣り合う女性が住むアパートで起こる不可解な連続殺人事件、金銭と愛欲とが混ざり合ういずれも楽しめるミステリーだ。
京極夏彦著「書楼弔堂 炎昼」、破暁と同じく奇妙な3階建ての書舗、弔堂を中心として主である中禅寺を中心として巡る人間夫々に人生感を披露する物語である。今回の弔堂への誘い人は、薩摩藩士の流れを汲む家のお嬢塔子です。彼女が様々な人との邂逅通して弔堂の主人と巡り合うその中には勝海舟を始め後の柳田國男でいるという豪華版です。
松本清張著「風紋」、食品会社に勤める今津は、社史編纂室に移動になった。ここは、会社の掃きだめである。一方会社では、強力な宣伝効果で新しく開発した食品と薬品の融合商品キャメラミンが大ヒットし会社は上向いた。この商品の開発に携わった島田専務、宣伝を企画担当した工藤宣伝部長、社長杠(ゆずりは)と幼友達の大山常務、これらの人間が奏功して絡み合う闇を描いたこの作品は1960年代に書かれたとは思えない印象だ。
京極夏彦著「書楼弔堂 破暁」、鄙びた坂道を登るとそこに三階建ての奇妙な建築物そうそれが書楼弔堂つまり古本屋である。そこの主は僧侶の出自というが誠に知識豊富な俗人である。その書楼に通うようになった暇な御仁は武家の出で高遠彬という、母上妻子が在りながら書楼近くの百姓家に一人暮らしている。弔堂の主人とこの高遠そして間に客人を挟み交わす会話は面白い、その客人というのが勝海舟、泉鏡花など著名人だ。

土曜日, 2月 27, 2021

松本清張著「花実のない森」、サラリーマン梅木隆介がドライブ途中車に乗せた夫婦と思われる二人、その妻とも思われる女性に強く惹かれ、その後に執拗にその女性追い続けることになった。その存在は梅木の人生をも左右する程日々の生活の中で重要な人となっていった。そして岩国に近い街の造り酒屋に行きつき女性の真実の姿を発見して呆然となった。
垣根亮介著「信長の原理」、信長の領土は急速に拡大し天下統一目前で明智光秀の謀反によって殺害される。信長の何が不幸招来させたのか?気性が激しく神仏を無きものと考え、己の力を信ずる稀に見る残酷な性格故、部下の多くは戦に次ぐ戦に狩出せれ、下知に答えずば罷業な制裁を覚悟しなくてはならない。光秀が仕えた信長はそういった人物だった。本能寺での信長の首を討つ覚悟しつつ迷っている光秀、家臣らの意見から思わぬ方向へと。人生の不条理を光秀を愛してやまない著者の快著である。
真山仁著「ダブルギアリング」、保険会社精和生命の生き残り戦略を掛けて、右往左往する人間模様を描いた作品だ。合併を願望する精和と内外のファンド並びに保険会社との駆け引き、金融庁担当者との擦り合わせ、顧客、被保険者の解約ラッシュいよいよ持って破綻が眼前に迫りくるそんな時、内部にいる人間の行動つまり生き方が問われる。
真山仁著「オペレーションZ」、現実の日本社会に警鐘を鳴らす、著者の徹底した調査の上に書き上げた力作だ。財政破綻目前の日本社会を救うべく江島総理が打ち出した歳出半減策、それを担当した財務省職員で組織された「オペレーションZ」が本書の題名となっている。日本の借金は既に1000兆円にも積み上げられ政治は策は無しという体たらく、そこに新型コロナウイルスの蔓延という憂き目に遭遇した日本は本当に大丈夫なのだろうか?読者を本気させる一作だ。
松本清張著「雑草群落 下」、明和製薬社長村上為蔵の絵画に対しうる興味が浮世絵それも肉筆画にあるとの情報得た正平は、和子の友人喜久子が匿っている絵描に浮世絵を書かせたそれも写楽と春信である。文科省技官の鑑定書を入れて無事社長の元に渡した。しかし数日後に明和製薬副社長から引き取りに来てほしいといわれ混乱する正平、自分の愛人和子と息子健吉の仲を疑う、錯綜し混乱する人間関係伏線を幾つも用意し辿り着く結末は。
真山仁著「プライド」、本書は、6編からなる短編集である。主題はプライド、だがプライドは人生そのものに結び付く概念だ。著者は農業に始まり、政界はたまた霞が関の公務員と様々な背景の中で右往左往する人間達をプライドという視点で描いている作品だ。
松本清張著「雑草群落 上」、古美術業界を舞台に都内で店を張る中堅古美術商「草美堂」の主高尾正平は、愛人野村和子を持っていた。彼女は料亭で働いている。正平は兼ねてより明和製薬の社長に取り入り商売をしたいと思っていた矢先、明和製薬の記念パーティーに出席を赦され大阪に赴いた。そこで彼女和子が実は明和製薬社長村上為蔵の隠し子だと判明、何とか彼女を出しにして社長に取り入る魂胆に腐心する。
ダビッド・ラーゲルクランツ著「ミレニアム6 下」、ミカエルは、国防大臣フォシェルが過去ヒマラヤ登頂時に事件の真相を掴む、その真相の結果としてニタ・リマつまりシェルパは真相を知っていた、そして殺害された。その事でミカエルは敵に拉致されアワやガラス工場の溶鉱炉に、その窮地を救ったのはリスベット・サランデルだった。彼ミカエルとサランデルは深い闇の中にも大人の友情を築いていた。これが愛なのか。
ダビッド・ラーゲルクランツ著「ミレニアム6 上」、ジャーナリストのミカエルは、依然としてリスベットと接触を保ち続けていた。ある日浮浪者然とした男が殺害された。その後のDNA鑑定調査でその男はヒマラヤ登頂のシェルパを職業としていた事が判明した。彼の死を調査するうちに、国防大臣まで連鎖する深い闇にミカエルは立ち向かう羽目になる。
京極夏彦著「邪魅の雫」、新書版で800頁を超える超長編作だ。榎木津の叔父から依頼された件、礼次郎の嫁候補の調査に益田は立ち上がる。どうにも解明出来ない連続殺人事件が平塚、大磯管内で発生した。連続殺人事件の様相を呈しているが、独立した事件のようにも見える。そしてこの事件を解決したのは根本は探偵榎木田礼次郎だ、その解釈を務めるのは憑き物落としの京極堂中禅寺だった。女の恋心が事件の奥に潜んでいた、傑作ミステリーだと思う。

土曜日, 1月 30, 2021

松本清張著「混声の森 下」、柳原学長を漸く落とし学長就任を承諾させ、石田は自らを新理事長へと階段を昇った。交通事故に遭遇し現学長を追い落とし作戦を端から見ていた石田は、強力な理事二人と事務局長の鈴木に任せ知らせを待つだけとなったが、事態は石田の考え通りに進展し安心した。学長の就任式を終え約一か月後に東京へ出向いた学長柳原の口から出た言葉は、石田の放遂であった。
松本清張著「混声の森 上」、若葉学園という女子大の専務理事にのし上がった石田謙一は、理事長の追い落としの野望と策略、私生活ではバーのマダムとの不倫はたまた若いホステスとの不倫、家庭では長男の家庭内暴力との狭間で揺れる男の心情を描き、中年男の悲哀と野望を見事にサスペンスタッチで表現している。
松本清張著「生けるパスカル」、2編を含む短編集である。前半の「六畳の生涯」は、長野から連れ合いを亡くし開業医の長男の6畳間に身を寄せる79歳の老人の物語で寂寥と孤独に苛まれ次第に家政婦に異常な情熱を燃やす老人の心の変化を見事にミステリー風に描いたものだ。後半の「生けるパスカル」はイタリアのノーベル文学賞作家の書いた小説を元に、芸術家の妻の凶暴でヒステリック性に辟易して生活している美術家の妻の殺害に至る経緯を書いたミステリーで共に傑作である。
京極夏彦著「狂骨の夢」、戦中戦後の混乱の中で起きる意外な殺人事件、その裏に伝統と神話に基づく宗教から守り抜こうとする絶対神それは髑髏であった。著者の豊富な蘊蓄とトリック、プロセスが榎木田礼次郎を始め中禅寺秋彦・京極堂作家の関口巽らによって詳細に語られる真実は真っ暗闇の中で灯る蝋燭の様である。超長編小説だ。
有栖川有栖著「臨床犯罪学者・火村英生の推理 Ⅱ」、5編が収録された短編集である。いずれもアリスと火村のコンビが事件を解決する物語だ。プロットといいトリックといい、短編には研ぎ澄まされたアイデアが詰め込まれていて、読者を飽きさせなく気軽に読めるミステリーだ。
松本清張著「翳った旋舞」、R新聞社の新入社員で調査部に配属された三沢順子は、ある日蓄積された写真から取り出して提出した1枚は違う男のものだった。結果、部課長が左遷され順子は責任を負い懊悩する。友人のバーのホステスとの交友、組織の中で生きる女、著者の女性感と悲哀を織り交ぜ、相も変わらず女性心理を極めた一冊だ。
綾辻行人著「鬼面館の殺人 下」、同姓同名の者たちを集めた、鬼面館の主人招待された全員に仮面が配られ顔を隠すことになった。深夜時間は起こった。当主が殺害され首なし手指なしといった死体が朝に発見された。ここで日向の代わりに招待された門矢門美が、探偵よろしく事件解決に向けまた鬼面館の設計者である中村青司のカラクリを探しつつ探し当てた犯人は意外にも鬼面館の第一世代の当主の身内だった。まあトリックが少し凝りすぎて漫画チックだ。
綾辻行人著「鬼面館の殺人 上」、東京でも場所が不明な程の奥地に建つ鬼面館つまり、鬼面を蒐集しかも鬼才建築家中村青司が設計した建物だという。ひょうんなことから友人日向京介に依頼され鹿谷門美は、鬼面館へと。そして当館の主である影山がある朝殺害された首なし死体でしかも10本の指全てが切断されていた。雪が降り続く鬼面館、果たして犯人は?。
松本清張著「アムステルダム運河殺人事件」、中短編2編だる。一方は「アムステルダム運河殺人事件」と「セント・アンドリュースの事件」である。著者は1964年に現地を取材して書いた作品だ。運河に浮かんだジュラルミンのスーツケースに詰め込まれたバラバラ死体事件、そしてセントアンドリュースでの友人ら3人で出かけゴルフをしたその夜殺害された事件、いずれの事件も警察が見切りと付けた事件だ。想像巡らした犯人捜しが面白い。なおセントアンドリュースには、20数年前に訪れゴルフを2ラウンドしていて、懐かしい思い出読んだ。
綾辻行人著「水車館の殺人」、以前著者の作品「十角館の殺人」を読んだが、今回はその二作目に当たる作品だ。舞台は近畿地方の山の中に建つ西欧の古代の城を彷彿させる三連水車の回る水車館、勿論設計は例の設計家である。館の当主は交通事故により今は忌まわしい傷跡を隠すため白い仮面を着けている、他には清純美貌の妻、執事、家政婦といった面々だ。年に一度藤沼画伯の作品を見に訪問する3人、訪れた日の夜は嵐であった。その夜殺人事件が発生する家政婦だった。その後次々と発生する殺人事件、数多の伏線を用意し最後はどんでん返しという本書は清張以降の若手の本格推理小説と認識されている。
京極夏彦著「鉄鼠の檻」、思わずため息が出る程分厚い文庫本である、多分1300頁を超える大作だ。舞台は箱根湯本から山側に歩いて数時間の所にある禅寺、妙恚寺だ。各宗派を含むまあ禅寺という寺、寺の手前に老舗の宿がありそこも今回の舞台になっている。寺の禅僧の一人が殺害され宿の庭の柏の樹の上に置かれた、不審な事件とみて元から寺の取材に来ていた京極堂の妹敦子と鳥口に加え役者が勢ぞろいする京極堂、関口、探偵榎木田礼次郎禅僧が次々と殺害され連続僧侶殺人事件に発展する。そして禅という宗教が持つ特殊な背景と事情が重なる事件だった。作者の蘊蓄には恐れ入る。
松本清張著「象の白い脚」、1960年代後半、舞台はラオスで都市はビエンチャンだ。作家志望の友人石田が、ビエンチャンを訪れ取材中に何者かに殺害された。友人の谷口はその5か月後ビエンチャンに乗り込んだ、当時は政情不安と貧困の渦巻く国で共産軍と米軍の支援する政府軍との戦闘が起きていた。友人の死を回り精力的に嗅ぎまわる谷口は徐々に解明の糸口を発見した。しかし彼もまた溺死体となってメコン川に浮かんだ。
高橋克彦著「かげゑ歌麿」、江戸の名絵師歌麿、奢侈・贅沢を禁ずる振れを出した老中松平定信、そんな江戸市中で歌麿の描く美人画もご法度となった。実の娘ゆうとの再会、娘との絵の協演を夢見る歌麿に刺客の手が伸びる。弟子の春朗、平賀源内、料理やの蘭郎、そして火盗改めの一之進らの援護で娘ゆうとの再会を果たす。
畠山健二著「本所おけら長屋 十五」、最新刊が上梓された。15冊目である。例によっておけら長屋に住む面々鉄斎、万造、松吉、お染にお咲等々が引き起こす事件や長屋の住人に関連する人達の面倒事を人情を交え人生の教訓としながら温かく解決してゆくそんな物語で落涙するほど素晴らしい。
松本清張著「黒の回廊」、ヨーロッパを周遊する女性のみの団体ローズ・ツアーを企画した王冠旅行者の添乗員、門田そして旅先で講師を務める江木奈岐子、彼女は旅行作家である出発直前となって江木は急な要件で辞退し代わりに土方悦子を推薦する事態となったが、ツアーは無事出発できた。アンカレッジからロンドンそしてスコットランドと、湖の畔の宿に着いたその夜事件が起きた。旅行者の2人の女性が溺死体で発見され地元警察とスコットランドヤードが動き真相解明に当たった。そして犯人は過去の忌まわしい経歴が暴露された。ヨーロッパの旅情を感じさせるミステリーだ。

水曜日, 12月 30, 2020

市川憂斗著「ジェリーフィッシュは凍らない」

市川憂斗著「ジェリーフィッシュは凍らない」、1980年初頭の設定で、真空気嚢航空艇幅40m高さ20mの航空艇をジェリーフィッシュと呼ぶ。この機体をさらにステルス型に改良開発すべく携わるUFA社の研究開発員たち5名は苦悩していた。そんな折紹介されたのが大学一年生のレベッカという女子学生で彼女は天性的な化学の知識を持ちステルスに使用できる素材の開発を示唆していた。だが、実験室でレイプされ青酸ガスを咥えさせられ殺害された。飛行艇は完成を見航行試験を実施しかし飛行艇の乗組員全員が殺害されるという事件がおこった。F署のマリアと漣刑事二人が捜査に当たり、意外な真犯人に遭遇する。

高橋克彦著「歌麿殺贋事件」

高橋克彦著「歌麿殺贋事件」、短編を再構成したという本書は、歌麿の浮世絵を中心に美術業界の裏側、贋作を取り巻く詐欺などを描き、中でも大学講師の塔馬宗太郎、美人秘書の菜緒子、美術雑誌編集者の杉原という、いつものメンバーが揃い事件を解決する。

高橋克彦著「火怨 下」

高橋克彦著「火怨 下」、遂に田村麻呂が征東将軍として全権を掌握して阿弖流為率いる蝦夷軍を殲滅する作戦に出た。戦も既に二十有余年になり四十近くなった阿弖流為はただ只管無暗に争う事を考え直し蝦夷の民さらに児や孫の幸福を考えて作戦に出る。見事に田村麻呂の裏を欠き成功し自らは京に上り大阪の地にて斬首された。友との友情と民の幸せを想う先導を務める将として何たるかを示す長編小説だ。

高橋克彦著「火怨 上」

高橋克彦著「火怨 上」、平安時代に東北は蝦夷での地元と朝廷派遣軍との戦を描いた物語だ。蝦夷近郊に金が出土された情報は朝廷を喜ばせ大仏等の仏像や寺院の建立に役立つとの理由からこの地を略奪せんと軍を派遣したのである。蝦夷の地元の軍勢にあって阿弖流為を筆頭に母礼ら優秀な人物を揃えた軍勢は数では圧倒的に上回る朝廷軍に策を練り果敢に戦い勝利を収め敵方を撤退させた。

京極夏彦著「陰摩羅鬼の瑕」

京極夏彦著「陰摩羅鬼の瑕」、文庫本にして1200頁に及ぶ長超編ミステリーである。例の人物たちが勢ぞろいする、榎木田礼次郎探偵、小説家関口巽、京極堂中禅寺秋彦達が活躍する。事件は白樺湖畔に建つ瀟洒な洋館で発生する連続殺人事件である。当主由良の新妻は婚約し新婚初夜を過ぎた翌日、決まって殺害されるという事件である。特殊な環境、人間関係の中で生育した当主の鬱屈した人生を反映した事件であった。それにしても長編だ。

高橋克彦著「写楽殺人事件」

高橋克彦著「写楽殺人事件」、たった10か月余りで、140点もの作品を残した浮世絵師東洲斎写楽とは一体誰だったのか?著者のミステリーの主題はここにある。江戸期版元の蔦屋重三郎下で作品を世に問うた写楽。美大に勤務する津田は秋田への旅行で秋田藩が江戸文化深く拘わり秋田蘭画の絵師が写楽と関連しているのではと気づく。浮世絵界の二大派閥勢力の狭間で次々と発生する殺人事件、大学内での陋習、権利と欲が重なる歴史ミステリーだ。

高橋克彦著「広重殺人事件」

高橋克彦著「広重殺人事件」、著者の写楽、北斎に次ぐ広重殺人事件である。広重コロナによる死亡説を覆したのは中学教師の津田だった。深刻な病を負い津田と妻の冴子は東北の立石寺を訪れた時、妻冴子は五大堂から身を投げた。その後大学で浮世絵就中写楽の研究者塔間宋太郎と美術誌の記者である杉原とともに広重の調査に乗り出す。そんな折に津田が自殺した。彼の意を受け継ぎ、突き止めたのは写楽と東北天童との繋がりだった。彼広重は勤皇派で幕府を恐れ天童に滞在していた事実を掴む。そして幕府の手により殺害された。

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 下」

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 下」、東京に戻ってから勝手知ったる大学で浮世絵を研究している塔間と知人の美術専門誌を発刊担当の杉原と共に事件の詳細を追う。由梨子の母の他殺、シュミットの失踪、モサドのサミュエルの殺害と殺人事件が相次ぐ状況は読者を混乱させる。マーゴと共にオルセー美術館に勤務する学芸員ロベールの存在が俄かに浮上する。正にどんでん返しの結末だ。多数の伏線を重ね、詳細なゴッホの調査もとに練られたミステリーには感動だ。

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 上」

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 上」,パリに絵画修復師として在住する加納由梨子は、友人の美術館勤務のマーゴとゴッホの死の真相を探るべくアイントフォーヘンへ自動車で旅に出た。そこで昔のゴッホの記事が載っている雑誌を買わないかと持ち掛けた青年シュミットと出会う。由梨子の母の自殺、スイスはレマン湖の近在で殺害された日系人そしてシュミットも行方不明。パーティの席で友人マーゴが爆弾により殺害された。見えない敵に恐怖する由梨子、ゴッホの絵画を回り暗躍するモサド。

下村敦史著「闇に香る嘘」

下村敦史著「闇に香る嘘」,著者の作品は初めてで、本作品は第60回「江戸川乱歩賞」入選作品だという。第二次世界大戦中満州に渡り苦難の末に帰国した日本人並びに満州に置き去りにされた残留孤児という背景の中で物語展開してゆく。村上和久盲目の父親だ、実は実家の岩手の兄を偽物だと強い疑念を持ち方々に当たり今だ核心ができないで苦悩する姿、周辺に漂う不穏な出来事が彼を翻弄する。様々な伏線を最後の展開で開花させるどんでん返しは、そのプロットといい完璧だ。
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月曜日, 11月 30, 2020

松本清張著「地の骨 下」.東陽銀行東京支店長の息子秀夫と京子との関係は既に稲木助教授と深い中になってから、あらゆる嫌がらせを京子に掛け続けていた。一方川西教授はその秀夫から極秘の大学の専務理事有田の裏金疑惑を証明する資料を入手する。折から大学の授業料値上げに反対する学園闘争が始まり、川西はそれを利用して専務理事の失脚を狙う。大学内での教師たちの学外での色と欲そして地位と金とあらゆる世の中の汚泥をかき回すそして行きつく先は刃傷沙汰となる。それにしても著者の女性の描写心理は絶妙である。
松本清張著「地の骨 上」、大和大学を舞台に助教授の稲木さらに教授の川西など、学内の派閥を背景に醜い争いが続く。稲木助教授は、バーの女啓子と知り合い深い関係になったある夜連れ込み宿から帰る途中タクシーの車内に入試の原稿を置き忘れ青ざめ事態の深刻さに気付き学部長の相談する。紛失した日から一週間後、大学に稲木を訪ねた来た男性が、なんと原稿を持って来てくれた。安堵とともに感謝の気持ちを表すため、訪ねた松濤のその家は果たしてホテルを経営する楢沢京子で美人で実業家であった。一目で惚れた稲木は悪戦苦闘の結果、彼女をモノにする。下巻へ
真山仁著「標的」、本当にリアルな描写が本書にはある。著者が依然記者だとしった。綿密な調査を資料を基にする彼の小説はプロットはよりリアルで面白い。越村みやび代議士厚労大臣だ。サ高住に代表される高齢者介護健全化法案の成立を自分の使命と考える大臣を贈収賄容疑で起訴するべく奮闘する検事、富永真一そして事件に絡む新聞記者神林、増収容疑の楽田はコンサルで越村代議士と組みサ高住に絡む利権を一手にしようと企む青年実業家と伏線は見事で読者を一気に頁を繰らせる迫力がある。
芦沢央著「許されようとは思いません」、著者の作品を読むのは初めてだ。5つの短編が綴られている。どの短編もプロットといい、一人称形式で語られる心理描写の上手さとふとした日常から落ちて行く描写の巧みさは読者をどこまでも不安にさせ先を繰らせる力がある。
松本清張著「網」、戦友で今や北陸の小都市で新聞社の社長となった沼田から新聞連載の小説の依頼が小西のところに来た。原稿料の他に金額を上乗せして渡すと、そして上乗せした金額は依頼人が受取りに行くと言う。折から総選挙になり沼田のいるN県では保守派3人の争いとなった。落選した青山という候補の選挙総参謀もまた沼田、小西とって勝手の軍隊時代の上官であった。その上官の土井が山林の林道脇で数か月経った死体となって発見された。小西は調査を進めたそして遂に真相に、そこには戦争体験した人間関係と現実社会の狭間で苦悩する人間の葛藤があった。
東野圭吾著「夢幻花」、独居老人が殺害された。偏見したのは孫の秋山梨乃だった。祖父に最近記されていたアサガオの変種黄色の花を付けるという植物を栽培していたということを梨乃は知っていた。警視庁は事件の本部を立上げ捜査に当たるが一向に進展が見られず迷宮入りかと思われ居た。そんな捜査陣の中で早瀬という警部だけが執拗に個別捜査を展開し突破口を見つけた。その変種のアサガオはその昔夢幻花と呼称され幻覚作用があるとされ国家的な機密事項だったという。これをプロットの中心に置き、不随する線を複数取り揃え展開してゆく著者の技量に何時もながら感心させられる。
京極夏彦著「絡新婦の理」、本書は大作である、新書版で2段書きで800頁を超える。今回も役者として登場するのは、例の榎木田礼次郎探偵、京極堂主人中禅寺、榎木田礼次郎探偵に弟子入りした元刑事の益田である。千葉県の海岸べりに建つ瀟洒なベルナール女学院が舞台となり、その学院を作った織作家代々続く家系その呪われた血筋が連続殺人事件に作用する。憑き物落としお祓い師、京極堂中禅寺が血塗られた扉体を解明し活躍する。
ドット・ハチソン著「蝶のいた庭」、そこは『ガーデン』と呼ばれ、滝あり池あり小川あり崖まである広い庭である。そこに誘拐された女性しかも十代後半から20代前半までの二十数名が拉致監禁され、様々な蝶のタトウーを入れられ『ガーデン』で生活をしている。親父を彼女たちは庭師と呼び、長男、次男、妻、一家で暮らしている。彼女達は暴行されレイプされ意に逆らう女性は、ホルムアルデヒド付けとなりガラスケースに飾られる。次男のデヅモンドはマヤに好意を寄せ滔々警察に通報し彼女達は解放された。解放後マヤ、イナーラがFBI特別捜査官の尋問に答えて全貌が徐々に明らかにされる。地獄のような環境でも未来を見、同僚達の面倒みて果敢に生きて行く女性の逞しい姿を描いてい入る。
C・デイリー・キング著「タラント氏の事件簿」、短編8作が盛り込まれた本書は、報酬なしで謎を含む事件を解決する民間探偵タラント氏の事件簿である。語りてのジェリーにより、タラント氏の考古学、心理学から物理学まで卓越した頭脳の持ち主だ、その知識をフル活用して事件を想わぬ発想で解明する。エラリー・クイーンにも似た手法であり、本書の方が起こる事件は奇抜だ。
松本清張著「喪失の儀礼」、名古屋の医学学会に出席した住田が、殺害された。名古屋県警が必死に捜査するが、杳として犯人像が浮かばない。その後、東京での個人医院の院長が殺害され、さらに薬剤会社の営業マンが殺害と連続して事件は発生。読者に最後まで犯人像を特定できないプロットといい、最後の犯罪動機の人間の心理、家族間の相克と著者らしい動機付けである。
真山仁著「マグマ」、通称ハゲタカファンドと呼称される米国のファンド会社のエリート社員野上妙子、厳命が下った。大分の小さな地熱発電会社の再生だった。地球のマグマの発生する地熱を汲み上げ水蒸気を利用してタービンを回す発電それが地熱発電だ。エリート社員野上が悪戦苦闘する姿、地熱発電に生涯を賭して研究する御室、利権が絡む政治家、地域の温泉組合と様々な反発要素を分析してプロットする作者の綿密な調査に基づく小説である。人間のドラマがここにある。
松本清張著「影の地帯」,1960年代の長編である。新進気鋭のカメラマン田代利介が、東京へ向かう機内で出会った女性を契機に事件の渦中に引っ張りだされる。銀座のバーのマダムが雑木林で殺害死体となって発見され、さらにタクシー運転手が天竜川の渓谷で殺害された。彼は関連を調査しながら、核心に近づいて行く。政党の領袖とされる代議士の拉致誘拐、マダムの死、運転手の死、さらに友人である雑誌社の部長の失踪、そして全ては繋がった。信州の湖の風景と社会悪と人間の良心とを見事にミステリーの中で描く技量こそ著者の真骨頂だ。
松本清張著「水の炎」、1960年代初頭の作品である。主人公は東都相互銀行常務塩川弘治を夫に持つ妻信子である。野心に燃える夫は観光開発会社の社長徳山を踏み台に今や財界の大物とされる是土慶次郎に身を寄せて出世を願う男であった。夫婦の間は冷え切り、夫は若い愛人を持ち妻は学問に興味を惹かれ通信教育で夏はスクーリングに通う。そこで知り合ったのが助教授の浅野であった。彼は信子を一途に思い続け志ならず、自殺するはめになる。錯綜する現代社会で塩川がまた信子が翻弄されてゆく中で自らの立ち位置を確かめ、未来へ踏み出す決意をする信子であった。
東野圭吾著「流星の絆」、長編小説だ。14年前に父母を殺害された兄弟3人、長兄の功一次男の泰輔そして長女静奈、3人は施設を無事卒業して今や詐欺師として生活をしている。しかし兄弟は父母を殺害された犯人を何時か挙げるその覚悟で日々を過ごした。彼らの家はアリアケという洋食店だった。親父は天才と呼ばれるほどの料理人で中でもハヤシライスは定評があった。詐欺の対象者からトガミ亭という洋食屋を知り、親父の作っていたハヤシライスを食べさらに泰輔が殺害された夜見たのはトガミ亭の親父だったと。三人は思案してトガミ亭の主人に接近する。そして結末は思わぬ流れに。
ジョン・ダグラス著「マインドハンター」、著者は実際にFBIの捜査官として働き、行動科学を主に1960年代から80年代に活躍したプロファイラーによるドキュメンタリー的小説である。プロファイリングを高めるため、数百人の受刑者を訪ねデータベース化をするなど努力を重ねてプロファイルをFBIの中で行動科学、犯罪支援課として立ち上げた重要な人物である。それにしても米国では女性をレイプし切り刻むといった連続殺人事件が多い。背景には混沌とする社会の現状、パーソナリティを無視した流れがあるのではないかと思われる。

火曜日, 10月 27, 2020

松本清張著「地の指 下」

松本清張著「地の指 下」、犯罪の関連を知ったタクシー運転手三上は、都庁職員山中とともに青梅に死体となって捨てられた。看護婦の扼殺、精神病院看護人の轢殺、バーのホステスで山中の愛人マユミの殺害と連続殺人事件となった。精神病院を中心として利権に絡み思惑を巡らし犯罪を行う人間たち、都庁の職員までも抱き込み目的を遂げようとする犯罪者達、これを警視庁の桑木警部が果敢に挑む、結末は意外な所にあった。社会正義と犯罪サスペンスを見事に融合させた著者ならではの作品だ。

松本清張著「地の指 上」

松本清張著「地の指 上」、都庁職員の山中は銀座のバーのホステスとタクシーに乗車中、路傍に仆れて居る死体に遭遇した。警視庁の警部の桑木が捜査に当たった。その後雑木林で発見された遺体は、近くの精神病院の看護婦であった。山中が乗り合わせたタクシーの運転手三上は、山中を付け回し一介の都庁職員が銀座のバーで飲むのを不審に思い関連を調査することにした。そこで浮かんだのは精神病院の事務長、都議、そして山中だった。

松本清張著「熱い絹 下」

松本清張著「熱い絹 下」、マレーシアのキャメロンハイランドの別荘から忽然と姿を消したジェームス・ウィルバーを廻りマレーシア警察野戦隊、英国駐留軍そして長谷部捜査本部長らの懸命な捜査に関わらず一向に先の見えない現状である。折しも日本の舞踏団がキャメロンハイランドで興行する話が出る。また興行団の祈祷士廣澤がクルス荘の帰りに吹きやで殺害される。また公演中にも二人が殺害され状況は複雑に絡み合い真相は程遠いところにある。この紐帯を長谷部警部は見事に解くといったミステリーだが、著者は実際の事件をフィクション化したものだという。伏線を複数用意し容易に謎解きできない本書は長編だが読み応え満載だ。

松本清張著「熱い絹 上」

松本清張著「熱い絹 上」、軽井沢の別荘で殺害されたフランシス・ウィルバー事件を廻り、長野県警の捜査一課長長谷部は捜査に乗り出す。殺害された彼女の兄ジェイムス・ウィルバーは、タイのシルク王と呼ばれ莫大な財産を有する資産家であった。しかし彼はマレーシアのキャメロンハイランドの別荘から忽然と姿を消した。そんな折夏季の間、骨董屋にバイトしていた佐久出身の高橋不二夫青年が蝶採取旅行中キャメロンハイランドで殺害された。長谷部は村田と警察庁の通訳警官と三人でキャメロンハイランドに向かった。ICPOの取り決めで軽井沢殺害されたフランシス事件と高橋青年殺害の情報を交換するためだった。

松本清張著「殺人行おくのほそ道 下」

松本清張著「殺人行おくのほそ道 下」、倉田麻佐子は調査を進める中で下っての同級生西村は経済関係の新聞社に勤めそこの記者だ、彼と共同調査を開始する。叔母隆子の回りの人々が連続して殺害されてゆく。犯人の検討が付かないばかりか、物語の先行きに興味が次々と沸き起こる、このミステリーの醍醐味を見事に味合わせてくれる本書は絶品だ。叔母隆子の借金の背景には、彼女の幼少期の暗くて悍ましい過去があった。

松本清張著「殺人行おくのほそ道 上」

松本清張著「殺人行おくのほそ道 上」、倉田麻佐子の叔母の芦名隆子は銀座でも有名な洋装店(ブティック)を経営していて、知名度も徐々に上がり繁盛していた。隆子の夫の信雄に誘われ勝って芭蕉が歩いたおくのほそ道に麻佐子は同行した。その後信雄の実家の九州にも麻佐子は同行したそこで信雄に内緒で隆子が山林の一部を処分したことを知った。麻佐子は疑問を持ち調べてみることに、隆子は女優の仲介で京都の金融業岸井亥之吉からも謝金している知る。ある日岸井老人が東京に来た折に老人に遭い、ホテルの部屋まで押しかけ疑問を口にすると、岸井老人は調べてみるといった。しかし麻佐子を遭った翌日福島県須賀川の山林で岸井老人の絞殺死体が発見された。

真山仁著「ベイジン 下」

真山仁著「ベイジン 下」、耐震を強化し只管北京オリンピックの開幕に合わせ紅陽核電の運開を企図する田島を含めたスタッフ全員の希望だった。無事に運開を乗り切った直後に紅陽核電内に火災が発生、右往左往する中で中国の大連綱紀粛正党副書記学好耕とも気脈を通じ合い、メルトダウンに立ち向かう姿は、忍耐と希望そして人と人との信頼を見事に描き出している。

真山仁著「ベイジン 上」

真山仁著「ベイジン 上」、中国は遼寧省の遼東半島に北京オリンピック開催と同時に巨大な原子力発電所を建設し運開するといった巨大プロジェクトに日本から技術顧問として中国に渡った田島伸吾は、中国の利権、収賄、汚職が至るところに蔓延る世界に彷徨しながら計画を推し進めるべく努力していた。田島が中国のメンバーを引き連れ日本に赴きそこで告げられたのは、紅陽核電の立地する土地は活断層が2つあり原設計では耐震できないと言われた。

松本清張著「神々の乱心 下」

松本清張著「神々の乱心 下」、荻園康之と特高警察係長吉屋は、渡良瀬遊水地での死体遺棄事件を執拗に捜査するが、根は深く元は満州国でのアヘンの密売に関わった特売人の所に行きつく、そこで秋元なる元特務員の正体が明かされる。彼は未亡人を抱き込み埼玉の田舎で新興宗教を立上げ、軍部の役人や宮中の糯持をも抱き込んで行く。著者晩年の作であり、小説事態は未完となっている。著者の晩年の仕事としては、豊富な取材調査そして歴史への道恵深い知識の上に壮大に組み立てられた本書は正に圧巻である。

松本清張著「神々の乱心 上」

松本清張著「神々の乱心 上」、昭和初期渡良瀬遊水地で発見された二体の遺体、県警は殺人事件と断定して捜査を進める。警察に先立って元華族の孫に当たる荻園康之は姉にあたる彰子から部屋子の北村幸子の葬儀に名代として参列してくれと依頼されたのを契機に自殺した幸子の原因に疑問を持ち調査を開始し、事は満州国での阿片密売に辿り着く。警察も荻園より遅れて殺害された一体が、阿片密売に関わっていたと解明、そうしてもう一体は奈良の骨董屋だと言う。

水曜日, 9月 30, 2020

稲村文吾著「元年春之祭」中国は前漢時代で観家を訪問した葵(き)という17歳の少女を中心として親しくなった露伸とともに、4年前の殺人事件そして現在の連続殺人事件の解明に挑む物語である。前漢時代の因習と家に縛られる運命を背負う人々、そして友情、師弟関係、人々との関係の中で起こる殺人事件はやり切れない愛情表現として描き出した作者の渾身の一冊だ。
松本清張著「球形の荒野 下」戦中スイスで一等書記官としていた野上は、戦争早期終結に動いた罪を外務省は彼を故人として国籍を剥奪、戦後再度日本を訪れた野上はどうしても自分の娘久美子に一目会いたかった。戦後陸軍にいた皇国のグループが野上を追走し殺人を犯す。謀略、殺人、親子の愛情と日本の原風景の見事な描写は読者を飽きさせない。
松本清張著「球形の荒野 上」外務所一等書記官の野上は終戦前、スイスで死亡した。部下である国際交流協会理事の勧めで画家のモデルを依頼された野上久美子は3日間の約束でモデルとなった、が三日目に画家宅に伺うと留守であった。画家は多量の睡眠薬を飲み死亡したことをしった。しかも彼が描いたデッサン画が紛失していた。一方叔母の芦村節子は京都のお寺参りで芳名帳に野上賢一郎の筆跡を見たという。
ピエール・ルメートル著「監禁面接」もう4年も就活を行っているアラン、妻ニコルは英語教師彼は蓄えを削りながら生活をする状態だ。そんな折、大手メジャーへの就職志願をする。なんと会社を襲撃するプレイングゲームだという、人事担当職を募集しその志願候補者にモニターで逐一見学させ適切な対応をさせる。それを会社の重役連が観察し採用決定するといった。破天荒なアイデアだ。アランは周到な準備をすすめ、試験に臨む。そこで彼が見せたのは見学でなく自ら本物の銃を使用して恫喝するといったものだった。取り押さえられ拘置所にぶち込まれたアランに起きた事はまさにどんでん返しだった。失業者の悲哀と大手会社の不正、私服を肥やす役員愛する妻娘を思いやる男の悲哀を見事に描いている傑作だ。
東野圭吾著「マスカレード・イブ」チェーンを展開するホテル、コステリアそこのクラークである山岸、ホテルに関連ずけた事件が発生。ユニークで今までにない発想はソフトミステリー的な物語となっている。だが、少し物足りなさを感ずるのは私だけであろうか。
松本清張著「巨人の磯」著者1970年代の短編5編が載っている。著者の古代史に対する造詣とロジック及びプロットそして殺人トリックとがふんだんに盛られた短編集である。読み応えと共に古代史を絡めた殺人ミステリーとどの短編をとっても読者を飽きさせず最後まで頁を繰らせる秀作だ。
京極夏彦著「書桜弔堂」、都内の辺鄙な一廓にその本屋はある。高遠は30代であるが、妻子を於いて実家より出て空き農家を借りて一人住まいで自堕落な生活を送っている。がその彼の元へやってくる客人は勝海舟ありと言わば著名人なのである。その人たちを弔堂へと案内し主の蘊蓄を聞かされ客人は誰もが目覚めて行く、主の蘊蓄と博学は底を知らぬ程である。数千冊の蔵書に囲まれ本を弔うという主の言葉は人生を達観したものである。著者のミステリー小説とは一味違った趣である。
松本清張著「波の塔 下」、頼子の夫庸雄は省庁と業者との仲介をして金を稼ぐ闇の商売人である。そんな彼の元で事件が発覚して拘置される事態となった。小野木と頼子との仲は続き、頼子は庸雄との離婚を決意する。そんな中で持ち上がった省庁が絡む疑獄事件は頼子との仲を暴露された小野木は失職することになった。社会の闇の底に沈んで行く二人、そして頼子という女性の想像、作者の恋愛観そして愛の結論として死すべてにおいて一大恋愛小説である。
松本清張著「波の塔 上」、R省の局長を務める父を持つ田沢輪香子は、旅先で古代ものが好きな青年小野木と出会う。そして深大寺を散策している時、再度小野木と出会う、帯同していたのは影のある細面の美人の頼子であった。逢瀬を重ねながらも小野木は頼子の心を必死に読もうと日夜情念の迸りを感ずる毎日であった。頼子の夫結城康雄は商事会社の社長であった。ブローカーとも株取引を主にしているとも判断のつかない会社だった。
池井戸潤著「金融探偵」、著者のこれまで読んできた小説とは、ちょっと違う趣のあるソフトミステリー的小説である。大原次郎は銀行破綻により解雇され求職中である。見つけたアパートで一人住まい、大屋の相談を解決したこと、さらに大屋の娘理香の勧めもあり金融探偵として出発、正義感と少し照れ屋の主人公が活躍する物語である。
京極夏彦著「塗仏の宴」、
東野圭吾著「宿命」、
松本清張著「水の肌」、短編集で5編を含んでいる。どれも秀逸であり、日常の中に潜む殺人そして動機を見事に描き出している。著者が留意するのは動機であり、社会の中の一種暗い部分に潜んでいて突然顔を出す。それは静かに横たわる恐怖というべきか。人間の弱さななか?
堂場瞬一著「闇の叫び」、大友鉄、警視庁総務課のアナザーフェイスシリーズ9だ。中学校で親に虐待を受けた生徒の親が殺害される。十年前にも起きた事件だ。それも連続殺人事件だ。当たりを付け、容疑者として浮かんだのは教師の前田だった。彼を捜査に参加した大友を初め、柴、渥美いつものメンバーが集合、容疑者前田を捜査する中で幼い頃彼の父親に兄妹二人が虐待を受けた事実が判明、大友は自分の境遇と重ね合わせ前田を落とす。虐待、孤独、不条理そして犯罪へと。
伊坂幸太郎著「ラッシュライフ」、五つの舞台というか人間関係を作り上げ、様々な場面や人生を彷彿とさせる言葉を吐き、最初は関連など全くない状況が続き、最終的には様々な人生、諦観、孤独、不条理性に収れんしていく過程が、ロジックといいプロットといい素晴らしい。前に著者の物を読んでいるが、再び登場するなど懐かしさもあってこれはこれで傑作だ。

日曜日, 8月 30, 2020

松本清張著「霧の会議 下」、ランスに入港した二人、信夫と和子は様々な土地を回りニースに到着、そこで待っていたのは身代わりとして殺害された和子の夫仁一郎と銀座のホステス麻子だった。和子は信夫をフィレンツェに返し叔父である白川の援助でスイスに渡る。政経日報ローマ支局員の八木正八は、精神武装世界会議に出席した春子と共に和子の行方をスイスの隣国の鄙びた山村の修道院兼病院で和子が自殺した旨を聞く。ヨーロッパを舞台にロンソン、パリ、イタリアローマ、モナコスイスと異国情緒と男女間の愛の放浪、ヴァチカン、フリーメイソンそしてマフィアが暗躍する小説の醍醐味は絶品であった。
松本清張著「霧の会議 上」、著者の長編小説である。上巻はロンドンを舞台に日本から来たイタリア留学を目指している大学教授と和子という人妻勿論不倫の関係にある二人。彼らはイタリアの財界の著名人と同一ホテルに滞在しかつ隣室であった。興味本位で備考した先に見たのは殺人であった。それも偽装殺人、テムズ川の橋桁につるされた死体は隣人のネルビというイタリアでは著名な銀行の頭取だった。その現場を見た二人は何者かに追跡され逃げるようにドーヴァー海峡を渡りフランスに入った
フェルディナント・フォン・シーラッハ著「犯罪」、様々な犯罪を取り上げ、そこで発生し起きた犯罪と犯人の人生を絞殺するといった特異な発想を試みた本作は往年の名著と呼ばれた。裁判と弁護が被疑者に与える様々な葛藤、法律の条文と実際の犯罪と犯人の心理及び境遇を映し出す。短編でありながら余すことなく人生を浮き彫りにする手腕には思わず感嘆する一連の物語だ。
ジェフリー・ディーヴァー著「カッティング・エッジ」、ニューヨークの宝飾専門店街で起きた殺人事件を契機に次々と発生する連続殺人事件、天才科学捜査官リンカーン・ライムと市警アメリア・サックス刑事のコンビが活躍する待望の新刊だ。ロジックといいプロットといい、完璧だ。最後のどんでん返しまでちゃんと用意されている。文庫本にしたら1000頁もありそうな長編ミステリーだが、期待しながら犯人を想像する楽しみは健在だ。
松本清張著「砂漠の塩」、泰子と真吉の求めた愛とは、つまり愛と死という普遍のテーマを見事に結実させた著者の渾身の作で読み応えがある。夫を捨て真吉を死を覚悟した泰子にとって真吉を当初拒むその理由は何だったろか?自分の夫保雄に対しての贖罪なのか?バグダッドへ向かう途中で病に倒れた真吉を必死に介護する泰子の献身的な愛、死を決意する二人、愛を証明する死を見た。
乙一著「夏と花火と私の死体」、ある夏の夜、9歳になる少女五月ちゃんが同い年の弥生ちゃんに殺されてしまう。しかしその後の展開は実に奇妙だ。死んだ五月ちゃんの一人称形式で語られる物語だ。そこはかとなくうすら寒い恐怖と孤独と非日常性が、微妙にバランスを保ち物語を構成している。しかも著者16歳の時の作品だという。ソフトホラーでありソフトミステリー作品だ。
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ピーター・スワンソン著「そしてミランダを殺す」、叙述形式で語られる殺人ミステリーだ。著者のロジックといいプロットといい感心しきりである。リリーが出会った英国ヒースロー空港でのテッドから殺人を教唆され同意する異色の展開から始まり、彼女のサイコパス的心理読者を恐怖させる孤独と残虐性、独自性は秀逸だ。どんでん返し的な場面を随所に散りばめ最後のページまで繰らせる力がこの小説にはある。
麻耶雄嵩著「翼ある闇」、舞台は京都中心から離れた洋館、蒼鴉城という古風な謎めいた洋館を舞台にそこに住まう10人からの人間は皆異色で世の中から隔絶された存在、そんな洋館の中で次々と発生する殺人事件、これに呼応するような探偵が知恵を絞り解明すべく努力する。そして最後までどんでん返しの連続で読者を欺き終わる。意図せず読者を翻弄するプロット、ロジック、舞台設定に唖然とする外ない。
松本清張著「顔・白い闇」、短編を5編収録したミステリーだ。著者の女性を主人公にした物語は孤独、寂寥感、貧困、不条理性を背景にふとした日常から派生する殺人事件を見事に浮かび上がらせる途方もない力がある。短編は短編なりの状況設定とプロットはあろうが、どの編を読んでも感心するほどの出来栄えだ。
北村薫著「盤上の敵」、日常の中に潜む恐怖、孤独、儚さそれらに敢然と立ち向かい愛情を持ち人生を生きるそんなミステリーだ。物語は二元的に進み、人質に取られた妻友貴子を必死に救出しようとする夫、悪までも太々しい犯人、ふとした日常の中で実行される殺人と伏線を用意して進行する物語。友貴子の小学生からの過去と物語は複雑に絡む人間社会の平穏でいて一気に崩れ去る危険を描きだしている。
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