土曜日, 12月 29, 2018

篠田真由美著「原罪の庭」、建築家探偵櫻井京介シリーズ、この書で蒼の正体が明かされる。姉妹等親族関係の血みどろ愛憎がやがて殺人事件として表出し神代教授とともに櫻井京介が登壇する。血の繋がりが、血でもって制裁する横溝正史ばりではないが淀んだ殺人事件の真相は常套句のようだ。著者の作品は冗長性を否めないが、それでも読んで楽しい。
真山仁著「グリード 下」、遂に米国大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻デフォルトとなった。そんな渦中でGC、AD名門企業買収に全神経を集中させ買い叩く、その戦略に絡む巨大投資家サミュエルそして当の各企業の社長以下役員は右往左往し、筋違いの最後の戦略を立てるが既に遅かった。ハゲタカファンド・サムライキャピタルの当主鷲津とそのチームの攻防は経済小説でありながら、まさにミステリー小説だ。
山崎豊子著「不毛地帯 4」、米国自動車大手と日本の自動車の提携を目論んだ壱岐だったが、副社長の怒りを買い交渉の全権が副社長に移行したが結果は惨憺たるものだった。壱岐は、米国支社長から日本へ帰国し外資統括部を率いるナンバー3の専務として業務を遂行する中で浮上したイラン石油鉱区の探鉱と製油所建設の入札を前に競合他社との熾烈な競争、官財界役人を巻き込んだ淀み切った渦の中へと身を挺す。
太朗想史郎著「トギオ」、首都東暁で暮らす主人公は殺人者として生き、様々な人物たちとの拘わり暴力、殺人、ドラッグ、貧困、悪臭など凡そ現実世界の究極を描いた空想とも思えるあり得なく難解で理解できない世界に生きている。背景もプロットも朧で一本筋の通ったところがない。これがミステリー大賞受賞作とは理解できない。
真山仁著「グリード 上」、米国金融危機つまりリーマンショック時の物語だ。ハゲタカファンド鷲津はニューヨークでサムライキャピタルを運営している。危機に際してのファンドや投資銀行の確執が鮮明になって、情報戦が繰り広げられる。巨大な投資の神様と呼称されるストラスバーグとのやり取り、アメリカン・ドリーム社の危機を必死で救済しようとするジャッキー、情報戦を取材しようとする北村となかなか面白い展開だ。
榎本の憲男著「エアー2.0」、ふと工事現場それもオリンピック開催のメイン会場となる国立競技場建設の現場で中谷はおっさんと出会う。建設中にコンクリートの柱に時限爆弾を仕掛けたと言って八百長競馬を要求しまんまと5千万円をせしめる。事は急展開に福島県の原発事故のあった帰宅困難地区に事務所を設け事業を行うというおっさんは地域通貨カンロを造り積極的な投資を行うという。おっさんが開発したエアー2.0は巨大なコンピューターは人間の感情を理解すると言った優れものだ。日本政府とのまた官僚との確執に始まり警視庁をも動かし対峙しながら事業運営を行う中谷は原発事故地の復旧を願う作者の強烈な意図と人間との拘わりを描いた物語だ。
山崎豊子著「不毛地帯 3」、壱岐はアメリカ支社長としてニューヨークで業務を行うようになっていた。妻を交通事故で失い、娘を商売敵の東京商事の鮫島の息子と結婚と有為転変とする壱岐の人生は過酷だ。そんな中でも陶芸家千里との愛は確実に壱岐の領域内に入り遂にニューヨーク出張の折壱岐は彼女を抱くことになる。折しも米国ビッグ3の一社と日本の千代田自動車の提携交渉は熾烈を極め里井副社長を面々とする近畿商事が交渉を開始した。著者の過酷なビジネス環境で生きる壱岐と恋愛を絡めての物語は面白い。
篠田真由美著「玄い女神」、建築探偵櫻井京介シリーズの第二弾だと。今回の作品は建築とは深い拘わりのないミステリーだ。群馬県の霧積温泉近くの小さなホテルを営む経営者、狩野都からの依頼で引き受けた犯人捜しは十年前インドで起きた仲間の死についてであった。容疑者と思われる数人の友人を招待したホテルでの殺人事件がまた発生した。インドでの生活と一人の人間の愛が貫く執拗さトリックとどんでん返しいう盛沢山なミステリーだ。
山本貴光著「屋上ミサイル」、何か?SF的な小説だ。アメリカの大統領がテロリストに拉致されミサイル発射される危機が全世界に広まっている設定の中での学園ドラマってこれってプロットの設定ありかよと言った印象だ。都内は静寂に包まれ地方への移住を呼びかける政府機関、そんな中で高校生の仲間4人の中の友人が誘拐拉致された。冗長性は否めないが、プロットの奇抜さが目立つ作品だ。
山崎豊子著「不毛地帯 2」、商社マンとして忙殺されている壱岐は社長嘱託付き社員から8年余りで常務に昇格した。商社間の熾烈な競争、政界及び官界の人脈を使ったこれまた熾烈な競争にも元大本営参謀としての壱岐の静かな洞察力は勤め先の近畿商事に莫大な利益を齎した。防衛庁がらみの次期戦闘機も近畿商事の手に落ちた。
リンダ・ハワード著「夜を抱きしめて」、アイダホ州の片田舎トレイル・ストップ周囲を高い山で囲まれた行き止まりの場所、そんな場所でB&Bを営むケイト・ナイチンゲールは夫と死別して今は一人で四歳になる双子の面倒みながら生活している。ある日、宿泊客の男が断りもなく宿を抜け出して戻らない。そんな中で二人の男が銃を持ってB&Bにやってくることから、トレイル・ストップ村を巻き込んで大騒動が始まる。便利屋カルとの恋愛を絡めてミステリータッチで楽しませてくれる作品だ。
篠田真由美著「未明の家」、建築探偵櫻井京介シリーズの第一作だ。1994の作だ。東伊豆町の海に向かう傾斜地に建てられたスペイン風の別荘が今回の舞台だ。そこの主人が死んで孫の理緒から別荘の調査を依頼された京介、事件はそこから始まる。冗長性は否めないが、犯人特定のプロットが性急で少しがっかりもする。日本に存在する洋風建築とミステリーという設定を作者は関連を見事に具現している。
篠田真由美著「翡翠の城」、建築探偵櫻井京介が活躍シリーズで著者のこのシリーズは2冊目だ。日光と群馬県丸沼を舞台とする洋風建築に和風の瓦屋根を持つ碧水郭に纏わるミステリーだ。日光オグラ・ホテルに関連する同族系人物達の確襲を建物の歴史を絡めてのプロットは秀逸で十分楽しめる。少し冗長性は否めないが。
山崎豊子著「不毛地帯 1」、太平洋戦争当時大本営参謀だった壱岐正は、戦後ソ連に抑留され過酷な11年間を過ごし帰還した。ラーゲリと呼称される収容所でのシベリア抑留は精神力と日本帰還の希望を胸に過酷な日々を過ごす毎日だった。帰還後47歳の壱岐が第二の人生を選択したのは、近畿商事という商社であった。繊維取引を初め防衛機器までも貿易する大阪では名だたる商社だ。陸軍大卒の壱岐にとって場違いとも思われる会社であったが、社長の大門の口説きもあって就職する。そして社長大門の随行という立場でアメリカへの出張が決まる。
リンダ・ハワード著「くちづけは眠りの中で」、リリーはCIAの殺人エージェント、ヨーロッパを中心に国家の治安を維持すべく行動する秘密課員だ。イタリアのマフィアのボスサルバトーレをリリーの親友そして子供を殺害した犯人として彼女は毒薬で殺害した。その後彼女は殺害されたマフィアから追われる。そんな中、マフィアのウイルスばら撒きの計画とワクチン製造という飛んでもない利益儲けを企む実態を掴む。彼女と組んで同じ目的を持つ男は実はCIAの課員スウェインだ。二人はワクチン研究所を爆破するといった計画を見事に実行する。プロットといい情感の高い文体といいリーダビリティに優れた作品だ。
深町秋生著「果てしなき渇き」、暴力事件から刑事・警察を退職した藤島が抱えた問題は娘・加奈子の失踪であった。既に妻桐子とは離婚して一人暮らしだ。彼の警察官刑事としての本能なのか必死で捜索する姿は生きる姿を真摯に捉えている。チンピラヤクザとの拘わり薬物・買春組織へと娘の行動が次々と明らかになってゆく。それでも娘を信じ執拗に捜索する父親の姿、最終章は暴力によって娘の仇を討つというスリリングなミステリーだ。
ブラッドレー・ボンド著「ニンジャスレイヤー」、当にコミックの仮想の世界を垣間見た印象だ。作者は外国人らしい。暗躍するニンジャの凄絶な闘争が主題だ。人気漫画の世界は凄い。圧倒される。こんなのを読みたいと思う人間がいるといった感想だ。
リンダ・ハワード著「天使は涙を流さない」、著者の作品2作目だ。ニューヨークを舞台に麻薬王サリナスの愛人ドレアは、30歳を迎え現状から脱却しよと画策する。そんなある日サリナスが雇った殺し屋に体を弄ばれてしまう。彼女は遂にサリナスの元から逃走を企て必死に逃げる。がしかし殺し屋が彼女を追う。遂に逃走中に事故で意識不明の重体へ。再び生還する彼女を迎えたのは殺し屋サイモンだった。愛と生をテーマに一人の女性の不屈の精神をスリリングに表現して読者を飽きさせない。
降田天著「女王はかえらない」、北関東の片田舎町の針山小学校を舞台に起きった殺人事件、小学四年生の児童の純真性と残虐性を見事に描いた作品だ。学級の中での権力闘争そしてカースト的ヒエラルキーが確立しその中で生徒は右往左往する。夏祭りの夜の上った針山が殺害の現場になった。30数人の同級生が二人の対立する少女女王を殺害し沼に沈めた。20年後30歳になった同窓会で明らかとなる殺人の詳細、彼ら全員が漏らさず日常生活を続けるといった稀有なプロットはリーダビリティに富んだミステリーだ。
リンダ・ハワード著「吐息に灼かれて」、ジーナ・モデル彼女が主人公の物語だ。ひょんなことから、GOチーム・民間のテロ対策チームに配属になった彼女の生活と運命まで変化する事態となる。5か月にも及ぶ厳しい訓練に耐え実践に飛行機から飛び降りる落下傘の訓練を終えテロと殺戮の現場シリアに向かう。シリアでの彼女が体験した悲劇がその後の彼女の運命を変えることになる。チームのエースとの恋愛を絡めたラブロマンス・ミステリーとでもいった小説だ。

木曜日, 11月 29, 2018

松岡圭祐著「探偵の探偵 Ⅱ」、妹咲良の死を探索し続ける対探偵課の玲奈に降りかかる様々な困難に果敢に立ち向かう。そんな彼女に容赦ない攻撃が繰り返される。状況は確実に深刻さを増し翻弄されながら突破する紗埼玲奈は全身全霊を投げ出して立ち向かう。エンターテインメント・ミステリーの神髄だ。
乾禄郎著「完全なる首長竜の日」、人間の意識下に潜む不思議な何かとインターフェイスを取りセンシングして植物人間と化した人物を意思疎通を行うといったSF的ミステリーとでもいった小説だ。漫画家の主人公淳美の日常と幼くして海で溺れ死んだ弟浩市の亡霊が意識を持ち彼女を未知の領域へと誘う。死んだ弟への限りなき愛情が全編を通して発露する。日常から非日常へと繰り返す意識の錯乱全てが無で有だ。
大山淳子著「猫弁と魔女裁判」、猫好き弁護士の百瀬太郎は、自らの法律事務所に猫を21匹とボロアパートに1匹と無類の猫好きである。そんな彼が米国のスパイ諜報員の裁判を担当することなった。6歳で別れ施設で育ち東大法学部を出て弁護士から現在の百瀬が忘れる筈のないその女性被告は彼の母だった。プロットは終末で小さなどんでん返しとなる。随所に恋愛も含ませ読んで楽しい読後の爽快感を味わえるストーリーだ。
藤原一裕著「遺産ゲーム」、会社の会長の死後遺書が弁護士の手により明らかにされる。なんとゲームをやり遺産分割をするといった突拍子もない遺書だった。結果、ゲームに負けた法定相続人は諦めきれない思いでいる。立ち会った弁護士とその一味により遺産2億円の現金は強奪される状況を作り出す。しかも全て偽札だ。プロットは破天荒ながら終盤の緊迫感は読者に頁を繰らす迫力がある。
トマス・フラナガン著「アデスタを吹く冷たい風」、著者の作品は初めてだが、名著と知られ復刻したミステリー短編集だ。共和国といった曖昧な地中海沿岸国と考えられる国でテナント少佐の冷酷非情な推理とこれとは全く違う殺人ミステリーや15世紀初頭フランスとイタリアの争いの中での密室ミステリーとこの短編集は実にバラエティーに富み十分楽しめる。
リンダ・ハワード著「心閉ざされて」、アメリカは南部アラバマ州の片田舎の豪邸その名もダベン・コートその家系を継ぐルシンダ叔母の元親族の骨肉の争いが始まる。そんな家でドジなロワンナが成長をし機知に富み美しい女性へと変身し遂に愛を掴み取る過程を作者はミステリアスなタッチで描き読者を引き付けて止まない。女流作家としての細やかな愛情表現もさることながらミステリー小説としても非常に面白い。
法坂一広著「弁護士探偵物語」、ある精神病院を回る殺人事件を捜査・探偵することになった弁護士の物語だ。法曹界・検察・警察と弁護士の様々な蘊蓄が語られ、刑事・警察との接点を展開しながら事件は連続殺人へと。物語は冗長性は否めないにしてもミステリー小説大賞としては結構面白く読んだ。プロットとしては通常のミステリー小説レベルでローラコースター的どんでん返しも無い。
梶永正史著「特命指揮官 警視庁捜査二課 郷間彩香」、ある日渋谷交差点近くの新世界銀行に強盗犯数人が銀行を占拠し人質をとって立てこもっている情報元に警察庁からの指示で警視庁捜査二課(普段は経済犯担当)にはねっ帰りの三十路の警部補郷間彩香が抜擢された。生き生きとした前半の描写は軽快に読ませる。しかし後半の落ち所がしっくりこない。エンターテインメント警察小説だ。
森博嗣著「探偵伯爵と僕」、物語の主人公の僕は小学生だ。夏休みに起こった同級生誘拐事件に遭遇した僕、新太はひょんなことから探偵伯爵と出会う。伯爵は警察に協力して犯人を追う、僕は伯爵と知り合い同じく伯爵の助手つまり小林少年みたいに協力して犯人を追う。プロットは平凡で最終的に犯人は友人のお父さんだったとしているが物語の冗長性とミスマッチだ。命の大切さをテーマにしているミステリー小説だ。
ネビル・シュート著「パイド・パイパー」、イギリス人の老弁護士のハワードが気持ちの整理も兼ねてフランスの田舎町を訪れた。時は第二次世界大戦、フランスへ侵攻したゲシュタポドイツ軍のヒトラー率いる部隊が入場したそんな折だった。知人の家で依頼を受け二人の子供をイギリスへ届けるという70歳にもなる老人にとって決して安楽な旅路ではない。イギリスへの行程は困難を極め、行く先々でぶち当たり遭遇する悲運を老弁護士の優しい心根は突破する。息子の戦士を機に訪れたフランス人家庭の息女は実は息子の恋人だった。単調な物語にも拘わらずサスペンス的なニュアンスと人間本来の心を描く傑作だ。
京極夏彦著「百器徒然袋 雨」、物語に出てくる登場人物が実にキャラクターが濃くて異色だ。榎木田礼次郎という名の探偵もまたしかり彼は元子爵の息子の設定、他に下僕と呼ばれる人物達、中禅寺という名の古書塒と私との丁々発止が面白く、そんな中で事件の依頼が持ち上がる。プロットも良く練られていて一気読みの態だが、中編を3篇も含む700頁にものぼる超大作である。エンターテインメント小説的ミステリーとでも形容する面白い作品だ。
内田幹樹著「査察機長」、著者は逝去されたが、過去はANAのボーイング777の機長の経験を豊富に持った人であるという。本書の隅々に経験が無ければ書けない事柄が随所に出てくる。サスペンというよりドキュメントとし、またサスペンと異なる心理描写、査察官と機長及び大先輩機長さらにCAらとの駆け引きにはある種違う緊張感がある。機長は乗客の安全第一であるべきで、自分の技量を過信してはならない、いつも後ろキャビンを見て操縦すべきだとの結論だ。
松岡圭祐著「探偵の探偵」、紗埼玲奈は、不遇にも妹咲良を殺害された。そんな彼女が求めた職場はスマ・リサーチつまり調査会社つまり探偵業だ。彼女の黒髪、大きな瞳、透き通る肌いずれも探偵には似つかわしくない容貌だ。彼女が配属になったのは対探偵課つまり同業他社を徹底的に潰し叩きのめすそんな課だ。探偵という業界の知識、それは警察との関連や顧客との接触、広範な知識は著者ならではのもので読者を引き付ける。冒険活劇そしてミステリーと十分に盛り込んだ小説だ。
一色さゆり著「神の値段」、都内ギャラリーに勤務する佐和子と上司であり経営者永井唯子は現代アート専門のプライマリーギャラリーで就中、川田無名の作品を主に事業を展開している。無名に至っては何処で生きているのかも不明で謎の画家として広く認知されている。そんなある日唯子が殺害される。犯人は無名とされたが状況証拠ばかりで真相に近づけない。著者は芸大出身でギャラリーに勤務した豊富な経験から現代アート及びギャラリーについて造詣が深い。
真山仁著「ハゲタカ Ⅱ 下」、エコノミックミステリーとも呼ぶべき小説だ。展開は早く読者を圧倒する。日本に現状将来に警鐘を鳴らす著者の力量は圧巻だ。上巻での鈴紡の買収劇は国家権力による横槍で幕が下りた。そして再び浮上した歴史と伝統で培われた曙電気の買収劇が勃発、米国軍産ファンドとの壮絶な死闘を繰り返す鷲津正彦に日本人としてのオリジナリティつまりサムライの正義を感ずる。
真山仁著「ハゲタカⅡ 上」、老舗の鈴紡という会社のMBOを回り外資系ファンドと国内の銀行さらに国内の企業が覇権を争うビジネス界を席巻する事態にファンド会社会長の鷲津は鈴紡の社長と接し化粧品事業部を子会社化し買収するといった提案をし了承を得た。しかしその後政府系の救済機関が乗り出すといった不測の事態が発生した。経済小説を得意とする著者のダイナミックな展開に引き込まれてしまう。
朝倉卓弥著「四日間の奇蹟」、指をケガしピアニストとしての将来に絶望している青年如月と脳に障害を持ちながらピアノを弾く少女楠本千織、二人は全国要望ある所へ慰問といった形でピアノ演奏に出かける。そんな彼らが脳科学研究所病院を名がつく場所でも慰問、物語は此処から大きく展開し正に奇蹟と呼ぶ事態に遭遇する。生と死、人間、そして心、脳様々な疑問と遭遇してゆくことになる。ミステリーとしてはプロットはありきたりだが、中身の濃い読後の爽快感を伴う傑作だ。
黒川博行著「泥濘」、待望の新刊だ。暴力団二蝶会の組員桑原と通称建設コンサルの二宮との絶妙な掛け合いはいつもホットして吹き出してしまうユーモラスさが堪らない。オレオレ詐欺と白よう会暴力団に果敢にシノギを仕掛ける桑原その脇でいつも居る二宮のまさに死闘ともいうべき状況は読者を飽きさせない魅力がある。このシリーズともいうべき書はいつ読んでも読後は何故か爽快感が伴う。作者の技量を思う。
畠山健二著「本所おけら長屋 11」、江戸は本所はおけら長屋に住む住人らが、騒動を起こす人情味豊かな物語で早くも11巻目の最新刊だ。万造、松吉、八五郎、鉄斎と役者が揃い今回も様々な騒動を通して江戸庶民の人情を日本人の心を描き思わず吹き出したり、涙ぐませる。作者の心の優しさを感ずる名作だ。
ハメット著「血の収穫」、米国の西部田舎町は拳銃の玉が飛び交う無法地帯だ。依頼を受けた私立探偵は縺れた糸を探るべく様々な人物と接触し真相に近づく。十数人の殺害が敢行され警察署長までもが餌食となった。ヤクザの親分連中は互いに抗争し犠牲となって町は静かさを取り戻す。ミステリーというより私立探偵・私の非情だが正義を貫く熱い情熱をもった人間の姿を克明に描いた文学的作品だ。

金曜日, 9月 28, 2018

ギャビン・ライアル著「深夜プラスⅠ」、著者の作品は初めてだ。長編ミステリーとはいかないエンターテインメント小説或いは冒険小説的風合いだ。マガンハルト弁護士は暴行罪の汚名を着せられたが、自己の所有する会社の株主会に出席するため警察の追手を逃れスイスとオーストリアに挟まれた小国リヒテンシュタインに向かうため、二人のガンマンを雇い弁護士の秘書と4人で行くことになった。スイス国境付近での銃撃線を辛くも突破し目的地に辿り着くことになった。だがそこで判明したのはガンマンを手配したはずの人物が実は殺し屋だった。小さなどんでん返しで終わる。
ジェイムズ・P・ホーガン著「星を継ぐもの」、舞台は地球の2029年、月で人類と恐ろしく似た人骨が発見された。2万5千年前の化石だ。アメリカのナブコム研究所に集められた広範な科学者の研究が始まった。人骨化石から手帳が発見されルナリアン人と判定されその言葉も研究されいよいよ人類の起源まで遡る壮大な研究が熱を帯びた。木星探査機に乗り込んだ科学者が出した結論は、火星にほど近いミネルヴァで成長したルナリアンは地球に降り立ちネアンデルタール人を駆使し人類の基礎を築いたとの研究成果を発表した。久しぶりのSF長編ミステリーだった。
イーデン・フィルポッツ著「赤毛のレドメイン家」、1922年の著作でミステリー小説の古典的傑作だと。長編ミステリーの部類で英国とイタリアを舞台に繰り広げられる殺人事件、それを追うヤードつまりロンドン警視庁の敏腕刑事マーク・ブレンドンとの格闘だ。しかしブレンドンは美しい女性の虜に事件は複雑なプロットを経て最終的にイタリアのコモ湖の近くで決着することになる。アメリカ人の探偵ピーターつまり真打を登場させる作者の配慮は素晴らしく現代に十分通用する読み応えのあるミステリー小説だった。
アガサ・クリスティー著「ABC殺人事件」、後世に伝えられるほどの名トリック・プロットと言われる本書は彼女の1930年代の長編ミステリーだ。ABCという名前のアルファベット順に無差別殺人が発生する。現場に居合わせのは貧しいストッキング行商の男だった。真犯人は偽の殺人者を仕立て自分の目的の殺人を実行するといったプロットは世界のミステリー小説作家を虜にした作品としての不朽の名作だ。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ」、今回は、雨森華連という名うての女性詐欺師と凜田莉子との全面対決だ。警視庁の警部ら莉子に対して尻尾を掴まれることなく次々と詐欺を巧妙に繰り返す華連そんな詐欺師を相手に莉子の頭脳が挑戦するユニークなミステリーというか小説だ。
真梨幸子著「殺人鬼フジコの衝動」、過去実際に起きった殺人事件・猟奇的な殺人事件を題材にして書いたというミステリーだ。フジコは小学生だった頃両親が殺害され叔母の元へと行くことになった。殺されたフジコの父母は所謂見栄っ張りで家庭を子供を顧みないダメ夫婦だった。そんな環境で成長したフジコにとって叔母の家から通う小学校でまたまた事件、フジコが殺害したのだ。成長してゆくにつれフジコは坂を転げ落ちるように転落してゆく。そして殺人を繰り返す。幼い頃の家庭環境と超神経質な性格とブスに生まれた悲運がここまで殺人を犯してゆく過程は一つ間違えれば誰でもフジコになる可能性を否定できない。
三戸政和著「サラリーマンは300万円で会社を買いなさい」、日本全国で中小企業は380万社あるという。そのうち50%以上が事業承継に苦慮している現状とサラリーマンの今後の人生を考え極端だが現実味のある提案と受け取れる。会社を買うつまりM&Aにも色々と手法があることが提示されている。黒字倒産を余儀なくされている中小企業も多いという現実に会社つまり売りたい会社を見つけ内容を精査し展開するにはかなりの努力が必要だと感ずる。
吉村昭著「朱の丸御用船」、史実に基ずく歴史小説だという。大阪より江戸へ米俵を運ぶ御用船幾つもの航路難所を切り抜け江戸へ。歴史の舞台は現三重県の一寒村で起こった現実の騒動である。幕府御用の米を千俵近く積み込み御用米船として出航する定助舟と次三郎船は各港に碇泊しながら江戸へ向かうことに、しかし両船は碇泊地で御用米を売り捌き故意に天候により破船したと偽った。しかしその片割れの船が漂流して名切村沖に漂着し村民総出で米俵を瀬取りし分配した。その事実がバレて役人により調査が開始され、村民は甚大な被害を被ったと。作者は現地に足を運び資料を丹念に調査しまた聞き取り史実其の儘に弥吉という若い漁師を仕立て暗い現実を描きながら希望の光をも書き留めることを忘れない。
ジェームズ・ロインズ著「ギルドの系譜 下」、米国大統領ギャント一族の系図は遥か数千年前にも及ぶ家系と判明した。サウスキャロライナに広大な土地を所有し秘密研究所を持ち、遺伝学・DNAの研究からロボットまで研究は多岐に渡る。しかし一貫した目標は家系を死守することにあった。女系のみが血統を引き継ぐとされ、シグマや大統領を追い詰めた真の犯人が判明した。物語は場所を変え想像を遥かに超えるさまざまな展開を見せ終章では行きつく暇もなく進んでいく、圧倒的な迫力はこのシリーズの特徴だと。

ジェームズ・ロインズ著「ギルドの系譜 上」、米国大統領選の娘アマンダが誘拐拉致された。シグマフォースは捜査を開始。アフリカ・ドバイと執拗に敵を追撃する。しかしアマンダの行方は依然として判明しない。そんな中で隊員に迫りくる危機シグマの隊長ペインターはようやくギルドの仕業と判断する。しかも大統領命令で即刻シグマの捜査を打ち切れと。各隊員の危機と今後の展開が興味を引く。

木曜日, 8月 30, 2018

吉村昭著「背中の勲章」、太平洋戦争の裏史、小型偵察艇の水夫の生き様を通して戦争を振り返る異色の作品だ。この作品で感ずる当時の日本国家の戦慄すべき軍事統制教育、誰も疑わず天皇を仰ぎ命を捧げることを当たり前と考える偏見思想、教壇に立つ教師は何を考え自分の使命・人間を見失った教育をしたのか?人間の脆弱性の極限だ。世界観を喪失した国家戦略を思い知らされる。
門田泰明著「ぜえろく武士道 討ちて候 下」、松平政宗は江戸で将軍家綱の後の世継ぎとして朝廷が絡む宮家をと暗躍する老中の意図を察した。不穏な忍び集団に度々急襲されながらも次々と討ち果たし難を逃れた。織田信長が本能寺の変で果てた後に直ちに家康を守り従った二十六名の忍び集団内滝一族の末裔が今も伊勢の国松坂にあった。しかもその長はなんと柳生宗重であった。
門田泰明著「ぜえろく武士道 討ちて候 上」、正三位大納言左近衛大将、松平政宗は京の都より江戸へ亡骸を菩提寺に治るべく来た。旧知との遭遇さらに政宗を取り巻く忍び集団との激しい鍔迫り合いが火花を散らす。京の鞍馬山での無双禅師の厳しい修行に耐えてきた政宗を以てしても執拗な襲撃に後一歩の所で命を失うところだった。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ」、今回はフランスはパリに旅行に出かけるという凜田莉子心配だから同行するという八重山高校時代の担任教師の喜屋武先生、二人を巻き込んで事件が発生する。同級生の楚辺がフランスパリでのフォアグラの専門高級レストランで見習い中彼の部屋に宿泊することになった。レストランで仕入れたフォアグラに不良品が混じり客が急性中毒にかかり事態は深刻になってゆく。レストランはおろか製造元まで警察・保険局が調査に乗り出した。そんな状況の中でも莉子の冷静な客観的観察力と推理によって犯人が特定される。
峰隆一郎著「大奥秘交絵巻 春日局」、江戸は三大将軍秀光の聖母・春日局の物語である。家康の子つまり秀光を将軍につけ、さらに秀忠の子忠長を亡き者にしようとあらゆる策を弄し行動する母そして女としての春日局の全貌を見事に描き切っている。乳母として江戸城中に上がり家康の子を孕み、女として溺愛する息子秀光を将軍に付ける凄まじい執念と計略は閨房の中での巧みな描写によって物語を充実させてゆく。
松岡圭祐著「八月十五日に吹く風」、太平洋戦争の激化の元で日々疲弊していく日本軍はアリューシャン列島の島々で撤退を余儀なくされていた。アッツ島での殲滅玉砕を終え、今や鳴神島=キスカ島も玉砕寸前の状態だ。そんな中木村昌副司令官の元、島に生き残る5千200名の救出作戦を血行する。艦船上での人間同士の会話と戦地での不安と絶望を織り交ぜ戦争を浮き彫りにした人間フューマンな小説だ。生きるあるいは生き残る意味を問いかける。
エラリー・クイーン著「災厄の町」、ライツヴィルという田舎町で起こった殺人事件、しかも毒殺だ。急転直下のクリーンの推理は目を見張るものがある。本書はかなりの長編であるが少し冗長性を感じさせ彼らのこれまでの作品と比較して前半のほぼ全てが正に文学的だ。人間描写に焦点を当てながら舞台となった田舎町を詳細にその街に住む住民の正に精神構造をも表現するといった内容だ。プロットは現代のミステリー小説でも取り上げられるほどの完璧さだと思う。
松本清張著「大奥婦女記」、清張の時代物ということで手に取ってみた。江戸時代の大奥の様々な局面を描きその神髄を余すところなく捉えている。将軍お殿様との大奥婦女子との拘わりから、大奥婦女の嫉妬や妬み憎悪と様々な人間の感情や醜聞などが極めて明快に書き出され江戸時代の世上と民衆との乖離が見通せる。城に勤務する近習の出世にからむ企みや暴利を貪る役人の姿はいつの時代も同じだと思う。
エラリー・クイーン著「中途の家」、1930年代のクイーンの代表作とされる本書は、私にとってはベストだと思わせる出来栄えだ。ある男は二重生活、つまり重婚をして日々を最新の注意を払いながら暮らしていた。ある日男は現在の自分を嘘偽りなく話そうと二人の人間に自分の人格を変える目的を持つ家表題にもなっている中途の家へ来るよう手紙を出す。そして彼及び彼女が見たのは殺害された男の死体であった。犯人は女性と断定され公判でも禁固20年の刑に処せられた正妻そして事件の関係者であり正妻の兄であり弁護士を救うためクイーンの灰色の脳細胞が活躍する。当時の面影を残しながら相変わらず人物設定およびプロットの見事さは秀逸でミステリーの本質を突いた名著である。
エラリー・クイーン著「スペイン岬の秘密」、大富豪ゴッドフリー家の別荘は三方を海に囲まれた断崖絶壁の上に建つ瀟洒なものだった。客として当主の夫人から招待された4人がいた。エラリーと判事は旧家を過ごす為、ゴッドフリー家のスペイン岬のすぐ近くの別荘に行く予定でそこへ向かうと当主の娘ローザが縄で縛られ意識を失っているのを発見し事件に巻き込まれることになる。招待された客がある日テラスで全裸で殺害されているのが発見され地元警察の警視らとエラリーらとが合同で捜査に乗り出す。巧みな人物設定と謎解きの面白さは秀逸で改めてクリーンのミステリー小説の面白さを実感できる作品だ。
エラリー・クイーン著「アメリカ銃の秘密」、ロデオショーのコロシアムで起きた殺人事件、殺された騎手は元映画俳優バック・ホーンだ。エラリーとクイーン警視の必要な捜査にも拘わらず進展は一向に無い。しかも凶器と見られた25口径の拳銃リボルバーも依然として見つからなかった。元俳優だという人物設定に始まりコロシアムという状況設定といいエラリープロットは実に巧みだ。現代でも通用するミステリーとして秀逸だ。
アイザック・アシモフ著「黒後家蜘蛛の会」、12編にも及ぶ短編集である。6人の会員を擁するウィドワースの会はヘンリーというウェイターのいる店で例会を開く。6人が自らまたはゲストを連れてきて悩みを打ち明けることに対して解決を試みる。各短編は機智に飛んだ問題に対してヘンリーのさり気ない解答・解決策が傑作だ。
吉村昭著「雪の花」、江戸時代の天然痘の撲滅を目指し人生を賭した医師、笠原良策を中心とした物語だ。元は漢方医だった彼はある時蘭方医からの教えで天然痘についてその治療法がオランダ医から発せられていることを知り、彼の奮闘が開始された。幕府を初め福井藩に身御置く良策に対してその種痘を入手した後も様々な困難及び偏見に見舞われ遅々として治療が進まない状況だ。しかし彼の根底にある人間性を死から子供たちを救うというヒューマンな姿を描いている。
エラリー・クイーン著「チャイナ蜜柑の秘密」、切手蒐集家でもあり宝石商さらに本の出版にも携わる人物はホテルの22階を事務所として使用している。ある日訪ねて来た名前も明かさない人物が事務所の部屋で殺害される。異質の密室の殺人事件だ。切手の知識や登場人物の様々な造形それに伴うプロットは流石だ。しかし殺人のトリックとしては今一の感は否めない。
倉田百三著「出家とその弟子」、親鸞を中心に弟子たちとの会話戯曲作品である。大正期の作品である。著者の人間の奥深くにある情念それは信と欲との相克を深いところで捉えている傑作だ。信仰と愛憎、肉欲を見事に表現し最終的に御仏に全てを委ね任せることで生きる信ずるに通ずるという描いていいると思う。

金曜日, 7月 27, 2018

ダン・ブラウン著「オリジン 下」、米国はハーバード大学教授ロバート・ラングドンシリーズ第5弾だ。宗教と科学との相克・対峙はシリーズの基本テーマで今回の「オリジン」もご多聞にもれずそうだ。エドモンド・カーシュ亡き後、プレゼンテーションの公開を急ぐラングドンは幾つもの試練を乗り越え遂に公開できた。人はどこからくるのか?この問いに自然界の物理法則によって生命が誕生し、科学の兆速な進歩により未来を生きることへ繋がるとその命題への答えだった。後半のどんでん返しは読者を引きずり込んで一気に最終ページへと。スペインのガウディの建築物をネットで検索し見ながらの読書は楽しい時間を与えてくれた。
ダン・ブラウン著「オリジン 上」、久しぶりに著者の本を読む。スペインを舞台にしたミステリーだ。グッゲンハイム美術館やらサグラダファミリアそしてバルセロナのアントニオ・ガウディのカサ・ミラなど正にスペイン一色だ。ハーバード大学教授ラングドンの友人であるエドモンド・カーシュはコンピューターの専門家でもり未来学者だそんな彼がグッゲンハイム美術館で哲学的命題、「人間はどこからきて、どこに行くのか」この二つの命題を宗教と対峙させプレゼンテーションを行うという。しかし事態は急変しプレゼンテーションの最中ラングドンが見守る中、射殺された。美術館の館長とラングドンは、友人の意思を継ぎ捜査に乗り出す。
辻村深月著「かがみの孤城」、本書は、2018年「本屋大賞」に輝いた作品である。七人の生徒が自宅の鏡を通して孤城にて出会うという不思議な物語だ。城の中で次第に各人との繋がり絆を深めていく、不登校の中学生を描く。プロットは新鮮で斬新だ。読後は何故か心が暖まるそんな感じがする長編小説だ。
アガサ・クリスティー著「ナイルに死す」、著者の最長編ミステリーと言われるこの作品は中東の異国情緒を漂わせ、ナイル川クルーズに設定し、様々な登場人物を配し船内での連続殺人というプロットを仕立てた彼女の手腕は強烈だ。今読んでも古さを感じさせない。ポアロを初めとして、医師、弁護士、盗賊、資産家令嬢と人物も多彩だ。傑作ミステリーだと思う。
山折哲雄著「親鸞をよむ」、著者はTVでも拝見したが、哲学者にして宗教家でもある。親鸞をからだで読むとの命題で解説した本書は、親鸞の哲学的著作「教行信証」と「歎異抄」との比較を紐解きさらに妻恵信尼の書簡集にも言及し親鸞の世界をやさしく解説している。悪、人間の根源的悪を往生という親鸞が生涯追及したテーマまた極楽浄土つまり浄土感、浄土に対するイメージは仏教の最大のテーマであると著者は言う。
エラリー・クイーン著「ギリシャ棺の謎」、1932年に記された本著、長編推理小説は現代でも十分通用する魅力を持った作品である。著者の初期の長編推理小説であるという。大学を出たてのエラリーが活躍する本作品は犯人特定が二転三転し暗闇に中に沈殿してゆく。この複雑なプロットは人物の配置設定はおろか全てに於いて完璧なもので最後まで読者の犯人特定を困難にさせる超ミステリーの傑作だと思う。
スティーヴン・キング著「キャリー」、キャリーとはこの物語の女性少女主人公の名前である。著者の初期の長編作だ。偏狂な家庭に育ち高校生となったキャリーは、性格も暗く常に不安に脅え高校生活を送っている。ただ彼女はTKテレキネシスという特異な能力を持った女性だった。ホラー小説の元祖と位置付けられた作品であるといわれるが、ソフトホラーというかミステリーも交じり結構痛快で面白かった。
大沢在昌著「新宿鮫」、一匹狼ではぐれ刑事、鮫島はキャリアでありながら警部という肩書で防犯課に勤務する。次々と新宿署の警察官が射殺され、犯人は庸として知れず辿り着いた先は拳銃密造する男だった。約30年にも前の作品としては今読んで見ても古さを感じさせないストーリー展開と物語で踊る各々のキャラクターは鮮明で嬉々とした出来具合だ。
松岡圭祐著「千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮」、著者の人気エンターテインメント小説である。美貌で才智溢れる岬美由紀を巻き込んで展開する、ミグ25による核爆弾の退避、中国大使館に潜むいかさま賭博を巡る攻防と読者を圧倒するプロットだ。
ドン・ウィンズロウ著「ダ・フォース 下」、ニューヨーク市警の部長刑事デニー・マローンは、自ら大量の麻薬と現金を手にし同僚の刑事たちと分配した事案が明らかにされ窮地に立たされる。最後には同僚の刑事を見捨てる事態となった。ニューヨークに蔓延る大量の麻薬と殺人、人種差別、市警の違法捜査と恫喝、司法全体の金による汚職、そんな中で最後まで、警察官として生きるマローンの姿は人間として生きる姿を作者は提示してくれた。

木曜日, 6月 28, 2018

松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 4」、ノストラダムスの大予言のポスターを回り牛込警察署と凜田莉子と嵯峨、小笠原が奔走する。青年の父はその昔鼠小僧と知れた盗賊の頭だ、その子の青年は父の遺言を元にポスターを探し歩きかつみかんの汁で5億円の在処を書いたとされるポスターの裏を炙りだしたという事件の真相に気づいた。何とも突飛なプロットである。
吉川英治著「親鸞 三」、都、京都から追放され越後に着いた親鸞、この地での布教は徐々に成果を上げ名を轟かせ地方での名は日を追うごとに高まっていった。民衆の中に根を据え共に暮らす、信仰の根源をそこに見出した親鸞の信仰の本質を作者は語る。愚禿を標榜し生に、信仰に、愛に懊悩する親鸞の姿に人間本来の姿をと作者は教えてくれる。全ての人間を救う教えこそ親鸞その人の教義であった。
ドン・ウィンズロウ著「ダ・フォース 上」、著者の最新作だ。今回はニューヨーク市警のノース地区の特捜部の部長刑事デニー・マローンを中心とするフォースと呼称されるチームを中心に市警内部から弁護士と判事、麻薬とギャングを巡る抗争を赤裸々に対処するチームの活躍を描く。薬と銃、賄賂が公然と横行するニューヨーク,市警の内部の実情は凄まじいものがある。


松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 3」、昔の栄光と喝さいを捨てきれない音楽プロデューサーが、引き起こす詐欺に強請りこの事件に敢然と立ち向かう凜田莉子、著者の科学的に豊富な知識と人間本来の優しさを根底にみるエンターテインメント小説だ。
吉川英治著「親鸞 二」、範円の求道の悩みは深く己が道を極めるために心血を注ぐ修行を繰り返しは見たものの欲を捨てきれず悩みは一層深いものになっていったのである。そんな折に縁あって法然との邂逅が範円の求道を決することになる。彼は決心して月輪卿の末娘、玉日姫を娶る決心をする。新妻を草庵に残してまでも修行する善信(範円)が住まいに帰ってみると叡山との深刻な対立が起きており、師法然への禍を心配する姿が印象的だ。他力念仏を主眼とする法然一派吉水禅房、明恵上人の唱える菩提心、さらに叡山、興福寺の念仏に対する批判は朝廷までに上った。
松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 Ⅱ」、世間に偽一万円札が大量に出回り、物価が何十倍もに跳ね上がりハイパーインフレになった。警察及び公安全てを総動員したにも拘わらず犯人の行方は依然として知れず日本の経済はどん底に沈んでいく状況に至った。凜田莉子は早稲田大学準教授に偽一万円札の鑑定を依頼したが本物と寸分違いがないと出た。国立印刷局工芸官を警察が身柄を拘束してもなお解明できない偽札の謎、遂に莉子の鑑定眼が閃き犯人を突き止めた。開業時御世話になったリサイクルショップの社長であった。著者の科学の知識とプロットを結びつける思考に思わず笑い。
吉川英治著「親鸞 一」、平安時代に平家絶頂の時代、源家の系譜範剛卿の元で生を受けた幼名を十八公麿(まつまろ)は幼くして異才を放ち9歳の時に比叡山に昇り師となる慈円僧正の元で勉学に励む毎日であった。ここから十八公麿の苦難が始まる。20年間に及ぶ修行を経て京の都に降りた範円が見たものは世俗の人間の欲、儚さやそして社会の現実の荒廃であった。範円の自分の人生への深い懊悩が開始される。遂に再び比叡山に登る決心をする。
中町信著「模倣の殺意」、同県で誕生した作家としての中町なる推理作家の作品は初めてだ。アパートでの青酸カリによる服毒死を遂げた新進の作家坂井正夫を巡って高名な作家の長女中田とルポライターの津久見が各々独自な手法で死の真相を解明しようと調査を開始する。本書終盤に至って初めて坂井正夫なる人物が同姓同名で二人いることに読者は気づく。この同姓同名の作家二人を操り複雑なプロットを体現したのが本書だが余り上手く運んでいるとは思えない。
森博嗣著「探偵伯爵と僕」、小学生新太の夏休みに事件が起きた。友達が誘拐され居なくなった。そんな折ふとした事から伯爵と呼ぶ探偵と出会い新太は伯爵に事件を話し解決を要請する。二人共同で事件の捜査に臨む。小学生新太の一人称で書かれた文章は軽快でテンポよくしかも最後にはどんでん返しまで用意されたプロットは作家の器量を忍ばせる。
歌野晶午著「葉桜の季節に君を思うということ」、厳めしい名前の成瀬将虎の人生つまり著者の人生感をそして生きる勇気と意味を暗示させてくれる書だ。蓬莱倶楽部という高額な偽物を売りつけローンを契約させ多重債務者に仕立て上げる集団、その罠に嵌った女、古屋節子そして保険金殺人の片棒を担がされ身悶えする。成瀬が電車に飛び込んだ節子を救うことになり事件は進展してゆく。複雑なプロットを駆使しながら最後に人生の意味と意義を説く上手い。
今野敏著「曙光の街」、ロシアンマフィアの下でヒットマンとして働いていたヴィクトルは、安アパートで生息吐息の生活をしていた。カってのボスの来訪でヒットマンとして雇われることになった。標的は日本のヤクザの親分の殺害だ。日本に潜り込んだヴィクトルとヤクザと公安外事一課の刑事たちとの戦闘とアクションが展開される。そんな抗争の中で蠢く人物達の人間味と人生の光(曙光)を見出していく様を見事に描き出していく。
柳広司著「ジョーカー・ゲーム」、戦時下日本陸軍参謀本部の結城中佐が作ったスパイ養成組織それがD機関と呼ばれる軍団だ。任地及び任務を与えられ赴任して行くD期間の青年は徹底的に教育され任務を遂行するべく日夜危険を抱えながら日常の生活を送る。上海からロシア敵対国の中で必死に諜報活動を続けるスパイの物語は妙に現実味を帯びて頁を繰り続けさせる。
松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 Ⅰ」、著者の描き出す美女シリーズは水鏡瑞希、岬美由紀と個性豊かな人物だが真を持つ正義派の女性であった。本書は新たに万能鑑定士としての凜田莉子なる沖縄は波照間島から上京し運よくリサイクルショップの社長瀬戸内との邂逅で目覚めていく莉子の成長過程を記しさらに力士シールやフーズ会社の窃盗を暴くなど才能を発揮していく、次回が期待できる。


東直己著「探偵はバーにいる」、札幌はすすき野を中心に物語が進行する。主人公(俺)は北大の後輩からの依頼により後輩原田の彼女麗子を捜索することになる。探偵稼業をしている俺は常にウイスキーを煽りバーや居酒屋、クラブを探索するが一向に要として足跡が掴めない。すすき野を徘徊しながらチンピラやヤクザと渡り合い捜索している姿は人生を思わせ興味深い、異質はミステリーだ。探偵らしくない探偵の真面目な姿は読者を魅了すること間違いなしだ。
エラリー・クイーン著「Zの悲劇」、上院議員とその兄弟のフォーセット医師が刺殺された。事件を契機にサム警視と娘パティが懸命な捜査にも関わらず事件の真相は庸として知れず遂にドルリー・レーン氏のハムレット荘を訪問し捜査の強力をお願いすることになった。物語はアルゴンキン刑務所を舞台にプロットも素晴らしく結末は読者を煙に巻くどんでん返しとなる。

水曜日, 5月 30, 2018

乾くるみ著「イニシエーション・ラブ」、福井から静岡の大学へ入学した鈴木君は、歯科衛生士となるべく専門学校生の成岡繭子と付き合うことになった。淡い青春の伊吹が走馬灯のように脳裏に浮かぶ恋愛物語は自分の年齢を改めて感じさせてくれる。この物語の中に青春の全てが、若き人生のすべてがあるような感じすらする。
門田泰明著「大江戸剣花帳 下」、幕府転覆を画策する手練れの武士・浪人の類が、宗重の前に立ちはだかる。僧侶慈円は剣の師であるまた柳生宗矩やら父酒井忠勝らの援軍を得て見事謀反の浪人共を看破し撃退する。江戸情緒と庶民の生活及び江戸城周辺の地形から歴史共々教えられる絶好の書である。
門田泰明著「大江戸剣花帳 上」、江戸の初期、中でも知られる明暦の大火の頃浪人宗重は徳川の重鎮酒井讃岐守忠勝の妾の子である。端正な顔立ちと文武両道を極めた浪人宗重が御三家の一つ紀州藩を離脱した浪人達を追う。著者の時代ミステリーは江戸時代の風情を殊の外読者に解かりやすく解説し町人の生活、恋愛事情と面白く読ませてくれる。好著である。
松岡圭祐著「ヒトラーの試写室」、太平洋戦争が進行する時代に一人の青年がヒトラーの戦時下のドイツに渡り生きた史実に基ずく物語りである。青年は柴田彰といい家業の大工見習いをしていたが家を出、たまたま東宝の前身となる特撮技術研究所なる場所で特撮を作る模型作りのバイトをしていた。話はドイツへ飛び、ヒトラーを及び関係する大臣はプロパガンダの為、映画制作を目論んでいた。そんな折ヒトラー以下ナチス軍上層部が見た日本映画の特撮技術に感銘を受け技術者を招聘したその抜擢されたのが柴田だった。ドイツに於ける戦争高揚映画作りに精を出す青年とゲシュタポ監視下で生きそして敗戦と戦時下のドイツでの辛酸を舐めた人生の苦悩、それでも人間を信じる著者の心意を強く感じる作品だ。
アガサ・クリスティー著「杉の柩」、1940年のクリスティーの作だという。富豪の老婦人が息を引き取った。遺言書は書かなかったという。この事実を契機にさらに関連した人物の殺人とも自殺とも取れる事件が発生する。老婦人に関係する人物の心理描写と恋愛感情を絡ませ殺人までの考え抜かれたプロットは今読んでも新鮮味を感じさせる作だ。ポアロの灰色の脳細胞がさく裂。
飯島和一著「神無き月十番目の夜」、今でいう茨城県と福島県の県境に近い小生瀬村で起きた江戸は家康により平定された二年余りの時代の物語である。既に戦は遠のき武士達は鉄砲、弓、槍、薙刀から変化を迫られつつあった。検知の報が村に届き検知人及び配下の縄張り人らが村の田に青くなり始めた田に入り込み泥田として踏みつける所業を見た村人の怒りは沸騰した。役人と対峙し戦を目論んだが四百人に及ぶ村人全てを虐殺した触れることのない古い歴史の一端を紐解きミステリーとしても十分は資質を備えた好著である。
キャロライン・B・クーニー著「闇のダイアモンド」、アメリカはニューヨークから200Kmほど離れて暮らすフィンチ一家が、慈善活動によりアフリカから来る難民一家を受け入れる事になった。フィンチ家の長男ジャレッドは難民一家の様子からこの家族はそもそも家族ではないのではと疑念を持つ。物語は米国東部の町に住むキリスト教を信じる家族の日々の生活と家族一人一人の精神構造を交えてアフリカという遠い思い知ることができない家族との交流を描いている。疑念は終盤でダイアモンドの密輸の隠れ蓑として難民としてアメリカに来たことが判明する。
松岡圭祐著「千里眼 運命の暗示 完全版」、拉致された岬美由紀と臨床心理士の嵯峨と警視庁捜査一課の蒲生の3人がヘリから舞い降りた先は中国の農村だった。ここから中国を舞台に第三次世界大戦を阻止しようと岬美由紀と彼ら2人の活躍が始まる。日中をまたにかけ暗躍するコングロマリットの仕掛ける罠を巧みにくぐり抜けて活躍するグローバルエンターテインメント小説というべき著者の発想の豊かさに舌を巻く。
松岡圭祐著「水鏡推理Ⅵ クロノスタシス」、今回のテーマは過労死である。過労死バイオマーカーという菅野医学博士が開発した過労死にPDG値という数値を方程式から求め過労死への判断基準を提供するといった研究だ。文科省の研究公正推進室に在籍する末席事務員の水鏡瑞希が総合職の須藤と一緒に研究結果を検証するタスクを拝命する。先に過労死したとされた財務省主計局の職員の調査から始め紆余曲折の調査からまさか?と思われる事態が判明する。ミステリーとして十分納得のいく以外な展開は頁を捲る速度を加速させる。著者のテーマの調査能力とか多岐にわたるプロットとか感心するばかりだ。
マイ・シューヴァル・ペールヴァールー著「刑事マルティン・ベック ロセアンナ」、スウェーデンの警察小説で出版は1965年だという。スウェーデンのミステリー小説は過去にも何度か読んだがどれもが面白い。本書は50年もまえに上梓された作品とは思えない新鮮さがあり、ストックホルム本庁の殺人課刑事マルティン・ベックを筆頭に主に3人の刑事が殺害犯を追及する捜査する物語だ。本題のロセアンナは運河を巡る観光船内で殺害された若い女性の名前でアメリカ人観光客の一人だった。凌辱され全裸で発見された死体、身元特定もままならず数か月の時間を要し焦る捜査陣、観光客船ということもあり客が撮影されたと思える写真を収集することから突破口となり犯人を追い詰めていく迫力は警察小説の醍醐味だ。