木曜日, 7月 30, 2020

城平京著「名探偵に薔薇を」、メルヘンチックな構成の中に殺人と人間同士の不可解な関係、あり得ない幼児の頭を培養して作る毒液それは小人地獄と命名され長く世に存在することになった。因果応報と言うべきか藤田家に関わる人々は小人地獄の霊に迷い遂には命を落としてします。著者の文体は少し読みずらいがプロットは中々面白く読み終えた。
鮎川哲也著「リラ荘殺人事件」、美大の大学生が夏休みに訪れたのは埼玉県の秩父のリラ荘というペンションであった。そこで起こった連続殺人事件、秩父署の刑事ら2人とって正に仰天すべき事件に遭遇し捜査の行方を失ってしまう事態だ。七人の大学生のうち4人が殺害されるという凄惨な殺人事件に検事からの提案により東京から素人探偵の星影龍三が招聘され解決する物語だ。プロットといい殺人の動機といいかなり練られた物語で、読者を魅了すること間違いなしである。

京極夏彦著「姑獲鳥の夏」、著者のミステリー小説の第一作だという本書は、読み応えのある長編ホラー&ミステリーだ。以降の作品も同様登場人物は,本屋の京極堂、榎木田礼次郎探偵らである。雑司ヶ谷の医院の娘涼子からの依頼で始まる入り婿の失踪の真相を探るべく依頼を受けた榎木田礼次郎は捜査を進める中で奇想天外な事実のぶち当たる。閉鎖的な因習の中で生まれる憑き物信仰と右往左往する人間の欲と愛、底辺に流れる何とも言い難い孤独と不条理に翻弄される人々が成す殺人事件は読者を600頁にも及ぶ最後のページまで繰らせる力がある物語だ。

松本清張著「十万分の一の偶然」、山鹿恭介は保険勧誘員であり、プロを目指すアマチュアカメラマンであった。彼の信条は悪まで被写体は報道写真であった。有る夜、東名高速道路上で多重追突事故が発生しその現場を見事に写真に収めた山鹿はA新聞社主催の写真展に応募し見事に年間最優秀賞に輝いた。事故で死亡した中に沼井正平のフィアンセであった山内みよ子があった。沼井は偶然つまり写真の選評で十万分の一の偶然を疑問に思い自分で現場を踏査しこれは偶然では無く演出だと解った。彼の復讐が始まった。カメラマンの山鹿と選評責任者の古屋を葬り去り、自分も自決する道を。

池井戸潤著「仇敵」、短編を組み合わせて一つの物語としている。東京首都銀行から干された恋窪商太郎は、現在東都南銀行の庶務行員である。銀行員の松木が持ち込んでくる様々なトラブルに対して相談して解決するといった話だ。恋窪の正義感を首都銀行の次長の職を追われ現在の庶務行員としての立場でみる人生観、そして彼を追い出した仇敵との闘いを全力で行う著者の得意とする金融ミステリーだ。

松本清張著「鬼火の町」、江戸は家斉の院政を極め怠惰でしかも賄賂が行きかう時代の物語だ。船宿で出した夜釣りの客惣六と船頭が殺害され大川に浮かんだ。川底を浚い見つかったのは象嵌細工を施した煙管だった。岡っ引き藤兵衛が捜査に当たったが奉行所同心川島にその後十手取り縄を召し上げられてしまう羽目になった。家斉の寵愛を一手に受けたお美代の方とその生家の中野碩翁とによる院政と大奥の醜聞から起きた事件だった。プロットといい十分に楽しめる作品だ。

松本清張著「黒い樹海」、著者の長編推理小説である、この小説が昭和30年代に書かれたものであるという、まさに驚嘆すべきだ、古さを感じさせない今読んでもリアリティといいプロットといい社会派推理小説作家として面目躍如といった感がある。姉がバスに乗車し電車と衝突という事故で死亡した。仙台へ行くと言って家を出た姉が浜松で事故で死亡する、妹祥子は不信に思い事件を追跡し始めた。その後雑誌社に務めた彼女は社会部の記者と意気投合し次々と発生する殺人事件を解明すべく進んでいく。

薬丸岳著「天使のナイフ」、主人公桧山は大宮駅で喫茶店を営んでいる、彼は少年3人の手により妻を殺害された、さらに彼は両親を大学生が起こした交通事故によって殺された。今は娘の4歳になる愛美と二人暮らしだ。桧山にとって妻の殺害の真相を知ることが唯一の生きがいだった。殺害の関与した少年の内2人が殺害され事件は思わぬ展開を見せる。後半はどんでん返しの連続で頁を繰る速度が上がる。少年法の矛盾、贖罪とは?、生きる更生するとは?思い課題を掲げながらミステリーとしてプロットを組み立てる著者の発想に感服。

松本清張著「黒地の絵」、9編の短編を含むミステリーだ。著者の眼とその発想と構成力と文章力表現力に感嘆するものがある。現実社会の中で生ける人間の様々な生態、孤独、失望、懊悩を社会の不条理性と合わせてプロットを組みミステリーとして完成させる卓越した技術は読者に感銘を与える。

貴志祐介著「狐火の家」、お馴染みの防犯探偵シリーズだ。青砥純子弁護士と防犯探偵称する榎本径、彼は純子にしてみれば泥棒ではないかと思う反面警察にもそれなりに顔も効くこの二人のコンビが密室殺人事件を解明する物語だ。様々な密室を作り出す著者の発想は驚嘆だ。有り得ない事だと思う反面もしかしたらと思う密室殺人読者を恐れさせる反面感心もする。

松本清張著「ガラスの城」、大手会社の販売課長が伊豆修善寺の社員旅行の際に何者かの手により殺害された。普段あまり人付き合いの良くない三上多鶴子はタイピストであり、修善寺の旅館の裏で密会を目撃したことから殺害に不信を抱き、内偵を決意し手記として残した。一方同じく美人でもなく三十を過ぎたタイピストである三上と同僚の的場も殺害に不信を抱き調査を開始、それぞれ女性の視点から事件を追うその周囲に蠢く出世という野心と不倫という愛の狭間で起こった事件の真相はどんでん返し的に決着する。

貴志祐介著「新世界より 下」、神栖66町の夏祭りの夜惨事は起こった。バケネズミによる人間への強烈な襲撃により、村を束ねる数々の著名人すら攻撃目標となり惨殺された。塩屋虻コロニーを統率するドン野弧丸と真利亜と守の忘れ形見である子供を悪鬼に変えた人間の子供の姿態をした妖怪に早紀と覚は敢然と立ち向かい勇気を振り絞り彼らから町を取り戻す。SFとミステリーを融合して勇気と愛情を埋め込んだ長編作には脱帽。

貴志祐介著「新世界より 中」、コロニーを構成するバケネズミ、次々と友人達を喪失して行く早紀と覚、そして神栖66町に厳然たる威力を発揮する教育委員会と覚の叔母といわれる女性が頂点に立つ倫理委員会、町はこの権力に複雑にに絡まれた様態だ。遂に瞬を失い今また真利亜と守を失いつつある現状を憂い倫理委員会の長の許可を得て早紀と覚は両人を探しにコロニーを目指して進んで行くが、既に両人は彼方遠くへ逃れた事実だけが残る。絶望を感じながらも早紀と覚は結ばれる。

貴志祐介著「新世界より 上」、何ともメルヘンチックでホラーとスリラーを重ね合わせた物語だ。子供5人が向かう先に潜む怪獣、土竜、蜘蛛等々子供達は呪力を持ち、それら怪獣と戦い乍ら進んでゆく。様々な危険に遭遇しながらも互いに補い助け合いながら必死に生き延びようとする。土蜘蛛の襲撃により離れ離れになった子供たちのこの先の運命は如何に。。

松本清張著「逃亡 下」、牢破してお尋ね者となった源次は、ひょんなことから贋金作りの一味を知り、仏壇屋加賀屋へと入り込み同胞勘八を取り押さえ主人の興を買い下男として働くことになった。下谷の梅三郎親分の逓信お秋と懇ろになった源次は、大山詣でを申し出るお秋と大山詣でに参加する。その詣でを回り贋金使いの植木屋甚兵衛、牢で一緒に居た富太、さらに梅三郎親分、お蝶の兄伝助と源次に関わり合いのある人物が登場した。源次を殺害し梅三郎親分も殺害する計画だった。だが、源次はお秋と一緒に辛くも生き延びた。人生波乱万丈、人との巡り合わせと運気、そして愛しい相手との邂逅を江戸時代を通して描いた作品だった。