水曜日, 2月 28, 2024

笹沢佐保著「新・一茶捕物帳ー青い春の雨ー」、時代物でしかも有名人が出てくる探偵ものとなると読む前から期待が高まる。その有名人とは若き日の小林一茶であって、彼は深川伊勢崎町の源右衛門店通称お月見長屋の一間に弥次郎兵衛として住んでいた。弥次郎兵衛つまり一茶は錠回童心片山九十郎の知恵袋として事件解決に寄与する重要な存在である。長屋の隣に住む後家さんのおりんに思いを寄せる描写も面白い。
笹沢佐保著「絶望という道連れ」、共に殺人者として逃亡を続ける田宮史郎と金沢真由美、沖縄から鹿児島さらに東京と愛の逃避行を繰り返していた、すっかり開拓された真由美の肉体は田宮の想像を遥かに超えていた。暴力団を絡んだ恐喝事件の余波を喰らい巻き込まれた二人はそこで目にしたのは5人もの殺害であった、二人は逃避行を続けながら犯人を次々と特定していった。しかしそれは何処まで行っても絶望との道ずれ逃避行だった。絶対絶命の状態で追い詰められた男女の心の揺れを見事に結集させる著者の迫力ある描写に感激。
笹沢佐保著「断崖の愛人」、 大手の部類に入る中外軽金属の会社の係長を務める井ノ口一也は家庭での嫁姑間の対立に日々悩まされていた、彼の妻純子は策略を施し夫に愛人を持たせるべく画策した、何故か姑の春江が愛人という状況に毛嫌いしているのを知っているのが原因だった。彼の勤務する部署で部下の安城由布子との不倫間関係に遂に井ノ口は陥った。ある日春江は息子の一也に愛人がいることにきずき愛人由布子の住まうマンションに出かけ由布子と春江は対決した、結果春江はマンションの屋上から転落し死亡した。さらに沖縄へ出張した一也を追って来た由布子との逃避行の近くの岬の断崖から探偵が身を投げ死亡と家庭の不和から始まる件が殺人までに発展したミステリーのプロットとしては単純で結果もそれほど驚くべき結末とはいえないが、ここに至る道程、男女の心理の描写はさすがである。
笹沢佐保著「闇狩り人犯科帳」、 領国元町で営業する「春駒」そこの主人である小夜のもとに起居する源太剛毛の黒い髭を蓄え体が大きいわりに猫背で歩く近所の子供たちがウスノロの源太と囃し立てるほどの目立たない人柄であった。その源太が果敢に事件の下手人を取られる姿はまるで必殺仕事人のようである、次々の事件を解決してゆく痛快江戸活劇で読んでいてすっきりするようだ。
笹沢佐保著「少しだけの寄り道」、小山内千絵は、銀行員の夫を持つ平凡な主婦である、ある日新宿のデパートであった精悍なマスクの三十代の男性と接点を持ちその後深みに嵌り込んでいくことになる、つまり不倫であった。凡庸な性生活しか知らない主婦千絵が男性藤城三樹夫との逢瀬は激しく千絵は幾度もエクスタシを感じ眠っていた性感を掘り起こしてくれたのであった。まさに官能小説と言ってもいい小説である。
笹沢佐保著「愛人岬」、大手ハウス建材メーカーに勤務する水沼雄介は次長としていた、一方同じ社に勤務する古手川香織とは愛人関係にあった、二人で水沼の新車に乗り京都丹後半島に向かった先で殺人事件が起きた。濃密な官能表現と揺れる香織の心の描写は流石である。プロットは平凡で最終的な結末も今一ながら読者を飽きさせない工夫が至る所に潜んでいる。
笹沢佐保著「北町奉行定回り同心控」、 北町奉行同心暁蘭之介の活躍を描く五編の短編集である、それぞれ工夫を凝らした設定で脛に傷を持つ蘭之介の気性を描き素の顔は悪を絶対に許さないという心情とまた多面では優しさを持つ蘭之介の活躍を描く優れた短編集である。江戸の仕来りや風情を盛り込んだ傑作である。
笹沢佐保著「遅すぎた雨の火曜日」、 東京都下の四階建ての小田切病院の長男哲也を誘拐しようとした女、名前は花村理恵彼女の暗い過去は小田切病院の院長夫妻と強く結びついていた。病院を見渡せるマンションに越して来た理恵は哲也の誘拐に成功する。電話での脅迫を繰り返したが一向に効果はなくしまも誘拐した哲也に縛っていたテープを解かれ逆に理恵が囚われそうな状況になった、理恵とのセックスを通して仲良くなり二人で北軽井沢の別荘に居を移して二人の愛情を確かめ合った。そして二人の復讐への決意が徐々に固まっていった、運命とでもいえる邂逅を通して赤裸々に綴る愛情表現は著者の描写力を遺憾なく発揮する、ミステリーとしてのプロットはやや弱いもののこれはこれで満足である。
笹沢佐保著「殺意の雨宿り」、東北の遠野に旅行に出かけた奈良井律子は突然の豪雨に遭い、近くのプレハブ小屋に避難した、そこに次々と非難してきた三人の女性、ホテルで一緒になり話は交換殺人へと発展した。プロットの展開もいいし、伏線もミステリー伴うまた著者の持ち前のアイデアも盛り込み本格的と言われるミステリーに仕上がっている、但し結末はあっけなく終了した。
笹沢佐保著「狂恋 二人の小町」、江戸時代初期の悲恋、官能小説という著者の時代物の実力が遺憾なく発揮され、非常に面白い。江戸で八百屋のお七と財問問屋柏谷の小駒この二人何れも十七歳にして絶世の美人で小町と噂された。この二人が夫々姓に目覚め奔放なセックスに溺れていき、それを焚きつける極悪人でありお駒の相手の吉三郎に誑かせられ殺人に加担して極刑をうける、またお駒の母お葉が淫婦と呼ばれるほどの者であり材木問屋を切り盛りし殺人のまさに首謀者として吉三郎とともに刑場の露と消えた。
笹沢佐保著「人喰い」、花城由紀子は本多火薬銃砲店の社員である日銃砲店の社長の息子と失踪した、妹の佐紀子は銀行に勤めている。昇仙峡で見つかった死体は息子の昭一だけであった、この事実は佐紀子にとって非常に不味い状況になった。銀行の上司から退職を迫られた、三日間お休暇をとり彼女は自分で調査する旨を誓い乗り出した。紆余曲折があり、たどり着いた結論は正にミステリーのこれが王道だと言わんばかり結末だった。プロットといい巧で複雑な伏線を用意ししかも恋愛も絡ませる絶妙さには驚嘆すべきものがあlる。
笹沢佐保著「金曜日の女」、終日働きもしないで怠惰な生活を送っている青年波多野卓也は実業家であり世間でいう大物の長男である。次々と起こる殺人事件に親父が関与していると思われ調査に乗り出した、そこには想像を絶する深くて暗い闇が横たわっていた。大物実業家波多野理の会社の重役鬼頭の娘と知り合い遂に、二人で闇を探りながらの逃避行になった。幾つもの伏線と結果を予測できないミステリーまさに著者真骨頂の傑作であった。
笹沢佐保著「どんでん返し」、短編集である、6編を含む短編集でこれらの短編一つ一つが殺人に関与したウイットに富んでいて登場人物のつまり人間の思考というか状況次第で殺人も犯しかねない危険な心情をもっていると証明するような物語であった。
笹沢佐保著「愛人は優しく殺せ」、山林王といわれた小木曾善三、その一人息子高広と六本木のクラブでそこのママであるナミとも知り合いとなった春日は警察署捜査一課の刑事である。そして善三の秘書兼愛人である三人の秘書が次々と殺害された、高広に相談を受けた春日が捜査に乗り出した。著者の本作は今も古さ感じさせず、一流のプロットと読者を楽しませる伏線と相まって傑作となっている。
笹沢佐保著「花落ちる」、戦国時代信長に仕えた明智光秀の物語で、一つの視点は信長に対する反逆は光秀の何処から派生したのか、また光秀の人間像は?という視点である。著者の小説家としの伏線として名倉助四郎という架空の武士部下を置き、光秀の人物像を掘り下げえさらに麻衣という女性を配して助四郎との恋愛悲運を描くといった心憎い設定により物語をより一層深みを与え読者を喜ばしてくれている。

火曜日, 1月 30, 2024

司馬遼太郎著「峠 下」、遂に継乃助が理想とする一藩として独立国家としての道程を示すことは困難な状況になり、自体は一路戦争へと傾斜していく運命にあった。官軍に一矢報いたが、遂に長岡城は官軍の手に落ちた、継乃助は配送し会津への途中で部下に棺を作らせ火葬させた。一人の侍否人間としての生き方を追求した作品だと思う。若い頃、放蕩遊学を繰り返し思想を育ててきた継乃助にとってこの時代に家を藩を出ることはできなかった運命にあった。超大作であるが非常に面白く読んだ。
司馬遼太郎著「峠 中」、 風雲急を告げる幕末、京都を中心に薩長土藩は朝廷を持ち上げ既に大政奉還をした慶喜は引退を願い出て大阪より江戸へ逃げ帰り蟄居してしまっている。混乱の中長岡藩牧野家の継之助は家老に抜擢され政治家として藩を支えて行くことになり多忙な日々を送り再度江戸へ出て異人とあったりまた福沢諭吉とも親しくして改めて御身の思想を自覚した、どこまでも武士であり長岡藩士であると。江戸に官軍が迫る中継之助も決断せねばならない状況である
司馬遼太郎著「峠 上」、幕末の時代に生きた越後藩牧野家七万五千石は、この時節にあっては裕福のようであった、この班での河井継乃助という当時としては考えられない理論を持った人物がいた。江戸や京都で放浪しこれはと思えば何処へでも出掛けその人物に師として請うという継乃助であった。横花ではスイス人と親交を結び長崎ではオランダ人とそして継乃助は広く世界を見て現状を分析能力に優れ、遂に長岡藩の殿様に請われ登城することに、しかし世の中は不穏になり激動の時代に入っていくことになる。
笹沢佐保著「見かえり峠の落日」、著者の股旅物は今回初めてである。都合5篇の短編集であって、興味深いのは物語の背景が私の住む群馬県あり知れた地名が頻々と出てきて興味深いものがある。渡世人の悲哀と旅行く姿は正に人生を生きる男の世界を哀愁と共に描かれている。当時の時代背景は良く調査されていて勉強になる。
司馬遼太郎著「燃えよ剣 下」、京都での新選組の活動が名を馳せ市井の人々の認識が上がりもはや新選組の知名度頂点を極めた。そんな中においても政変が次々と起こり激しい戦闘を繰り返し幕府軍と官軍の闘争は熾烈を極め遂に新選組は京を離れ江戸に降りることになった、近藤は怪我をし沖田は病床に臥した。著者は土方歳三の目を通して幕末から明治維新の激動の世界と蠢く人間模様を詳細に描いていく、歳三の稀なる人間像を描き幕末の動乱と土方の人生を通して十分人生を学ばせてくれる長編小説だ。
司馬遼太郎著「燃えよ剣 上」、時は江戸末期日野の田舎剣法理心流の兵、近藤勇そして土方歳三が田舎から京に上り新選組として京を仕切るまでに活躍する隊になる話である。土方歳三を中心に物語は展開し、薩長同盟が云々という物騒な時代背景を必死に生きる新選組と組みに関わる人間の機微を詳細に描いてゆく。
司馬遼太郎著「関ケ原 下」、関ケ原の盆地に武装して集結した軍勢は東軍、西軍を合わせ十万余であり日本最大の合戦、その東軍を束ねるは徳川家康であり方や西軍は石田光成であった。巧緻な戦略を遺憾なく発揮した家康の策謀は間諜を使い次々と西軍の諸将に働きかけ寝返りをさせ自軍の重要な戦力とした、一方で光成は計算知能に優れているが孟子の言う義でもって戦争を乗り越えようと全く現場を把握できなかった得意の性格の持ち主だった。家康の知略と胆力に完全に光成は敗れた。戦場に集う武将たちの置かれた状況と右往左往する気持ちの描写力はまさに著者の得意とするとこれである。
司馬遼太郎著「関ケ原 上」、関ケ原合戦に至る家康の野望それを支える老獪な本田正信の知略、秀吉亡き後誓紙を秀頼に捧げ遺訓尊び秀頼を補佐することを誓った豊臣諸侯もまた家康正信の巧緻な戦略の中で次々と家康側に屈していった。著者の人間を描写する鋭さと情景を描く繊細な筆力には何を読んでも感嘆するしかない。
笹沢佐保著「不倫岬」、吉祥寺署捜査一課部補である向坊長一郎は大富豪のサラ金女社長黒柳千秋の殺害現場に立ち会い捜査に乗り出すが、向坊は捜査本部の指針と違う結論を出し独自に捜査を進めることになった、容疑者は死亡した社長の秘書小田切丈二だった。小田切は向坊が妻由紀子と結婚する前の恋人であり、由紀子の体を不妊に貶めた男であった。事件は錯綜して次々と死体となって見つかる異常な状況、しかし向坊の意思は変わらず小田切の飽くなき追及であった。プロットの組み立てさらに複雑な伏線そしてロマンと人生下敷きにした本格ミステリーそして結末は意外な事実を告げる、読者が楽しく読める工夫が何か所にも隠されて最後のぺーじを繰らせる。
笹沢佐保著「逃亡岬」、薬品大手の会社に勤務する九門愛一郎は、銀座のホステスのミサと不倫関係にあった、既に妻とは断絶し彼女は勝手に愛人と仲良くしていた。ミサと別れ話を持ち出し関係は最悪な状況になりアパートを出た、そして間もなくミサは刺殺されたことを知る。そして九門に嫌疑がかかり四苦八苦する中でマンション近く富豪の娘千秋と知り合い一緒に逃亡することになる。ミサのマンションを出て間もなく一人の女性と会話を交わしている途中窓からミサがリンゴを階下に投げた、このことが殺人容疑となった九門を救う方法、つまり名前も判らない女性を探すべく千秋と一緒のアリバイ探しをして何か所も地方を訪れた、遂に彼女の正体がわかるが死体となって佐渡島で発見された。著者の人物描写はに細微に入り入念に描く技術は松本清張を彷彿とさせる、しかし最後の落ちは今一迫力にかける。

金曜日, 12月 29, 2023

ギョーム・ミュッソ著「人生は小説」、不思議なミステリーと、最後まで一直線的に結末へ突進していく読者をドキドキさせる感じがまるでないミステリーだ。本書の中盤では何かミステリーから逸脱し話がどこへ行くのだろうか?と不安になる。最後はすべてが明らかになった時に著者のどんでん返し的結末がまっていた。著者独特な異端ミステリーと思える出来栄え。
アガサクリスティ著「秘密組織」、本書はクリスティ作家としての第二作目作品だと、1910年代つまり第一次世界大戦前後のロンドンを舞台にしたミステリー、プロットを始め伏線としては当時の政治状況を随所に取り入れ広範な知識を余す事無く描いている。トミーとタペンスという相性のいい二人が冒険に挑み数々の困難を克服して犯人迫る、ドキドキしながら現在でも読めるミステリー教科書のようだ。
五十嵐律人著「法廷遊戯」、作者は法のプロ即ち弁護士であるという。家庭に恵まれず施設で育った二人正義と美鈴が卒園後に法学部を目指して大学へと、そこの大学での超優秀な馨という同期生と遭遇し三人の複雑な関係が成立し苦悩する。そして馨の父親悟が刑務所で自殺をしたことで、息子である馨の衝撃的な計画を回り遂に裁判となった、この時正義は既に駆け出しの弁護士だった、美鈴の意図馨の計画そして正義の決断とどんでん返し的結末がまっていた。
笹沢佐保著「他殺岬」、誘拐を題材にしたミステリーとしては、想像もつかない最後の結末だ。敏腕のルポライター天知昌二郎の一人息子が誘拐され犯人から五日後の午後9時に息子を殺害するという連絡が入った。これに苦悩する天知は出版社の編集長の田部井と相談して警察に連絡することにした。しかし当初天知の目論んだ犯人環日出夫を納得させる結果を得られなく刻々と時間は過ぎて焦りだけが胸を圧迫する日々だ。プロットといい伏線も良く考えられどんでん返し的結末が最高に面白い。
ロス・トーマス著「愚者の街 下」、 メキシコ湾を望む小さな街スワンカートン、ルシファ・ダイは裏のジン脈を最大限活用して潜り込みとうとう現市長を追い出しネサセリーを市長に据え自分は市長の次席に納まりスワンカートンに巣食う悪漢どもの締め出しにかかった。このミステリーは冗長性を伴い前後の脈絡を掴む要するにジックリ読む必要があると考えた。
ロス・トーマス著「愚者の街 上」、 第二次世界大戦前後の中国香港上海を舞台に諜報員として活動するダイと彼を取り巻く虚々実々の諜報選が繰り広げて遂にある街を腐らせるという珍しい任務に就くこと奈なった。秘密組織セクション2という組織を指揮する大佐の家に寝泊まりしているうちに大佐の一人娘と結婚したが妻を殺害されてしまう。
笹沢佐保著「アリバイの唄」、夜明日出夫シリーズの傑作ミステリーだ。プロットはよく練られていてアリバイ崩しの面白さを堪能できるが、TVドラマの渡瀬恒彦の顔を思い出しながら読んだ。二重にも三重に重なるトリックを夜明がその謎を解きアリバイを崩してゆく面白さに作者の力量を感じぜずにはいられない。
笹沢佐保著「シェイクスピアの誘拐」、 8篇を含む短編集である。正に短編としてこうあるべきという出来栄えであり、読んでいて楽しいし予想のつかない結末をつい期待してしまう内容だ。松本清張と同じく女性の心理描写あるいは女性という人間を深く理解していると思う。ほとんどが女性が主人公になっている短編である。
笹沢佐保著「暗い傾斜」、 何と言っても後半のドンデン返しに感動、プロットといい伏線の考えらた細密な状況設定は感動すべきな描写である。人間の根源的な生に対する作者の視点、女性の理解の深さ正に松本清張を彷彿させる展開にいたく感銘した次第である。
笹沢佐保著「後ろ姿の聖像」、巧みなプロットとしっかりとした伏線で描く著者の犯人当ては、読者を悩ませ欺く。殺人を犯し八年間の刑期を終え出所した沖圭一郎は、北海道にいる友人に今後の相談ということで話をしたが断られた、最愛の人アキは死亡し美貌の妹マリとの結婚の夢も見事に瓦解した。そして電車に飛び込み自殺、疑念を深めた経堂署の二人の刑事が必死に捜査する、そして追い詰めた。面白いし傑作だ。
笹沢佐保著「泡の女」、小学校長の父が大洗海岸近くの松林で縊死したと連絡があった、木塚奈津子はその不自然な死に疑問を抱いた、夫の達也が犯人として勾留された。夏子は呆然としんがらも自分で父の縊死を証明して夫達也を釈放するという困難な道を選択せざるを得ない状況に追い込まれ。父の足跡を探り続け遂に昔の教え子との不倫の末に妊娠させたことと掴んだ。その女、千里は夏子の夫達也とも関係を持ち夏子を殺害すべく大洗に誘った。非常に考えられたプロットと伏線で好著であった。
笹沢佐保著「結婚て何さ」、真弓と三枝子は同時に勤めている会社を辞めて鬱憤晴らしに有り金をはたいて飲み屋に出掛けしこたま飲んだ、その場で男と知り合いまた飲んで滔々男が進める旅館に三人で宿泊する羽目になった。翌日男が死んでいた、ここから始まるミステリー小気味よく読者を翻弄して週末へ交換殺人というトリックを滔々看破できなかった。プロットといい伏線といい上手くまとまったミステリーには感銘を受ける。
誉田哲也著「背中の蜘蛛」、警察ミステリーで長編である。第一部、二部、三部と続きそれぞれテーマは違い犯行も勿論犯人も違う、だが捜査する側警察官であり生身の人間警察内部での人間関係そして警察官としての個人そして一国民としての意識にはそれぞれ見解は分かれる。そんな中で人間としての警察官を見牛うことなく追及する著者の真摯な人間に対する愛情を深く感じぜずにはいられない、傑作だ。
大藪春彦著「青春は屍を超えて」、戦後の復興期の目標も無くどこに突き進んだらよいのか混迷の時代に生きる若者の生態を描いた8篇の短編集である。著者の拳銃に対する造詣の深さに 感心するその拳銃を若者が使用して犯罪を犯してゆく不条理な過程を真摯に追及してゆく、当時の世相も垣間見えて懐かしく読みました
アン・クリーヴス著「哀惜」、彼女の作品はぺレス警部シリーズを読んでいたが、今回マシュー・ベン警部の物語は初めてである。イギリス南西部のとある町の警部であるマシュが海岸で殺害さ有れた男サイモンについて捜査を開始、依然として暗中模索の中に捜査班はいるだけだ。町の複合施設に通うそれぞれの人たちの人間描写を丁寧に描きながら事件の関連性を手繰り寄せていく。作者の周到なプロットそして人間描写が素晴らしい最後に判明する犯人は意外な人物だった。

水曜日, 11月 29, 2023

早瀬耕著「未必のマクベス」、香港、マカオそしてサイゴンとクアラルンプールといった東南アジアを股にかけ活躍する男、中井優一は某IT企業の営業マンだ。ICチップ入りのカードの拡販が想を来たし遂に支社長に就任する。香港に会社を置くこの会社は関連会社との軋轢に加え本社印刷会社の取締役やからプレッシャーを受け右往左往する展開だ。副社長を殺害して難局を乗り越え、以後順調かと思われるも次々と関連会社の社員が殺害された。しかし優一にとって高校時代に思い描いた鍋島という女性を一貫して20年間も恋愛していたこの一貫性については並みの恋愛小説どころではない。文章も平易で頁を繰る手がとまらない。
中山七里著「能面検事」、大阪地検の検事は喜怒哀楽に始まり一切顔色を変えず只管自分の責任を全うする検察官としての業務を淡々とこなしていくそんな検察官不破俊太郎の下で検察事務官として働くことになった惣領美晴が殺人事件を独自のルートで追い詰め起訴に持ち込んで行く二人の確執を中心に能面検事の素顔を美晴によって徐々に暴いていくのも面白い。その後府警本部で起こった捜査資料の大量紛失事件が勃発この事件で不破は一人で突き止め府警は恐怖のどん底に陥りはては検事の銃撃を伴うまでになった。ここでも不破の手段は絶妙で犯人を特定する。
藤崎翔著「逆転美人」、小さい頃から可愛いと皆に言われた少女は大人になって益々美人となり、小学生中学生高校生といわず陰湿な虐めを受けた優子は居たたまれなくなり高校を中退しキャバクラへそこで知り合った不動産屋の男と遂に結婚し一児を設けた。そして二人は保険金殺人を共謀して彼女の祖父そして前夫の子供香織に重症を負わせ歩行困難にそんな折彼女の勉強を見てくれている教師に共謀殺人を感ずかれ教師も殺害と殺人を重ねた。その後美人故辛酸を舐めた優子の反省を手記という形で出版しないかと持ち掛けられ承諾した、前半はこんな推移で物語は進行し後半は実際に手記を書いたのは香織であるという事実を明白にし香織の殺人への暴露が始まる。この特異な形態のミステリーには唖然とするしかない。実に面白い。
田島斗志之著「黒百合」、 戦後の混乱期に夏休み東京から神戸は六甲の別荘にやって来た少年進は友達として2人と知り合い仄かな恋心抱きながら夏休みを過ごす。戦前のドイツでの旅行に付き添った時のヒトラーに支配されたドイツの情景やらが生々しく描かれている、そこで知り合った二十歳の女性一人旅だというそれが戦後に思わぬ邂逅につながる。ここに描かれてる翁は宝塚歌劇団の創始者であるという、六甲の山と森の中で静かに繰り広げられる幼い恋愛感情そして殺人が挟まり一挙にミステリーになってゆく。
倉知淳著「過ぎ行く風はみどり色」、例によって猫丸先輩が登場する話、しかも今回は文庫本で600頁近い長編ミステリーなのである。世田谷の豪邸での一室で隠居した老人が不審死を遂げた。事件から数日後に叔父が連れて来た霊媒師と言われた穴山、彼は後日降霊会を開くという事で当日又もや殺人事件が発生当の霊媒師が殺害された。そして最後になって方城家の家政婦のフミが犯人と特定される男を毒を持って殺害と算段重ねでプロットを組み立て冗長性はあるが上手く書き込んでいて面白かった。
司馬遼太郎著「坂の上の雲 八」、遂に最終巻。ロシアのバルチック艦隊との会戦となり、双方激しく攻防が実施され天才戦略家の秋山真之の指揮のもと片やロジェストヴェンスキー提督率いるバルチック艦隊は迷走し戦艦スワロフは海底に沈み助け出されたロジェストヴェンスキーは負傷し佐世保へと送られた。ロシア軍の完敗だった、欧米各国は脅威の眼で日本軍の勝利に目を向けた。こうして日露戦争戦争は終結し明治の時代の終焉となった。日本の歴史の一時期を二人のまた子規を含めた三人の人生を重ね合わせ約10年という歳月を賭けた時代を著者の執拗な調査と歴史観による大作だった。
司馬遼太郎著「坂の上の雲 七」、泰天の会戦は激烈を極め、日本側は右往左往し危うく退却することに、しかし救われたのはロシア軍を率いる提督クロポトキンの性格による臆病風による退却に次ぐ退却によって日本軍はまさに救われた。しかし著者の執拗にして素晴らしい調査そして歴史を達観する能力には驚きを隠せない。その頃ロシア軍のバルチック艦隊は一路極東に向かって進軍していたが、この艦隊の総司令官であるロジェストヴェンスキーは奇妙な性格で日本海での決戦を前にして躊躇しその戦略すら下士官やら水平までも不信がられていた。
司馬遼太郎著「坂の上の雲 六」、辛くも旅順で勝利した日本軍はまさにどん底の闘いであった、借金の上で戦争の装備弾薬を調達し戦地に回すという危ない橋を渡りながら旅順を陥落させたことは日本陸軍にとって朗報であった。ロシア軍はその後も中国清に着々と領土を拡大し遂に泰天に強大な城を築き日本軍との会戦の準備をしてきている、戦力は圧倒的にロシア軍が有利で日本の大本営は苦肉の策で左右展開し攻撃し動揺するロシア軍の中央突破という戦策を考えていた。海上ではロシアのバルチック艦隊はいよいよマダガスカル島から石炭及び食糧の補給を最大限実施して遂に極東に向けて錨をあげた。
倉知淳著「幻獣遁走曲」、5編の短編集である。猫丸先輩と呼称される永遠のアルバイターであり、頭脳明晰にしてあらゆる問題を解決する懐の深さを持つ作者が創造した名探偵集である。猫丸と取り囲む人間達を作者は悪人でなく、通常の普通の人間として描きそこに何ら悪の匂いを感じさせない優しさがある。対して猫丸は平等に接し決して非難するこなく事件を解決する何かこの5編すべてに優しさを感じるのである。
司馬遼太郎著「坂の上の雲 五」、乃木希典の無能ぶりにあきれ果てた陸軍大将の児玉は、遂に自ら旅順に行く決心をして戦略と共に自ら指揮して203高知を手中にすべく奮闘し奪還した。この奪還は予想外の効果を齎し正に起死回生の逆転劇であった。一望できる旅順湾に停泊中の軍艦を強大な大砲を発狂喜させた。その頃バルチック艦隊は極東に向け南下を続けたが旅順に停泊の艦隊と合同で戦うべき戦艦が絶滅したことを知ると意気消沈し配送まで考えるようになっていた。