金曜日, 9月 28, 2018

ギャビン・ライアル著「深夜プラスⅠ」、著者の作品は初めてだ。長編ミステリーとはいかないエンターテインメント小説或いは冒険小説的風合いだ。マガンハルト弁護士は暴行罪の汚名を着せられたが、自己の所有する会社の株主会に出席するため警察の追手を逃れスイスとオーストリアに挟まれた小国リヒテンシュタインに向かうため、二人のガンマンを雇い弁護士の秘書と4人で行くことになった。スイス国境付近での銃撃線を辛くも突破し目的地に辿り着くことになった。だがそこで判明したのはガンマンを手配したはずの人物が実は殺し屋だった。小さなどんでん返しで終わる。
ジェイムズ・P・ホーガン著「星を継ぐもの」、舞台は地球の2029年、月で人類と恐ろしく似た人骨が発見された。2万5千年前の化石だ。アメリカのナブコム研究所に集められた広範な科学者の研究が始まった。人骨化石から手帳が発見されルナリアン人と判定されその言葉も研究されいよいよ人類の起源まで遡る壮大な研究が熱を帯びた。木星探査機に乗り込んだ科学者が出した結論は、火星にほど近いミネルヴァで成長したルナリアンは地球に降り立ちネアンデルタール人を駆使し人類の基礎を築いたとの研究成果を発表した。久しぶりのSF長編ミステリーだった。
イーデン・フィルポッツ著「赤毛のレドメイン家」、1922年の著作でミステリー小説の古典的傑作だと。長編ミステリーの部類で英国とイタリアを舞台に繰り広げられる殺人事件、それを追うヤードつまりロンドン警視庁の敏腕刑事マーク・ブレンドンとの格闘だ。しかしブレンドンは美しい女性の虜に事件は複雑なプロットを経て最終的にイタリアのコモ湖の近くで決着することになる。アメリカ人の探偵ピーターつまり真打を登場させる作者の配慮は素晴らしく現代に十分通用する読み応えのあるミステリー小説だった。
アガサ・クリスティー著「ABC殺人事件」、後世に伝えられるほどの名トリック・プロットと言われる本書は彼女の1930年代の長編ミステリーだ。ABCという名前のアルファベット順に無差別殺人が発生する。現場に居合わせのは貧しいストッキング行商の男だった。真犯人は偽の殺人者を仕立て自分の目的の殺人を実行するといったプロットは世界のミステリー小説作家を虜にした作品としての不朽の名作だ。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ」、今回は、雨森華連という名うての女性詐欺師と凜田莉子との全面対決だ。警視庁の警部ら莉子に対して尻尾を掴まれることなく次々と詐欺を巧妙に繰り返す華連そんな詐欺師を相手に莉子の頭脳が挑戦するユニークなミステリーというか小説だ。
真梨幸子著「殺人鬼フジコの衝動」、過去実際に起きった殺人事件・猟奇的な殺人事件を題材にして書いたというミステリーだ。フジコは小学生だった頃両親が殺害され叔母の元へと行くことになった。殺されたフジコの父母は所謂見栄っ張りで家庭を子供を顧みないダメ夫婦だった。そんな環境で成長したフジコにとって叔母の家から通う小学校でまたまた事件、フジコが殺害したのだ。成長してゆくにつれフジコは坂を転げ落ちるように転落してゆく。そして殺人を繰り返す。幼い頃の家庭環境と超神経質な性格とブスに生まれた悲運がここまで殺人を犯してゆく過程は一つ間違えれば誰でもフジコになる可能性を否定できない。
三戸政和著「サラリーマンは300万円で会社を買いなさい」、日本全国で中小企業は380万社あるという。そのうち50%以上が事業承継に苦慮している現状とサラリーマンの今後の人生を考え極端だが現実味のある提案と受け取れる。会社を買うつまりM&Aにも色々と手法があることが提示されている。黒字倒産を余儀なくされている中小企業も多いという現実に会社つまり売りたい会社を見つけ内容を精査し展開するにはかなりの努力が必要だと感ずる。
吉村昭著「朱の丸御用船」、史実に基ずく歴史小説だという。大阪より江戸へ米俵を運ぶ御用船幾つもの航路難所を切り抜け江戸へ。歴史の舞台は現三重県の一寒村で起こった現実の騒動である。幕府御用の米を千俵近く積み込み御用米船として出航する定助舟と次三郎船は各港に碇泊しながら江戸へ向かうことに、しかし両船は碇泊地で御用米を売り捌き故意に天候により破船したと偽った。しかしその片割れの船が漂流して名切村沖に漂着し村民総出で米俵を瀬取りし分配した。その事実がバレて役人により調査が開始され、村民は甚大な被害を被ったと。作者は現地に足を運び資料を丹念に調査しまた聞き取り史実其の儘に弥吉という若い漁師を仕立て暗い現実を描きながら希望の光をも書き留めることを忘れない。
ジェームズ・ロインズ著「ギルドの系譜 下」、米国大統領ギャント一族の系図は遥か数千年前にも及ぶ家系と判明した。サウスキャロライナに広大な土地を所有し秘密研究所を持ち、遺伝学・DNAの研究からロボットまで研究は多岐に渡る。しかし一貫した目標は家系を死守することにあった。女系のみが血統を引き継ぐとされ、シグマや大統領を追い詰めた真の犯人が判明した。物語は場所を変え想像を遥かに超えるさまざまな展開を見せ終章では行きつく暇もなく進んでいく、圧倒的な迫力はこのシリーズの特徴だと。

ジェームズ・ロインズ著「ギルドの系譜 上」、米国大統領選の娘アマンダが誘拐拉致された。シグマフォースは捜査を開始。アフリカ・ドバイと執拗に敵を追撃する。しかしアマンダの行方は依然として判明しない。そんな中で隊員に迫りくる危機シグマの隊長ペインターはようやくギルドの仕業と判断する。しかも大統領命令で即刻シグマの捜査を打ち切れと。各隊員の危機と今後の展開が興味を引く。

木曜日, 8月 30, 2018

吉村昭著「背中の勲章」、太平洋戦争の裏史、小型偵察艇の水夫の生き様を通して戦争を振り返る異色の作品だ。この作品で感ずる当時の日本国家の戦慄すべき軍事統制教育、誰も疑わず天皇を仰ぎ命を捧げることを当たり前と考える偏見思想、教壇に立つ教師は何を考え自分の使命・人間を見失った教育をしたのか?人間の脆弱性の極限だ。世界観を喪失した国家戦略を思い知らされる。
門田泰明著「ぜえろく武士道 討ちて候 下」、松平政宗は江戸で将軍家綱の後の世継ぎとして朝廷が絡む宮家をと暗躍する老中の意図を察した。不穏な忍び集団に度々急襲されながらも次々と討ち果たし難を逃れた。織田信長が本能寺の変で果てた後に直ちに家康を守り従った二十六名の忍び集団内滝一族の末裔が今も伊勢の国松坂にあった。しかもその長はなんと柳生宗重であった。
門田泰明著「ぜえろく武士道 討ちて候 上」、正三位大納言左近衛大将、松平政宗は京の都より江戸へ亡骸を菩提寺に治るべく来た。旧知との遭遇さらに政宗を取り巻く忍び集団との激しい鍔迫り合いが火花を散らす。京の鞍馬山での無双禅師の厳しい修行に耐えてきた政宗を以てしても執拗な襲撃に後一歩の所で命を失うところだった。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ」、今回はフランスはパリに旅行に出かけるという凜田莉子心配だから同行するという八重山高校時代の担任教師の喜屋武先生、二人を巻き込んで事件が発生する。同級生の楚辺がフランスパリでのフォアグラの専門高級レストランで見習い中彼の部屋に宿泊することになった。レストランで仕入れたフォアグラに不良品が混じり客が急性中毒にかかり事態は深刻になってゆく。レストランはおろか製造元まで警察・保険局が調査に乗り出した。そんな状況の中でも莉子の冷静な客観的観察力と推理によって犯人が特定される。
峰隆一郎著「大奥秘交絵巻 春日局」、江戸は三大将軍秀光の聖母・春日局の物語である。家康の子つまり秀光を将軍につけ、さらに秀忠の子忠長を亡き者にしようとあらゆる策を弄し行動する母そして女としての春日局の全貌を見事に描き切っている。乳母として江戸城中に上がり家康の子を孕み、女として溺愛する息子秀光を将軍に付ける凄まじい執念と計略は閨房の中での巧みな描写によって物語を充実させてゆく。
松岡圭祐著「八月十五日に吹く風」、太平洋戦争の激化の元で日々疲弊していく日本軍はアリューシャン列島の島々で撤退を余儀なくされていた。アッツ島での殲滅玉砕を終え、今や鳴神島=キスカ島も玉砕寸前の状態だ。そんな中木村昌副司令官の元、島に生き残る5千200名の救出作戦を血行する。艦船上での人間同士の会話と戦地での不安と絶望を織り交ぜ戦争を浮き彫りにした人間フューマンな小説だ。生きるあるいは生き残る意味を問いかける。
エラリー・クイーン著「災厄の町」、ライツヴィルという田舎町で起こった殺人事件、しかも毒殺だ。急転直下のクリーンの推理は目を見張るものがある。本書はかなりの長編であるが少し冗長性を感じさせ彼らのこれまでの作品と比較して前半のほぼ全てが正に文学的だ。人間描写に焦点を当てながら舞台となった田舎町を詳細にその街に住む住民の正に精神構造をも表現するといった内容だ。プロットは現代のミステリー小説でも取り上げられるほどの完璧さだと思う。
松本清張著「大奥婦女記」、清張の時代物ということで手に取ってみた。江戸時代の大奥の様々な局面を描きその神髄を余すところなく捉えている。将軍お殿様との大奥婦女子との拘わりから、大奥婦女の嫉妬や妬み憎悪と様々な人間の感情や醜聞などが極めて明快に書き出され江戸時代の世上と民衆との乖離が見通せる。城に勤務する近習の出世にからむ企みや暴利を貪る役人の姿はいつの時代も同じだと思う。
エラリー・クイーン著「中途の家」、1930年代のクイーンの代表作とされる本書は、私にとってはベストだと思わせる出来栄えだ。ある男は二重生活、つまり重婚をして日々を最新の注意を払いながら暮らしていた。ある日男は現在の自分を嘘偽りなく話そうと二人の人間に自分の人格を変える目的を持つ家表題にもなっている中途の家へ来るよう手紙を出す。そして彼及び彼女が見たのは殺害された男の死体であった。犯人は女性と断定され公判でも禁固20年の刑に処せられた正妻そして事件の関係者であり正妻の兄であり弁護士を救うためクイーンの灰色の脳細胞が活躍する。当時の面影を残しながら相変わらず人物設定およびプロットの見事さは秀逸でミステリーの本質を突いた名著である。
エラリー・クイーン著「スペイン岬の秘密」、大富豪ゴッドフリー家の別荘は三方を海に囲まれた断崖絶壁の上に建つ瀟洒なものだった。客として当主の夫人から招待された4人がいた。エラリーと判事は旧家を過ごす為、ゴッドフリー家のスペイン岬のすぐ近くの別荘に行く予定でそこへ向かうと当主の娘ローザが縄で縛られ意識を失っているのを発見し事件に巻き込まれることになる。招待された客がある日テラスで全裸で殺害されているのが発見され地元警察の警視らとエラリーらとが合同で捜査に乗り出す。巧みな人物設定と謎解きの面白さは秀逸で改めてクリーンのミステリー小説の面白さを実感できる作品だ。
エラリー・クイーン著「アメリカ銃の秘密」、ロデオショーのコロシアムで起きた殺人事件、殺された騎手は元映画俳優バック・ホーンだ。エラリーとクイーン警視の必要な捜査にも拘わらず進展は一向に無い。しかも凶器と見られた25口径の拳銃リボルバーも依然として見つからなかった。元俳優だという人物設定に始まりコロシアムという状況設定といいエラリープロットは実に巧みだ。現代でも通用するミステリーとして秀逸だ。
アイザック・アシモフ著「黒後家蜘蛛の会」、12編にも及ぶ短編集である。6人の会員を擁するウィドワースの会はヘンリーというウェイターのいる店で例会を開く。6人が自らまたはゲストを連れてきて悩みを打ち明けることに対して解決を試みる。各短編は機智に飛んだ問題に対してヘンリーのさり気ない解答・解決策が傑作だ。
吉村昭著「雪の花」、江戸時代の天然痘の撲滅を目指し人生を賭した医師、笠原良策を中心とした物語だ。元は漢方医だった彼はある時蘭方医からの教えで天然痘についてその治療法がオランダ医から発せられていることを知り、彼の奮闘が開始された。幕府を初め福井藩に身御置く良策に対してその種痘を入手した後も様々な困難及び偏見に見舞われ遅々として治療が進まない状況だ。しかし彼の根底にある人間性を死から子供たちを救うというヒューマンな姿を描いている。
エラリー・クイーン著「チャイナ蜜柑の秘密」、切手蒐集家でもあり宝石商さらに本の出版にも携わる人物はホテルの22階を事務所として使用している。ある日訪ねて来た名前も明かさない人物が事務所の部屋で殺害される。異質の密室の殺人事件だ。切手の知識や登場人物の様々な造形それに伴うプロットは流石だ。しかし殺人のトリックとしては今一の感は否めない。
倉田百三著「出家とその弟子」、親鸞を中心に弟子たちとの会話戯曲作品である。大正期の作品である。著者の人間の奥深くにある情念それは信と欲との相克を深いところで捉えている傑作だ。信仰と愛憎、肉欲を見事に表現し最終的に御仏に全てを委ね任せることで生きる信ずるに通ずるという描いていいると思う。

金曜日, 7月 27, 2018

ダン・ブラウン著「オリジン 下」、米国はハーバード大学教授ロバート・ラングドンシリーズ第5弾だ。宗教と科学との相克・対峙はシリーズの基本テーマで今回の「オリジン」もご多聞にもれずそうだ。エドモンド・カーシュ亡き後、プレゼンテーションの公開を急ぐラングドンは幾つもの試練を乗り越え遂に公開できた。人はどこからくるのか?この問いに自然界の物理法則によって生命が誕生し、科学の兆速な進歩により未来を生きることへ繋がるとその命題への答えだった。後半のどんでん返しは読者を引きずり込んで一気に最終ページへと。スペインのガウディの建築物をネットで検索し見ながらの読書は楽しい時間を与えてくれた。
ダン・ブラウン著「オリジン 上」、久しぶりに著者の本を読む。スペインを舞台にしたミステリーだ。グッゲンハイム美術館やらサグラダファミリアそしてバルセロナのアントニオ・ガウディのカサ・ミラなど正にスペイン一色だ。ハーバード大学教授ラングドンの友人であるエドモンド・カーシュはコンピューターの専門家でもり未来学者だそんな彼がグッゲンハイム美術館で哲学的命題、「人間はどこからきて、どこに行くのか」この二つの命題を宗教と対峙させプレゼンテーションを行うという。しかし事態は急変しプレゼンテーションの最中ラングドンが見守る中、射殺された。美術館の館長とラングドンは、友人の意思を継ぎ捜査に乗り出す。
辻村深月著「かがみの孤城」、本書は、2018年「本屋大賞」に輝いた作品である。七人の生徒が自宅の鏡を通して孤城にて出会うという不思議な物語だ。城の中で次第に各人との繋がり絆を深めていく、不登校の中学生を描く。プロットは新鮮で斬新だ。読後は何故か心が暖まるそんな感じがする長編小説だ。
アガサ・クリスティー著「ナイルに死す」、著者の最長編ミステリーと言われるこの作品は中東の異国情緒を漂わせ、ナイル川クルーズに設定し、様々な登場人物を配し船内での連続殺人というプロットを仕立てた彼女の手腕は強烈だ。今読んでも古さを感じさせない。ポアロを初めとして、医師、弁護士、盗賊、資産家令嬢と人物も多彩だ。傑作ミステリーだと思う。
山折哲雄著「親鸞をよむ」、著者はTVでも拝見したが、哲学者にして宗教家でもある。親鸞をからだで読むとの命題で解説した本書は、親鸞の哲学的著作「教行信証」と「歎異抄」との比較を紐解きさらに妻恵信尼の書簡集にも言及し親鸞の世界をやさしく解説している。悪、人間の根源的悪を往生という親鸞が生涯追及したテーマまた極楽浄土つまり浄土感、浄土に対するイメージは仏教の最大のテーマであると著者は言う。
エラリー・クイーン著「ギリシャ棺の謎」、1932年に記された本著、長編推理小説は現代でも十分通用する魅力を持った作品である。著者の初期の長編推理小説であるという。大学を出たてのエラリーが活躍する本作品は犯人特定が二転三転し暗闇に中に沈殿してゆく。この複雑なプロットは人物の配置設定はおろか全てに於いて完璧なもので最後まで読者の犯人特定を困難にさせる超ミステリーの傑作だと思う。
スティーヴン・キング著「キャリー」、キャリーとはこの物語の女性少女主人公の名前である。著者の初期の長編作だ。偏狂な家庭に育ち高校生となったキャリーは、性格も暗く常に不安に脅え高校生活を送っている。ただ彼女はTKテレキネシスという特異な能力を持った女性だった。ホラー小説の元祖と位置付けられた作品であるといわれるが、ソフトホラーというかミステリーも交じり結構痛快で面白かった。
大沢在昌著「新宿鮫」、一匹狼ではぐれ刑事、鮫島はキャリアでありながら警部という肩書で防犯課に勤務する。次々と新宿署の警察官が射殺され、犯人は庸として知れず辿り着いた先は拳銃密造する男だった。約30年にも前の作品としては今読んで見ても古さを感じさせないストーリー展開と物語で踊る各々のキャラクターは鮮明で嬉々とした出来具合だ。
松岡圭祐著「千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮」、著者の人気エンターテインメント小説である。美貌で才智溢れる岬美由紀を巻き込んで展開する、ミグ25による核爆弾の退避、中国大使館に潜むいかさま賭博を巡る攻防と読者を圧倒するプロットだ。
ドン・ウィンズロウ著「ダ・フォース 下」、ニューヨーク市警の部長刑事デニー・マローンは、自ら大量の麻薬と現金を手にし同僚の刑事たちと分配した事案が明らかにされ窮地に立たされる。最後には同僚の刑事を見捨てる事態となった。ニューヨークに蔓延る大量の麻薬と殺人、人種差別、市警の違法捜査と恫喝、司法全体の金による汚職、そんな中で最後まで、警察官として生きるマローンの姿は人間として生きる姿を作者は提示してくれた。

木曜日, 6月 28, 2018

松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 4」、ノストラダムスの大予言のポスターを回り牛込警察署と凜田莉子と嵯峨、小笠原が奔走する。青年の父はその昔鼠小僧と知れた盗賊の頭だ、その子の青年は父の遺言を元にポスターを探し歩きかつみかんの汁で5億円の在処を書いたとされるポスターの裏を炙りだしたという事件の真相に気づいた。何とも突飛なプロットである。
吉川英治著「親鸞 三」、都、京都から追放され越後に着いた親鸞、この地での布教は徐々に成果を上げ名を轟かせ地方での名は日を追うごとに高まっていった。民衆の中に根を据え共に暮らす、信仰の根源をそこに見出した親鸞の信仰の本質を作者は語る。愚禿を標榜し生に、信仰に、愛に懊悩する親鸞の姿に人間本来の姿をと作者は教えてくれる。全ての人間を救う教えこそ親鸞その人の教義であった。
ドン・ウィンズロウ著「ダ・フォース 上」、著者の最新作だ。今回はニューヨーク市警のノース地区の特捜部の部長刑事デニー・マローンを中心とするフォースと呼称されるチームを中心に市警内部から弁護士と判事、麻薬とギャングを巡る抗争を赤裸々に対処するチームの活躍を描く。薬と銃、賄賂が公然と横行するニューヨーク,市警の内部の実情は凄まじいものがある。


松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 3」、昔の栄光と喝さいを捨てきれない音楽プロデューサーが、引き起こす詐欺に強請りこの事件に敢然と立ち向かう凜田莉子、著者の科学的に豊富な知識と人間本来の優しさを根底にみるエンターテインメント小説だ。
吉川英治著「親鸞 二」、範円の求道の悩みは深く己が道を極めるために心血を注ぐ修行を繰り返しは見たものの欲を捨てきれず悩みは一層深いものになっていったのである。そんな折に縁あって法然との邂逅が範円の求道を決することになる。彼は決心して月輪卿の末娘、玉日姫を娶る決心をする。新妻を草庵に残してまでも修行する善信(範円)が住まいに帰ってみると叡山との深刻な対立が起きており、師法然への禍を心配する姿が印象的だ。他力念仏を主眼とする法然一派吉水禅房、明恵上人の唱える菩提心、さらに叡山、興福寺の念仏に対する批判は朝廷までに上った。
松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 Ⅱ」、世間に偽一万円札が大量に出回り、物価が何十倍もに跳ね上がりハイパーインフレになった。警察及び公安全てを総動員したにも拘わらず犯人の行方は依然として知れず日本の経済はどん底に沈んでいく状況に至った。凜田莉子は早稲田大学準教授に偽一万円札の鑑定を依頼したが本物と寸分違いがないと出た。国立印刷局工芸官を警察が身柄を拘束してもなお解明できない偽札の謎、遂に莉子の鑑定眼が閃き犯人を突き止めた。開業時御世話になったリサイクルショップの社長であった。著者の科学の知識とプロットを結びつける思考に思わず笑い。
吉川英治著「親鸞 一」、平安時代に平家絶頂の時代、源家の系譜範剛卿の元で生を受けた幼名を十八公麿(まつまろ)は幼くして異才を放ち9歳の時に比叡山に昇り師となる慈円僧正の元で勉学に励む毎日であった。ここから十八公麿の苦難が始まる。20年間に及ぶ修行を経て京の都に降りた範円が見たものは世俗の人間の欲、儚さやそして社会の現実の荒廃であった。範円の自分の人生への深い懊悩が開始される。遂に再び比叡山に登る決心をする。
中町信著「模倣の殺意」、同県で誕生した作家としての中町なる推理作家の作品は初めてだ。アパートでの青酸カリによる服毒死を遂げた新進の作家坂井正夫を巡って高名な作家の長女中田とルポライターの津久見が各々独自な手法で死の真相を解明しようと調査を開始する。本書終盤に至って初めて坂井正夫なる人物が同姓同名で二人いることに読者は気づく。この同姓同名の作家二人を操り複雑なプロットを体現したのが本書だが余り上手く運んでいるとは思えない。
森博嗣著「探偵伯爵と僕」、小学生新太の夏休みに事件が起きた。友達が誘拐され居なくなった。そんな折ふとした事から伯爵と呼ぶ探偵と出会い新太は伯爵に事件を話し解決を要請する。二人共同で事件の捜査に臨む。小学生新太の一人称で書かれた文章は軽快でテンポよくしかも最後にはどんでん返しまで用意されたプロットは作家の器量を忍ばせる。
歌野晶午著「葉桜の季節に君を思うということ」、厳めしい名前の成瀬将虎の人生つまり著者の人生感をそして生きる勇気と意味を暗示させてくれる書だ。蓬莱倶楽部という高額な偽物を売りつけローンを契約させ多重債務者に仕立て上げる集団、その罠に嵌った女、古屋節子そして保険金殺人の片棒を担がされ身悶えする。成瀬が電車に飛び込んだ節子を救うことになり事件は進展してゆく。複雑なプロットを駆使しながら最後に人生の意味と意義を説く上手い。
今野敏著「曙光の街」、ロシアンマフィアの下でヒットマンとして働いていたヴィクトルは、安アパートで生息吐息の生活をしていた。カってのボスの来訪でヒットマンとして雇われることになった。標的は日本のヤクザの親分の殺害だ。日本に潜り込んだヴィクトルとヤクザと公安外事一課の刑事たちとの戦闘とアクションが展開される。そんな抗争の中で蠢く人物達の人間味と人生の光(曙光)を見出していく様を見事に描き出していく。
柳広司著「ジョーカー・ゲーム」、戦時下日本陸軍参謀本部の結城中佐が作ったスパイ養成組織それがD機関と呼ばれる軍団だ。任地及び任務を与えられ赴任して行くD期間の青年は徹底的に教育され任務を遂行するべく日夜危険を抱えながら日常の生活を送る。上海からロシア敵対国の中で必死に諜報活動を続けるスパイの物語は妙に現実味を帯びて頁を繰り続けさせる。
松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 Ⅰ」、著者の描き出す美女シリーズは水鏡瑞希、岬美由紀と個性豊かな人物だが真を持つ正義派の女性であった。本書は新たに万能鑑定士としての凜田莉子なる沖縄は波照間島から上京し運よくリサイクルショップの社長瀬戸内との邂逅で目覚めていく莉子の成長過程を記しさらに力士シールやフーズ会社の窃盗を暴くなど才能を発揮していく、次回が期待できる。


東直己著「探偵はバーにいる」、札幌はすすき野を中心に物語が進行する。主人公(俺)は北大の後輩からの依頼により後輩原田の彼女麗子を捜索することになる。探偵稼業をしている俺は常にウイスキーを煽りバーや居酒屋、クラブを探索するが一向に要として足跡が掴めない。すすき野を徘徊しながらチンピラやヤクザと渡り合い捜索している姿は人生を思わせ興味深い、異質はミステリーだ。探偵らしくない探偵の真面目な姿は読者を魅了すること間違いなしだ。
エラリー・クイーン著「Zの悲劇」、上院議員とその兄弟のフォーセット医師が刺殺された。事件を契機にサム警視と娘パティが懸命な捜査にも関わらず事件の真相は庸として知れず遂にドルリー・レーン氏のハムレット荘を訪問し捜査の強力をお願いすることになった。物語はアルゴンキン刑務所を舞台にプロットも素晴らしく結末は読者を煙に巻くどんでん返しとなる。

水曜日, 5月 30, 2018

乾くるみ著「イニシエーション・ラブ」、福井から静岡の大学へ入学した鈴木君は、歯科衛生士となるべく専門学校生の成岡繭子と付き合うことになった。淡い青春の伊吹が走馬灯のように脳裏に浮かぶ恋愛物語は自分の年齢を改めて感じさせてくれる。この物語の中に青春の全てが、若き人生のすべてがあるような感じすらする。
門田泰明著「大江戸剣花帳 下」、幕府転覆を画策する手練れの武士・浪人の類が、宗重の前に立ちはだかる。僧侶慈円は剣の師であるまた柳生宗矩やら父酒井忠勝らの援軍を得て見事謀反の浪人共を看破し撃退する。江戸情緒と庶民の生活及び江戸城周辺の地形から歴史共々教えられる絶好の書である。
門田泰明著「大江戸剣花帳 上」、江戸の初期、中でも知られる明暦の大火の頃浪人宗重は徳川の重鎮酒井讃岐守忠勝の妾の子である。端正な顔立ちと文武両道を極めた浪人宗重が御三家の一つ紀州藩を離脱した浪人達を追う。著者の時代ミステリーは江戸時代の風情を殊の外読者に解かりやすく解説し町人の生活、恋愛事情と面白く読ませてくれる。好著である。
松岡圭祐著「ヒトラーの試写室」、太平洋戦争が進行する時代に一人の青年がヒトラーの戦時下のドイツに渡り生きた史実に基ずく物語りである。青年は柴田彰といい家業の大工見習いをしていたが家を出、たまたま東宝の前身となる特撮技術研究所なる場所で特撮を作る模型作りのバイトをしていた。話はドイツへ飛び、ヒトラーを及び関係する大臣はプロパガンダの為、映画制作を目論んでいた。そんな折ヒトラー以下ナチス軍上層部が見た日本映画の特撮技術に感銘を受け技術者を招聘したその抜擢されたのが柴田だった。ドイツに於ける戦争高揚映画作りに精を出す青年とゲシュタポ監視下で生きそして敗戦と戦時下のドイツでの辛酸を舐めた人生の苦悩、それでも人間を信じる著者の心意を強く感じる作品だ。
アガサ・クリスティー著「杉の柩」、1940年のクリスティーの作だという。富豪の老婦人が息を引き取った。遺言書は書かなかったという。この事実を契機にさらに関連した人物の殺人とも自殺とも取れる事件が発生する。老婦人に関係する人物の心理描写と恋愛感情を絡ませ殺人までの考え抜かれたプロットは今読んでも新鮮味を感じさせる作だ。ポアロの灰色の脳細胞がさく裂。
飯島和一著「神無き月十番目の夜」、今でいう茨城県と福島県の県境に近い小生瀬村で起きた江戸は家康により平定された二年余りの時代の物語である。既に戦は遠のき武士達は鉄砲、弓、槍、薙刀から変化を迫られつつあった。検知の報が村に届き検知人及び配下の縄張り人らが村の田に青くなり始めた田に入り込み泥田として踏みつける所業を見た村人の怒りは沸騰した。役人と対峙し戦を目論んだが四百人に及ぶ村人全てを虐殺した触れることのない古い歴史の一端を紐解きミステリーとしても十分は資質を備えた好著である。
キャロライン・B・クーニー著「闇のダイアモンド」、アメリカはニューヨークから200Kmほど離れて暮らすフィンチ一家が、慈善活動によりアフリカから来る難民一家を受け入れる事になった。フィンチ家の長男ジャレッドは難民一家の様子からこの家族はそもそも家族ではないのではと疑念を持つ。物語は米国東部の町に住むキリスト教を信じる家族の日々の生活と家族一人一人の精神構造を交えてアフリカという遠い思い知ることができない家族との交流を描いている。疑念は終盤でダイアモンドの密輸の隠れ蓑として難民としてアメリカに来たことが判明する。
松岡圭祐著「千里眼 運命の暗示 完全版」、拉致された岬美由紀と臨床心理士の嵯峨と警視庁捜査一課の蒲生の3人がヘリから舞い降りた先は中国の農村だった。ここから中国を舞台に第三次世界大戦を阻止しようと岬美由紀と彼ら2人の活躍が始まる。日中をまたにかけ暗躍するコングロマリットの仕掛ける罠を巧みにくぐり抜けて活躍するグローバルエンターテインメント小説というべき著者の発想の豊かさに舌を巻く。
松岡圭祐著「水鏡推理Ⅵ クロノスタシス」、今回のテーマは過労死である。過労死バイオマーカーという菅野医学博士が開発した過労死にPDG値という数値を方程式から求め過労死への判断基準を提供するといった研究だ。文科省の研究公正推進室に在籍する末席事務員の水鏡瑞希が総合職の須藤と一緒に研究結果を検証するタスクを拝命する。先に過労死したとされた財務省主計局の職員の調査から始め紆余曲折の調査からまさか?と思われる事態が判明する。ミステリーとして十分納得のいく以外な展開は頁を捲る速度を加速させる。著者のテーマの調査能力とか多岐にわたるプロットとか感心するばかりだ。
マイ・シューヴァル・ペールヴァールー著「刑事マルティン・ベック ロセアンナ」、スウェーデンの警察小説で出版は1965年だという。スウェーデンのミステリー小説は過去にも何度か読んだがどれもが面白い。本書は50年もまえに上梓された作品とは思えない新鮮さがあり、ストックホルム本庁の殺人課刑事マルティン・ベックを筆頭に主に3人の刑事が殺害犯を追及する捜査する物語だ。本題のロセアンナは運河を巡る観光船内で殺害された若い女性の名前でアメリカ人観光客の一人だった。凌辱され全裸で発見された死体、身元特定もままならず数か月の時間を要し焦る捜査陣、観光客船ということもあり客が撮影されたと思える写真を収集することから突破口となり犯人を追い詰めていく迫力は警察小説の醍醐味だ。

日曜日, 4月 29, 2018

畠山健二著「本所おけら長屋 十」、本所は深川のおけら長屋の住人がからむドタバタ劇を人情味豊に描き読者を安心させる何かを持っている。日本人で良かったと思うそんな気持ちにさせてくれる。江戸の風情と庶民の暮らしさらに連綿と続く日本人の心がこの本にある。

パトリシア・ハイスミス著「キャロル」、1950年代のニューヨークを舞台に若き女性テリーズと美貌のマダムキャロルとの恋愛物語だ。世にいうレズの世界の恋愛といってもそんな異質な感じは全然なくて、直に徹底した二人の就中テリーズの心理を細やかに描き出して先のページを繰らせるサスペンス的な魅力に溢れている。心理描写の徹底した分析はこの本の持つ愛をテーマに人間として成長していく姿を想起させる。
セバスチアン・ジャブリゾ著「シンデレラの罠」、平易な文体ながら、物語で語る人称の不確実性が読者を欺き最後まで殺人犯がどちらともとれる設定になっている。富豪の叔母の遺産を巡る3人の女性の深い心理を描きながら殺人事件の設定を作り上げている。プロットは単純だが、計算しつくされている語り手の人称設定の不確実性が犯人の特定を困難にし読者を迷わせる。
松岡圭祐著「水鏡推理 Ⅴ」、水鏡推理シリーズの第五弾だ。今回瑞希は文科省タスくフォーズより研究公正推進室に移動となった。移動先での様々な出来事に遭遇し持ち前の正義感とともに事件を解明してゆく。核融合炉がからむ熱エネルギーの研究開発と研究者と民間事業者との癒着と予算の要求、さらに不正な株取引にからむ事態に瑞希の追及が開始される。不妊治療から少子化さらに親子・兄弟関係についての著者の幅広い見識に感心する。
松岡圭祐著「水鏡推理 Ⅳ」、著者この水鏡推理シリーズ4冊目を手にした。文科省タスくフォーズに所属する一般事務官水鏡瑞希なる女性の活躍の舞台は今回気象に関するものだ。気象庁天下り先の民間気象会社の不正、これに絡む官僚の予算の不正要求・使用さらに非行少女たちの境遇と親との接点を通して家庭、人生を語る。現代の関心あるテーマを履んだんに盛り込んだプロットは流石だ。
ルネ・ナイト著「夏の沈黙」、英国の女流作家である彼女の作品は初めてだ。つましやかなメゾットに住む家庭ロバートとキャサリン独立した息子は市内のフラットを借りて住んでいる。ある日一冊の本が彼女の元へ送られて来た、本を見た彼女の過去の忌まわしい記憶を鮮明に思い出す。屈辱的な記憶を回り苦悩する母親としてのキャサリンは思い悩む。夫との仲も険悪な状況になり、息子のニコラスとも意思の疎通がうまくいかず八方塞がりとなった。人間の過去は消え去ることはないが、人生の何たるか人間の拙い心をまざまざと見せてくれる作品だ。
カーター・ディクソン著「ユダの窓」、密室で発生した殺人事件、逮捕されたアンズウェルは被告人としてH・M著名な弁護士の元で出廷、プロットというか殺人の密室のトリックはなかなかのものだ。少し冗長性はあるもののカラクリを解き明かす弁護士の手腕は読む者を飽きさせない面白さがある。最終的決着は、まさに人間ドラマ化し落着する。
笹本凌平著「還るべき場所」、登山を通して人間の根源的な愛を描いた長編小説だ。ミステリー部分は多少はあるが、所謂人間小説だ。ヒマラヤK2を目指して公募登山を実施したコンコルディアツアーに応募した初心者を同伴し登攀に賭ける熾烈な状況を想像しながら読める。臨場感は凄いものがある。刻々と変化する天候8000mにも及ぶ高度での酸素の欠乏と疲労と戦いながら登攀を目指す登山者の姿がリアルで極限状況での人間の愛、人生を見事に描いている。
黒川博行著「雨に殺せば」、大阪湾に架かる港大橋上で現金輸送車が襲撃され行員二人が射殺されるという事件が発生した。大阪府警刑事二人、例の黒マメコンビの登場だ。軽快な文章とともに大阪弁のボケと突っ込みが心地よい。尚も続く殺人事件、死体は5人に増え捜査は停滞した。行員の闇金融ばりの不正融資を暴くマメちゃんの必死の捜査で事件は解明へと。
松岡圭祐著「千里眼の死角」、世界統治の野望を描くメフィスト・コンサルティングは、ディフェンダーシステムを駆使し高度な人口知能システムを構築し人類の抹殺を目論む。このリリーズの壮大なプロットはまるでハリウッドの近未来的なエンターテインメントの映画の如く胆い。岬美由紀が対峙することになる悪の枢軸の統治者マリオン・ベロガニア、ここまでくると壮大なエンターテインメントを見る思いだ。
ジェフリー・ディーヴァー著「悪魔の涙」、1通の脅迫状を元に、古巣FBIの文書検査士パーカー・キンケイドはFBIの要請を受け入れ捜査に参加する。未詳はサイコパスだ。多数の人間がいる最中に銃をマシンガンを打ちまくる。残されたメモを詳細に検査する中で、今後の未詳の出没する場所を特定する。そして最後はいつものローラコースター的結末というディーバーの十八番が待っている。リンカーン・ライムシリーズには無い魅力があることは確かだ。
松岡圭祐著「水鏡推理Ⅲ」、栃木県北部の過疎の山村猪狩村へ文科省タスくフォース事務官水鏡瑞希は上司とともに到着。地磁気逆転の層が発見されたとう教授らの真偽の確証を得るため調査開始。そんな折隣村で土が地震により隆起し人顔の塚が表出したとのニュースが入った。この通称人面塚は村の一大テーマパークとなり環境客が押し寄せた。折しも地磁気逆転調査をしていた久保教授のその人面塚を調査してもらい人面塚は紛れもなく自然現象だとのお墨付きをまらった所有者は歓喜した。しかし水鏡は動いた。。
スティーヴン・キング著「ミザリー」、ポール・シェルダンなる著名な作家がある日事故により、看護婦であり熱烈な彼のファンでもある彼女アニーの元で「ミザリー」という彼女を中心に物語を書けと強要され部屋に監禁される密室の物語だ。彼女は過去に数十人の殺害をし、証拠不十分で現在も生きているサイコパスだった。物語はアニーとポールの二人きりの世界で恐怖に慄き苦悩する作家を描く。本当の恐怖スリラーとミステリーが渾然一体となった体感だ。
松岡圭祐著「ヘーメラーの千里眼」、ミステリーだと読んでは少し物足りない。防衛大学及び防衛庁そして航空隊基地と戦闘機パイロットの二人岬美由紀と伊吹直哉との恋愛を織り交ぜる物語だ。自衛隊を見る作者の眼、そこで生きる隊員たちの日常と人生について作者なりの国家感ともいうべき思想を披歴する。訓練中誤って少年を死に至らしめたと絶望の淵に佇む伊吹を身をもって蘇生させる彼女美由紀の愛情と自衛隊内での精神の相克それらが見事に描かれ長編ながら頁を繰らせる力がある。
櫛木里宇著「死刑にいたる病」、大学生の雅也にある日手紙が繰る。シリアルキラーで死刑囚である榛村大和からであった。刑務所に面会に行った彼はキラー榛村か依頼された要件は過去の殺人と一線を画する9件目の殺人は冤罪だと。榛村の過去及び現在まで交流のあった人々との接触を通して榛村の人間性を知ることにより自分もまた過去から現在までの人生を自分自身を知ることになった。設定は面白いが今一ミステリーとしての面白さは薄い。

土曜日, 3月 31, 2018

P・D・ジェイムズ著「策謀と欲望 下」、ホイスッラー連続殺人鬼はあっさりと自害した。連続殺人鬼を追走する物語だと思ったが、作者はバッサリとなんの未練もなく断ち切った。その潔さに感心する。思えば、原子力発電所の小さな田舎町の近隣住民の悲喜こもごも嫉妬や妬みは元より噂、そして暴力と人間が暮らす世界の通常の普通の生活の機微を描きながら中心に据えたテーマは人間の欲望であった。
P・D・ジェイムズ著「策謀と欲望 上」、海沿いの田舎、原子力発電所のある小さな村で次々と起こる連続殺人事件ホイスッラーと呼ばれる犯人の仕業と目され、殺人は惨く惨忍だ。地元警察の刑事が捜査を開始するが、犯人の行方は庸と知れずそんな中発電所の職員がまたもや殺害された。しかし殺害前に目されていたホイスッラーは自害したとされた。事件は迷宮化しつつあった。
米澤穂信著「いまさら翼といわれても」、架空の田舎町、神山町の高校生の青春の会話が主題だ。懐かしい思いが蘇る。徐々に個性を際立たせて大人になる一歩手前の行動と考えを懐かしさと共に思い出し一気に読んでしまう不思議な魅力を持った書だった。
宮部みゆき著「蒲生邸事件」、戦前の2・26事件を題材に、タイムトリップという突飛な発想設定で物語が進んでいく。蒲生憲之という旧陸軍大将・皇道派である家・蒲生邸にタイムトリップした孝史そこでこの蒲生邸の秘密を探り、合わせて事件の渦中に遭遇し現場を具に見ることになる。軍部独裁へと舵を切る日本の現状と必死に生きる庶民の姿は小説らしく、後半部分は既にタイムトリップのことなど忘れてしまう。そんな面白い小説だった。
ジョン・ディクスン・カー著「火刑法廷」、素晴らしい作品だ。プロットもそして謎解きもそこに登場させる人物の配置も見事だ。フィラデルフィアの郊外クリスペンの田舎町の広大な土地を有するデスパレード家そこの当主がヒ素の毒をもられ死亡する。近くに別荘を持つスティーヴンスとデスパレード家の長男マークらとともに霊廟から死体を取り出し毒を盛られた事を実証すべく掘り返した。だが死体は無かった。死体の消失、不倫、魔術めいた家系、犯罪を研究する小説家と伏線にも事欠かない。まさにミステリーの一級品だ。
東野圭吾著「秘密」、杉田平介の平凡な家庭、妻と娘藻奈美との3人でのどこにでむある家庭だ。ある日長野に娘と出掛けた妻直子はバスの事故により娘の藻奈美だけ助かったという事態が発生。そしてミステリーが始まる。娘藻奈美の体に妻直子が宿るという不可思議な状況になった。平介と藻奈美の体をした直子との生活が始まる。娘、妻への愛情と父親としての人間としての嫉妬と苦悩を見事に描いている。ミステリーというより文学的作品だ。
筒井康隆著「ロートレック荘事件」、豪邸とも言われる別荘その建物はロートレック荘というものだった。別荘の所有者木内がロートレック作品の蒐集家で邸内には幾つもの作品が飾られていた。そんな別荘に集まった7人にある日拳銃による殺人事件が発生した。次々と計3人の女性が殺害された。屋敷のカラクリと犯人の鬱屈した精神をプロットとして採用しているが、謎解きは今一だ。
ミシェル・ビュッシ著「彼女のいない飛行機」、イスタンブール空港を飛び立ったエアバスが、フランスとスイス国境の恐山と称される山中に激突した。乗員乗客169名のうち1名の乳児が助かったと地元新聞が報じ話題となった。乗客の中に乳児が二人いて助かったのはどちらの家族の子供かと争いが起きそして一人の探偵が裕福な家族に捜査を依頼されてから18年の歳月が経過した。そして探偵に依頼した契約最後の日に事態は急展開し謎がとける言ったプロットだ。一人の乳児を回り対立する家族そして捜査を依頼された探偵、一方に家族の青年もまた捜査を開始する。様々な状況の中で物語は進む。冗長さは否めないが最後まで繰らせる迫力がある。
東野圭吾著「疾風のロンド」、泰鵬大学医科学研究所から盗まれた炭疽菌カプセル以前研究所に勤務していた男の犯行だと分った。彼は長野県の里沢温泉村スキー場に埋めたといって脅迫してきていた。その後犯行に及んだ男は関越道でトラックに轢かれて死亡、研究員の栗林と秀人はスキー場に向かう。ゲレンデを挟んでの攻防はスリルがあり単純だが著者のプロットは的を得た作りといえる。
黒川博行著「蜘蛛の糸」、7編の短編集だ。著者の短編集は確か初めてだと思う。どれも皆面白い。軽妙な文章のタッチは気軽に読めて何故かホットするものがある。大阪弁でのやり取りも何故か違和感もなくすんなりと受け入れることができる。それぞれの背景の著者の蘊蓄は調査の確かさを認識する。