日曜日, 8月 30, 2020

松本清張著「霧の会議 下」、ランスに入港した二人、信夫と和子は様々な土地を回りニースに到着、そこで待っていたのは身代わりとして殺害された和子の夫仁一郎と銀座のホステス麻子だった。和子は信夫をフィレンツェに返し叔父である白川の援助でスイスに渡る。政経日報ローマ支局員の八木正八は、精神武装世界会議に出席した春子と共に和子の行方をスイスの隣国の鄙びた山村の修道院兼病院で和子が自殺した旨を聞く。ヨーロッパを舞台にロンソン、パリ、イタリアローマ、モナコスイスと異国情緒と男女間の愛の放浪、ヴァチカン、フリーメイソンそしてマフィアが暗躍する小説の醍醐味は絶品であった。
松本清張著「霧の会議 上」、著者の長編小説である。上巻はロンドンを舞台に日本から来たイタリア留学を目指している大学教授と和子という人妻勿論不倫の関係にある二人。彼らはイタリアの財界の著名人と同一ホテルに滞在しかつ隣室であった。興味本位で備考した先に見たのは殺人であった。それも偽装殺人、テムズ川の橋桁につるされた死体は隣人のネルビというイタリアでは著名な銀行の頭取だった。その現場を見た二人は何者かに追跡され逃げるようにドーヴァー海峡を渡りフランスに入った
フェルディナント・フォン・シーラッハ著「犯罪」、様々な犯罪を取り上げ、そこで発生し起きた犯罪と犯人の人生を絞殺するといった特異な発想を試みた本作は往年の名著と呼ばれた。裁判と弁護が被疑者に与える様々な葛藤、法律の条文と実際の犯罪と犯人の心理及び境遇を映し出す。短編でありながら余すことなく人生を浮き彫りにする手腕には思わず感嘆する一連の物語だ。
ジェフリー・ディーヴァー著「カッティング・エッジ」、ニューヨークの宝飾専門店街で起きた殺人事件を契機に次々と発生する連続殺人事件、天才科学捜査官リンカーン・ライムと市警アメリア・サックス刑事のコンビが活躍する待望の新刊だ。ロジックといいプロットといい、完璧だ。最後のどんでん返しまでちゃんと用意されている。文庫本にしたら1000頁もありそうな長編ミステリーだが、期待しながら犯人を想像する楽しみは健在だ。
松本清張著「砂漠の塩」、泰子と真吉の求めた愛とは、つまり愛と死という普遍のテーマを見事に結実させた著者の渾身の作で読み応えがある。夫を捨て真吉を死を覚悟した泰子にとって真吉を当初拒むその理由は何だったろか?自分の夫保雄に対しての贖罪なのか?バグダッドへ向かう途中で病に倒れた真吉を必死に介護する泰子の献身的な愛、死を決意する二人、愛を証明する死を見た。
乙一著「夏と花火と私の死体」、ある夏の夜、9歳になる少女五月ちゃんが同い年の弥生ちゃんに殺されてしまう。しかしその後の展開は実に奇妙だ。死んだ五月ちゃんの一人称形式で語られる物語だ。そこはかとなくうすら寒い恐怖と孤独と非日常性が、微妙にバランスを保ち物語を構成している。しかも著者16歳の時の作品だという。ソフトホラーでありソフトミステリー作品だ。
ピーター・スワンソン著「そしてミランダを殺す」、叙述形式で語られる殺人ミステリーだ。著者のロジックといいプロットといい感心しきりである。リリーが出会った英国ヒースロー空港でのテッドから殺人を教唆され同意する異色の展開から始まり、彼女のサイコパス的心理読者を恐怖させる孤独と残虐性、独自性は秀逸だ。どんでん返し的な場面を随所に散りばめ最後のページまで繰らせる力がこの小説にはある。
麻耶雄嵩著「翼ある闇」、舞台は京都中心から離れた洋館、蒼鴉城という古風な謎めいた洋館を舞台にそこに住まう10人からの人間は皆異色で世の中から隔絶された存在、そんな洋館の中で次々と発生する殺人事件、これに呼応するような探偵が知恵を絞り解明すべく努力する。そして最後までどんでん返しの連続で読者を欺き終わる。意図せず読者を翻弄するプロット、ロジック、舞台設定に唖然とする外ない。
松本清張著「顔・白い闇」、短編を5編収録したミステリーだ。著者の女性を主人公にした物語は孤独、寂寥感、貧困、不条理性を背景にふとした日常から派生する殺人事件を見事に浮かび上がらせる途方もない力がある。短編は短編なりの状況設定とプロットはあろうが、どの編を読んでも感心するほどの出来栄えだ。
北村薫著「盤上の敵」、日常の中に潜む恐怖、孤独、儚さそれらに敢然と立ち向かい愛情を持ち人生を生きるそんなミステリーだ。物語は二元的に進み、人質に取られた妻友貴子を必死に救出しようとする夫、悪までも太々しい犯人、ふとした日常の中で実行される殺人と伏線を用意して進行する物語。友貴子の小学生からの過去と物語は複雑に絡む人間社会の平穏でいて一気に崩れ去る危険を描きだしている。