水曜日, 5月 30, 2018

乾くるみ著「イニシエーション・ラブ」、福井から静岡の大学へ入学した鈴木君は、歯科衛生士となるべく専門学校生の成岡繭子と付き合うことになった。淡い青春の伊吹が走馬灯のように脳裏に浮かぶ恋愛物語は自分の年齢を改めて感じさせてくれる。この物語の中に青春の全てが、若き人生のすべてがあるような感じすらする。
門田泰明著「大江戸剣花帳 下」、幕府転覆を画策する手練れの武士・浪人の類が、宗重の前に立ちはだかる。僧侶慈円は剣の師であるまた柳生宗矩やら父酒井忠勝らの援軍を得て見事謀反の浪人共を看破し撃退する。江戸情緒と庶民の生活及び江戸城周辺の地形から歴史共々教えられる絶好の書である。
門田泰明著「大江戸剣花帳 上」、江戸の初期、中でも知られる明暦の大火の頃浪人宗重は徳川の重鎮酒井讃岐守忠勝の妾の子である。端正な顔立ちと文武両道を極めた浪人宗重が御三家の一つ紀州藩を離脱した浪人達を追う。著者の時代ミステリーは江戸時代の風情を殊の外読者に解かりやすく解説し町人の生活、恋愛事情と面白く読ませてくれる。好著である。
松岡圭祐著「ヒトラーの試写室」、太平洋戦争が進行する時代に一人の青年がヒトラーの戦時下のドイツに渡り生きた史実に基ずく物語りである。青年は柴田彰といい家業の大工見習いをしていたが家を出、たまたま東宝の前身となる特撮技術研究所なる場所で特撮を作る模型作りのバイトをしていた。話はドイツへ飛び、ヒトラーを及び関係する大臣はプロパガンダの為、映画制作を目論んでいた。そんな折ヒトラー以下ナチス軍上層部が見た日本映画の特撮技術に感銘を受け技術者を招聘したその抜擢されたのが柴田だった。ドイツに於ける戦争高揚映画作りに精を出す青年とゲシュタポ監視下で生きそして敗戦と戦時下のドイツでの辛酸を舐めた人生の苦悩、それでも人間を信じる著者の心意を強く感じる作品だ。
アガサ・クリスティー著「杉の柩」、1940年のクリスティーの作だという。富豪の老婦人が息を引き取った。遺言書は書かなかったという。この事実を契機にさらに関連した人物の殺人とも自殺とも取れる事件が発生する。老婦人に関係する人物の心理描写と恋愛感情を絡ませ殺人までの考え抜かれたプロットは今読んでも新鮮味を感じさせる作だ。ポアロの灰色の脳細胞がさく裂。
飯島和一著「神無き月十番目の夜」、今でいう茨城県と福島県の県境に近い小生瀬村で起きた江戸は家康により平定された二年余りの時代の物語である。既に戦は遠のき武士達は鉄砲、弓、槍、薙刀から変化を迫られつつあった。検知の報が村に届き検知人及び配下の縄張り人らが村の田に青くなり始めた田に入り込み泥田として踏みつける所業を見た村人の怒りは沸騰した。役人と対峙し戦を目論んだが四百人に及ぶ村人全てを虐殺した触れることのない古い歴史の一端を紐解きミステリーとしても十分は資質を備えた好著である。
キャロライン・B・クーニー著「闇のダイアモンド」、アメリカはニューヨークから200Kmほど離れて暮らすフィンチ一家が、慈善活動によりアフリカから来る難民一家を受け入れる事になった。フィンチ家の長男ジャレッドは難民一家の様子からこの家族はそもそも家族ではないのではと疑念を持つ。物語は米国東部の町に住むキリスト教を信じる家族の日々の生活と家族一人一人の精神構造を交えてアフリカという遠い思い知ることができない家族との交流を描いている。疑念は終盤でダイアモンドの密輸の隠れ蓑として難民としてアメリカに来たことが判明する。
松岡圭祐著「千里眼 運命の暗示 完全版」、拉致された岬美由紀と臨床心理士の嵯峨と警視庁捜査一課の蒲生の3人がヘリから舞い降りた先は中国の農村だった。ここから中国を舞台に第三次世界大戦を阻止しようと岬美由紀と彼ら2人の活躍が始まる。日中をまたにかけ暗躍するコングロマリットの仕掛ける罠を巧みにくぐり抜けて活躍するグローバルエンターテインメント小説というべき著者の発想の豊かさに舌を巻く。
松岡圭祐著「水鏡推理Ⅵ クロノスタシス」、今回のテーマは過労死である。過労死バイオマーカーという菅野医学博士が開発した過労死にPDG値という数値を方程式から求め過労死への判断基準を提供するといった研究だ。文科省の研究公正推進室に在籍する末席事務員の水鏡瑞希が総合職の須藤と一緒に研究結果を検証するタスクを拝命する。先に過労死したとされた財務省主計局の職員の調査から始め紆余曲折の調査からまさか?と思われる事態が判明する。ミステリーとして十分納得のいく以外な展開は頁を捲る速度を加速させる。著者のテーマの調査能力とか多岐にわたるプロットとか感心するばかりだ。
マイ・シューヴァル・ペールヴァールー著「刑事マルティン・ベック ロセアンナ」、スウェーデンの警察小説で出版は1965年だという。スウェーデンのミステリー小説は過去にも何度か読んだがどれもが面白い。本書は50年もまえに上梓された作品とは思えない新鮮さがあり、ストックホルム本庁の殺人課刑事マルティン・ベックを筆頭に主に3人の刑事が殺害犯を追及する捜査する物語だ。本題のロセアンナは運河を巡る観光船内で殺害された若い女性の名前でアメリカ人観光客の一人だった。凌辱され全裸で発見された死体、身元特定もままならず数か月の時間を要し焦る捜査陣、観光客船ということもあり客が撮影されたと思える写真を収集することから突破口となり犯人を追い詰めていく迫力は警察小説の醍醐味だ。