月曜日, 8月 30, 2021

横山秀夫著「クライマーズ・ハイ」,群馬の地方新聞紙北関東新聞社の編集委員悠木を通して、日航機墜落事故の取材から社内のセクショナリズム同僚との駆け引きと息を突かせぬ様々な事象が雪崩を打って引き起こす、文体は軽やかでいて美しい。日航事故を通してはたまた主人公悠木を通して人生を見つめる。間違いなく好著だ。
恩田陸著「麦の海に沈む果実」,東北であろうか湿原に囲まれ青丘と呼ばれる崖の上に建つ壁に囲われた学園、そこに一人の少女理瀬がその年の2月の最終日に入園した。全寮制で特異な授業を行うこの学園で、理瀬の回りで不可思議な殺人が頻発する。冗長性は否めないがファンタジーでミステリーな物語、そして最後はどんでん返しが待っている。プロットといい複雑な伏線といい作者のレベルの高さを伺わせる。
橘玲著「タックスヘイブン」,シンガポールを主要舞台に日本、タイそして中国系の華人、日本のヤクザ、官僚、警察官僚、巨額ファンドを操るファンドマネージャー等金融サスペンスタッチで迫力と文体の軽快さを伴い主人公の古波蔵の知能戦には恐れ入る。そんな中にも男女の機微を盛り込み一層この物語を深いものにしている。痛快ミステリーといったところだ。
エラリー・クイーン著「九尾の猫」,ニューヨークで発生する連続殺人事件、被害者は全て独身でありかつまた女性が圧倒的に多かった。傷心のエラリーは父警視の説得で捜査に乗り出すが、手掛かりらしき物証は一切無く堂々巡りで捜査は難航を余儀なくされる。インド産絹の紐で絞殺する犯人を現行犯で逮捕するしか方法は無いと判断し遂に9回目の犯行に及ぶ犯人を逮捕した。逮捕された犯人は精神異常者の犯行と見た警察に協力した精神科医カザリス氏だった。。まずもって面白い最後のどんでん返しそれに伴う伏線といい見事で読み応えがある。
今邑彩著「いつもの朝に 下」,弟優太の出生の秘密、殺人者の父から生まれたとばかり思っていたが、ある日昔のアルバムを引っ張りだした事で、兄桐人が自分ではと思うようになった。出生の秘密の秘密を知った兄桐人は懊悩し遂に死を決断したその時優太が現れて自ら兄の代わりに首に縄を掛けて死のうとして階段から飛び降りた。一命を取り留めた弟を見て兄桐人は直になっていった。兄妹愛家族愛さらに神について生きることについて示唆に富みかつ小ミステリー的な伏線そして全体を貫くプロットといい完璧だ。
今邑彩著「いつもの朝に 上」、日向沙羅は画家であり、二人の子供桐人と優太を持つ母親だ。ふとした事から優太が赤ん坊のときから持っていたぬいぐるみの中に折り畳んだ手紙が入っていたその情報元に岡山のド田舎に向かった優太を待っていたのは、優太の父は引き取られた牧師の家の家族を惨殺したものだった。果たして弟優太の出生の秘密は?下巻へ続く。
橘玲著「マネーロンダリング」、著者のデビュー作だという。香港を舞台にした資金洗浄に関する金融、税制を始めとする様々な知識が炸裂する。プロットといい伏線といいイズレニシテモ小気味よく物語が展開してゆく。主人公にも好感が持てるし回りを囲むそれぞれの人間描写も好感が持てる。物語を一気読みさせる迫力があるし読後感は正に爽快そのものだ。
アガサ・クリスティー著「おしどり探偵」、トミーとタペンスシリーズの短編集である。まさに軽やかでいてきちんとミステリーらしさをキチンと描いている。クリスティーの能力に完敗だ。どの短編も根底にユーモアを感じさせるミステリーとして仕上げた物語だ。ポアロ登場の長編ミステリーもいいが、トミーとタペンスの短編もまたすごく良い。
乙一著「GOTH」、全6篇の短編であり長編でもある不思議な物語だ。全編に共通して根底にある人間の残虐性、凶暴性それでも人間でいたいと言う希望と欲望が混然一体となっている。オカルト、ホラー、ファンタジーそして少しミステリーという不思議な小説である。
道尾秀介著「鬼の跫音」、6篇短編集である。どの作品の底流にもホラー近いそこはかとなく恐怖が存在する。ホラーでありミステリーである作品群だ。日常に潜む何故か不可思議な恐怖を絶妙なプロットで描き出す作者の短編の面白さはそこにある。
西沢保彦著「人格転移の殺人」、米国のあるショッピングモールで巨大な地震が発生しそこに居合わせた数人がシェルターと思える建物に命からがら避難するそしてそこで不思議な現象が起こるつまり人格転移他人に性格が転移するという。自分の存在自体が消滅するという人間の根源的な生への疑問を読者にぶつけてくる。SF的でありミステリーであり奇想天外なプロットそしてトリック複数の伏線を用意し結末へと。非常に面白い小説だ。
森博嗣著「女王の百年密室」、ミステリーとファンタジーが融合しsFチックに仕上げた数奇な物語だ。ある日ジャーナリストのミチルは相棒のロボットのロイディと道に迷うが一人の老人の教えでルナティック・シティーと呼称される街に入り女王に謁見する。この街の住人は死を恐れない冷凍保存され再生すると信じている。死そして神、そこに暮らす人々の幸福人生2113年という時代設定何もかもがコミカルでシニカルだ。
皆川博子著「開かせていただき光栄です」、舞台は18世紀のロンドン、外科医ダニエルは5人のそれぞれ個性のある弟子とともに解剖を受け持つ医師だった。ある日見慣れぬ遺体が2体見つかった。一つは妊婦の遺体でもう一つは少年の遺体だ。治安判事を中心に様々な角度から捜査が進められ最後になって行きついたのは容疑者と思しき者二名が死亡したという事実、しかし田舎からロンドンに出てきた文学少年の遺体と見なされ解剖した弟子の一人の容疑がうらずけられ裁判に持ち込まれた、しかしそこにどんでん返しが用意されていた。長編にも拘わらずプロット、そして巧みな伏線が最後に重ね合う手工は感嘆せずにはいられぬ面白さだ。
北山猛邦著「アリス・ミラー城殺人事件」、東北の孤島に集められた探偵10人、アリス・ミラー城は白角という木材業者が島を買い取りそこに建てた城だった。ルディという女性が主催者で鏡つまりアリスミラーを捜すという設定だ。来島した翌日から、次々と殺人事件が発生する。何故殺害されたのか?そして殺害のトリックもまた奇妙な内装を抱えた城の下では判別できない。深まる疑惑そして恐怖次々と発生する殺人、彼らは疑心暗鬼となり互いの信頼は崩壊する。舞台設定といいトリック及びプロット全てが圧巻であり、酸性雨という環境破壊をテーマに殺人動機が解明される。
アガサ・クリスティー著「火曜クラブ」、6人のそれぞれ個性ある人物が火曜日に集い、事件を披露しあい犯人を当てるという趣向つまり火曜クラブが結成されメンバーにはミスマープルも参加していた。個性ある怪事件を次々と推理し当てて行くミスマープルの頭脳を参加者は驚嘆する。中でも最終章の溺死は御大クリスティーの面目躍如の感があり、楽しく読ませてもらった。
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