水曜日, 9月 30, 2020

稲村文吾著「元年春之祭」中国は前漢時代で観家を訪問した葵(き)という17歳の少女を中心として親しくなった露伸とともに、4年前の殺人事件そして現在の連続殺人事件の解明に挑む物語である。前漢時代の因習と家に縛られる運命を背負う人々、そして友情、師弟関係、人々との関係の中で起こる殺人事件はやり切れない愛情表現として描き出した作者の渾身の一冊だ。
松本清張著「球形の荒野 下」戦中スイスで一等書記官としていた野上は、戦争早期終結に動いた罪を外務省は彼を故人として国籍を剥奪、戦後再度日本を訪れた野上はどうしても自分の娘久美子に一目会いたかった。戦後陸軍にいた皇国のグループが野上を追走し殺人を犯す。謀略、殺人、親子の愛情と日本の原風景の見事な描写は読者を飽きさせない。
松本清張著「球形の荒野 上」外務所一等書記官の野上は終戦前、スイスで死亡した。部下である国際交流協会理事の勧めで画家のモデルを依頼された野上久美子は3日間の約束でモデルとなった、が三日目に画家宅に伺うと留守であった。画家は多量の睡眠薬を飲み死亡したことをしった。しかも彼が描いたデッサン画が紛失していた。一方叔母の芦村節子は京都のお寺参りで芳名帳に野上賢一郎の筆跡を見たという。
ピエール・ルメートル著「監禁面接」もう4年も就活を行っているアラン、妻ニコルは英語教師彼は蓄えを削りながら生活をする状態だ。そんな折、大手メジャーへの就職志願をする。なんと会社を襲撃するプレイングゲームだという、人事担当職を募集しその志願候補者にモニターで逐一見学させ適切な対応をさせる。それを会社の重役連が観察し採用決定するといった。破天荒なアイデアだ。アランは周到な準備をすすめ、試験に臨む。そこで彼が見せたのは見学でなく自ら本物の銃を使用して恫喝するといったものだった。取り押さえられ拘置所にぶち込まれたアランに起きた事はまさにどんでん返しだった。失業者の悲哀と大手会社の不正、私服を肥やす役員愛する妻娘を思いやる男の悲哀を見事に描いている傑作だ。
東野圭吾著「マスカレード・イブ」チェーンを展開するホテル、コステリアそこのクラークである山岸、ホテルに関連ずけた事件が発生。ユニークで今までにない発想はソフトミステリー的な物語となっている。だが、少し物足りなさを感ずるのは私だけであろうか。
松本清張著「巨人の磯」著者1970年代の短編5編が載っている。著者の古代史に対する造詣とロジック及びプロットそして殺人トリックとがふんだんに盛られた短編集である。読み応えと共に古代史を絡めた殺人ミステリーとどの短編をとっても読者を飽きさせず最後まで頁を繰らせる秀作だ。
京極夏彦著「書桜弔堂」、都内の辺鄙な一廓にその本屋はある。高遠は30代であるが、妻子を於いて実家より出て空き農家を借りて一人住まいで自堕落な生活を送っている。がその彼の元へやってくる客人は勝海舟ありと言わば著名人なのである。その人たちを弔堂へと案内し主の蘊蓄を聞かされ客人は誰もが目覚めて行く、主の蘊蓄と博学は底を知らぬ程である。数千冊の蔵書に囲まれ本を弔うという主の言葉は人生を達観したものである。著者のミステリー小説とは一味違った趣である。
松本清張著「波の塔 下」、頼子の夫庸雄は省庁と業者との仲介をして金を稼ぐ闇の商売人である。そんな彼の元で事件が発覚して拘置される事態となった。小野木と頼子との仲は続き、頼子は庸雄との離婚を決意する。そんな中で持ち上がった省庁が絡む疑獄事件は頼子との仲を暴露された小野木は失職することになった。社会の闇の底に沈んで行く二人、そして頼子という女性の想像、作者の恋愛観そして愛の結論として死すべてにおいて一大恋愛小説である。
松本清張著「波の塔 上」、R省の局長を務める父を持つ田沢輪香子は、旅先で古代ものが好きな青年小野木と出会う。そして深大寺を散策している時、再度小野木と出会う、帯同していたのは影のある細面の美人の頼子であった。逢瀬を重ねながらも小野木は頼子の心を必死に読もうと日夜情念の迸りを感ずる毎日であった。頼子の夫結城康雄は商事会社の社長であった。ブローカーとも株取引を主にしているとも判断のつかない会社だった。
池井戸潤著「金融探偵」、著者のこれまで読んできた小説とは、ちょっと違う趣のあるソフトミステリー的小説である。大原次郎は銀行破綻により解雇され求職中である。見つけたアパートで一人住まい、大屋の相談を解決したこと、さらに大屋の娘理香の勧めもあり金融探偵として出発、正義感と少し照れ屋の主人公が活躍する物語である。
京極夏彦著「塗仏の宴」、
東野圭吾著「宿命」、
松本清張著「水の肌」、短編集で5編を含んでいる。どれも秀逸であり、日常の中に潜む殺人そして動機を見事に描き出している。著者が留意するのは動機であり、社会の中の一種暗い部分に潜んでいて突然顔を出す。それは静かに横たわる恐怖というべきか。人間の弱さななか?
堂場瞬一著「闇の叫び」、大友鉄、警視庁総務課のアナザーフェイスシリーズ9だ。中学校で親に虐待を受けた生徒の親が殺害される。十年前にも起きた事件だ。それも連続殺人事件だ。当たりを付け、容疑者として浮かんだのは教師の前田だった。彼を捜査に参加した大友を初め、柴、渥美いつものメンバーが集合、容疑者前田を捜査する中で幼い頃彼の父親に兄妹二人が虐待を受けた事実が判明、大友は自分の境遇と重ね合わせ前田を落とす。虐待、孤独、不条理そして犯罪へと。
伊坂幸太郎著「ラッシュライフ」、五つの舞台というか人間関係を作り上げ、様々な場面や人生を彷彿とさせる言葉を吐き、最初は関連など全くない状況が続き、最終的には様々な人生、諦観、孤独、不条理性に収れんしていく過程が、ロジックといいプロットといい素晴らしい。前に著者の物を読んでいるが、再び登場するなど懐かしさもあってこれはこれで傑作だ。
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