木曜日, 6月 28, 2018

松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 4」、ノストラダムスの大予言のポスターを回り牛込警察署と凜田莉子と嵯峨、小笠原が奔走する。青年の父はその昔鼠小僧と知れた盗賊の頭だ、その子の青年は父の遺言を元にポスターを探し歩きかつみかんの汁で5億円の在処を書いたとされるポスターの裏を炙りだしたという事件の真相に気づいた。何とも突飛なプロットである。
吉川英治著「親鸞 三」、都、京都から追放され越後に着いた親鸞、この地での布教は徐々に成果を上げ名を轟かせ地方での名は日を追うごとに高まっていった。民衆の中に根を据え共に暮らす、信仰の根源をそこに見出した親鸞の信仰の本質を作者は語る。愚禿を標榜し生に、信仰に、愛に懊悩する親鸞の姿に人間本来の姿をと作者は教えてくれる。全ての人間を救う教えこそ親鸞その人の教義であった。
ドン・ウィンズロウ著「ダ・フォース 上」、著者の最新作だ。今回はニューヨーク市警のノース地区の特捜部の部長刑事デニー・マローンを中心とするフォースと呼称されるチームを中心に市警内部から弁護士と判事、麻薬とギャングを巡る抗争を赤裸々に対処するチームの活躍を描く。薬と銃、賄賂が公然と横行するニューヨーク,市警の内部の実情は凄まじいものがある。


松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 3」、昔の栄光と喝さいを捨てきれない音楽プロデューサーが、引き起こす詐欺に強請りこの事件に敢然と立ち向かう凜田莉子、著者の科学的に豊富な知識と人間本来の優しさを根底にみるエンターテインメント小説だ。
吉川英治著「親鸞 二」、範円の求道の悩みは深く己が道を極めるために心血を注ぐ修行を繰り返しは見たものの欲を捨てきれず悩みは一層深いものになっていったのである。そんな折に縁あって法然との邂逅が範円の求道を決することになる。彼は決心して月輪卿の末娘、玉日姫を娶る決心をする。新妻を草庵に残してまでも修行する善信(範円)が住まいに帰ってみると叡山との深刻な対立が起きており、師法然への禍を心配する姿が印象的だ。他力念仏を主眼とする法然一派吉水禅房、明恵上人の唱える菩提心、さらに叡山、興福寺の念仏に対する批判は朝廷までに上った。
松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 Ⅱ」、世間に偽一万円札が大量に出回り、物価が何十倍もに跳ね上がりハイパーインフレになった。警察及び公安全てを総動員したにも拘わらず犯人の行方は依然として知れず日本の経済はどん底に沈んでいく状況に至った。凜田莉子は早稲田大学準教授に偽一万円札の鑑定を依頼したが本物と寸分違いがないと出た。国立印刷局工芸官を警察が身柄を拘束してもなお解明できない偽札の謎、遂に莉子の鑑定眼が閃き犯人を突き止めた。開業時御世話になったリサイクルショップの社長であった。著者の科学の知識とプロットを結びつける思考に思わず笑い。
吉川英治著「親鸞 一」、平安時代に平家絶頂の時代、源家の系譜範剛卿の元で生を受けた幼名を十八公麿(まつまろ)は幼くして異才を放ち9歳の時に比叡山に昇り師となる慈円僧正の元で勉学に励む毎日であった。ここから十八公麿の苦難が始まる。20年間に及ぶ修行を経て京の都に降りた範円が見たものは世俗の人間の欲、儚さやそして社会の現実の荒廃であった。範円の自分の人生への深い懊悩が開始される。遂に再び比叡山に登る決心をする。
中町信著「模倣の殺意」、同県で誕生した作家としての中町なる推理作家の作品は初めてだ。アパートでの青酸カリによる服毒死を遂げた新進の作家坂井正夫を巡って高名な作家の長女中田とルポライターの津久見が各々独自な手法で死の真相を解明しようと調査を開始する。本書終盤に至って初めて坂井正夫なる人物が同姓同名で二人いることに読者は気づく。この同姓同名の作家二人を操り複雑なプロットを体現したのが本書だが余り上手く運んでいるとは思えない。
森博嗣著「探偵伯爵と僕」、小学生新太の夏休みに事件が起きた。友達が誘拐され居なくなった。そんな折ふとした事から伯爵と呼ぶ探偵と出会い新太は伯爵に事件を話し解決を要請する。二人共同で事件の捜査に臨む。小学生新太の一人称で書かれた文章は軽快でテンポよくしかも最後にはどんでん返しまで用意されたプロットは作家の器量を忍ばせる。
歌野晶午著「葉桜の季節に君を思うということ」、厳めしい名前の成瀬将虎の人生つまり著者の人生感をそして生きる勇気と意味を暗示させてくれる書だ。蓬莱倶楽部という高額な偽物を売りつけローンを契約させ多重債務者に仕立て上げる集団、その罠に嵌った女、古屋節子そして保険金殺人の片棒を担がされ身悶えする。成瀬が電車に飛び込んだ節子を救うことになり事件は進展してゆく。複雑なプロットを駆使しながら最後に人生の意味と意義を説く上手い。
今野敏著「曙光の街」、ロシアンマフィアの下でヒットマンとして働いていたヴィクトルは、安アパートで生息吐息の生活をしていた。カってのボスの来訪でヒットマンとして雇われることになった。標的は日本のヤクザの親分の殺害だ。日本に潜り込んだヴィクトルとヤクザと公安外事一課の刑事たちとの戦闘とアクションが展開される。そんな抗争の中で蠢く人物達の人間味と人生の光(曙光)を見出していく様を見事に描き出していく。
柳広司著「ジョーカー・ゲーム」、戦時下日本陸軍参謀本部の結城中佐が作ったスパイ養成組織それがD機関と呼ばれる軍団だ。任地及び任務を与えられ赴任して行くD期間の青年は徹底的に教育され任務を遂行するべく日夜危険を抱えながら日常の生活を送る。上海からロシア敵対国の中で必死に諜報活動を続けるスパイの物語は妙に現実味を帯びて頁を繰り続けさせる。
松岡圭祐著「万能鑑定士の事件簿 Ⅰ」、著者の描き出す美女シリーズは水鏡瑞希、岬美由紀と個性豊かな人物だが真を持つ正義派の女性であった。本書は新たに万能鑑定士としての凜田莉子なる沖縄は波照間島から上京し運よくリサイクルショップの社長瀬戸内との邂逅で目覚めていく莉子の成長過程を記しさらに力士シールやフーズ会社の窃盗を暴くなど才能を発揮していく、次回が期待できる。


東直己著「探偵はバーにいる」、札幌はすすき野を中心に物語が進行する。主人公(俺)は北大の後輩からの依頼により後輩原田の彼女麗子を捜索することになる。探偵稼業をしている俺は常にウイスキーを煽りバーや居酒屋、クラブを探索するが一向に要として足跡が掴めない。すすき野を徘徊しながらチンピラやヤクザと渡り合い捜索している姿は人生を思わせ興味深い、異質はミステリーだ。探偵らしくない探偵の真面目な姿は読者を魅了すること間違いなしだ。
エラリー・クイーン著「Zの悲劇」、上院議員とその兄弟のフォーセット医師が刺殺された。事件を契機にサム警視と娘パティが懸命な捜査にも関わらず事件の真相は庸として知れず遂にドルリー・レーン氏のハムレット荘を訪問し捜査の強力をお願いすることになった。物語はアルゴンキン刑務所を舞台にプロットも素晴らしく結末は読者を煙に巻くどんでん返しとなる。