水曜日, 12月 30, 2020

市川憂斗著「ジェリーフィッシュは凍らない」

市川憂斗著「ジェリーフィッシュは凍らない」、1980年初頭の設定で、真空気嚢航空艇幅40m高さ20mの航空艇をジェリーフィッシュと呼ぶ。この機体をさらにステルス型に改良開発すべく携わるUFA社の研究開発員たち5名は苦悩していた。そんな折紹介されたのが大学一年生のレベッカという女子学生で彼女は天性的な化学の知識を持ちステルスに使用できる素材の開発を示唆していた。だが、実験室でレイプされ青酸ガスを咥えさせられ殺害された。飛行艇は完成を見航行試験を実施しかし飛行艇の乗組員全員が殺害されるという事件がおこった。F署のマリアと漣刑事二人が捜査に当たり、意外な真犯人に遭遇する。

高橋克彦著「歌麿殺贋事件」

高橋克彦著「歌麿殺贋事件」、短編を再構成したという本書は、歌麿の浮世絵を中心に美術業界の裏側、贋作を取り巻く詐欺などを描き、中でも大学講師の塔馬宗太郎、美人秘書の菜緒子、美術雑誌編集者の杉原という、いつものメンバーが揃い事件を解決する。

高橋克彦著「火怨 下」

高橋克彦著「火怨 下」、遂に田村麻呂が征東将軍として全権を掌握して阿弖流為率いる蝦夷軍を殲滅する作戦に出た。戦も既に二十有余年になり四十近くなった阿弖流為はただ只管無暗に争う事を考え直し蝦夷の民さらに児や孫の幸福を考えて作戦に出る。見事に田村麻呂の裏を欠き成功し自らは京に上り大阪の地にて斬首された。友との友情と民の幸せを想う先導を務める将として何たるかを示す長編小説だ。

高橋克彦著「火怨 上」

高橋克彦著「火怨 上」、平安時代に東北は蝦夷での地元と朝廷派遣軍との戦を描いた物語だ。蝦夷近郊に金が出土された情報は朝廷を喜ばせ大仏等の仏像や寺院の建立に役立つとの理由からこの地を略奪せんと軍を派遣したのである。蝦夷の地元の軍勢にあって阿弖流為を筆頭に母礼ら優秀な人物を揃えた軍勢は数では圧倒的に上回る朝廷軍に策を練り果敢に戦い勝利を収め敵方を撤退させた。

京極夏彦著「陰摩羅鬼の瑕」

京極夏彦著「陰摩羅鬼の瑕」、文庫本にして1200頁に及ぶ長超編ミステリーである。例の人物たちが勢ぞろいする、榎木田礼次郎探偵、小説家関口巽、京極堂中禅寺秋彦達が活躍する。事件は白樺湖畔に建つ瀟洒な洋館で発生する連続殺人事件である。当主由良の新妻は婚約し新婚初夜を過ぎた翌日、決まって殺害されるという事件である。特殊な環境、人間関係の中で生育した当主の鬱屈した人生を反映した事件であった。それにしても長編だ。

高橋克彦著「写楽殺人事件」

高橋克彦著「写楽殺人事件」、たった10か月余りで、140点もの作品を残した浮世絵師東洲斎写楽とは一体誰だったのか?著者のミステリーの主題はここにある。江戸期版元の蔦屋重三郎下で作品を世に問うた写楽。美大に勤務する津田は秋田への旅行で秋田藩が江戸文化深く拘わり秋田蘭画の絵師が写楽と関連しているのではと気づく。浮世絵界の二大派閥勢力の狭間で次々と発生する殺人事件、大学内での陋習、権利と欲が重なる歴史ミステリーだ。

高橋克彦著「広重殺人事件」

高橋克彦著「広重殺人事件」、著者の写楽、北斎に次ぐ広重殺人事件である。広重コロナによる死亡説を覆したのは中学教師の津田だった。深刻な病を負い津田と妻の冴子は東北の立石寺を訪れた時、妻冴子は五大堂から身を投げた。その後大学で浮世絵就中写楽の研究者塔間宋太郎と美術誌の記者である杉原とともに広重の調査に乗り出す。そんな折に津田が自殺した。彼の意を受け継ぎ、突き止めたのは写楽と東北天童との繋がりだった。彼広重は勤皇派で幕府を恐れ天童に滞在していた事実を掴む。そして幕府の手により殺害された。

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 下」

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 下」、東京に戻ってから勝手知ったる大学で浮世絵を研究している塔間と知人の美術専門誌を発刊担当の杉原と共に事件の詳細を追う。由梨子の母の他殺、シュミットの失踪、モサドのサミュエルの殺害と殺人事件が相次ぐ状況は読者を混乱させる。マーゴと共にオルセー美術館に勤務する学芸員ロベールの存在が俄かに浮上する。正にどんでん返しの結末だ。多数の伏線を重ね、詳細なゴッホの調査もとに練られたミステリーには感動だ。

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 上」

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 上」,パリに絵画修復師として在住する加納由梨子は、友人の美術館勤務のマーゴとゴッホの死の真相を探るべくアイントフォーヘンへ自動車で旅に出た。そこで昔のゴッホの記事が載っている雑誌を買わないかと持ち掛けた青年シュミットと出会う。由梨子の母の自殺、スイスはレマン湖の近在で殺害された日系人そしてシュミットも行方不明。パーティの席で友人マーゴが爆弾により殺害された。見えない敵に恐怖する由梨子、ゴッホの絵画を回り暗躍するモサド。

下村敦史著「闇に香る嘘」

下村敦史著「闇に香る嘘」,著者の作品は初めてで、本作品は第60回「江戸川乱歩賞」入選作品だという。第二次世界大戦中満州に渡り苦難の末に帰国した日本人並びに満州に置き去りにされた残留孤児という背景の中で物語展開してゆく。村上和久盲目の父親だ、実は実家の岩手の兄を偽物だと強い疑念を持ち方々に当たり今だ核心ができないで苦悩する姿、周辺に漂う不穏な出来事が彼を翻弄する。様々な伏線を最後の展開で開花させるどんでん返しは、そのプロットといい完璧だ。