水曜日, 12月 30, 2020

市川憂斗著「ジェリーフィッシュは凍らない」

市川憂斗著「ジェリーフィッシュは凍らない」、1980年初頭の設定で、真空気嚢航空艇幅40m高さ20mの航空艇をジェリーフィッシュと呼ぶ。この機体をさらにステルス型に改良開発すべく携わるUFA社の研究開発員たち5名は苦悩していた。そんな折紹介されたのが大学一年生のレベッカという女子学生で彼女は天性的な化学の知識を持ちステルスに使用できる素材の開発を示唆していた。だが、実験室でレイプされ青酸ガスを咥えさせられ殺害された。飛行艇は完成を見航行試験を実施しかし飛行艇の乗組員全員が殺害されるという事件がおこった。F署のマリアと漣刑事二人が捜査に当たり、意外な真犯人に遭遇する。

高橋克彦著「歌麿殺贋事件」

高橋克彦著「歌麿殺贋事件」、短編を再構成したという本書は、歌麿の浮世絵を中心に美術業界の裏側、贋作を取り巻く詐欺などを描き、中でも大学講師の塔馬宗太郎、美人秘書の菜緒子、美術雑誌編集者の杉原という、いつものメンバーが揃い事件を解決する。

高橋克彦著「火怨 下」

高橋克彦著「火怨 下」、遂に田村麻呂が征東将軍として全権を掌握して阿弖流為率いる蝦夷軍を殲滅する作戦に出た。戦も既に二十有余年になり四十近くなった阿弖流為はただ只管無暗に争う事を考え直し蝦夷の民さらに児や孫の幸福を考えて作戦に出る。見事に田村麻呂の裏を欠き成功し自らは京に上り大阪の地にて斬首された。友との友情と民の幸せを想う先導を務める将として何たるかを示す長編小説だ。

高橋克彦著「火怨 上」

高橋克彦著「火怨 上」、平安時代に東北は蝦夷での地元と朝廷派遣軍との戦を描いた物語だ。蝦夷近郊に金が出土された情報は朝廷を喜ばせ大仏等の仏像や寺院の建立に役立つとの理由からこの地を略奪せんと軍を派遣したのである。蝦夷の地元の軍勢にあって阿弖流為を筆頭に母礼ら優秀な人物を揃えた軍勢は数では圧倒的に上回る朝廷軍に策を練り果敢に戦い勝利を収め敵方を撤退させた。

京極夏彦著「陰摩羅鬼の瑕」

京極夏彦著「陰摩羅鬼の瑕」、文庫本にして1200頁に及ぶ長超編ミステリーである。例の人物たちが勢ぞろいする、榎木田礼次郎探偵、小説家関口巽、京極堂中禅寺秋彦達が活躍する。事件は白樺湖畔に建つ瀟洒な洋館で発生する連続殺人事件である。当主由良の新妻は婚約し新婚初夜を過ぎた翌日、決まって殺害されるという事件である。特殊な環境、人間関係の中で生育した当主の鬱屈した人生を反映した事件であった。それにしても長編だ。

高橋克彦著「写楽殺人事件」

高橋克彦著「写楽殺人事件」、たった10か月余りで、140点もの作品を残した浮世絵師東洲斎写楽とは一体誰だったのか?著者のミステリーの主題はここにある。江戸期版元の蔦屋重三郎下で作品を世に問うた写楽。美大に勤務する津田は秋田への旅行で秋田藩が江戸文化深く拘わり秋田蘭画の絵師が写楽と関連しているのではと気づく。浮世絵界の二大派閥勢力の狭間で次々と発生する殺人事件、大学内での陋習、権利と欲が重なる歴史ミステリーだ。

高橋克彦著「広重殺人事件」

高橋克彦著「広重殺人事件」、著者の写楽、北斎に次ぐ広重殺人事件である。広重コロナによる死亡説を覆したのは中学教師の津田だった。深刻な病を負い津田と妻の冴子は東北の立石寺を訪れた時、妻冴子は五大堂から身を投げた。その後大学で浮世絵就中写楽の研究者塔間宋太郎と美術誌の記者である杉原とともに広重の調査に乗り出す。そんな折に津田が自殺した。彼の意を受け継ぎ、突き止めたのは写楽と東北天童との繋がりだった。彼広重は勤皇派で幕府を恐れ天童に滞在していた事実を掴む。そして幕府の手により殺害された。

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 下」

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 下」、東京に戻ってから勝手知ったる大学で浮世絵を研究している塔間と知人の美術専門誌を発刊担当の杉原と共に事件の詳細を追う。由梨子の母の他殺、シュミットの失踪、モサドのサミュエルの殺害と殺人事件が相次ぐ状況は読者を混乱させる。マーゴと共にオルセー美術館に勤務する学芸員ロベールの存在が俄かに浮上する。正にどんでん返しの結末だ。多数の伏線を重ね、詳細なゴッホの調査もとに練られたミステリーには感動だ。

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 上」

高橋克彦著「ゴッホ殺人事件 上」,パリに絵画修復師として在住する加納由梨子は、友人の美術館勤務のマーゴとゴッホの死の真相を探るべくアイントフォーヘンへ自動車で旅に出た。そこで昔のゴッホの記事が載っている雑誌を買わないかと持ち掛けた青年シュミットと出会う。由梨子の母の自殺、スイスはレマン湖の近在で殺害された日系人そしてシュミットも行方不明。パーティの席で友人マーゴが爆弾により殺害された。見えない敵に恐怖する由梨子、ゴッホの絵画を回り暗躍するモサド。

下村敦史著「闇に香る嘘」

下村敦史著「闇に香る嘘」,著者の作品は初めてで、本作品は第60回「江戸川乱歩賞」入選作品だという。第二次世界大戦中満州に渡り苦難の末に帰国した日本人並びに満州に置き去りにされた残留孤児という背景の中で物語展開してゆく。村上和久盲目の父親だ、実は実家の岩手の兄を偽物だと強い疑念を持ち方々に当たり今だ核心ができないで苦悩する姿、周辺に漂う不穏な出来事が彼を翻弄する。様々な伏線を最後の展開で開花させるどんでん返しは、そのプロットといい完璧だ。

月曜日, 11月 30, 2020

松本清張著「地の骨 下」.東陽銀行東京支店長の息子秀夫と京子との関係は既に稲木助教授と深い中になってから、あらゆる嫌がらせを京子に掛け続けていた。一方川西教授はその秀夫から極秘の大学の専務理事有田の裏金疑惑を証明する資料を入手する。折から大学の授業料値上げに反対する学園闘争が始まり、川西はそれを利用して専務理事の失脚を狙う。大学内での教師たちの学外での色と欲そして地位と金とあらゆる世の中の汚泥をかき回すそして行きつく先は刃傷沙汰となる。それにしても著者の女性の描写心理は絶妙である。
松本清張著「地の骨 上」、大和大学を舞台に助教授の稲木さらに教授の川西など、学内の派閥を背景に醜い争いが続く。稲木助教授は、バーの女啓子と知り合い深い関係になったある夜連れ込み宿から帰る途中タクシーの車内に入試の原稿を置き忘れ青ざめ事態の深刻さに気付き学部長の相談する。紛失した日から一週間後、大学に稲木を訪ねた来た男性が、なんと原稿を持って来てくれた。安堵とともに感謝の気持ちを表すため、訪ねた松濤のその家は果たしてホテルを経営する楢沢京子で美人で実業家であった。一目で惚れた稲木は悪戦苦闘の結果、彼女をモノにする。下巻へ
真山仁著「標的」、本当にリアルな描写が本書にはある。著者が依然記者だとしった。綿密な調査を資料を基にする彼の小説はプロットはよりリアルで面白い。越村みやび代議士厚労大臣だ。サ高住に代表される高齢者介護健全化法案の成立を自分の使命と考える大臣を贈収賄容疑で起訴するべく奮闘する検事、富永真一そして事件に絡む新聞記者神林、増収容疑の楽田はコンサルで越村代議士と組みサ高住に絡む利権を一手にしようと企む青年実業家と伏線は見事で読者を一気に頁を繰らせる迫力がある。
芦沢央著「許されようとは思いません」、著者の作品を読むのは初めてだ。5つの短編が綴られている。どの短編もプロットといい、一人称形式で語られる心理描写の上手さとふとした日常から落ちて行く描写の巧みさは読者をどこまでも不安にさせ先を繰らせる力がある。
松本清張著「網」、戦友で今や北陸の小都市で新聞社の社長となった沼田から新聞連載の小説の依頼が小西のところに来た。原稿料の他に金額を上乗せして渡すと、そして上乗せした金額は依頼人が受取りに行くと言う。折から総選挙になり沼田のいるN県では保守派3人の争いとなった。落選した青山という候補の選挙総参謀もまた沼田、小西とって勝手の軍隊時代の上官であった。その上官の土井が山林の林道脇で数か月経った死体となって発見された。小西は調査を進めたそして遂に真相に、そこには戦争体験した人間関係と現実社会の狭間で苦悩する人間の葛藤があった。
東野圭吾著「夢幻花」、独居老人が殺害された。偏見したのは孫の秋山梨乃だった。祖父に最近記されていたアサガオの変種黄色の花を付けるという植物を栽培していたということを梨乃は知っていた。警視庁は事件の本部を立上げ捜査に当たるが一向に進展が見られず迷宮入りかと思われ居た。そんな捜査陣の中で早瀬という警部だけが執拗に個別捜査を展開し突破口を見つけた。その変種のアサガオはその昔夢幻花と呼称され幻覚作用があるとされ国家的な機密事項だったという。これをプロットの中心に置き、不随する線を複数取り揃え展開してゆく著者の技量に何時もながら感心させられる。
京極夏彦著「絡新婦の理」、本書は大作である、新書版で2段書きで800頁を超える。今回も役者として登場するのは、例の榎木田礼次郎探偵、京極堂主人中禅寺、榎木田礼次郎探偵に弟子入りした元刑事の益田である。千葉県の海岸べりに建つ瀟洒なベルナール女学院が舞台となり、その学院を作った織作家代々続く家系その呪われた血筋が連続殺人事件に作用する。憑き物落としお祓い師、京極堂中禅寺が血塗られた扉体を解明し活躍する。
ドット・ハチソン著「蝶のいた庭」、そこは『ガーデン』と呼ばれ、滝あり池あり小川あり崖まである広い庭である。そこに誘拐された女性しかも十代後半から20代前半までの二十数名が拉致監禁され、様々な蝶のタトウーを入れられ『ガーデン』で生活をしている。親父を彼女たちは庭師と呼び、長男、次男、妻、一家で暮らしている。彼女達は暴行されレイプされ意に逆らう女性は、ホルムアルデヒド付けとなりガラスケースに飾られる。次男のデヅモンドはマヤに好意を寄せ滔々警察に通報し彼女達は解放された。解放後マヤ、イナーラがFBI特別捜査官の尋問に答えて全貌が徐々に明らかにされる。地獄のような環境でも未来を見、同僚達の面倒みて果敢に生きて行く女性の逞しい姿を描いてい入る。
C・デイリー・キング著「タラント氏の事件簿」、短編8作が盛り込まれた本書は、報酬なしで謎を含む事件を解決する民間探偵タラント氏の事件簿である。語りてのジェリーにより、タラント氏の考古学、心理学から物理学まで卓越した頭脳の持ち主だ、その知識をフル活用して事件を想わぬ発想で解明する。エラリー・クイーンにも似た手法であり、本書の方が起こる事件は奇抜だ。
松本清張著「喪失の儀礼」、名古屋の医学学会に出席した住田が、殺害された。名古屋県警が必死に捜査するが、杳として犯人像が浮かばない。その後、東京での個人医院の院長が殺害され、さらに薬剤会社の営業マンが殺害と連続して事件は発生。読者に最後まで犯人像を特定できないプロットといい、最後の犯罪動機の人間の心理、家族間の相克と著者らしい動機付けである。
真山仁著「マグマ」、通称ハゲタカファンドと呼称される米国のファンド会社のエリート社員野上妙子、厳命が下った。大分の小さな地熱発電会社の再生だった。地球のマグマの発生する地熱を汲み上げ水蒸気を利用してタービンを回す発電それが地熱発電だ。エリート社員野上が悪戦苦闘する姿、地熱発電に生涯を賭して研究する御室、利権が絡む政治家、地域の温泉組合と様々な反発要素を分析してプロットする作者の綿密な調査に基づく小説である。人間のドラマがここにある。
松本清張著「影の地帯」,1960年代の長編である。新進気鋭のカメラマン田代利介が、東京へ向かう機内で出会った女性を契機に事件の渦中に引っ張りだされる。銀座のバーのマダムが雑木林で殺害死体となって発見され、さらにタクシー運転手が天竜川の渓谷で殺害された。彼は関連を調査しながら、核心に近づいて行く。政党の領袖とされる代議士の拉致誘拐、マダムの死、運転手の死、さらに友人である雑誌社の部長の失踪、そして全ては繋がった。信州の湖の風景と社会悪と人間の良心とを見事にミステリーの中で描く技量こそ著者の真骨頂だ。
松本清張著「水の炎」、1960年代初頭の作品である。主人公は東都相互銀行常務塩川弘治を夫に持つ妻信子である。野心に燃える夫は観光開発会社の社長徳山を踏み台に今や財界の大物とされる是土慶次郎に身を寄せて出世を願う男であった。夫婦の間は冷え切り、夫は若い愛人を持ち妻は学問に興味を惹かれ通信教育で夏はスクーリングに通う。そこで知り合ったのが助教授の浅野であった。彼は信子を一途に思い続け志ならず、自殺するはめになる。錯綜する現代社会で塩川がまた信子が翻弄されてゆく中で自らの立ち位置を確かめ、未来へ踏み出す決意をする信子であった。
東野圭吾著「流星の絆」、長編小説だ。14年前に父母を殺害された兄弟3人、長兄の功一次男の泰輔そして長女静奈、3人は施設を無事卒業して今や詐欺師として生活をしている。しかし兄弟は父母を殺害された犯人を何時か挙げるその覚悟で日々を過ごした。彼らの家はアリアケという洋食店だった。親父は天才と呼ばれるほどの料理人で中でもハヤシライスは定評があった。詐欺の対象者からトガミ亭という洋食屋を知り、親父の作っていたハヤシライスを食べさらに泰輔が殺害された夜見たのはトガミ亭の親父だったと。三人は思案してトガミ亭の主人に接近する。そして結末は思わぬ流れに。
ジョン・ダグラス著「マインドハンター」、著者は実際にFBIの捜査官として働き、行動科学を主に1960年代から80年代に活躍したプロファイラーによるドキュメンタリー的小説である。プロファイリングを高めるため、数百人の受刑者を訪ねデータベース化をするなど努力を重ねてプロファイルをFBIの中で行動科学、犯罪支援課として立ち上げた重要な人物である。それにしても米国では女性をレイプし切り刻むといった連続殺人事件が多い。背景には混沌とする社会の現状、パーソナリティを無視した流れがあるのではないかと思われる。

火曜日, 10月 27, 2020

松本清張著「地の指 下」

松本清張著「地の指 下」、犯罪の関連を知ったタクシー運転手三上は、都庁職員山中とともに青梅に死体となって捨てられた。看護婦の扼殺、精神病院看護人の轢殺、バーのホステスで山中の愛人マユミの殺害と連続殺人事件となった。精神病院を中心として利権に絡み思惑を巡らし犯罪を行う人間たち、都庁の職員までも抱き込み目的を遂げようとする犯罪者達、これを警視庁の桑木警部が果敢に挑む、結末は意外な所にあった。社会正義と犯罪サスペンスを見事に融合させた著者ならではの作品だ。

松本清張著「地の指 上」

松本清張著「地の指 上」、都庁職員の山中は銀座のバーのホステスとタクシーに乗車中、路傍に仆れて居る死体に遭遇した。警視庁の警部の桑木が捜査に当たった。その後雑木林で発見された遺体は、近くの精神病院の看護婦であった。山中が乗り合わせたタクシーの運転手三上は、山中を付け回し一介の都庁職員が銀座のバーで飲むのを不審に思い関連を調査することにした。そこで浮かんだのは精神病院の事務長、都議、そして山中だった。

松本清張著「熱い絹 下」

松本清張著「熱い絹 下」、マレーシアのキャメロンハイランドの別荘から忽然と姿を消したジェームス・ウィルバーを廻りマレーシア警察野戦隊、英国駐留軍そして長谷部捜査本部長らの懸命な捜査に関わらず一向に先の見えない現状である。折しも日本の舞踏団がキャメロンハイランドで興行する話が出る。また興行団の祈祷士廣澤がクルス荘の帰りに吹きやで殺害される。また公演中にも二人が殺害され状況は複雑に絡み合い真相は程遠いところにある。この紐帯を長谷部警部は見事に解くといったミステリーだが、著者は実際の事件をフィクション化したものだという。伏線を複数用意し容易に謎解きできない本書は長編だが読み応え満載だ。

松本清張著「熱い絹 上」

松本清張著「熱い絹 上」、軽井沢の別荘で殺害されたフランシス・ウィルバー事件を廻り、長野県警の捜査一課長長谷部は捜査に乗り出す。殺害された彼女の兄ジェイムス・ウィルバーは、タイのシルク王と呼ばれ莫大な財産を有する資産家であった。しかし彼はマレーシアのキャメロンハイランドの別荘から忽然と姿を消した。そんな折夏季の間、骨董屋にバイトしていた佐久出身の高橋不二夫青年が蝶採取旅行中キャメロンハイランドで殺害された。長谷部は村田と警察庁の通訳警官と三人でキャメロンハイランドに向かった。ICPOの取り決めで軽井沢殺害されたフランシス事件と高橋青年殺害の情報を交換するためだった。

松本清張著「殺人行おくのほそ道 下」

松本清張著「殺人行おくのほそ道 下」、倉田麻佐子は調査を進める中で下っての同級生西村は経済関係の新聞社に勤めそこの記者だ、彼と共同調査を開始する。叔母隆子の回りの人々が連続して殺害されてゆく。犯人の検討が付かないばかりか、物語の先行きに興味が次々と沸き起こる、このミステリーの醍醐味を見事に味合わせてくれる本書は絶品だ。叔母隆子の借金の背景には、彼女の幼少期の暗くて悍ましい過去があった。

松本清張著「殺人行おくのほそ道 上」

松本清張著「殺人行おくのほそ道 上」、倉田麻佐子の叔母の芦名隆子は銀座でも有名な洋装店(ブティック)を経営していて、知名度も徐々に上がり繁盛していた。隆子の夫の信雄に誘われ勝って芭蕉が歩いたおくのほそ道に麻佐子は同行した。その後信雄の実家の九州にも麻佐子は同行したそこで信雄に内緒で隆子が山林の一部を処分したことを知った。麻佐子は疑問を持ち調べてみることに、隆子は女優の仲介で京都の金融業岸井亥之吉からも謝金している知る。ある日岸井老人が東京に来た折に老人に遭い、ホテルの部屋まで押しかけ疑問を口にすると、岸井老人は調べてみるといった。しかし麻佐子を遭った翌日福島県須賀川の山林で岸井老人の絞殺死体が発見された。

真山仁著「ベイジン 下」

真山仁著「ベイジン 下」、耐震を強化し只管北京オリンピックの開幕に合わせ紅陽核電の運開を企図する田島を含めたスタッフ全員の希望だった。無事に運開を乗り切った直後に紅陽核電内に火災が発生、右往左往する中で中国の大連綱紀粛正党副書記学好耕とも気脈を通じ合い、メルトダウンに立ち向かう姿は、忍耐と希望そして人と人との信頼を見事に描き出している。

真山仁著「ベイジン 上」

真山仁著「ベイジン 上」、中国は遼寧省の遼東半島に北京オリンピック開催と同時に巨大な原子力発電所を建設し運開するといった巨大プロジェクトに日本から技術顧問として中国に渡った田島伸吾は、中国の利権、収賄、汚職が至るところに蔓延る世界に彷徨しながら計画を推し進めるべく努力していた。田島が中国のメンバーを引き連れ日本に赴きそこで告げられたのは、紅陽核電の立地する土地は活断層が2つあり原設計では耐震できないと言われた。

松本清張著「神々の乱心 下」

松本清張著「神々の乱心 下」、荻園康之と特高警察係長吉屋は、渡良瀬遊水地での死体遺棄事件を執拗に捜査するが、根は深く元は満州国でのアヘンの密売に関わった特売人の所に行きつく、そこで秋元なる元特務員の正体が明かされる。彼は未亡人を抱き込み埼玉の田舎で新興宗教を立上げ、軍部の役人や宮中の糯持をも抱き込んで行く。著者晩年の作であり、小説事態は未完となっている。著者の晩年の仕事としては、豊富な取材調査そして歴史への道恵深い知識の上に壮大に組み立てられた本書は正に圧巻である。

松本清張著「神々の乱心 上」

松本清張著「神々の乱心 上」、昭和初期渡良瀬遊水地で発見された二体の遺体、県警は殺人事件と断定して捜査を進める。警察に先立って元華族の孫に当たる荻園康之は姉にあたる彰子から部屋子の北村幸子の葬儀に名代として参列してくれと依頼されたのを契機に自殺した幸子の原因に疑問を持ち調査を開始し、事は満州国での阿片密売に辿り着く。警察も荻園より遅れて殺害された一体が、阿片密売に関わっていたと解明、そうしてもう一体は奈良の骨董屋だと言う。

水曜日, 9月 30, 2020

稲村文吾著「元年春之祭」中国は前漢時代で観家を訪問した葵(き)という17歳の少女を中心として親しくなった露伸とともに、4年前の殺人事件そして現在の連続殺人事件の解明に挑む物語である。前漢時代の因習と家に縛られる運命を背負う人々、そして友情、師弟関係、人々との関係の中で起こる殺人事件はやり切れない愛情表現として描き出した作者の渾身の一冊だ。
松本清張著「球形の荒野 下」戦中スイスで一等書記官としていた野上は、戦争早期終結に動いた罪を外務省は彼を故人として国籍を剥奪、戦後再度日本を訪れた野上はどうしても自分の娘久美子に一目会いたかった。戦後陸軍にいた皇国のグループが野上を追走し殺人を犯す。謀略、殺人、親子の愛情と日本の原風景の見事な描写は読者を飽きさせない。
松本清張著「球形の荒野 上」外務所一等書記官の野上は終戦前、スイスで死亡した。部下である国際交流協会理事の勧めで画家のモデルを依頼された野上久美子は3日間の約束でモデルとなった、が三日目に画家宅に伺うと留守であった。画家は多量の睡眠薬を飲み死亡したことをしった。しかも彼が描いたデッサン画が紛失していた。一方叔母の芦村節子は京都のお寺参りで芳名帳に野上賢一郎の筆跡を見たという。
ピエール・ルメートル著「監禁面接」もう4年も就活を行っているアラン、妻ニコルは英語教師彼は蓄えを削りながら生活をする状態だ。そんな折、大手メジャーへの就職志願をする。なんと会社を襲撃するプレイングゲームだという、人事担当職を募集しその志願候補者にモニターで逐一見学させ適切な対応をさせる。それを会社の重役連が観察し採用決定するといった。破天荒なアイデアだ。アランは周到な準備をすすめ、試験に臨む。そこで彼が見せたのは見学でなく自ら本物の銃を使用して恫喝するといったものだった。取り押さえられ拘置所にぶち込まれたアランに起きた事はまさにどんでん返しだった。失業者の悲哀と大手会社の不正、私服を肥やす役員愛する妻娘を思いやる男の悲哀を見事に描いている傑作だ。
東野圭吾著「マスカレード・イブ」チェーンを展開するホテル、コステリアそこのクラークである山岸、ホテルに関連ずけた事件が発生。ユニークで今までにない発想はソフトミステリー的な物語となっている。だが、少し物足りなさを感ずるのは私だけであろうか。
松本清張著「巨人の磯」著者1970年代の短編5編が載っている。著者の古代史に対する造詣とロジック及びプロットそして殺人トリックとがふんだんに盛られた短編集である。読み応えと共に古代史を絡めた殺人ミステリーとどの短編をとっても読者を飽きさせず最後まで頁を繰らせる秀作だ。
京極夏彦著「書桜弔堂」、都内の辺鄙な一廓にその本屋はある。高遠は30代であるが、妻子を於いて実家より出て空き農家を借りて一人住まいで自堕落な生活を送っている。がその彼の元へやってくる客人は勝海舟ありと言わば著名人なのである。その人たちを弔堂へと案内し主の蘊蓄を聞かされ客人は誰もが目覚めて行く、主の蘊蓄と博学は底を知らぬ程である。数千冊の蔵書に囲まれ本を弔うという主の言葉は人生を達観したものである。著者のミステリー小説とは一味違った趣である。
松本清張著「波の塔 下」、頼子の夫庸雄は省庁と業者との仲介をして金を稼ぐ闇の商売人である。そんな彼の元で事件が発覚して拘置される事態となった。小野木と頼子との仲は続き、頼子は庸雄との離婚を決意する。そんな中で持ち上がった省庁が絡む疑獄事件は頼子との仲を暴露された小野木は失職することになった。社会の闇の底に沈んで行く二人、そして頼子という女性の想像、作者の恋愛観そして愛の結論として死すべてにおいて一大恋愛小説である。
松本清張著「波の塔 上」、R省の局長を務める父を持つ田沢輪香子は、旅先で古代ものが好きな青年小野木と出会う。そして深大寺を散策している時、再度小野木と出会う、帯同していたのは影のある細面の美人の頼子であった。逢瀬を重ねながらも小野木は頼子の心を必死に読もうと日夜情念の迸りを感ずる毎日であった。頼子の夫結城康雄は商事会社の社長であった。ブローカーとも株取引を主にしているとも判断のつかない会社だった。
池井戸潤著「金融探偵」、著者のこれまで読んできた小説とは、ちょっと違う趣のあるソフトミステリー的小説である。大原次郎は銀行破綻により解雇され求職中である。見つけたアパートで一人住まい、大屋の相談を解決したこと、さらに大屋の娘理香の勧めもあり金融探偵として出発、正義感と少し照れ屋の主人公が活躍する物語である。
京極夏彦著「塗仏の宴」、
東野圭吾著「宿命」、
松本清張著「水の肌」、短編集で5編を含んでいる。どれも秀逸であり、日常の中に潜む殺人そして動機を見事に描き出している。著者が留意するのは動機であり、社会の中の一種暗い部分に潜んでいて突然顔を出す。それは静かに横たわる恐怖というべきか。人間の弱さななか?
堂場瞬一著「闇の叫び」、大友鉄、警視庁総務課のアナザーフェイスシリーズ9だ。中学校で親に虐待を受けた生徒の親が殺害される。十年前にも起きた事件だ。それも連続殺人事件だ。当たりを付け、容疑者として浮かんだのは教師の前田だった。彼を捜査に参加した大友を初め、柴、渥美いつものメンバーが集合、容疑者前田を捜査する中で幼い頃彼の父親に兄妹二人が虐待を受けた事実が判明、大友は自分の境遇と重ね合わせ前田を落とす。虐待、孤独、不条理そして犯罪へと。
伊坂幸太郎著「ラッシュライフ」、五つの舞台というか人間関係を作り上げ、様々な場面や人生を彷彿とさせる言葉を吐き、最初は関連など全くない状況が続き、最終的には様々な人生、諦観、孤独、不条理性に収れんしていく過程が、ロジックといいプロットといい素晴らしい。前に著者の物を読んでいるが、再び登場するなど懐かしさもあってこれはこれで傑作だ。

日曜日, 8月 30, 2020

松本清張著「霧の会議 下」、ランスに入港した二人、信夫と和子は様々な土地を回りニースに到着、そこで待っていたのは身代わりとして殺害された和子の夫仁一郎と銀座のホステス麻子だった。和子は信夫をフィレンツェに返し叔父である白川の援助でスイスに渡る。政経日報ローマ支局員の八木正八は、精神武装世界会議に出席した春子と共に和子の行方をスイスの隣国の鄙びた山村の修道院兼病院で和子が自殺した旨を聞く。ヨーロッパを舞台にロンソン、パリ、イタリアローマ、モナコスイスと異国情緒と男女間の愛の放浪、ヴァチカン、フリーメイソンそしてマフィアが暗躍する小説の醍醐味は絶品であった。
松本清張著「霧の会議 上」、著者の長編小説である。上巻はロンドンを舞台に日本から来たイタリア留学を目指している大学教授と和子という人妻勿論不倫の関係にある二人。彼らはイタリアの財界の著名人と同一ホテルに滞在しかつ隣室であった。興味本位で備考した先に見たのは殺人であった。それも偽装殺人、テムズ川の橋桁につるされた死体は隣人のネルビというイタリアでは著名な銀行の頭取だった。その現場を見た二人は何者かに追跡され逃げるようにドーヴァー海峡を渡りフランスに入った
フェルディナント・フォン・シーラッハ著「犯罪」、様々な犯罪を取り上げ、そこで発生し起きた犯罪と犯人の人生を絞殺するといった特異な発想を試みた本作は往年の名著と呼ばれた。裁判と弁護が被疑者に与える様々な葛藤、法律の条文と実際の犯罪と犯人の心理及び境遇を映し出す。短編でありながら余すことなく人生を浮き彫りにする手腕には思わず感嘆する一連の物語だ。
ジェフリー・ディーヴァー著「カッティング・エッジ」、ニューヨークの宝飾専門店街で起きた殺人事件を契機に次々と発生する連続殺人事件、天才科学捜査官リンカーン・ライムと市警アメリア・サックス刑事のコンビが活躍する待望の新刊だ。ロジックといいプロットといい、完璧だ。最後のどんでん返しまでちゃんと用意されている。文庫本にしたら1000頁もありそうな長編ミステリーだが、期待しながら犯人を想像する楽しみは健在だ。
松本清張著「砂漠の塩」、泰子と真吉の求めた愛とは、つまり愛と死という普遍のテーマを見事に結実させた著者の渾身の作で読み応えがある。夫を捨て真吉を死を覚悟した泰子にとって真吉を当初拒むその理由は何だったろか?自分の夫保雄に対しての贖罪なのか?バグダッドへ向かう途中で病に倒れた真吉を必死に介護する泰子の献身的な愛、死を決意する二人、愛を証明する死を見た。
乙一著「夏と花火と私の死体」、ある夏の夜、9歳になる少女五月ちゃんが同い年の弥生ちゃんに殺されてしまう。しかしその後の展開は実に奇妙だ。死んだ五月ちゃんの一人称形式で語られる物語だ。そこはかとなくうすら寒い恐怖と孤独と非日常性が、微妙にバランスを保ち物語を構成している。しかも著者16歳の時の作品だという。ソフトホラーでありソフトミステリー作品だ。
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ピーター・スワンソン著「そしてミランダを殺す」、叙述形式で語られる殺人ミステリーだ。著者のロジックといいプロットといい感心しきりである。リリーが出会った英国ヒースロー空港でのテッドから殺人を教唆され同意する異色の展開から始まり、彼女のサイコパス的心理読者を恐怖させる孤独と残虐性、独自性は秀逸だ。どんでん返し的な場面を随所に散りばめ最後のページまで繰らせる力がこの小説にはある。
麻耶雄嵩著「翼ある闇」、舞台は京都中心から離れた洋館、蒼鴉城という古風な謎めいた洋館を舞台にそこに住まう10人からの人間は皆異色で世の中から隔絶された存在、そんな洋館の中で次々と発生する殺人事件、これに呼応するような探偵が知恵を絞り解明すべく努力する。そして最後までどんでん返しの連続で読者を欺き終わる。意図せず読者を翻弄するプロット、ロジック、舞台設定に唖然とする外ない。
松本清張著「顔・白い闇」、短編を5編収録したミステリーだ。著者の女性を主人公にした物語は孤独、寂寥感、貧困、不条理性を背景にふとした日常から派生する殺人事件を見事に浮かび上がらせる途方もない力がある。短編は短編なりの状況設定とプロットはあろうが、どの編を読んでも感心するほどの出来栄えだ。
北村薫著「盤上の敵」、日常の中に潜む恐怖、孤独、儚さそれらに敢然と立ち向かい愛情を持ち人生を生きるそんなミステリーだ。物語は二元的に進み、人質に取られた妻友貴子を必死に救出しようとする夫、悪までも太々しい犯人、ふとした日常の中で実行される殺人と伏線を用意して進行する物語。友貴子の小学生からの過去と物語は複雑に絡む人間社会の平穏でいて一気に崩れ去る危険を描きだしている。

木曜日, 7月 30, 2020

城平京著「名探偵に薔薇を」、メルヘンチックな構成の中に殺人と人間同士の不可解な関係、あり得ない幼児の頭を培養して作る毒液それは小人地獄と命名され長く世に存在することになった。因果応報と言うべきか藤田家に関わる人々は小人地獄の霊に迷い遂には命を落としてします。著者の文体は少し読みずらいがプロットは中々面白く読み終えた。
鮎川哲也著「リラ荘殺人事件」、美大の大学生が夏休みに訪れたのは埼玉県の秩父のリラ荘というペンションであった。そこで起こった連続殺人事件、秩父署の刑事ら2人とって正に仰天すべき事件に遭遇し捜査の行方を失ってしまう事態だ。七人の大学生のうち4人が殺害されるという凄惨な殺人事件に検事からの提案により東京から素人探偵の星影龍三が招聘され解決する物語だ。プロットといい殺人の動機といいかなり練られた物語で、読者を魅了すること間違いなしである。

京極夏彦著「姑獲鳥の夏」、著者のミステリー小説の第一作だという本書は、読み応えのある長編ホラー&ミステリーだ。以降の作品も同様登場人物は,本屋の京極堂、榎木田礼次郎探偵らである。雑司ヶ谷の医院の娘涼子からの依頼で始まる入り婿の失踪の真相を探るべく依頼を受けた榎木田礼次郎は捜査を進める中で奇想天外な事実のぶち当たる。閉鎖的な因習の中で生まれる憑き物信仰と右往左往する人間の欲と愛、底辺に流れる何とも言い難い孤独と不条理に翻弄される人々が成す殺人事件は読者を600頁にも及ぶ最後のページまで繰らせる力がある物語だ。

松本清張著「十万分の一の偶然」、山鹿恭介は保険勧誘員であり、プロを目指すアマチュアカメラマンであった。彼の信条は悪まで被写体は報道写真であった。有る夜、東名高速道路上で多重追突事故が発生しその現場を見事に写真に収めた山鹿はA新聞社主催の写真展に応募し見事に年間最優秀賞に輝いた。事故で死亡した中に沼井正平のフィアンセであった山内みよ子があった。沼井は偶然つまり写真の選評で十万分の一の偶然を疑問に思い自分で現場を踏査しこれは偶然では無く演出だと解った。彼の復讐が始まった。カメラマンの山鹿と選評責任者の古屋を葬り去り、自分も自決する道を。

池井戸潤著「仇敵」、短編を組み合わせて一つの物語としている。東京首都銀行から干された恋窪商太郎は、現在東都南銀行の庶務行員である。銀行員の松木が持ち込んでくる様々なトラブルに対して相談して解決するといった話だ。恋窪の正義感を首都銀行の次長の職を追われ現在の庶務行員としての立場でみる人生観、そして彼を追い出した仇敵との闘いを全力で行う著者の得意とする金融ミステリーだ。

松本清張著「鬼火の町」、江戸は家斉の院政を極め怠惰でしかも賄賂が行きかう時代の物語だ。船宿で出した夜釣りの客惣六と船頭が殺害され大川に浮かんだ。川底を浚い見つかったのは象嵌細工を施した煙管だった。岡っ引き藤兵衛が捜査に当たったが奉行所同心川島にその後十手取り縄を召し上げられてしまう羽目になった。家斉の寵愛を一手に受けたお美代の方とその生家の中野碩翁とによる院政と大奥の醜聞から起きた事件だった。プロットといい十分に楽しめる作品だ。

松本清張著「黒い樹海」、著者の長編推理小説である、この小説が昭和30年代に書かれたものであるという、まさに驚嘆すべきだ、古さを感じさせない今読んでもリアリティといいプロットといい社会派推理小説作家として面目躍如といった感がある。姉がバスに乗車し電車と衝突という事故で死亡した。仙台へ行くと言って家を出た姉が浜松で事故で死亡する、妹祥子は不信に思い事件を追跡し始めた。その後雑誌社に務めた彼女は社会部の記者と意気投合し次々と発生する殺人事件を解明すべく進んでいく。

薬丸岳著「天使のナイフ」、主人公桧山は大宮駅で喫茶店を営んでいる、彼は少年3人の手により妻を殺害された、さらに彼は両親を大学生が起こした交通事故によって殺された。今は娘の4歳になる愛美と二人暮らしだ。桧山にとって妻の殺害の真相を知ることが唯一の生きがいだった。殺害の関与した少年の内2人が殺害され事件は思わぬ展開を見せる。後半はどんでん返しの連続で頁を繰る速度が上がる。少年法の矛盾、贖罪とは?、生きる更生するとは?思い課題を掲げながらミステリーとしてプロットを組み立てる著者の発想に感服。

松本清張著「黒地の絵」、9編の短編を含むミステリーだ。著者の眼とその発想と構成力と文章力表現力に感嘆するものがある。現実社会の中で生ける人間の様々な生態、孤独、失望、懊悩を社会の不条理性と合わせてプロットを組みミステリーとして完成させる卓越した技術は読者に感銘を与える。

貴志祐介著「狐火の家」、お馴染みの防犯探偵シリーズだ。青砥純子弁護士と防犯探偵称する榎本径、彼は純子にしてみれば泥棒ではないかと思う反面警察にもそれなりに顔も効くこの二人のコンビが密室殺人事件を解明する物語だ。様々な密室を作り出す著者の発想は驚嘆だ。有り得ない事だと思う反面もしかしたらと思う密室殺人読者を恐れさせる反面感心もする。

松本清張著「ガラスの城」、大手会社の販売課長が伊豆修善寺の社員旅行の際に何者かの手により殺害された。普段あまり人付き合いの良くない三上多鶴子はタイピストであり、修善寺の旅館の裏で密会を目撃したことから殺害に不信を抱き、内偵を決意し手記として残した。一方同じく美人でもなく三十を過ぎたタイピストである三上と同僚の的場も殺害に不信を抱き調査を開始、それぞれ女性の視点から事件を追うその周囲に蠢く出世という野心と不倫という愛の狭間で起こった事件の真相はどんでん返し的に決着する。

貴志祐介著「新世界より 下」、神栖66町の夏祭りの夜惨事は起こった。バケネズミによる人間への強烈な襲撃により、村を束ねる数々の著名人すら攻撃目標となり惨殺された。塩屋虻コロニーを統率するドン野弧丸と真利亜と守の忘れ形見である子供を悪鬼に変えた人間の子供の姿態をした妖怪に早紀と覚は敢然と立ち向かい勇気を振り絞り彼らから町を取り戻す。SFとミステリーを融合して勇気と愛情を埋め込んだ長編作には脱帽。

貴志祐介著「新世界より 中」、コロニーを構成するバケネズミ、次々と友人達を喪失して行く早紀と覚、そして神栖66町に厳然たる威力を発揮する教育委員会と覚の叔母といわれる女性が頂点に立つ倫理委員会、町はこの権力に複雑にに絡まれた様態だ。遂に瞬を失い今また真利亜と守を失いつつある現状を憂い倫理委員会の長の許可を得て早紀と覚は両人を探しにコロニーを目指して進んで行くが、既に両人は彼方遠くへ逃れた事実だけが残る。絶望を感じながらも早紀と覚は結ばれる。

貴志祐介著「新世界より 上」、何ともメルヘンチックでホラーとスリラーを重ね合わせた物語だ。子供5人が向かう先に潜む怪獣、土竜、蜘蛛等々子供達は呪力を持ち、それら怪獣と戦い乍ら進んでゆく。様々な危険に遭遇しながらも互いに補い助け合いながら必死に生き延びようとする。土蜘蛛の襲撃により離れ離れになった子供たちのこの先の運命は如何に。。

松本清張著「逃亡 下」、牢破してお尋ね者となった源次は、ひょんなことから贋金作りの一味を知り、仏壇屋加賀屋へと入り込み同胞勘八を取り押さえ主人の興を買い下男として働くことになった。下谷の梅三郎親分の逓信お秋と懇ろになった源次は、大山詣でを申し出るお秋と大山詣でに参加する。その詣でを回り贋金使いの植木屋甚兵衛、牢で一緒に居た富太、さらに梅三郎親分、お蝶の兄伝助と源次に関わり合いのある人物が登場した。源次を殺害し梅三郎親分も殺害する計画だった。だが、源次はお秋と一緒に辛くも生き延びた。人生波乱万丈、人との巡り合わせと運気、そして愛しい相手との邂逅を江戸時代を通して描いた作品だった。

日曜日, 6月 28, 2020

松本清張著「逃亡 上」、江戸で罪で牢に入れられた源次は、ある晩江戸の大火で牢にまで火が及ぶ寸前で出せれ翌日回向院の庭に参集するように言いつけられたが、妖艶な女を助けた為回向院の参集に間に合わなかった。再度縄を打たれたが、番屋の老父卯吉に縄を解かれ逃亡した。だが空腹に耐えられず一軒の家の台所に忍び込み釜から手掬いで飯を食っているところを運悪く見つかり、その家にお世話になることになる。錺師の家だった、ある晩布団の中で聞いた槌の音にキズキ聞き耳を立てたが深追いできなかった。その錺師の家に居着いた源次は次女お蝶と懇ろになり棟梁の配慮もあり錺師の家を二人で逃亡する。思い余って一軒の襤褸屋に入った二人はその家が卯吉の家と解り匿ってもらい、お蝶は卯吉の紹介で松葉屋という小料理屋に務めることになった。松葉屋は下谷の岡っ引き梅三郎の妾お米が女将をする店だった。お蝶は引く手あまたとなり梅三郎もお蝶を何とかしようと目論むが、お蝶は逃れて大川に身を投げた。
スコット・スミス著「シンプル・プラン」、米国オハイオ州での物語だ。ある日父の墓参りに出掛けたハンク兄のジェイコブそして友人のルー、彼らはひょんな事から墜落した軽飛行機の残骸を発見する。その中で見たものは操縦士のカラスに食い荒らされた死体とダッフルバッグに入った現金440マンドルだった。転がり込んだ現金について3人は特にルーは我慢できず分け前を要求する。ハンクの妻サラはより冷静にハンクに指示するが、段々と展開は破滅へと向かいハンクは自らの兄そして数人を殺す。ハンクの心理描写、揺れる心の葛藤、殺人に対する正当化、妻サラとの心理描写と人間の持つ根源的な精神を上手く描いている長編である。
堂場瞬一著「身代わりの空 下」、迷路の中を徒ひたすら進むことを余儀なくされる富山県警と警視庁、就中支援課村野は本来の支援課の仕事と112便で事故死した本井の家族から要望されている半年間の足取りを追跡する仕事だ。そんな家庭で犯人と目される黒沢を拘留した、中々落ちない黒沢そして黒沢のバックと見られる三浦が富山市のホテルに宿泊しているところ突き止め拘留する。ついに二人は落ちた。最後の落ちは収拾するには少し性急さは否めない。刑事として人間として心の通い合いを読むことができる。
堂場瞬一著「身代わりの空 上」富山空港でバードストライクによる緊急着陸によって死傷者が出た、そこには指名手配犯の本井が乗っていた彼は死亡した。警視庁犯罪被害者支援課の村野を始めとする課員が総出で富山に向かう。本井は偽名を使い登場していた家族に立ち会わせて本井と確認させる。被害者支援が開始された。マスコミ対策も。数日後重症の患者という黒沢に接見し確認を取ろうとした課員は絶句する。息子ではないと。偽名を使用した被害者が2名いた。事件は新たな展開へ。
畠山健二著「本所おけら長屋 十四」、最新刊が届いた。例のおけら長屋の物語は、今回4篇だ。人間の底に住む優しと生きるという困難に立ち向かう長屋の面々、万造を初め松吉、鉄斎、大屋、久蔵、金太これらを使い作者は意図も簡単に素晴らしい物語を生み出すセンスは賞賛に値する。今回も読み処満載でほろりとする話ばかりだ。
スコット・トゥロー著「無罪 下」、延々と続く裁判は原告、被告双方知の限り尽くしたが結果は得られない。そんな中で被告ラスティーは交渉し自分の有罪を認める2年間の刑務所生活だ。ある日同僚で原告の検察官トミーが房にやってくる、彼はラスティーについて証拠について、もう一度考え直し遂にイー判事に彼ラスティーが無罪で告訴を取り下げるという。出所したラスティーに息子のナットが本当の事を聞きたいと、なんとどんでん返しが解る殺害されたとし起訴されたが、実は全てを知った妻バーバラが夫ラスティーを殺害する積りだったと。物語に出てくる登場人物の心理描写と人生を達観し懲りない爺の素顔を見事に描き出しいる。
スコット・トゥロー著「無罪 上」、米国地方の判事ラスティー・サビッチは過去に愛人殺害容疑で起訴され辛くも無罪を勝ち取った経歴の持ち主である。精神に障害を持つ数学教師の妻バーバラと家庭を持ち一人息子のナットがいる。現在彼ラスティーは60歳になるのに若い愛人がいてのめり込んでいる。しかし彼の判断から交際を絶つという苦渋の選択する。息子ナットと愛人ナットが交際するとは遂に思いもしなかった。そのアンナを連れ自宅に招いた翌日心臓発作で妻バーバラが死亡した。同じ判事で敵対するトミーとブランドはラスティーを起訴し裁判に持ち込んだ。
松本清張著「彩り河 下」、山越は自分で内偵し調査を進める中で、餌食となり奥多摩の渓谷で鎰死となって崖下で発見された。ホステス山口和子に次いで死体となった。井川は手掛かりを求め捜査に執念を燃やし山越の妻静子に相銀会館に潜り込ませたが意図を見抜かれ彼女もアパートで絞殺死体となった。銀座のクラブの配車係りのジョーと再会し犯人の炙り出しを図る。1980年代の小説とは言え臨場感があり現実の出来事と思えるほど緊迫した状況を作り出す作家の実力を見られた思いである。
松本清張著「彩り河 上」、銀座の華やかなクラブを中心にそこのママさん山口和子、その周りを嗅ぎまわる自称ジャーナリスト山越貞一は和子の周辺を洗いパトロンが誰かを突き止めるべく調査を開始。だが映画館で和子は絞殺された。その後東洋商産の社長が山梨県の奥部で自殺を遂げた。山越は調査を進める中で寿永開発という会社が絡んでいることにきずきさらに調査を進めると相銀社長との不可解な関係に息ついた。実はパトロンはその社長だと見当を付けた。
ヘニング・マンケル著「ファイアウォール 下」、捜査は遅々として進まず事件の関連繋がりと核心が見えてこない。IT技術により捜査は一段と進化し、ヴァランダーのような旧態依然とした捜査官は役立たずとなっていく、そんな孤独を感じ自分に自信が持てなくなり疎外感を感ずる毎日だ。ティネスが死亡した事で、彼の借りているアパートで見つかったのは一台のパソコンだった。厳重に管理されたパソコンに入込むこともできない、そしてモディーンというハッカー少年を見つけ彼の手腕に期待する。そこで朧に解明されたことは20日に何かが起こるしかも関連する情報からすると金に絡んだことだと。そしてアンゴラ来た犯人が登場し刑事ヴァランダーが射殺する。スウェーデン社会の暗い部分、貧富の格差と就職難そして連帯が途絶えて孤立化し孤独と絶望感が犇めく状況を憂えている作者の洞察力の深さを感じる。

金曜日, 5月 29, 2020

ヘニング・マンケル著「ファイアウォール 上」、スウェーデンは西端イースタで、ある日少女二人それも19歳と14歳によるタクシー運転手の殴打殺傷殺害事件が起きた。程なくして、19歳の少女ソニャが発電所で電線に架けられ黒焦げ死体になって発見された。またティネス・ファルクというITコンサルタントが市内ATMの前で殺害された。さらに警察の死体安置所から死体が持ち去られ、後日再び殺害現場とされる付近に放置されるという奇妙な出来事があり、イースタ署のクルト・ヴァランダー刑事らは執拗な捜査を続けるも一向に事件の関連核心が見えてこない。
貴志祐介著「ミステリークロック」、本書は短編4つで更生され、作者が創造した名探偵でセキュリティ会社を担う榎本径が登場する物語だ。プロットはまずまずだが、この密室殺人シリーズ4篇は種明かしが今一で感動を覚えない。女性弁護士の青砥純子と榎本の掛け合いのユーモアは楽しいが、それまでで感動すら覚えなかった。
柚月裕子著「慈雨」、群馬県下で発生した幼女誘拐殺害事件を元に展開する警察小説であると同時にミステリ指向も含む物語だ。退職直前に発生した幼女拉致誘拐殺害事件は刑事神場を15年前に発生した矢張り同類事件に思いを馳せる。冤罪の思いは今の心の中に潜み、妻と共に四国八十敗箇所巡礼の旅にでる、神場の贖罪の吐露でもあった。同僚の鷲尾は今も現職として事件の指揮を執り、神場の娘幸知と交際をしている緒方巡査長との三者三様の気持ちの交錯を軸に人生の悲哀と諦念を見事に描いている。
松本清張著「風の視線 下」、奈津井は、慕っていた人妻亜矢子が久世と深い関係にあることを知った、しかも千佳子とは連絡もなく離れたままで彼は写真にも何にも意欲が沸かず自堕落は生活を送る日々だった。一方亜矢子の夫竜崎重隆は日本に戻りホテル滞在をしていて、妻亜矢子の動静を探るべく情報を集めていた、そんな折警視庁に目を付けられ遂に密輸容疑で逮捕される。久世は自ら志願して佐渡へ通信局長として新たに赴任した。平凡な毎日だった。島の西南端に行った日彼に近づいてきた人、それは亜矢子だった。また奈津井は再び写真・仕事に対する闘志を燃やし久しぶりに自宅に戻った、そこに居たのは行方知らずの妻千佳子だった。一気読みだった。作者の捉える恋愛そしてその先の愛という複雑な人間の相関は読みごたえがあった。
松本清張著「風の視線 上」、写真家・カメラマンとして現在売り出し中で期待されている奈津井は、新婚旅行中で青森県の砂に埋もれる潟をたまたま訪問し砂の中に埋もれる死体を発見し写真を撮影この写真と奥入瀬渓谷の写真を合わせ展覧会での出品は各方面から絶大な支持を集め好評だった。一方妻の千佳子にどことなく異なものを感じさせる女だった。大手雑誌社の部長である久世を奈津井は良く知っており若手写真家を応援してくれるやり手の人間だ。その奈津井に見合い結婚を勧めたのが竜崎亜矢子という資産家の夫人で久世と不倫関係にあった、しかもその亜矢子の夫重隆はかって今や奈津井の妻千佳子と不倫関係にあるという相関が判明した。
スティーヴン・キング著「ミスター・メルセデス 下」、叔母の葬儀の最中にジャネルが、サイコ犯人プレイディーによる爆弾で爆破されたのはホッジスのトヨタカローラだった、それを運転していたのは、図らずもジャネルだった。ホッジスは黒人少年ジェロームと精神障害のあるホリーと3人で犯人を特定した。MACで開催されるライブに犯人プレイディーはターゲットを絞り車いすを使って爆弾を携えて侵入する。ホリージェロームの二人によりMACセンターでの犯行と予測し現地に向かう。最終章は警察犯罪小説らしからぬ手に汗握るシーンを提供してくれた好著である。
スティーヴン・キング著「ミスター・メルセデス 上」、退職した元刑事ビル・ホッジスは、退職直前市民センターで夫人のメルセデスベンツを奪い市民の行列の中に突っ込み多数の死傷者を出した犯人サイコキラーについて思いを馳せる。しかしまさかと思うが、退職した今夫人の妹ジャネルから依頼を受け再び個人として捜査を開始した。相棒のジェロームの示唆よりサイコのウェブサイトを知り犯人を煽る。犯人プレイディーが次に描く事件はMACセンターにやってくるバンドのライブに入り込み爆弾で爆破することだ。
アントニイ・バークリー著「毒入りチョコレート事件」、送られたチョコレートによって夫人が死亡した。チョコレートには有毒のベンゼンが巧妙に含まれていた。ロジャー・シェリンガムが主催する「犯罪研究会」は総勢6名、各自がそれぞれの犯罪に対する推論を展開するといったプロットは、今までに無いミステリーとして大きな可能性を広げたと言われた、古典的ミステリーの名著として評価が高い。
貴志祐介著「硝子のハンマー」、上場を目前に控えた介護ビジネスの会社のマンションの最上階の一室で発生した殺人事件、社長の穎原が殺害された。浮上した犯人は専務で長年大番頭さながらに粉骨砕身仕えた久永だった。つまり密室トリックが完璧で社長室への侵入の是非だけでの結論だった。弁護に当たった青砥純子は防犯コンサルでもあり探偵の榎本径を起用し捜査と密室解明に当たる。様々な人物、そして現場の状況の精査と確認がなされた、最後の倒叙部分の犯人像の記述により作者自ら密室のカラクリを明かしていく手法は明快で十二分に楽しめるこれぞミステリーだと感ずる。
桜庭一樹著「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」、ある地方都市は背面に山そして海に面した喉かな田舎町にある日天候して来た女子中学生は海野藻屑という大層変な名前だった。しこも彼女の父は地元の有名人だった。体に無数の痣を付け行動は他の中学生にも理解できなかった。山田なぎさはそんな彼女の唯一の友人となった。彼女の生活も母親一人、兄一人しかも彼女がご飯を作るという貧乏家庭だった。そして藻屑は父により殺害された。平凡な日常の中である日突然起こる不条理は人々の内面意識の底にある何か安心、優しさを想い起させる。
道尾秀介著「ラットマン」、日常の中にある錯誤と錯覚を巧みにプロットの中に組み込み、一人の青年の人生を書いた作者の思惑は見事に結果として結実していたと思う。姫川青年の日常と非日常の中で起きたあるいは体験した事実それは彼の想像を超えたところにあった。そしてそれが、ある地点で彼の脳裏に迫り覚醒させる錯覚から。結局人生はそう悲観したものでもない。幸せは誰にでも掴み取れるチャンスがある。
松本清張著「火の器 下」、イランへの旅は通子にとって研究をさらに推し進め、帰国後の「史脈」という雑誌への投稿にも反映された。石造遺跡就中酒船石については飛鳥時代に既にイラン人が渡来していて酒船石の穿たれた穴は薬を作成する際の壺を現しているという見解を挙げた。ここに至る詳細な論考は作者の力量を凄さを感じさせる。在野の歴史雑誌の通子の論考は予想どおり無視され、四国の私立女子大学への赴任という思わぬ結果を齎した。公費を使いながら私的流用は元より陰湿ないじめという大学内の腐敗した状況は憂える。一方知り合った海津信六を回るミステリー彼の自殺という思わぬ結果を齎した。
塩田武士著「罪の声」、30数年前に関西で発生したグループ企業を襲った誘拐拉致脅迫事件の全貌を解明すべく大日新聞は、文化部の阿久津英二を抜擢した。手掛かり求めて東奔西走するが核心を得るには遠く何時全貌を解明できるかは不透明な期間が無駄に過ぎていった。そんな中で、一縷の望みを託しイギリスに犯人の一人が生存していることを知り単身シェフィールドへ渡る。これはという裏付けが取れないまま帰国するがある情報を入手し事件の関連があると見られる様々な人物との接触を試み事件の核心へと、しかしそこで見たものは犯人それぞれの人生に暗い影を落とし必死にまた社会の深淵に沈んで行く面々だった。松本清張張りの社会派サスペンスといったところか。
貫井徳郎著「乱反射」、街中の混雑した道路の端の街路樹が倒れて二歳になる男児が脳挫傷で死亡した。父親である地元の新聞記者の加山聡は息子が殺されたと信じてその原因は何処にあるのか?記者としての取材に長けた頭脳で原因と考えられる人々に面会し謝罪を求めた。しかし誰一人として認める者はいなかった。その事件に関与したと思われる人物の内面描写に感心して読んだ。微妙な心の揺れをこうまで文章に出来表現できる作者の技量に脱帽だ。
松本清張著「火の器 上」、都内T大学文学部史学科の助手として勤務する高須通子は、奈良・京都旅行に出掛け奈良で遺跡石物郡を見て回ることにした。そこで出会った雑誌編集者たちの中の板根カメラマンと出会う。その晩奈良で事故があり偶然通子が通報し介抱した海津信六は下って通子と同じ大学の助手を務め優秀だと噂され現在奈良で保険勧誘員として生計を立てる独身者だった。奈良県庁前で再会した板根と献血に行き、その後海津からの手紙と通子が雑誌に投稿した小論文について海津の感想の手紙を読み、どうしても海津に会うべく彼の自宅を訪問そして海津の姪の俱子と会い、話の中でイランへの訪問を促す海津に感化されイランへの旅を真剣に検討することになる。通子の恋愛の過去も明かされこれからの展開は下巻に。

日曜日, 4月 26, 2020

伊坂幸太郎著「キャプテンサンダーボルト 下」、蔵王の火口湖通称五色沼に潜む旧陸軍の秘密基地それは生物化学兵器ウイルスを開発する場所だった。井ノ原悠と相場時之は二人で潜り込んだ。地底の旧の基地から水を汲み取り桃沢瞳の待つ仙台市内へそこで巨人怪物と一線を交え相手を叩きのめして、それから銀行強盗すべく立ち振る舞いパチンコ店の社長と遭遇し無事に化学兵器を銀行の地下倉庫へ格納する。このことから窮地を脱した二人だった。奇想天外なプロットは現在流行しパンデミックになっているコロナウイルスとも関連し興味深く読んだ。
伊坂幸太郎著「キャプテンサンダーボルト 上」、何とも不思議な物語だ。お釜と呼ばれる五色沼そこに下って逸った致死率70%という村上病という名の感染症、そのお釜に宝物が眠っているという情報を幼友達の相場時之から聞いた井ノ原悠は情報収集を開始、二人とも金に困っいる。不思議な外国人グループに襲撃されたかと思うと、今度は桃沢瞳という厚労省の薬計管理官に付き纏われる、さて下巻はどうなることやら。
中山七里著「連続殺人鬼カエル男ふたたび」、御前崎教授宅で爆破事件が起きた。渡瀬警部と古手川巡査部長は捜査に乗り出す。そして駅での女性の轢断と連続猟奇殺人が続く、渦中に置かれた稚拙な犯行声明それは世間の言うカエル男だった。カエル男は精神障碍者だ。捜査は杳として進まず暗礁に乗り上げて警察庁、警視庁県警を含め焦りの色が濃くなってくる。カエル男と伏線の矢張り障害者のさゆり、そして障害者を装い母子札事件から仮出所される古沢複数の殺人事件が絡むプロットの最後の仕上げはどんでん返しだった。
歌野昌午著「葉桜の季節に君を想うということ」、探偵事務所を営む成瀬将虎は、同じジムに通う久高愛子より蓬莱倶楽部という悪徳商法を行う会社の調査を依頼される。各地を転々として会場を借り上げ桜を使って、高額な似非商品をローンを組んで売り捌く、さらに次回は自宅を訪ねさらに商品を売り込み自己破産や自殺に追い込み保険金詐欺まで働くといった悪徳ぶりだ。なんでもやろう屋を標榜する将虎は正義感から様々な困難にぶち当たりながらも悪徳商社を追い詰めて行く。彼の人生哲学は前向きで実存主義的だ。やらないうちに諦めるな。だ。
泡坂妻夫著「乱れからくり」、玩具会社の社員が隕石の落下により死亡した。その後死亡した馬割朋浩の身内の者が次々と殺害される殺人事件が発生する。宇内経済研究所といっても企業関連の調査を専らにしている社長一人は宇内舞子そして新入男性社員の勝一人という所帯である。舞子は依頼を受け調査にあたるが、次々と発生する殺人事件に遭遇する。朋浩の住む館は正に迷路で囲まれた邸宅である、そこには江戸時代から連綿と続くからくりの歴史があり莫大な財宝の隠匿の噂もあった。朋浩の死後に起こった4人の殺人は死亡した朋浩の仕業であると舞子は断定。からくりによる殺人。殺人ミステリーとともにからくりの歴史や蘊蓄にも作者の考察は興味を惹かれ第一級のミステリー小説だと思う。
伊坂幸太郎著「フィッシュストーリー」、中短編小説4編の構成である。いずれの作品も著者独自の人間観・世界観が根底にあり、それは優しさであったり、正義感であったりとした展開だ。伊坂ワールドとでも表現できる独特な世界に浸れる小説だ。現実世界の明瞭でないものを描くことにより、見えてくるものそれは最終的には人間そのものではないだろうか。
殊能将之著「ハサミ男」、ハサミ男と世間で名付けられたシリアルキラーである日高は、2人の女子高校生を絞殺後にステンレス製ハサミをやすりで削り首に突き立てるという異常犯罪者は3人目を物色し夜の公園付近まで女高生を付け狙ったが、そこで見たのは死体となって横たえた女高生の姿だった。警視庁並びに管轄警察署の刑事らの必死な捜査でも犯人は挙がらない。警視庁からの犯罪心理分析官として派遣された堀之内の奇妙な言動に気づく管轄刑事達、事件は思わぬ伏線を辿り息つく。
中町信著「模倣の殺意」、何故か?再読となった。推理小説の作家坂井正夫が服毒自殺により死亡した。遺書はなかったが、最後に脱稿した小説の題名どおり7月7日午後7時に実行され死亡した。彼の死を回り小説家津久見と出版社に勤める高名なしょうせの長女中田秋子が独自に解明に向け捜査を行った。結末は意外なものだったが、少々読者の期待を裏切るプロットだ。所謂叙述トリックの先駆けといわれた小説だったということです。
道尾秀介著「カラスの親指」、詐欺師で暴力団に雇われ乗っ取り屋として生きる武沢はある貧乏家庭の夫人を窮地に追い込み自殺させてしまう。ある日上野でひょんなことから知り合いになった女性さらに偶然知り合うテツさんさらにまたもう一人の女性とその恋人貫太郎この5人の柵で生活することになる。ヤクザに付け回される生活から脱却すべく計画を練り事務所に踏み込んだが、結局は失敗に終わる。これらの筋書きを全て承知の上で書いたのは実はテツさんだったと。作者の何とも言えない人間の慈愛と周到に用意されたプロットには脱帽だ。
東野圭吾著「容疑者✕の献身」、ガリレオシリーズ湯川学大学助教授が活躍するものだと思う。このシリーズは初めてなのか不明。石神彼は湯川と大学の同窓生だ。彼の住むアパートの隣に母͡娘が住んでいる。ある晩元亭主が隣に訪ねて来てひと悶着あり母娘は炬燵のコードにより扼殺してしまう。隣で雰囲気を嗅ぎ取った石神は協力を母娘に申し出、遺体を処分する。しかし天才数学者といわれた石神が用意した母娘を守るアリバイ作りは、絶対的愛情を裏に持つ奇想天外なものだった。人間の深い愛情とミステリーのプロットは中々だ。

日曜日, 3月 29, 2020

赤川次郎著「マリオネットの罠」、長野県茅野市の山荘は古い洋館でレンガ壁には蔦が配い趣を抱かせる広大な敷地を有していた。館の主は古美術商だという、三人の娘と使用人が男女各1名づつおり、そこに上田修一というフランス旅行から帰って来たフランス語の家庭教師がいた。修一は二人の館の娘、紀子と芳子が出かけた隙に屋敷を見回り偶然地下で追う一人の妹を発見する。親しくなった妹の雅子は修一の計らいで脱出して次々と殺人を犯す。一方姉の紀子は麻薬の闇ルートを束ねるトップとして君臨していた。修一の許嫁と刑事らの情報戦により事件の解明が進んでゆく。この小説のプロットは非常に良く練らていて圧巻だ。
恩田陸著「ユージニア」、田舎町の旧家それも医院で起きた大量毒殺事件が齎す直接の被害者及び家族、友人またその医院の家族医院に務める家政婦等々に与える負の遺産を回り苦悩する人間の物語だ。医院の家族の一人で目の見えない美少女を回り4半世紀を過ぎた今明らかにされる犯人とはやはり少女そして少女に感化された青年による犯行だった。人間の体感と記憶の奥底に潜む疑念そしてそこに自分の人生を重ね合わせ懊悩する人間模様を描いている。
横山秀夫著「ルパンの消息」、高校生3人による期末試験答案用紙強奪作戦、練られたのはいつも屯する喫茶店「ルパン」だったことからルパン作戦と命名した。試験は4日に渡るそして作成も4回実行せねばならない。そして4日目答案用紙があると見なされる金庫を開けた、中から教師の嶺舞子先生の遺体が投げ出された。それからの3人は他殺と断定し捜査よろしく様々な考え巡らし事件を追い詰めたが駄目だった。15年目の時効を迎えた日、刑事の溝呂木が下した決断から急展開となって解決する。複雑な良く出来たプロットを人生の悲哀と希望を感じさせる好著といっていい。
池井戸潤著「果つる底なき」、著者お得意の銀行ものだ、しかし今回の書はミステリー小説だ。銀行と企業の凭れあいと銀行員の上下関係から派閥争いまで、この一冊で銀行が解るほどだ。同僚坂本が不慮の死を遂げ、引き継いだ私主人公は不正送金疑惑を発見した。そこを端緒に次々と追跡する主人公の真摯な生き方、悪を赦さない人間を常に描く著者の信条が見える。好著だ。
有栖川有栖著「46番目の密室」、クリスマスパーティーに集った6人、北軽井沢の推理小説家真壁精一の別荘である。ある夜殺人事件が発生するしかも死亡したのは当の真壁氏と別荘周辺をウロツイテいたと思われる謎の男だった、二人は暖炉に頭を突っ込み灯油を掛けられ顔を酷く損傷していた。参加者の火村助教と有栖川は事件の真相を解明すべく立ち上がる。密室殺人としは絶賛である。
石持浅海著「扉は閉ざされたまま」、大学時代の部活動での分科会のメンバーが絡む成城の別荘後の宿泊施設にての密室殺人事件がテーマだ。伏見が新山を殺害し浴室に閉じ込め溺死として偽装を装う殺人事件。伏見が持参した睡眠薬と風邪薬を混ぜて飲んだ新山は昏睡状態になり、その機を狙って殺害した伏見とメンバーの動向そしてメンバーの中にいた優佳が犯人特定を進め遂に伏見の犯罪と確定する。犯人伏見の殺人動機は今一納得できないが、上手く纏められたミステリー小説だ。
小杉健治著「絆」、弓岡産業の社長である勇一が自宅で殺害された、通報した妻奈緒子は当然嫌疑を掛けられ裁判で被告人として出廷した。被告人奈緒子の弁護を引き受けたのは暫く弁護活動を休止していた原島弁護士だった。被告奈緒子は3人兄弟ですぐ下の弟は軽度の精神薄弱児だった。殺害された奈緒子の夫、さらに愛人と障害者と複座なプロットを見事にカバーする好著だ。
ポーラ・ホーキンズ著「ガール・オン・ザ・トレイン 下」、メガンの死後、レイチェルとトムそして現在の妻アナさらにメガンの死から嫌疑を受け警察の執拗な追及を受け精神的に参っているスコットと四者四用の錯綜した怒り罵声、懊悩がそれぞれに交錯していた。そんな折、レイチェルははっと思い浮かぶトムとメガン二人が親密な関係になっていたのでは?とさらにメガンを殺害したのはトムだと確信した。トムの家でレイチェルは彼を追及し最後に彼女はトムを殺害してしまう。女の妄想というか異常性を見事に表現した作品だ。
伊坂幸太郎著「クジラアタマの王様」、著者のイメージ通りの作品だと思う。現実と夢との相克、夢の中で見たもの事象が現実リアルの世界で実現されてしまう。主人公岸と都議会議員と俳優の小沢との三者が互いに絡み合い物語は複雑怪奇だ。最終章の新型インフルのパンデミック的様相は現実に発生している新型コロナは何故か酷似していて驚愕した。
ポーラ・ホーキンズ著「ガール・オン・ザ・トレイン 上」、著者の本は初めてだ。ロンドンから少し離れた町に住むレイチェルは、離婚をして今は無職しかしキャシーの親切心で彼女にフラットに住んでいる。彼女に解雇された事実を知られない為に毎朝電車でアシュリーからロンドンへ電車通勤して胡麻化している。電車から見える下って住んでいた住居の近くでの家で普段と違う光景が見えた。スコットとメガンの暮らす家でメガンが夫を違う男性とキスをしていた状況を見た。数日後メガンは失踪してそして数週間後に彼女の住まいと10kmも離れていない森の中で死体となって発見された。。
拓未司著「禁断のパンダ」、料理ミステリー小説という新しい発想は著者の調理学校出身という出自からのものか?神戸を舞台にフレンチの料理人を取り巻く様々な人間模様が織りなす殺人事件の底にある人間の業のような得たいの知らない神をも恐れる人間を描いている。欲を言うなら警察刑事コンビを黒川なみに面白く描いてほしかった。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 11」,凜田莉子、万能鑑定士Qシリーズ第11作目だ。今回は京都の寺、御隠時に纏わる住職こと水無瀬瞬と莉子との知恵比べとなった。瞬は莉子と同じチープグッズ店で修業した仲だと知った。次々と寺を改革し莫大な利益を上げまさに復興した住職水無瀬がしたのは詐欺師のようなトリックによるものだった。
アンソニー・ホロヴィッツ著「カササギ殺人事件 下」,上巻を読んでから暫く経って下巻が気になり読み始めた次第だ。その一は、ミステリー小説内の事件を廻るアティカス・ピュントの謎解きが進行し、もう一つは現実な私ことスーザンの身の回りや「カササギ殺人事件」の出版や著者アラン・コンウェイとの確執そして最後には同時に物語上と現実の私スーザンの上で起こった事件が一挙に解決するといった複雑精緻なプロットには驚かされる。
松岡圭祐著「万能鑑定士Q 10」,お馴染みの万能鑑定士Q凜田莉子シリーズ第10作目。今回はヤクザが絡みエメラルド不正輸入と売買を豪華客船にて行う組織と警察の対決に割り込んだ莉子の活躍、美容室チェーンで起こるお抱え弁護士の不正、さらに普段お世話になっているチープグッズ店長の騒動と事件満載の痛快解決劇だ。
知念実希人著「ムゲンのi 下」,愛衣は23年前の自分の母親を失った時の犯人、連続殺人魔と事件のデジャブから逃れられないでいる。イレス症候群から三人を覚醒させた現実を見るが心は救われない。自分の妄想に浸り現実世界から夢幻の世界へと移していく自分を理解できないでいる。そんな折、連続殺人魔が院長の袴田と解り漸くデジャブから脱し夢幻から現実世界が繋がった。それは今は無き家族と二匹との愛情に支えられた愛によって叶えらたものだった。

水曜日, 2月 26, 2020

知念実希人著「ムゲンのi 上」、神経精神科付属病院に勤務する識名愛衣彼女は神経科の医師で彼女の患者はイレス症候群という原因不明の病名で40日以上眠ったままの状態だ。そんな時に実家に帰った彼女に祖父母が彼女に告げたマブイグミという言葉が発端になり深い闇の中に侵入し病室の患者のマブイを探し始める。侵入した彼女を援助してくれるのはククルという卯西猫とともに二人の患者のマブイを発見し患者を覚醒させる。現実のリアルと精神世界を交互に描きながらの不思議な物語である。。
伊坂幸太郎著「モダンタイムス 下」、渡辺が向かった盛岡で耳にした情報は、安藤商会やその裏で仕切る安藤潤也について、また遠い親戚であることも判明。物語は多岐に渡り展開し妻佳代子と大石内蔵助や五反田正臣らと学校での小学生惨殺事件の真相を突き止めようと危険な状況を潜り抜けならが核心へと、そこで登場した学校の用務員だった永嶋丈は国会議員になっており、作者の国家観も垣間見せるといった波乱の展開に読者は翻弄されっぱなしといった嬉しい悲鳴だ。
伊坂幸太郎著「モダンタイムス 上」、IT会社に勤務し恐妻家の渡辺は、依頼された案件である会社のシステム変更に回され、そこで発注元のゴッシュという会社を知る。プログラムを分析する内にある検索語を待って誘導するシステムだと理解する。そこからある二つの検索語により検索した人間に不幸が襲い掛かる。渡辺はそんな状況の中で安藤商会なる単語を知り、その商会を知るべく東北は盛岡へと有給を取り出掛ける。。。下巻へと
伊坂幸太郎著「ホワイトラビット」、著者の書を読むのは久しぶりか?恥じてなのか記憶にない。物語は誘拐を業とする犯罪グループ内の抗争に端を発し籠城事件に発展する警察小説だ。場所は宮城県仙台市のノースタウン高級住宅街で起きた籠城事件だ。県警の課長夏之目は過去の自らの犯罪を引き摺りながらも捜査の指揮を執る。グループ内の内ゲバの仲間同士の遣り取りを著者はユーモアを交えて展開させる。
中山七里著「悪徳の輪舞曲」、少年の時少女を殺害し遺体をバラバラにしtその欠片を方々にばら撒いたという御子柴礼司は医療少年院で更生を遂げ、今や弁護士としてそれも悪徳弁護士として名を馳せている。その彼が寄りによって自分の母親を弁護することになった。彼女は再婚相手を自殺に見せかけ謀殺したという事件だ。妹梓から依頼された御子柴が見せた弁論は度肝を抜くものだった。過去に犯歴を持つ弁護士て現実を生きる御子柴の人生を賭しての償いは哀愁をも感じさせる。
太田紫織著「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」、ある日であった事故、そこで櫻子と舘脇が見たのは頭蓋骨だった。新聞記者の八鍬の勧めで捜査を開始した二人は旭川から隣町の芦別へ、骨を限りなく愛す櫻子と高校生で母と二人で暮らす館脇正太郎は法医学者を志望する、この二人のコンビと事件の真相は複雑にしかも血縁も歴史も絡めてのプロットには感服。
降田天著「すみれ屋敷の罪人」、作者降田天は、作家二名のペンネームだという。物語は米国育ちで日本に留学している西ノ森泉という大学生が祖母から依頼され戦中戦後の名門及び貴族としての紫峰家についてさらに近年邸宅の庭で発見された白骨死体についての調査だった。西ノ森は当時紫峰邸にいた使用人、書生らに次々と面会し過去を掘り下げていく。殊に紫峰邸の三姉妹の当時の行動やら書生、使用人との関わり合いを探っていく過程で判別できた事実は余りにも人間の悲しい一面だった。
上遠野浩平著・荒木飛呂彦原作「恥知らずのパープルヘイズ」、本作読んで見たが、この作品は前作品4部を読んだこと前提にしているらしい。イタリアはシチリア島といえば、ゴッドファーザーでも知られるギャングの聖地だ。麻薬売買に明け暮れるギャング同志の抗争、フーゴという少年を中心に仲間あるいは敵と様々な人物が登場する。話は漫画チックであるが勇気と希望と挫折を繰り返しながらも必死で生きる姿を描いている。
青崎有吉著「体育館の殺人」、風が丘高校の旧体育館で起こった殺人事件。そこで作られた密室、このトリックを解決すべく登場するのは学校の裏の使われてない何故か部室で寝起きしているアニメオタクの裏染天馬、強烈なキャラクターを作者は持たせた。天馬が論理的に着々と現実の証拠、証言を積み重ね真相に迫る展開には思わず引き込まれてします。用意周到な計算されたプロットには感服だ。
松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿 9」、例の凜田莉子鑑定士シリーズの9作目だ。今回は、フランスはルーブル美術館を訪れた莉子に日本で開催されるレオナルドダヴィンチの「モナ・リザ」展に合わせ臨時学芸員の試験があるという。莉子は見事に突破して理紗とともに六本木の洋館に詰めて様々な試験を受け成長するが、しかしこの試験とは後に窃盗犯のダミーと判明、窮地に陥る莉子をやはり救ったのは週刊角川の小笠原だった。
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